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プラスA  作者: むしきんぐ
箱庭ーpsycraft
1/10

最初


1



 暖かい風、草の香りが鼻孔をくすぐる。

 草原の只中に立っていることを認識するのに数秒かかった。

 ほんの少し前まで自室の硬いソファに腰掛けゲームの起動を待っていたと思ったのだが……。

 ふと顔を上げると青空に文字が浮かんでおり、字幕が流れていた。

 字幕にはこれから訪れるであろう、箱庭と名付けられたゲーム内の街の歴史が書き記されていた。

 文字は遠くにあるはずなのだが不思議とそれを読むことが出来た。

 最初はじっくりと文字を目で追っていたのだがその文字の流れが遅い事に煮えを切らせ、目の前に浮かんでいた半透明のパネルにあったスキップの文字に触れたのだ。

 大した説明も受けていなかったし、説明書に目を通してもいなかったのだが、大抵のゲームは勘でプレイしてもある程度はどうにでもなる事を経験から知っていた。


 スキップを押すと視界は暗転し暗闇に包まれる。

 体は重力から解き放たれ、奇妙な、頼りない感覚のまま白い光に包まれた。

 光はそのまま空間の色になり全身に重さが戻る。

 彼はドーム状の白い空間の中に居た。

 視線を彷徨わせ、何が起こるのかを心待ちにする。


「ようこそ、箱庭へ。探索者よ歓迎します」


  





 サービス初日、大勢の期待を背負ったVRMMO、『箱庭』。

 どのような世界が待っているのかそれを手に入れた人々はサービス日を心待ちに待っていた。

確かにログインするその時はそんな期待が胸中を満たしていた。

 だが、彼らの期待は、大抵の場合裏切られることになってしまった。

 まず仮想現実世界には無限に広がる大地なんてものは存在しなかった。

 拠点となる近未来的な小都市が一つあり、その外には巨大な蔓だか樹木だか分からない植物が根を下ろし支配している廃墟の群れ。

 たったそれだけのフィールドだった。

 王道ファンタジーRPGに憧れていた者達はこれに落胆を覚えた。

 魔法は無く、エルフやドワーフといった亜人種も存在しない。

 秘境は無く、魔王も古代の神殿も神々の存在する聖域も存在しない。

 その樹海はある意味無限に広がるらしいが、そういうのとは少し違う。

 落胆を覚えたのはそれだけではない。

 ダンジョンはこの都市の地下に迷宮がただ一つ。

 一つしか存在しないのだ。


「冗談だろ」


 黒髪黒目の爽やかな風貌の学生は手にした用紙に目を落としてがっくりと肩を落としていた。

 彼の名前はヒノエ。

 今しがた初心者向けの最初のお遣いクエストを終え、報酬を受け取った所だった。

 彼が得たのは飲み物代程度の少額報酬とこの世界の地図だった。

 そしてその地図とは今、彼が覗き込んでいるそれに相違なかった。


 地図の上には川の中州に出来た小都市とその周囲を覆う森を示す記号が書き込まれていた。

 縮尺を見れば都市もそれなりの広さである。

 狭いとはとてもではないが言えない。

 しかし、彼が求めていたのは剣と魔法を頼りに仲間と共にまだ見ぬ土地を巡ること。

 それが蓋を開けてみればこのような状況だ。

 実際にはゲームを始めてから直ぐに建物の傾向を見て何となくそうなんじゃないか、と予想はしていた。

 とはいえ期待感もあっただけに嘆きたくもなる。

 前情報もほとんどなくVRMMOといううたい文句に勝手にファンタジーを想像していたのだから単純に彼の早とちりだとも言えるが。

 

 彼が現在いるのは小都市の西区にあるクエスト斡旋所だ。

 一応、都市管理局西区出張所という名称があるのだが単に出張所と呼ばれることの方が多い。

 斡旋所の内装は、外観の近代的なビルとは異なり木材を多く使った何ともレトロな雰囲気に満たされていてヒノエはその点にだけは満足していた。


 そんな斡旋所の片隅で何とも情けない声を上げたのだ。

 クエストを受けに来ていた、あるいはクエストの報酬を受け取りに来ていた他の利用者プレイヤーたちは訝しげに彼に視線を送る。

 だがそれもほんの一瞬で彼らは彼らの目的の為に直ぐに視線を戻していた。

 ヒノエは報酬である地図を折り畳みポケットにしまうとため息交じりに斡旋所を後にしたのだった。


 

 ゲームの初日と言うのに何の目的意識も持てないまま彼は街を彷徨い、気が付けば大きな川の流れる傍まで来ていた。

 土手があり、その下にはススキに似た植物が群生している。

 ここは何処だろう、ヒノエは顔を上げて辺りを見回した。

 地図によると街の北西部に流れる河川。

 川上のほど近い場所に大きな橋が見える。

 その橋の向こうには黒々とした森が広がっていた。

 森の木々は歪にねじ曲がり、廃墟を飲み込み文明の痕跡を嚥下しようとしているのが見える。

 対岸の岸は何処も似たような光景が広がっており、いかにも危険をはらんでいそうで冒険心を刺激する。

 

