B・ハザード
2012年12月24日
「急げ! ヤツらが来るぞ!」
少年は仲間達に叫ぶ。
ゆっくりしている暇は無い。
ヤツらが苦手な昼間に移動しているからと行って、襲って来ないとは限らない。
ヤツらは……狡猾で、恐ろしいから。
少年たちはソレを理解していた。
だからこそ、この3日間彼らは走り続けていたのだ。
恐怖と混乱で頭と体をムチャクチャに動かして、何とか生き延びて来たのだ。
しかし、やはり人間。体には限界がある。3日間の強行軍は、彼らの1人の体をすでに壊していた。
「高橋!?」
倒れる少年。短めの髪は、日常ならヘアワックスでツンツンと整えられているのだが、すでに非日常が、日常となった現在において、彼の体の状態を表しているかのようにボロボロに成っている。
「俺は……もうダメだ……ヤツらの足止めは俺がするから、お前たちは先に行け」
「そんな……出来る訳ないだろ! そんな事! お前を……こんなところに置いて行けるわけ……」
少年たちは、幼馴染だった。幼稚園の頃からの友達で、親友だった。
中学から始めた部活はサッカー。息の合った彼らのパス回しは、都内の高等学校において、流星のトライアタックと恐れられた。
彼らはもう。二度とサッカーをすることは無いだろ。なぜなら……
「佐藤! 高橋! 来たぞ……! ヤツらが……」
世界はヤツらに支配されたから。
甲高い声が、彼らを包む。身がすくみ、鳥肌が立つ。動悸は乱れ、汗が吹き出す。
彼らは理解していた。この恐怖が本能から来ているのだと。
ヤツらには、逆らえないのだと。
声が聞こえる方に目をこらす。
都心の道路から、ワラワラと、ゆっくりと浸水するように、影が溢れてくる。
ヤツらが、来る。
「行くぞ! 高橋! 立て! 来るぞ! ヤツらが……!」
「……美少女が来るぞ!!」
……………2012年12月20日
この災厄の始まりは、ある科学者のエゴから始まった。
「あー……ハーレム作りてーなー」
彼は頭は良かったのだが、モテなかった。
だから、12月になると、ムカムカしていたし、ムラムラしていたのだ。
「けど、ハーレムなんて、彼女もいない俺が作れるなんて……」
その時、彼は恐ろしい発想をする。
「……そうだよ! 作ればいいんだよ、ハーレムを。つまり、美少女を一から作りだせばいいんだ! 俺天才!」
そして、彼は一から作りあげてしまった。
一日で作りだしてしまった。
この世のあらゆる動物を人型の美少女に変えてしまう薬を……!
欲望とは、時に恐ろしい力を発揮するモノである。
彼はさっそく実験用のマウスにその薬を投与した。
「おおう……」
薬を投与されたマウスは、メキメキと体の構造を変化させて、ネズミの耳としっぽだけを残して、人型の美少女に姿を変えた。
しかも、オスのマウスに投与したのにである。
「すげぇ……! じゃあ次は猫耳だ!」
そして、彼は実験室にいたあらゆる動物に薬を投与して、作りあげたのだ。
ハーレムを。
「はっはっはっはっは! 俺は! 今! 間違いなく! 世界で一番のリア充だ!」
もちろん。こんな仮初の栄光が長く続くはずもなく、また、臨床実験をしていない薬は、予定外の副作用もあり、
ガリッ!
