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14話

 こうして土下座させらるのは何回目だろうか。

 植物園の中を少し進み、室内の鑑賞スペースについたところで竜喜は座らされていた。

 まだ頬が熱い。舞につけられた手形はくっきりと残っている。

 竜喜の前に立つ陽奈と舞。そこから少し離れて見物する真帆。なんだかすごく権力の差を感じる。

「ねえ竜喜くん。どうしてそんなことしたの?」

「え、えっと、ほんの出来心だったんです」

「たっつー、人をからかって笑うのは酷くない?」

「ごもっともです」

 理不尽だ。真帆も一緒だったのに責められるのは竜喜だけ。別に真帆を巻き込もうというわけではないが、

「ちゃんと反省してる?」

 舞に釘を刺され、思考を中断させざるを得ない。

「とにかく、もう二度とこんなことしないで。分かった?」

「はい……」

 それでその場は終わったが、陽奈たちの虫地獄はまだまだ続く。

「いったいいつまで続くのーー!」

 再び植物の迷路に入ると、またしても虫が寄りつき陽奈が嘆く。虫が苦手な割に、どうも虫からは好かれるらしい。

 そこへ、今度は何かが上から降ってきた。陽奈の眼前に落ちてきたそれは緑色の小さな芋虫だった。

「ひぃええええぇぇぇぇーーーー!」

 瞬間移動で後退する陽奈と舞。その速さでタイムを測ると一体どんな記録が出るだろう。

 そんな呑気な考えをしていると、真帆が不思議そうに芋虫に近づいて摘み上げた。それを二人へと持っていく。

「これがどうしたのですか?」

「きゃっ!」

 甲高い声で舞が悲鳴を上げる。虫嫌いの二人にとっては恐らく公開処刑だろう。

「ど、どうして真帆は触れるの?」

 陽奈の声が完全に引き攣っている。

「これ、だめですか?」

「絶対ダメよ。気持ち悪いじゃないの」

 本気で嫌がる陽奈を見て残念そうに芋虫を逃がす。

 芋虫が視界から消えると陽奈と舞の二人は大きく息をつく。

 竜喜も真帆が虫を触れるというのは意外だった。人は見かけによらない。

「早く行かないと先越されるぞ」

 どうもそんな余裕はなさそうだ。その場から進むことで精一杯な二人は覚えてそうにすらない。

 いっそのこと走ってこの場から脱出してくれれば一石二鳥だと思うのだが……。

 真帆はというと、とても楽しそうだ。近寄る虫なんかなんのその、どんどんと先へ進んでいく。

「まだなのー」

 舞がうんざりとした声を出したその時、ようやく出口が見えてきた。

 これまでの様子が嘘のように表情が明るくなり、一気に走り出す。

「やったーーーー…………」

 どういうわけか、途中から舞の言葉が切れ、がっくりとうなだれた。

 何があったのかと、竜喜と真帆が追いつくと、その先にあったのはゴールではなく大きなドーム状の温室だった。

 道は長く続き、道の左右にも観葉植物と時々咲く花が一面を覆い尽す。

「もー飽きたーーーー!」

 舞の今にも泣きそうな声が響き渡った。


 ようやく本当の出口を潜った時には、陽奈と舞は放心状態に近かった。

 小一時間ぶりに直接日光に当たり、心地よい風が髪をさらっていく。

 完璧に疲れ果てている二人に、地獄をくぐり抜けたご褒美と言わんばかりにありがたいことがあった。

「先生だ!」

 植物園の出口で待ち受けるチェックポイントを見つけて舞が希望を取り戻す。

 思えば、このチェックポイントが一番簡単であり、大変だった。先生を探す必要がなく、ただ植物園を見学するだけでいい。

 陽奈たちにそんな余裕はなかっただろうが。

 一番に舞が駆け寄り、スタンプを押してもらう。

「はーい。これで全部のスタンプ貯まったわね。後はゴールに行ってらっしゃい」

「よし、みんなゴールに行っくよーーーー!」

 スタンプを六つ全て集めた竜喜たちの班は、休むことなくゴールに向かった。

 植物園からゴールまでは目と鼻の先だ。最長距離を連発で引いた竜喜とは違い、最後まで最短ルートで移動することができる。これも舞の引きの強さなのだろうか。

 しばらく走ると前方にゴールの旗を持った琉美が立っているのが見えてきた。

 近づくにつれてやる気のない琉美が大きくなっていく。

 ゴール地点には誰もいない。前半大きくロスしてしまったが、後半の追い上げで他の班を抜いていたのだろう。

「いっちばーーん!」

 舞が両手を挙げてゴールを駆け抜ける。どうやら本当にほかの班はいないらしい。

「お前たちが優勝なー」

 気だるげな声が宣告する。

「やったーーーーーーー!」

 舞と真帆がハイタッチで喜びを分かち合う。竜喜や陽奈も達成感で自然と顔が綻ぶ。

 今思えば最初に竜喜か引いた順番が遠回りに感じるが、実際はあまり無駄ではなかったかもしれない。

 もちろん最短距離で行ければそれに越したことはないが、遠回りをしても、反対方向の場所を行ったり来たりということはなかった。それが優勝に繋がったのだろう。

 全て結果オーライだ。

 それから間もなく全ての班がゴール地点にたどり着いた。特に大きな差もなく案外僅差だった。

 そして表彰式。といっても大層なものではないが。

「優勝班に賞状と賞品が贈られます」

 司会の教師の進行によって、担任の琉美が賞状と賞品を持ってきた。

 渡されたのは、オリエンテーリングにしてはなかなかしっかりとした賞状に、なぜか国語、数学、英語のドリル。

「えっと、何ですかこれは?」

 戸惑う竜喜に琉美が当然のように答える。

「豪華賞品の宿題だ。必ず提出しろよー」

 少しポカンとしていたが、ようやく我に返り、

「ふざけんなーーーーーーー!」

 修学旅行に来てまで最後に勉強を思い出し、あまりの理不尽さに込めた不満が木霊した。


 これで竜喜たちの修学旅行は終了した。

 余談だが、心配していた帰りの飛行機は、陽奈を含め、ほとんどの生徒が疲れて眠っていたために何事も起こらなかった。

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