 気が付けばヒノエは走っていた。



 『魔の森』、じっくりと地図を眺めていれば都市の周りに広がる樹海の呼称を知ることが出来ただろう。

 そして初心者向けの共通クエストを段階的にこなしていれば勢いで森に向かう事は無かっただろう。

 あるいは彼よりもほんの少し先に進んだプレイヤーと知り合ってさえいれば、きっとそこに行くのを制止されていただろう。


 だが、サービス開始から間もない上に、彼は初心者で独りだった。


 古く錆の浮いた鉄橋、舗装は所々剥がれ、年代がかった車の残骸が路肩に打ち捨てられている。

 橋を吊っているワイヤーによって切り裂かれた風が不気味に鳴り響き不安をあおる。

 そんな橋を渡り切ったヒノエは肩で息をしながら森の目の前に立っていた。

 眼前には両手を広げても腕を回すことが出来ない程太い幹を持った樹が所狭しと生えている。

 遠くから見た通り樹の間に見えたのは建物の廃墟だった。

 コンクリート製の壁材は日焼けと風化で遠くで見たときよりもくすんで見える。

 目の前の巨木に手のひらを当てると、ごつごつとした樹皮の感触と、と日の光によって照らされているせいかほんのりとした温かみを感じ取ることが出来た。


「これこそファンタジーだ」 


 誰にともなく呟くと森の中へと入って行った。

 足元には枯葉、枯れ枝が積み重なって腐葉土を作り、歩くたびに枝が折れる音がする。

 森の中の静寂と合わさりそれが妙にうるさく感じられたが、非日常の風景に心躍らせるヒノエには気にならなかった。

 暫く森の中を歩いていると辺りは次第に暗くなり不安を覚え、顔を上げる。

 木々があまりにも巨大で、枝葉が過密になり日の光が余り届かないのだ。


 ヒノエは薄暗い中あちこち視線を巡らせ、珍しいものが落ちていないかと気を配っていたのだが、


(何もない……)


 何処かに宝箱だとかアイテムが落ちていてもよさそうなのだが何もない。

 宝箱は世界観にそぐわないだろうとしても、そろそろ敵に遭遇していてもよさそうなのに。

 と、そこまで考えてからヒノエは我にかえった。


(どうやって戦えば良い?)


 そう、彼は丸腰だったのだ。

 普通は一番最初に気が付かなければダメな所だろうが、彼にそんな準備をする考えは微塵も思い浮かばなかった。

 手の中にじわり、と嫌な汗がにじむ。 

 ヒノエは高まり始めた鼓動を無理やり押さえつける様に深呼吸を繰り返し慎重に来た道を引き返し始めた。



 来た道を引き返し始めて既に二時間、入ってきた時よりも明らかに時間が掛かっていた。

 辺りは暗くなり足元も見えづらくなっている。


 何とかなる、と楽観的に考えていたこともあったが日が沈みかけている事に気が付いてからは既に楽観的な考えは捨て去っている。

 どうにかしなければ、それが今の彼の思考を巡っていた。

 今持っているアイテムをポケットから取り出してみる。

 報酬で手にした地図、最初に支給された電子マネーカード、そして携帯端末。

 マネーカードと携帯端末は絶対になくすことがないアイテムだと説明されていた。

 その携帯端末は初期型の携帯電話の形をしている。セパレートタイプのボディにモノクロ画面、ハードキー、通話とメール、インターネットという現実世界とほとんど変わらない機能を持っていた。

