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16話

7

 それから竜喜が戻ってきたのは、真帆たちが作業を終えて日も落ちてきた頃だった。

 生徒会室に最初来たときにあった書類の山がきれいさっぱり無くなっている。こっちの作業は順調にはかどっていたようだ。それに比べ……。


「だ、大丈夫ですか?」


 真帆に心配されるのも無理はない。ただ扉を直すだけのことで竜喜は約三時間もかかった。しかも竜喜の制服は普通では考えられないぐらい汚れている。

それが竜喜がドジをしたからというのは言うまでもない。だから竜喜は苦笑いでその場をやり過ごす。


「本当に大丈夫? たっつーボロボロだよ」


 舞にまで心配されてしまった。


「竜喜くんは一人で何かしない方がいいわね」

「俺ってそんなに危なっかしいか!?」

「今の竜喜には説得力がないですね」

「うっ」


 真帆に痛い所を突かれ竜喜はそのままうなだれる。彼女が転入してきたときからそうだったが、意外とこうしたツッコミを入れてくることがある。

 ――どうせ俺は完全アウェーだよ。

 不貞腐れる竜喜は小さく溜め息をつく。

「もうこんな時間ね」

 落ち込む竜喜をスルーして窓の外を見た陽奈が小声で言う。

 日照時間が伸びつつある五月に入っている。にも関わらず、三階にある生徒会室の窓からグラウンドが見えないほど外は暗い。

「もしよろしければこれから私の家に来ませんか?」

「いいの!?」

 真帆の発言に食いついたのは舞だ。

 目を輝かせる彼女に対して陽奈は戸惑いを覚えつつ問う。

「でも迷惑じゃない? もうこんな時間にこの人数で押しかけるなんて」

「私の家は大丈夫ですよ」

「ならお邪魔するわ」

 自分だけが話に入ることができずに決まっていく様子を、竜喜だけは一人心臓の鼓動を早めながら聞いていた。

 真帆の家ってどんな家だろう。

 年頃の少女の家に年頃の少年が上がるということに対する緊張感と好奇心が竜喜の心を躍らせる。

 なのに、

「たっつーは留守番だよ?」

「俺だけ扱い酷くない!?」

「当然じゃない。まさか女の子の家に上がり込むなんて言わないわよね?」

 陽奈にまで言われ、竜喜はがっくりと肩を落とす。それも結構本気で。

 そんな彼を見越した真帆が助け舟を出す。

「私なら構いませんよ。竜喜も一緒の方が楽しいですし」

 今の発言だと、明らかに陽奈や舞の言葉の意味を理解していないだろう。

 だが、それでも嬉しかった。割と本気で。

 真帆の決定に、舞たちは何も言うことはなかった。そもそも最初から本気で言ってなかったようだ。

 そのことを悟った竜喜は本気にしていた自分がばからしくなった。

 竜喜の様子を見て陽奈たちは楽しんでいる。全く趣味が悪い。

「さあ、そろそろ出ましょうか」

 散々楽しんだ陽奈が声をかけた。

 これ以上いると、巡回に来た先生に追っ払われてしまう。どちらにせよもうすることはないのだからいるだけ無駄だ。

 四人はすぐに部屋を片付けて校舎を出る。

 道中、街灯の灯りや、家の灯りが無ければ真っ暗で先が見えなかった。舞と陽奈の家は真帆の家と正反対の方向にある。この暗さで帰りは大丈夫だろうか。

「真帆の家ってどんな家なの?」

 陽奈がこの場の静寂を破る。

「普通の家ですよ。ほら、見えてきました」

 そう言って真帆が指さす先には……何もない。ただ、あるとしたら、いつの間にできたのか分からない洋館のような大きな建物が……。

 竜喜なら、最近は通ってない道だが、よく通った道でよく知っている。

「まさか……」

「はい。これが私の家です」

 何かの物語で出てきそうな豪邸の前で一度止まると、真帆はすぐに門を開けて入っていく。

 暗くてはっきりとは見えないが、新築の綺麗な白い外壁に大きな窓、大きな玄関が三人を出向く。

 住宅街の中に建つ異様な屋敷はあからさまにその存在を強調している。

「大きい……」

 舞が呟き、

「これのどこが普通なんだ……」

 竜喜が真帆に突っ込む。

 呆気にとられる三人はしばらくの間動くことができなかった。

 確かに転校初日に家は裕福だとは言っていたが、本当にここまでだとは思わなかった。

「どうぞ、みなさん」

 玄関の前にたった真帆が扉に手をかけたまま振り向いて、肝を潰している三人を呼ぶ。

 それにより我を取り戻した竜喜たちは恐る恐る門を通り庭を歩く。

 敷地は庭も広かった。一面に人工芝が敷かれ、その真ん中を石畳の道が貫く。

 三人が玄関に到着したのを確認すると真帆は扉を押し開けた。

「おかえりなさいませ。お嬢様」

 帰宅した真帆を迎えたのはタキシードを来た白髪の老人だった。これだけの豪邸でしかもこの言葉遣い。さらには真帆をお嬢様と呼んだ。これだけで竜喜は老人の身分を察した。

「おや、そちらの方々は?」

「私のお友達です」

 真帆が老人に竜喜を紹介すると、三人を向き直り、

「紹介します。こちらは執事の秋野(あきの)です。私の家へようこそ」

「初めまして。秋野と申します。さあさあお上がりください」

 どこの貴族だよ……。

 と、呆然としながら声には出さずツッコミをいれる。

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