と最初に薬と投与したネズミの美少女に首を噛まれた科学者は、自分自身も美少女に姿を変えてしまったのだ。
そして、自由になった美少女達は、動物や人を次々と噛んでいき、2日目には世界中を美少女だらけにしたのだった。
佐藤達の通う高校が、科学者の実験室の近くであった事もあり、彼らは早くから美少女の脅威にさらされてきた。
初めに教頭が美少女に姿を変え、また、男子高校だったため、美少女になった教頭に生徒が群がり、学ランをきた美少女が大量に生まれて、男子校は一時間もたたずに女子校に姿を変えた。
からくも彼ら3人はその脅威から逃げ出したのだが、街は美少女で溢れかえり、帰る場所は無くなっていた。
彼らの肉親全てが美少女に成っていたのだ。
その日のうちに自衛隊が駆け付けてきて、彼らは保護されたのだが、次の日には自衛隊は迷彩服を着た美少女に姿を変えていたのである。
彼らは慌てて逃げ出して、生まれ育った街を後にした。
彼らは聞いていたのである。自衛隊の隊員が話していた事を。
唯一、美少女に感染していない場所があると。
そこは東京にあって、【バライソ】と呼ばれていると。
そして現在。
【バライソ】まで、あと数キロの所で、佐藤達は日傘を持った美少女に囲まれてしまったのだった。距離はまだあるが、高橋が満足に動ける状態でないため、いつか追いつかれるだろう。
「紫外線はお肌の敵で、美少女の敵のはずなのに……」
佐藤は頭を抱える。流星のトライアタックのリーダーで、3人を常に引っ張ってきた。
美少女たちの行動の分析をして、何とかここまで逃げてこられたのも、彼の頭脳のおかげなのだが……
「日傘で避けるとは考えたな……美少女は進化するのか。カワイイけど、あんな格好はしたくないな。どうせなるなら、スポーツタイプの活発系美少女が良い。太陽は避けるモノじゃなくて、浴びるモノだろ?」
ふふっと笑う高橋。ソレは余裕とも、諦めとも思える。
「高橋、馬鹿な事言ってないで、とりあえず逃げるぞ」
「いや、俺を抱えたままじゃ、追いつかれる。先に行け! 佐藤! 大丈夫だ! 心配すんな!」
「けど、お前、そんな状態じゃ……」
「俺には……コレがある!」
高橋は、エナメル質のスポーツバックの中から、あるモノを取りだした。
「それ……!」
「自衛隊の人が持っていた手榴弾だ。コレでアイツらを吹き飛ばしてすぐにそっちに行くからよ……」
「佐藤! 高橋! レンタルビデオ店がビルに入っている! そこに逃げるぞ!」
「ほら、さっさと行け! ヤツらは、ビデオショップのAVコーナーに入れない。そんなモノ美少女は見ないからな……」
「高橋……!……分かった。死ぬなよ?」
「へっ! 俺を誰だ思っているんだ? 流星のトライアタックの名アシストだぜ? 決める時は決める男だよ」
そう言うと、彼は拳を突き出した。
佐藤も拳を突き出す。
幼稚園の頃からの、彼らの儀式。
拳を突き出し、3回ぶつけ合う。
コレをして、失敗した事は一度もない。
拳を合わせ終わると、佐藤はビデオショップが入っているビルへと向かう。
「佐藤……! 高橋はどうした? おい!」
「高橋は……美少女達の足止めをしてくれるそうだ。だから俺たちは先に行って、AVコーナーのビデオの位置を動かして、美少女が入れないようにするぞ」
「……そんな!」
鈴木は高橋の方を見る。紫外線避けの日傘を持った美少女の群れ。
しかも、日傘に合わせたロリータ風の服装だ。
フリルのミニスカートに、ニーソックス。頭にはカチューシャ。
人形のような美しさ、だ。
「……大丈夫か?」
「信じるしかない」
レンタルビデオ店に入り、18禁と幕の降ろされたエリアに入る佐藤。
まだ高校生の佐藤にとって少し気恥ずかしいが、気にしている場合ではない。
美少女に成ってしまうかもしれないのだ。
それだけは避けなければならない。
大量のAVを抱えて幕から出てくる。
「これだけあれば、美少女も入って来れないだろう。……高橋は?」
「まだ美少女を引きつけている」
フリフリと動きを阻害するロリータファッションのおかげで歩みの遅い美少女達を見て、高橋は手榴弾を投げる位置を考えていた。
(……まだ、まだ遠い。俺が正確に飛ばせる位置まで……今だ!)