 ただし、インターネットに関しては端末をグレードアップさせないと閲覧することが出来ない。

 ゲーム独特の機能としてはプレイヤーのステータスのチェックと護符と呼ばれるこの世界独特のスキルの管理があった。

 基本的にこのゲームはリアルと遜色ないように造られているらしく、半透明なウインドウが目の前にポップアップしてステータスやアイテムの管理をすることはまずない。

 ログアウト等もこの端末から行うのだ。


 そうだ、ログアウトしてしまえばいい。


 実に簡単な話じゃないか。


 思い至った時、ヒノエは背中にのしかかった暗澹たる感情が消え去るのを感じた。

 ログアウトは端末に予め登録してある番号にかけてログアウトを申請したら、その場から動かずに30秒待てばよかったはずだ。

 急いで端末を取り出すと番号を呼び出し、コールする。

 直ぐに申請用の機械音声が聞こえてくるはずだった。

 だが、聞こえてきたのは無慈悲な、死の宣告にも似た言葉。


『お客様の現在位置はログアウト対象外地域に指定されております。安全な市街に戻られてから再度コールされますようお願いいたします』


 何度もその音声が繰り返し流れた。






 西区の斡旋所で最後の初心者専用クエストを終えたキングタイガー三世は、報酬と共に手にした認定証を眺めてにんまりと笑みを浮かべていた。

 この認定証があれば初心者クエスト以外のクエストを受けられるようになる。

 逆に言えばこの認定証を持っていなければどこの地区の斡旋所に行っても受けられるクエストは決まっているのだ。


「やっとだ、やっと。長かったぜ」


 名前とは裏腹に長身痩躯のキングタイガー三世は笑みを更に濃くして声を張り上げた。

 年のころは二十歳かそれくらい。

 褐色の肌に銀髪のツーブロックという人目を引くいでたちに何処かの国の軍服を着ているのも印象的だ。

 見る人が見れば某枢軸国の野戦服だとわかっただろうし、某宗教とか某国の人達が見れば噴飯ものの因縁のある衣装だった。


「時間かけ過ぎなんだよ。キンタ」


 感激の余りホロリと涙をこぼしかけたキングタイガー三世の臀部に、いつの間にか姿を現した少女が膝蹴りをかました。


「キンタって省略しないでくれないか。カマ野郎」


 カマ野郎と呼ばれた少女は舌打ちをしてキングタイガー三世を睨み返す。


「美少女に向かって何ほざいてんだごるぁ」

 

 華奢な体躯で背丈はキングタイガー三世の胸の高さ程。

 歳の頃は十代半ばだろうと推察できるが、幼くもあり、大人びてもいる奇妙に整った顔立ちからは細かな年齢を読み取ることはできなかった。

 透き通る様な白磁の肌に細い肩、ショートカットの艶やかな黒髪が映える。

 フリルのあしらわれた膝丈のエプロンドレスを着ているが明らかに中の人の趣味だろう。


「美少女とか言うの止めてくれよ、頼むから。明日、学校で顔を合わせるこっちの身にもなってくれって」


「てめぇ、覚えてろよ。それとこっちではイスカと呼べ。もしリアルの名前を呼んだら……」


 イスカと名乗った少女はキングタイガー三世の襟首をつかみ、ぐいと引き寄せて耳元で凄みを効かせて囁いていた。

 現実世界において二人は仲の良い幼馴染であり、親友だった。

 このような軽口をたたきあえるのも、お互いに心を許しているからだろう。

 

「悪かったよ。でもなぁ……」


「まだ言うのか?クエストに行きたいんじゃないのかよ」


 イスカは、口籠るキングタイガー三世に対して脅すような口調だ。

 こう見えて彼女は義理堅く、キングタイガー三世が初心者向けクエストを終えるのをずっと待っていたのだ。

 だから本当は彼、もとい彼女自身もクエストを受けてみたくてうずうずしている。


「行きたいに決まってるじゃないか」


「だろ、そこで優しい俺は……じゃなかった私は面白そうなクエストを見繕っておいた」


 一人称を言い直しつつイスカは斡旋所のロビーに並ぶ端末前に行き、あらかじめ選んでおいたクエストの詳細画面を開いた。

 時間制限つきの緊急クエストだった。

 今現在も制限時間は経過し続けている。


「迷子プレイヤーの捜索依頼?」


「報酬は5万。さっさとしないと他の連中が受けちまうかもしれない」


 実際に似たような内容のクエストが幾つもあったが、いつの間にか受領済みとなっていた。


「それで誰を探すんだ?」


「ヒノエってあるな」


「ほう、ソイツ本当にプレイヤーなのか?」


「さぁ、会ってみればわかるさ。大まかな位置はここに書いてある」


 端末のとある部分を指先で示した。

 

「でもなぁ……」


「初期に受けられる報酬は高くとも5000クレジットだぜ」


 キングタイガー三世を待つ間にイスカは現在受けられる報酬の平均額を調べ上げていたのだ。

 それを告げると、キングタイガー三世は受ける事に賛成した。


 二人はカウンターで受け付けを済ませると、其々の得物を手に文明の灯が灯る街から原初の暗がりが支配する魔の森へと向かって歩き始めたのだった。






 4


 既に日は沈み森の中は暗黒が支配する。

 分厚い枝葉に遮られ弱々しい星明りはここには届かない。

 一寸先も見えない闇の中、彼は恐怖から逃げるために、身の安全を確保するために何とか見つけ出した樹の洞に体を潜めていた。

 本当の身体は安全な場所にあるはずなのに、現在の自分はそれが嘘の様に危険の中にいる。

 何とも皮肉な状況にため息が漏れる。

 もしここで迷い続けたとしたら、死ぬまで街には帰れない。

 確か死亡した場合は街に戻ることが出来るはず。

 そんな手段はとりたくない。

 だから必死に考えていた。

 この世界に来てから得た情報やアイテムで役に立ちそうなものがないか、と。

 

