出会いと始まり9
「完全音感って言うらしいよ。ネーミングセンスは無いと思うけど」
リズムさんがあきれたように言う。
でも、耳がよすぎてそれを抑えるためにヘッドフォンをつけているとは、大変だなと思う。
そういえば、水でも飲みすぎると水中毒というものになるらしい。それと同じようにいいものでも持ちすぎるとだめということかな?と私はそういう解釈をすることにした。
「さて僕のこともたぶん喋り終えたし、自己紹介はこれくらいでいいだろう」
「ちょっとまてよ」
自己紹介を切り上げようとしたリズムさんをさえぎったのはビートさんだった。
「なんだ?まだ言いたいことがあったのか」
「いや、そうじゃねーけどよ……」
「じゃあなんだ」
「いや、香奈って名前こっちの世界ではないんだろ?だったら香奈の呼び名をどうするのかなーと思ってさ……」
「「「あ」」」」
すっかり忘れてた。
そういえば私のような名前って、いないんだっけ。
「ああ、そういえばそうだな。そうすると偽名を考えた方がいいだろうな」
「ええと、やっぱり名前変えないとまずいことが起こったりするんですかね……」
私が心配そうに言うと、
「いや、別に無いと思う」
とのリズムさんの言葉。いや別にそれだったら変える必要ないんじゃないか……という言葉が私の頭の中をよぎる。
「ただ、ものすごく目立つ」
目立つぐらいがなんだろうと頭をひねっていると。
「まあ、考えても見ろ。今まで自分たちの名前の方式しか知らない奴らの中にいきなりその逆が名前ですという奴が現れたりしたら」
考えてみる。
私たちの名前(つまり性の後に名が付くタイプ)しかない中にいきなりそれとは逆ですって言う奴が現れたりしたら……
『私の名前はアベンジャー・ロウです』
『えっとアベンジャーさん?』
『あ、それは名前です』
『…………』
……………………うん、悪い意味でめちゃくちゃ目立つ。具体的に、なに言ってるんだろうこいつ的な意味で。
「やっぱり、偽名とか決めたほうがいいですね♪」
「なんか、楽しそうだな……」
フェクさんがあきれたように言う。普通に言ったつもりだったが言葉ににじみ出ていたか。
実際楽しみなのは確かだ。なんかペンネームみたいでワクワクがとまらない。
「ルルなんてどうだ?」
「え?」
「だから名前だよ名前。考えてみたんだが」
どうやら、さっきから静かだったリズムさんは私の偽名を考えていてくれたらしい。
「いいんじゃないかしら。それだと目立たないし」
メロディさんもそれに賛同する。
「どう思う?ルルって名前。いや別に気に入らなかったりしたら別の名前を考えてもいいけど」
リズムさんがそう言ってくれる。
実はというと私は自分で偽名を考えてみたかったんだけど、リズムさんの言った名前を繰り返しつぶやいていると別にこれでもいいかなという気がしてきた。
というか気に入った。
「はい!!ルルです!!よろしくお願いします!」
「ああこちらこそ」
少し気合が入りすぎてしまったような気もするが、リズムさんは苦笑しつつもそう応えてくれた。
こうして、私のルルとしての生活が、私のこれからを根っこから変える生活が、始まった。
「ルル」
「はい?」
「自分の名前忘れるなよ」
「…………」
…………まずは慣れることからかな。