5話
3
次の日の放課後、竜喜は放課になると真帆を連れて部室に向かった。そしてなんとも微妙な距離を置いて位置取る。
「学校には慣れてきた?」
その距離を縮められるようにと竜喜は真帆に声をかける。
だが二人の関係においてはそう悪くない。と竜喜は思っている。実際、話しかければ普通に返ってくるし、昨日のような堅さはない。
「はい。みなさん優しくて声をかけていただいたので」
真帆は答えて笑顔を見せる。それに竜喜はつい見惚れてしまう。
彼女は今日、一日中クラスメイトに囲まれていた。竜喜と陽奈は昨日話しているため、その中にははいらなかったが、色々と質問攻めに会う真帆は愛想よく笑顔を振りまいていた。それを見た男子はものすごい盛り上がりだったのだが、真帆はそのことに気づいていない。当然、竜喜も内心で盛り上がっていた。
そのことを僅かに思い出した竜喜は緩みきった顔を引き締めることはない。
しかし、残念ながら至福の時は永遠ではないように仕向けられている。
「変態」
突然背後から感情を押し殺した冷酷な声が聞こえた。振り向かずとも声の持ち主は分かる。
「げっ」
竜喜の顔が一気に凍りつく。
部室に入ってきた黒髪の生徒会長は竜喜に毒づくと真帆の横に座る。
「なに人の顔見て鼻の下伸ばしてるよ。気持ち悪い」
「べ、別にそんなことないよ。そ、そんなことより丹里はどうしてここに?」
「はぁ、どうしてって、いつでも来ていいって言ったの竜喜君でしょ?」
「ははは、そーだったな……」
苦笑を浮かべて場をやり過ごそうと試みる竜喜。そこへ、彼を救う新たな姿が部室に現れた。
「やっほー、たっつー、まほたん。あれ? はるっちもいる!」
走って入ってきた陽気な赤髪の少女は陽奈に気づくと無邪気に手を振る。陽奈の方も微笑んで返す。
それを見て竜喜は胸をなでおろした。舞の登場によって陽奈の意識が移り、話が途切れたのは大きい。長引けば長引くほど大変なのは昨日で思い知った。
「舞も来たのね」
「うん、まほたんやはるっちといっぱいお話したかったからね。たっつーは、まぁ、うん」
「無理に気を遣わなくていいよ? 逆に傷付くから!」
「たっつーは……うん」
明らかに目をそらされた。
「すみません。全言撤回します。多少気を遣ってくださいやっぱり心が痛いです」
「ジョーダンだよジョーダン。あはは、たっつー本気にしてるー」
散々言いたい放題言って満足げな彼女は、二人のやりとりを見て笑いを隠しきれない真帆と陽奈の方へ歩き、真帆の対面に座る。残された竜喜は複雑な心境に渋面した。
「まほたん、学校はどう?」
「とても楽しいです。みなさん優しくていい方ばかりです」
「傍から見ても楽しそうだったわ。なんだかわたしが嬉しくなっちゃった」
一応部長である竜喜を差し置いて、女子三人で話が盛り上がり始めた。自分だけ孤独という理不尽なこの状況に納得が行かず、彼も舞の隣の移動する。
「そう言えば、陽奈と竜喜はどうして休み時間は一人なのですか?」
「え、それは……」
突然の問いかけに陽奈を困惑する。
「わ、わたしは生徒会の仕事が忙しいのよ。ほ、ほら、わたし、生徒会長だし」
陽奈の態度が豹変した。急にしどろもどろになり、目が泳いでいる。何かを隠しているのは一目瞭然だ。だが真帆はそれに気付かない。いや、気にしていないの方が正しいかもしれない。
そのまま真帆は竜喜に返答を求めてくる。
「偶然だよ、偶然。今日はそうだっただけ」
「そうなのですか。私も早くみなさんと仲良くなりたいです」
目を輝かせる無垢な銀髪の少女を見て、陽奈は一瞬目を伏せた。その姿を目にしたのは恐らくは舞もだろう。
そんな彼女が場の空気を変えようと口を開く。
「そうそう、その意気だよまほたん。たっつーみたいに孤独な人間になっちゃだめだよ!」
「さりげなく俺の傷を抉らないで! それ今隠してたんだけど!?」
「知ってるよ?」
「確信犯か!」
「だいじょうぶ! たっつーは不屈の心だからね」
「この状況で言われると俺が変な趣味あるみたいに思われるから!」
不意に、クスクスと小さな、なのになぜかよく響く笑い声がして、全員の視線がそちらに向く。
「やっぱり私も早くお友達を作りたいです」
真帆の言葉に他の三人は顔を見合わせ、微笑むと、陽奈が三人を代表する。
「それならもういるじゃない」
「えっ?」
聞き返した真帆に、陽奈はにこやかに続ける。
「わたしたちとはもう友達でしょ?」
喜びのあまり見せた銀髪碧眼の少女の見せた表情は、太陽のごとく美しく輝いていた。
「はい!」