 最初に思いついたのは護符と呼ばれる装備アイテムだった。

 このアイテムはプレイヤーに技能と知識を授けるアイテムで、使用するとその護符に対応した知識や技術を取得できるという夢のようなアイテムだ。

 実はヒノエもそれを一つだけ持っている。

 その技能は『受け身』と呼ばれる代物で、こけたとき、投げられたときの衝撃を和らげるものだ。

 チュートリアルでの操作説明時に与えられたのでそのまま装備しているのだが、現在の状況下に置いて役に立つとは思えなかった。


(どうせなら街で護符を手に入れてからにすれば良かった)


 ヒノエは頭を振って不意に浮かんだ後悔を押しやった。


 他にあると言えば、このゲーム独特の超能力だろうか。

 この箱庭と呼ばれるゲームには全プレイヤーに最初から与えられている能力がある。

 それがこの世界を現実世界とは垣根を隔てたゲームだと認識させるものだった。


 その能力は『念動』と『感応』。

 加えてそれらを使う為に必要な『オーラ』の存在があった。

 今の今までゲーム内で重要位置を占める二つの能力を忘れていたのだが、その理由は簡単だった。

 『念動』はヒノエの現在の錬度では小石一つを浮かせるのが精々で、このゲーム世界においては手品のタネにもならないから。

 『感応』は周囲のオーラから様々な情報を読み取ることが出来る能力だが、今の彼には人の感情を薄らと読み取ることくらいしかできなかった。

 しかも読めると言っても喜怒哀楽程度で、現実世界で言うなら空気を読む程度の能力。

 だいたい感情を読もうにも相手がこの場にいるわけもないし使える技能だと考える方がおかしいのだ。


(こんな人っ子一人いない山奥で……いや、待てよ)


 ヒノエは一つの可能性を思いついた。

 当然このゲーム世界には自分以外の『誰か』もプレイヤーとして存在している訳で、もしかするとこの森に入ってきているかもしれない。

 向こうから自分を見つけてもらうなんて奇跡に頼る考えは早々に捨てていたのだが、考えてみればこちらから探してしまえばいい。

 どの程度の範囲の感覚を広げる事が出来るかは分からないが、可能性は開けたのだ。


(今度こそ、今度こそ大丈夫だ)


 自分に言い聞かせると、チュートリアルで受けた感応についての説明を少しづつ思い出して行った。


 『感応』とは即ち、感じる事。

 自身の身を包むオーラに触れた自分以外の生命の発するオーラを感じ取る事。

 それが最も基本となる。

 その触れたオーラから対象の持つ感情を読む。

 自身のオーラを高め、拡散させていく事でより遠くの範囲で情報を得ることができるようになる。


 ヒノエは深呼吸を繰り返して自身を包む馴れない感覚に身を浸していた。

 全身を包むオーラの層が自身と外界を隔てている。

 隔てていると言っても外界からは完全に遮断されているのではなく、お互いに刺激し合い、感じ合う。


 最初に感覚を広げて感じたのは、自身が潜んでいる樹のオーラだった。

 静かだが、ずっしりと重く揺らがない、そんな印象を受けた。

 感覚を更に広げていくと同じようなオーラの塊が一定の距離を置いて存在していた。

 この森に生える他の木々だ。

 それら木々には蠢く小さなオーラの粒が張り付いていた。

 樹を住処とする小さき虫たちだ。

 それらは星のごとき瞬きに似た反応を示すが、それが何を示しているかヒノエには理解できなかった。

 それにどうやら自身の身体から1メートル以上離れてしまうと精度も徐々に鈍ってしまうらしく、それらがぼんやりと感じられる程度にしか分からなかったのだ。

 ぼんやりついでに分ったことが二つ。

 彼は遠くに力強いオーラがあるのを理解した。

 慈悲にも似た温かみのあるオーラで、恐らくは街の方角からだろうと直感が告げていた。

 そして、自身のオーラの範囲にそのオーラの持ち主が存在しなくても、そのオーラが触れさえすれば大まかな方向は理解できるのだ、と。


 生命の位置が分る。


 それは暗闇の中、孤独を感じていたヒノエにとって非常にありがたい事だった。

 少しの勇気を得てヒノエは洞から這い出すと感覚を維持したまま暗闇の支配する世界へと出て行った。


 流石に全ての位置が分るわけではないから倒木に足を取られこけてしまったが、不思議と受け身を取ることが出来ていた。

 『受け身』の護符の効果だろう。


(こんな所で役に立つなんて……)


 思わず微苦笑を浮かべる。

 それからも何度か足を取られながら進んでいると川辺に出ることが出来た。

 遠くには夜天を照らす摩天楼。 街の明かりが目を刺激し、安堵が心の底から湧き上がってきた。


 先へ進もうと気持ちを切り替えた瞬間、ヒノエの精神を鋭利な刃物で切り刻むような感覚が襲った。

 