そして、美少女達が高橋まで30メートルという位置で高橋は手榴弾をスローイングする。
流星のトライアタック。高橋。
サッカーなのに、両手を使った高速のスローイングを武器にする男。
彼の投げた手榴弾は弾丸のように正確に美少女達の目の前に落ち、爆発した。
「やったか!?」
煙に顔をしかめながら、物陰から様子をうかがう高橋。
しかし彼の見た光景は、残酷な程に変わりの無い光景だった。
美少女たちは、何事もなく平然と歩いてくる。
「……無傷……だと!? 馬鹿な! 直撃したはずだ!」
すぐさま2個目の手榴弾を投げる高橋。
しかし、爆発の後に広がる光景は、何も変化していなかった。
「そんな……! まさか、美少女は傷つけられないのか? 美しいままなのか?」
予想外の事態に慌てる高橋。
その高橋の足元には……
「……高橋! 下だ!」
佐藤が叫ぶ。しかし、間に合わない。
ガリっと音がしたかと思うと、高橋の足から出血していて、そこにはネズミの耳の美少女が……
「うおおおおおおお!」
ネズミの美少女を蹴り飛ばす高橋。
しかしネズミの美少女はケガ一つない。
「高橋!」
「近寄るなぁ!!」
駆け寄ろうとした佐藤達を手で制す高橋。
「……俺は、ココまでだ」
「何言って………!」
「俺は美少女に成りたくない。キャーキャー言ったり、フリフリの服を着たくない……お前らは生き残れよ……俺の分まで。そして【バライソ】にたどり着け!」
「高橋!」
手榴弾が入ったスポーツバックを持ってゆっくりと歩きだす高橋。
それは本当に遅かったのか。それとも佐藤達の見ている光景がスローモーションに見えたのか。
高橋がすでに満足に動ける体では無かったのは確かだが、それでも時間は確かに遅かった。
「高橋ぃ!!!」
とどろく轟音。
爆発の煙が無くなった頃には、道路には美少女しかいなかった。
「……」
「…………チクショウ!」
高橋が自爆した後。
しばらくは茫然としていた2人だったが、高橋の最後の言葉を思い出して、レンタルビデオ店に逃げ込んだ。
店の周りはしっかりとAVで取り囲んでいる。コレで美少女は入って来られないはずだ。
「……夜一時を過ぎたら出発するぞ。夜更かしは肌の敵。美少女の敵だからな」
佐藤は鈴木に言う。
「……お前ッ! なんでそんなに平気なんだよ! 高橋が死んだんだぞ! 高橋が……美少女と一緒に自爆したんだぞ!」
佐藤の胸倉をつかむ鈴木。
「……だからだよ! 高橋が死んだからだよ! アイツの最後の言葉を忘れたか? 【バライソ】にたどり着けって! 生き残れって! ……だから前に進む事を考えないといけないだろうが!」
叫ぶ佐藤。その目には涙が
「佐藤……すまん。そうだな。俺たちは生き残らないとな……この、美少女地獄から」
手を離し座り込む鈴木。
「いや、いいさ。【バライソ】まで後、数キロ。何事もなければ、休憩無しでたどり着ける」
横になる佐藤。
「そうだな……コレが最後の休憩だ。ゆっくり休むとするか……ん?」
鈴木も横になろうとして、物音に気付く。
「どうした鈴木?」
「いや、ヘンな物音が」
佐藤も耳を澄ます。
すると、周囲からコツコツと歩いてくるような音が……
「……まさか、美少女か?」
「そんな……美少女は夜遅くは眠っているはずじゃ……」
警戒して、入口を見る佐藤達。
