エピローグ
あの後、竜喜は先に帰ったからどうなったのかは知らない。でも、あの雰囲気ならきっといい方向に持っていけただろう。だから竜喜は鼻歌を口ずさみながら家を出た。
通学路にある木は、桜の花から新緑の葉っぱに纏うものを変えている。地面には餌を求めて歩き回り、空には燕がのんびりと両翼を広げて飛び回る。
突然、目の前の道の角からいきなり銀髪の少女が現れた。慌てていなかったことが幸いし、寸前のところで竜喜が止まって回避する。
「ごめん、大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
昨日のことはなかったかのように真帆はいつもの変わらなかった。いや、むしろいつもよりも良好な状態に思える。
「前にもこんなことあったっけ」
「はい。今回はぶつかりませんでした」
これは確か、竜喜と真帆が初めて出会った時と全く同じシチュエーションだ。あの時は竜喜が急いでいたためにぶつかってしまったが今回は違う。
そのことを思い出して竜喜は小さく引き攣った笑みを浮かべる。
今日は時間に余裕がある。だから二人はゆっくりと歩き出した。
それから学校までの時間は短かった。特別何か話が盛り上がったりしたわけではないが、こうして真帆と一緒にいるだけで時間の経過が早い。
だが、学校に出迎えた竜喜たちを出迎えたのは鬼の形相をした琉美だった。正門にもたれかかって腕を組む彼女にデジャヴを感じながら恐縮して訊く。
「どうしたんですか皆川先生。今日は俺遅刻してませんよ?」
全く心当たりがない竜喜が素で訊くと、琉美は心外そうに返す。
「お前は昨日無断で早退したな」
「え、あれは先生だって行けって。それに陽奈や舞も学校ぬけてましたよね?」
「陽奈と茜沢はちゃんと早退届を出している。無断で出たのはお前だけだ」
この理不尽さに竜喜は表情を曇らせる。陽奈や舞のきっちりしている部分は正直すごいと思う。陽奈に関してはすぐに竜喜を追ってきた。にも関わらすちゃんと届を出しているのはさすが生徒会長と言ったところか。
「そう言う事だから放課後生徒指導室な」
有無を言わせぬ口調で厳命すると琉美校舎内へと戻っていった。
隣からは真帆が申し訳なさそうに見ている。悪いのは決して彼女ではない。誰のせいとか、そんな問題ではないのだが、竜喜はため息をつかずにはいられなかった。
「最悪だ」
ついてない。
だが、竜喜そんな自分が嫌いではない。自分のこの不運さがなければ、真帆や、陽奈や、舞と今も一緒にいることはできなかった。なんでもおたすけ部は創部されることはなく、始業式の日に真帆とぶつかることはなく、出会うことすらなかった。
全ては自分の不運から生まれた運命。
決して不幸なんかではない。その自分があったからこそ今の充実した、幸せな自分がいるのだから。
不思議そうに首を傾げる真帆をよそに、竜喜は上機嫌に笑顔で校舎へ入った。