 先程まで湧き上がった安堵が嘘の様に消え去り、例えようのない不安が体をむしばむ。


 『感応』の範囲内にはまだ気配の主は感じ取れなかったが、こちらに向かって物凄い速さで近づいてきている事だけは理解することが出来た。

 背筋を凍らせる程の殺意、余りの怖気に心臓が跳ねあがり、気がふれてしまいそうになる。

 逃げ出したかったが足がすくんで動けない。


(あと少し、後少しなんだ。諦めたくない)


 ヒノエは何度も深呼吸を繰り返し手足の指先を徐々に解していく。

 まずは足の指、親指から小指まで、まげて伸ばして、徐々に動かす。

 そうやって足首、膝、腰と恐怖に絡め取られた筋肉を解放していく。


(諦めてたまるか)

 

 深く息を吐きだし、ヒノエは前のめりに倒れる様にして走り出した。 

 傍を流れる川の水面は黒く底が知れないが、街からの光を反射して美しかった。

 だが、悠長に眺めているような状況下ではない。

 むしろ街からの光が廃墟や倒木のような生命を持たない物を浮かび上がらせてくれることの方が有難く、夜景の存在はヒノエの視界にはさして重要なものとしては映っていなかった。


 走り始めた頃には這い寄る気配は既に、感覚を頼らずとも音だけですぐ後ろまできている事が分っていた。

 ほんの一瞬だけ振り返って目にしたそれは巨大なサソリに似た生物だった。

 違うとすればその前腕にあるの鋏ではなく、蟷螂のような鎌が付いている点だろう。

 怪物サソリはその巨大な体躯からは想像できない程の素早さで樹の幹をよけ、徐々にヒノエとの距離を詰めていた。

 それでも何とか距離を保てているのは、逃げるルートを慎重に選んでいるからに他ならなかった。

 木と木の間の細い隙間、倒木の下、廃墟の壁に穿たれた穴、巨大なサソリが速度を緩めなければならないようなルートを必死で選び走り抜けていたのだ。


(まだ、まだ走れるはずだ……)


 言い聞かせ走る。

 が、現実には酸欠と疲労で今にも意識を失いそうになっていた。

 それは徐々に判断力を鈍らせていき、致命的な状況を生み出してしまう。


 それは些細なミスからだった。


 木の隙間を通り抜けた先に小枝が垂れていて強かに顔をぶつけてしまった。

 アドレナリンが分泌している現状では痛みは気になるものではないが、一瞬視界を奪われ、同時に展開し続けていた『感応』が途切れてしまった。

 そこから絶命の危機に瀕するまでは一瞬だった。

 よろけた瞬間に樹に肩をぶつけ錐もみしながら地面へと倒れ込む。

 不幸にも倒れた先は窪地になっており、頭から飛び込むような形になってしまったのだ。

 頭が下にある状態で立とうと思っても中々素早くは動けないもので、ヒノエが立ち上がる頃にはサソリの鎌がヒノエの身体を射程に捉えていた。

 幸か不幸か、ヒノエは立ち上がったものの再び足を滑らせて倒れ込んだ。

 おかげで死の鎌から逃れる事が出来たが、必死に何かを掴もうと反射的に伸ばした右腕が凶刃により切り飛ばされた。

 鮮血が溢れた。

 彼はその腕を、傷口を押さえて立ち上がり再び走ろうと前を向いた。


 一歩踏み出すと同時に、『感応』範囲を広げる。

 生きるために、逃げるために必死だった彼の『感応』の感覚はサソリの動きを捉えはじめていた。

 甲殻のざらつき、間接の柔らかい場所、そして振り上げられる鎌。

 死の一撃。

 その軌道。

 手に取る様に分り、このままでは避けられない事が何となくわかった。

 冷静な自分が顔をだし、死を告げていた。

 だがそれは、生存へのチャンスでもあった。


 『わかる』と言う事は対処する可能性が生まれる。


 ヒノエは自身の弱い念動を自らに作用させ回避運動の手助けに使った。

 一撃を受けてもいい、少しでも傷を浅くすれば助かる可能性が高くなる。

 そんな一瞬の判断からだった。

 小石を持ち上げる程度しかできなかった念動は、何故か強い衝撃を伴って自身を前方に弾き飛ばした。


 サソリの振り上抜いた鎌は虚空を薙いだだけに終わった。


 予想外の生存に驚いている暇もなく、こけてたまるかと一歩前に足を出し踏みとどまる。

 しかし、目の前に見えた上り坂に青年は絶句した。

 

(ここまでか、だけど……)