今の時刻は夜10時だが、ほとんどの美少女は眠っている。
まだ眠っていない美少女か、と予想した佐藤達の前に現れたのは
「美女……?」
赤色のドレスに身を包んだ、少女というには色気のある金髪の美女だった。
今まで、美少女は見て来たが、美女はいなかった。
もしかしたら、感染していない人かと思い、鈴木が近づく。
美女に優しくするのは、男性の本能だ。
「えーっと……もしかして、避難している人? だったら……」
「鈴木! 逃げろ!」
佐藤の言葉に反応して、すかさず後ろに下がる鈴木。
彼の元いた場所に美女の顔が通り過ぎて行く。
噛むつもりだったのだ。
「……なんだよコレ」
「いいから下がれ! AVコーナーに!」
AVを大量に並べた場所まで下がる鈴木。
美女はただ、美しく微笑んでいる。
何事もなかったかのように。明らかに感染者である。
「どうなってんだよ!」
「分からん……ただ、どうやら感染したら、美少女以外にも、美女になる可能性があるってことなんだと思う」
ゆっくりと美女から距離を取る。
「とりあえず、このままAVで退路を作って、ココから逃げだすぞ」
大量のAVを抱える佐藤。
「……ああ、そうだな」
そして、鈴木も屈んで地面に落ちたAVを取ろうとした瞬間。
ガリッと首を美女に噛まれる鈴木。
「鈴木!?」
「…そ、そんな馬鹿な……!? ここはAVの中だ……中に入って来れるわけが……」
「鈴木ィ!!」
美女の顔を思いっきり殴り、鈴木から引き剥がす佐藤。
鈴木の首から出血している。
「おい! しっかりしろ! 鈴木! 鈴木!」
「お、俺はもう駄目だ……俺も、美少女……に…成って……しまう」
声が震える鈴木。その声は徐々に高く成っていき、喉仏も小さくなっていく。
キリッとした鋭い目も、クリクリとした大きな目に変わっていく。
にきびが消え、白い絹のような肌に……
胸板も、堅い胸筋から、柔らかく……
「おい! しっかりしろ! 美少女なんてなるんじゃねえよ! 俺たちは流星のトライアタックだぞ! 俺を……1人にするなよ!」
「へへ……泣くなよ……佐藤は1人じゃねぇよ。俺と高橋がいつも見守っているからよ」
「鈴木……!」
「……あぶねぇ!」
ドンと佐藤を突き放した鈴木は、背後から襲って来た美女を押し倒す。
「お前はさっさと行け! 俺が美少女に成るまでの間、コイツを抑えておくから、さっさと逃げろ!」
「鈴木!」
「早く行けぇ!! うっぷ!」
美女を押し倒した鈴木は、逆に美女に押し倒された。
豊満な胸で顔を抑えられ、満足に息も出来なくなった鈴木は手を突き出して右手で拳を作る。
左手は美女が逃げないように、がっちりと押さえている。
しかし、そうすることで、鈴木の顔は美女の胸により一層埋もれる事になる。
「鈴木……」
苦しそうな鈴木の最後の抵抗を無駄にしないために、佐藤は軽く3回鈴木と拳を合わせると、急いでレンタルビデオ店から逃げ出した。
「くそ! くそぉ!」
泣きながら、走る。
呪いながら、走る。
美少女だらけになったこの世界を
親友のいなくなったこの世界を
佐藤はただ走る事しか出来なかった。
「はぁ……はぁ……うっ……ううっ」
1キロ程走っただろうか。
その程度距離だったが、佐藤は限界だった。
友人が死んだ。
友人が美少女になった。
こみあげてくる感情が、佐藤の足を止めたのだ。
「……進まないと」