 足元には切り飛ばされたのか子供の腕程の太さもある鋭角の切り口を持つ枝が落ちてるのが視界の端に映った。。

 前傾のままそれを左手に掴みとっていた。

 ヒノエの覚悟は決まっていた。

 これ以上は逃げる事も敵わないという非情な現実を悟ったからでもあり、同時に一矢報いてやりたいという怒りから来ていた。

 広げた感覚は、背後でサソリが鎌を大きく振り上げているのを捉えていた。

 ヒノエは短く息を吐きだし吸い込むと同時に反転。

 勢いのままにサソリの鎌、その付け根、甲殻の隙間目掛けて枝を突き刺した。

 念動で加速されたそれは、鎌を振り抜く一撃の勢いと相まって関節の内側から外に向けて貫通した。

 それでも鎌の一撃を殺しきれず腹部に灼熱が走り、跳ね飛ばされた。


 霞む視界の中、自身の喘鳴がやけに大きく聞こえ、立ち上がろうと必死になるが下肢どころか全身に力も入らない。

 痛みも既になく、感覚が徐々に麻痺していく。

 それでもサソリが止めをさそうと動きだしていることだけは分った。


 意識は暗転し音はいつの間にか消えていた。


 



 5


 魔の森を駆け抜けていたキングタイガー三世とイスカは音と気配を頼りにヒノエのすぐ近くまでたどり着いていた。

 丁度窪地になっている斜面の向かい側に捜索していた青年らしき人物を見つけたときだった。

 サソリの凶刃が閃き体勢を崩した青年の右腕をひじの先から切り飛ばしていた。

 キングタイガー三世は息をのむ。 


「さすがにあれは……」


 一応初心者クエストを終えてある程度の戦闘をこなせるようになっているとはいえ、あれ程の化け物を相手にしたことは無かった。

 キングタイガー三世は苦々しく思いつつ青年の成り行きだけでも見届けようと足を止めて膝をついた。


「馬鹿言うな、後味悪いだろうが」


 見咎めたイスカは歯噛みしながら言うが、覚悟がまだ決まらないようで同じく足を止めていた。

 眼下の敵を見て己との力量差が分からないのだ。

 彼らの及び腰は誰にも責められはしない。

 全ての五感を備えたリアルな仮想現実世界において、彼らはまだ危険の孕んだ本格的な戦闘を行った事がないのだから。

 それに現実世界において平和な日本で命を脅かす獣と対峙することは滅多に起こりえないし、目の前のサソリの化け物のような生物は地球上どの国にも存在しなかった。


 二人が自身のうちに葛藤を抱えつつ青年に目をやる。


 丁度青年に刃が振り下ろされようとしていた。

 この青年の命もここで終わり、後は中央管理局でリスポンするのだろう。

 二人は自身の不甲斐なさを呪いつつも、後の教訓とする為に、青年の死を見届けようにと目を見開いた。

 しかし、予想に反して、青年の身体は弾かれたように突然加速し、致死の一撃を免れたのだ。

 あまつさえ彼は足元の枝を拾い上げ化け物サソリに一矢報いた。

 振り抜かれたサソリの一撃は青年を吹き飛ばしはしたが、関節を穿つ一撃が必殺の凶刃を鈍らせたのだ。

 二人は慌てて感覚を広げ、青年のオーラに触れた。

 生命反応が青年の肉体から微弱ながらに感じられる。


 生きている。


「くそ、行くしかねぇ」


 イスカは舌打ちを漏らし立ち上がると手にしていた得物を鞘から引き抜いた。

 刃渡り80センチ程もある大振りの太刀。

 小柄な少女の身には些か不釣り合いな代物だ。

 少女は窪地の真ん中、今まさに止めをささんと鎌を振りかぶるサソリへと疾駆した。

 見れば左の鎌は不自然な方向に折れ曲がっている。

 青年の一撃は無駄ではなかったのだ。


(これなら倒せる)


 イスカは言い聞かせるようにして青年の前に立ち、振り下ろされた一撃を受け止めた。


 サソリの一撃はイスカのような小柄な少女、そうでなくとも人間程度であれば、簡単にぼろ屑の様に吹き飛ばせるはずだった。

 目の前で横たわる青年の様に。

 だが、そうはならなかった。

 

 彼女の全身はオーラと呼ばれる不可視のエネルギーと、それによって生み出される念動の作用によって著しく強化されていた。

 『駆動』と呼ばれる技術。

 このゲームで戦闘をするならば身に着けておかなければならない基本技能の一つ。

 それが少女の小柄な身体で、倍以上もの体躯を誇る化け物の一撃を受け止める事が出来た絡繰りだった。

 イスカは受け止めたままサソリを押し返そうと力を込める。


(重い……)


 少女は予想以上の膂力でじりじりと押されていた。

 恐らくはサソリも似たような技術を使うのだろう。

 いや、技術と言うよりも本能なのかもしれない。

 ゲーム内のいちモンスターに本能と言うのも間抜けな表現だが、実際に対峙してみるといかにも生物らしい息遣いを感じて、そう思わずにはいられなかった。

 このままでは埒が明かない。

 それどころか何時までも押し合いを続ける事は彼女自身の死を意味していた。

 視線を巡らせれば直ぐに分る。

 サソリの尾は今まさに引き絞られた弓に番えた矢のごとく放たれようとしていた。


「やらせるか」


 少女は聞き慣れた、気合を含んだ声が近付いてくるのを聞いた。

 宙高く飛び上がり、虚空を蹴り、勢い付けて飛び込む人影を見た。

 その手には少女の持つ一振りより少し短い似たような刀が握られていた。

 刀身は煌めき、屹立した尾を、その先端を見事に切り落としたのだ。

 サソリは予想外の一撃に背を逸らせて身悶える。


「おそいぜ、キンタ」


 少女は心の底から笑みを浮かべると、圧の緩んだ鎌を弾き、流れるままに関節から先を切り落とした。


「だからキンタはやめろって」


 キングタイガー三世は渋面を浮かべつつ反論するがその手は休まない。

 着地と同時に素早く体制を整えるとサソリの足を一本、二本と切落としていく。

 狙いは関節。

 『駆動』を用いて威力を上げたそれは次々と足を切り落とし化け物を無力化していく。

 サソリは四肢を失い、武器を失い無残にも地面に倒れ伏し、立ち上がることもできず痙攣を繰り返す。


「こうなっちまうと哀れだな」


 イスカは息を整えつつ呟き、サソリの正面に立ち刀を上段に構える。

 どれ程の膂力が込められていたのか、振り下ろされたそれはサソリの甲殻を切り裂いてその命に終わりをもたらした。


「さてと、後はこいつだな」


 二人は地面に横たわる青年の傍へ行き膝をつく。


 キングタイガー三世は腰に下げた雑嚢からスプレーを取り出と、


「まくってくれ」


「ちぇ、分ってるよ」


 イスカは青年の右腕を持ち上げ袖口をまくった。

 その時腕の断面が見えたのだが、イスカは思わず目を逸らしていた。


「さっさとしてくれ」


 その言葉に従ったわけではないが、キングタイガー三世はスプレーを傷口に向かって噴射した。

 白い、シェービングクリームに似た泡が傷口を覆いはじめる。

 このスプレーはその泡で傷口を塞ぐと同時にその痛みを和らげる効果がある。

 とはいえとあるアイテムの存在の為に後者の効果は忘れられがちではあるが。

 吹き付けられた泡が傷口を覆う頃にはガスだけが噴射されるようになっていた。


「流石に、お試し版じゃこんなもんか」


 手にしたスプレー缶はガスも出なくなると光の粒になって消滅した。

 キングタイガー三世は残念そうに先ほどまで缶を握っていた手を眺めている。


「はぁ、結局私の分も使うことになるのか」


 イスカはため息を漏らしつつポーチから同じ缶を取り出す。


「さ、今度はキンタがまくってくれ」


 言うと噴射口を腹部に向ける。

 切り落とされた腕とは異なり、腹部の傷を止血するには服の前を完全にまくらなければならなかった。


「分ってるよ。こっちの方はちょっとばかし覚悟が必要そうだけどね」


 キングタイガー三世はヒノエの上着、裾の部分を下着部分と共に掴むと胸のあたりまで引き上げた。

 傷口を目にした瞬間、イスカは思わず胃の中身が逆流するような感覚に襲われた。

 

「何してるんだ、中身を押し込むんだ。俺も手伝うから」


 キングタイガー三世は言うと掌に念動を纏わせ、できるだけ直接触れないようにしながら溢れ出した内臓を押し戻し始めた。

 それを見て顔を青くしていたイスカも弾かれたように加わる。


「よし、抑えとくから今のうちに頼む」


 傷口を押さえたのを見て、イスカは傷口にスプレーを噴射した。

 傷口が完全に覆われるのを見届けた後、イスカは無言で立ち上がり、口元を押さえつけながら木立の向こう側に消えた。

 そんな親友の後姿を眺めつつキングタイガー三世は大きく息を吐きだすのだった。

 

 