先ほど自分で言ったのだ。
前に進むと。
先ほど親友たちに言われたのだ。
前に進めと。
立ち上がり、フラフラと歩き出した佐藤は、何かに足を取られて、こけてしまう。
「ぐへ?」
何つまずいたのか見てみると、ソレはサッカーボールだった。
「……なんでこんなところに?」
キョロキョロの辺りを見渡すと、1人のサッカーのユニホームを着ている美少女が近づいてくるのが見えた。
「……そんな……ウソだろ?」
佐藤は、その美少女に見覚えがあった。
いや、正確には美少女として見た事は無かったのだが、ソレが誰なのか佐藤はすぐに分かった。
「……高橋っ!」
その、綺麗に日焼けした肌と、健康そうな筋肉を持つ、短髪が良く似合う端正は顔をした美少女は、間違いなく高橋だった。
元、高橋だった。
「……うわぁあああああああああ!!」
佐藤は走った。
死んだと思っていた親友が、生きていた。
美少女に成って。
そんな残酷な現実から逃げるように、佐藤はひたすらに走った。
見たくなかった。
感じたくなかった。
理解したく、なかった。
親友が美少女になるなんて。
そんな佐藤の現実からの逃亡も。
「がっ!」
止められる。
彼の親友。
スローイングの天才高橋に。
サッカーボールを頭にぶつけられて、倒れる佐藤。
「ふふふふふ……佐藤くーん」
甘えるような声を出して、近づいてくる高橋。
「……やめろ! 近づくな!!」
近くにある、石やらなんやら、何でもいいから美少女になった高橋に投げつける佐藤。
しかし、美少女を傷つける事は出来ない。
「佐藤くーん……だーい好き」
「やめろぉおおおおおおおお!!」
ぎゅっと良い香りをさせながら抱きついて来た高橋を突き放し、逃げ出す佐藤。
しかし、
「だめだよぉ! 佐藤くんは逃がさないんだからね!」
えいっ、とサッカーボールを足元に命中させた高橋は、再度佐藤を転ばせる。
「逃げないでよぉ佐藤君! ほら、スズッチも来たよ!」
「そんな……鈴木!」
佐藤の前に現れたのは、変わり果てたもう一人の親友だった。
髪はエクステでも付けたのか、金髪の長髪をポニーテイルでまとめている。
服装は高橋と同じサッカーのユニホームだが、彼の……彼女の胸のふくらみで、ユニホームはいびつに変化していた。
「……佐藤君。私たちと一緒に……夜のサッカーを……する?」
くすくすと笑いながらよく分からない事を言う元鈴木。
佐藤は限界だった。
(……もういい。もう疲れた)
そのまま座り込む佐藤。
美少女に変わってしまった親友。
アプローチをかけてくる親友。
この世と思えない絶望が、佐藤の心をへし折った。
「ふっふっふ。じゃあ、私とスズッチでペロペロしながら、佐藤君を美少女に変えてあげるね」
甘い香りを漂わせながら、佐藤に優しく抱きついてきた二人の親友を佐藤は引き剥がせなかった。
(……もう、どうでもいい)
そして、佐藤の頬に、二人の桜色をしたプルプルの唇が触れようとした瞬間。
「大丈夫かい☆ ベイビーボーイ!」
「きゃー」
吹き飛ばされる。2人の親友。
虚ろな佐藤の目に飛び込んだのは、紅いミニスカサンタのコスチュームに身を包んだ、筋骨隆々のおじさんだった。
「サンタの……おじさん?」
「ノンノン。おじさんじゃなくて、おねえさん」
先ほど、元親友が発した言葉よりも甘く言ったサンタ服のおじさ……お姉さん?