 6


 ヒノエは酷い刺激臭を覚えて目を覚ました。

 薄ら目を開けると見た事のない男女の顔がそこにあった。

 褐色の肌に銀髪が印象的な自分より幾分か年上の青年と、人形のように美しい黒髪の少女だった。

 臭いの原因は少女が手にしている小さな小瓶の中の液体。

 恐らくは気付け薬だろう。


「やっと起きたか」


 青年は安堵を漏らす。


「言ったろ、まだくたばってないって」


 少女は外見からは想像できない乱暴な口調で話し、青年の肩を小突いている。

 その仕草は少女と言うよりも少年のようだ、とヒノエは感じた。


「僕は助かったんですね」


 半身を起こそうとするがふらついて倒れそうになる。

 それを銀髪の青年が慌てて支える。


「無理はしない方がいい。その傷だ」


 ヒノエは自身の右腕と腹部を見た。

 右腕は肘より先はなく、白い泡で傷口がふさがれていた。

 同じような白い泡が腹部、臍の少し上あたりに引っ付いていた。


「お前腹切られてたんだぜ。……思い出したら気持ち悪くなってきた」


 少女は口元を押さえて吐き気を堪えていた。

 少女のエプロンドレスには黒々としたシミがついているのが街からの光で微かに照らしだされていた。

 恐らくは血だろう。

 二人が手当をしてくれたことがそれだけでわかり、ヒノエは胸が一杯になった。



 二人はヒノエが立てるようになるまで待ち、その間にお互い自己紹介しあった。

 そして二人はヒノエの顔をまじまじと見ながら、何度も不審そうな顔を浮かべるのだった。


(何だ、何かあるのか?)


 ヒノエは疑問に思ったが、命の恩人に尋ねるのも失礼だろうと疑念をしまい込んだ。



 二人の疑念が一体何なのか分ったのは街へと辿りついた時の事だった。

 キングタイガー三世とイスカはヒノエを伴ってクエストの報告にと斡旋所を訪れていた。

 斡旋所の受付ロビーは、ゲーム内時間で朝方4時、既に明け方とも言える時間だったが多くのプレイヤーでごった返していた。

 初心者クエストの最中何度か眼にした事のあるプレイヤーが居ることにキングタイガー三世は気が付いていたが、見ない顔もちらほらあった。

 そして一定数の割合で、ヒノエ程ではないが、怪我をしているプレイヤーや憔悴しきっているプレイヤーが混じっているのを見止めた。


「早速PvPやらかした馬鹿でも出たのか?」


 イスカは戸口から中を覗き込みつつ悪態を吐く。

 MMORPGの中にはサービス初日において初期拠点が大規模な混乱に陥ることが間々ある。

 大人数が集まるため、祭りと称して普段は行わないような対人での戦闘行為等を行うのだ。

 筆者がやっていたゲームでは近場の初期拠点まで大規模な軍団を組んで戦いに行ったこともある。

 あの時はサーバーの増設初日だったので条件は少し異なるが、近くの村同士のプレイヤーが示し合わせた訳でもなく、互いに軍団を組んで戦争の真似事をしていた。


「それは無いだろ」


 キングタイガー三世は冷静にその場を分析していた。

 そもそもこのゲームは外見や名前は一度決定したら二度と変更が出来ないし、一人につき使用できるアバターは一つだけ。

 故に余計な柵をこんな時期から背負う馬鹿もいないと確信していた。

 それに、この場には殺伐とした空気が一切感じられなかった。

 丁度二人がそんな言葉を交わした時、受付で清算を終わらせた一行が戸口に向かってきた。


「イベントでもあったのか?」


 キングタイガー三世はその中の一人を呼び止めた。


「ある意味イベントかな。初期クエストを完了しないまま魔の森に向かったプレイヤーの捜索さ。結構な数が動員されてな……」


 男は二人の後ろにいるヒノエを見て言葉を途切れさせる。


「なんだ、あんた達もか。二人だと大変だったろ」


 言いながら男は仲間と共に斡旋所を後にした。

 二人は受付カウンターでも今回の詳細を聞いてみたが、似たような返答が帰って来た。 

 どうやらその場にいる殆ど全員が似たようなクエストを受けていたらしい。


 つまるところ、今回の緊急クエストとはヒノエのようなフライングスタートを切ってしまったプレイヤーに対する運営からの救済措置だったのだろう。

 イスカとキングタイガー三世の疑念は、ヒノエがNPCでないか、と言う事だった。

 クエストの所謂ヒロインポジションだったわけだから彼らが疑念を持つのも仕方ないと言えた。

 ヒノエも二人が自分に向けた視線の意味をようやく理解したのだった。




「今回はありがとうございました」


 清算が終わり、施療院まで案内してもらったヒノエは深々と頭を下げた。


「気にスンなよ」


 イスカは笑みを浮かべて青年に応える。

 大体、殆ど苦労せずに高額の報酬を得ることが出来たのはヒノエの奮闘のお蔭でもあったから。

 それに、あの戦いのおかげで戦う事に対しての度胸がついたのも大きかった。

 経験と言う点でイスカもキングタイガー三世も報酬以上の物を手にしているのだ。


「それじゃ、初期クエ終わったら連絡くれよ」


「分ってます。では、また」


 ヒノエは二人にもう一度頭を下げてから施療院へと入って行った。

 

 彼らとはこれからも長い付き合いになるのだろう、そんな予感がヒノエにはあった。

 実際にこの箱庭を終えた後も、現実世界で長い付き合いになるのだが、そのことを今のヒノエは知ることも無かった。

 

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