「もう! 佐藤くんとのペロペロタイムを邪魔しないでよ!」
「……邪魔者は排除」
そのサンタのおねえさんに背後から襲いかかる高橋と鈴木。
2人の歯が、サンタのおねえさん?の腕に食い込む。
「おじさん!?」
佐藤は叫ぶ。
しかし、サンタのおねえさん?は、平然そうに、いや、少し残念そうな顔をしながらただ立っている。
「んもう! おじさんじゃなくて、おねえさん! 次言ったらお仕置きしちゃうわよ!……ふん!」
ブンと腕を振り回したサンタのおねえさん。
高橋と鈴木は振りまわされて、飛んでいく。
「な……!コイツ、なんで美少女にならないのよ?」
「……理解不能」
着地した高橋と鈴木は、目をフラフラさせながら、今起きた現象に困惑する。
「普通、感染者に噛まれたら、私たちみたいに美少女になってしまうのに」
困惑した高橋の言葉にサンタのおねえさんは反応する。
「……美少女? 美少女なんてドコにいるのかしら?」
「な!? ココに! 目の前にいるでしょ!」
サンタの予想外のセリフに驚く高橋。
今の高橋の外見は、明らかに美少女と呼ばれるモノだ。
むしろ、元々美少女を作りだす実験で生まれた病気のため、感染したら美少女になるはずなのだ。
「あらぁ……アナタ、ブスのくせに、自分を美少女だと思っているの……滑稽ねぇ」
「ブスゥ!?」
とんでもない事を言われて傷付く高橋。
もう、すでに身も心も美少女になっているのだ。
「ほんと、身の程を知らないって愚かね。こんな絶世の美女を目の前にして、自分の事を美少女と言い切るなんて……」
「……何言っているの?」
鈴木も混乱する。
筋骨隆々のおじさんが美女と言っているのだ。
サンタのおねえさん以外の全員の頭の上に?マークが乗っている。
「まぁ、これ以上ブスと話す事はないわ……さっさと飛んでいきなぁ!」
ブンブンと抱えていた白い袋を振り回すサンタのおねえさん。
「……そんな! 佐藤く―ん」
「……あーれー」
サンタの袋で吹き飛ばされた高橋と鈴木は、見えなくなるまで飛んでいった。
状況が分からず目を白黒させる佐藤。
「……危なかったわね。ベイビーボーイ」
「……あなたは?」
「私は、美しき【バライソ】のママ。マルガリよ」
よろしく。と差し出された手を握る佐藤。
佐藤は、筋肉サンタ……マルガリの言葉が上手く、理解出来なかった。【バライソ】?
「……え? あなたが、唯一美少女の感染者がいない【バライソ】の……」
「ママ。一応、一番偉い人物になるのかしら」
そのまま、佐藤とマルガリは【バライソ】へと向かった。
バライソの道中に出てくる美少女と美女は、全てマルガリが倒していく。
マルガリは、佐藤に美少女と美女の違いも教えてくれた。
「美女は美少女と違って大人だから、夜でも徘徊するし、AVなんかで止まらないのよ」
そんな親友を失った原因も、佐藤はある疑問のせいであまり頭に入ってこなかった。
それは……
「なぜ、アナタは美少女に感染しなかったのですか? 普通は噛まれた人は皆美少女になってしまうのに」
ふふふと笑うマルガリ。
「なぜって……そんなの私も分からないけど……」
襲って来たミニスカートのポリスのような服装をした美女を吹き飛ばしながら答えるマルガリ。
「私は、私が世界で一番美しいと思っているからね。美少女……皆が美少女だって言っているのも、ちっとも美しいと思えないのよ。あんな、作りモノ見たいな美しさ。だから、感染して、自分が美しく思えなくなる事を本当に嫌がっているから、私たちは感染しないのかもね」
「私たち?」
「そう……さあ、着いたわよ」
地下へ降りる階段を進んだ先には、洋風の扉があった。
そこを開けると、目の前には煌びやかなドレスに身を包んだ、たくましい男性達の姿が。
「ココが【バライソ】美しさに命をかけた者たちが集まる。最後の聖地よ!」
…………1年後、生き物の9割が美少女と姿を変えた地球で、戦う集団がいた。
彼らは、個々が思う美しさを最大限に発揮させて、作られた美しさに抗い続けたそうだ。
その中に、佐藤と名乗る、女装した少年がいたとかいないとか。
B・ハザード(美少女・ハザード)
終わり。
ロンリークリスマスの寂しさから短編書いてみました。
感想お待ちしています。