第23話 夢うつつの境界線
さて、いざ戦いますか……と言いたいところですが、ここからだと戦いづらいですね。
勇者さんとカインさんは村に侵入しようとする魔物の撃退なので入口付近で戦えばいいですけど、私はそれ以外の魔物の数を減らすほうが効率いいでしょうし。
かと言って水壁を解除するわけにもいきません。なので――やっぱり上、ですね。
村の中で一番高い場所は……元神官様のお家ですね。あれ借りましょう。そうしてそちらに歩を進めていると、走ってこちらに向かってくる人の姿がありました。あれは…。
「リィム!」
「あ、メサイア。大丈夫でしたか?」
現れたのはメサイア。そう長い時間離れていたわけではありませんが、少しほっとしました。けど慌てた様子ですし、大丈夫だったのかと不安も感じて思わず尋ねました。
そうするとメサイアの表情が曇って…いえ、これ怒ってます?
「あんたね、人よりまず自分の心配しなさいって! どこも問題ないんでしょうね?」
ああ、怒ってるんじゃなくて心配してくれてたんですね。
「ええ、大丈夫です。……心配してくれたんですね、ありがとうございます」
「な……別に、そういう……ああもう、とにかくここはあたしたちでやるから、あんたは……」
メサイアはしばらくしどろもどろになってましたけど、現状を思い出したのか私の行動を促します。ええ、わかっていますとも。
「ええ、私は私でやりますんで。あ、邪魔にならないようにしますから安心してください」
「え?」
あれ、びっくりしてます?
何ででしたっけ、カインさんから聞いてないんでしょうか……って当然聞いてないですよね。メサイア今来たばかりですし。
うーん、でも説明する時間も惜しいですし、この後カインさんに教えてもらえばいいですよね。
「そういうわけですから、私行きますね」
メサイアに別れを告げ、再び歩き始めます。風魔法を足にだけまとい、宙へ。
あ、今の私がこうして宙を飛ぶのって何気に初めてでしたっけ。まあ今も昔も変わりありませんけど。
元神官様のお家の屋根につき、風魔法を解除して全体を眺めました。
うーん……火を噴く魔物を始め数がそれなりにいたりはしますけど、翼の生えた魔物などはいないようです。そういうのがいると難易度が一気に上がるのでまずはひと安心です。
さて、村の入口のほうはどうですかね。ええと、カインさんが一生懸命食い止めていますね。
……あれ、カインさんだけ?
村の中央付近に勇者さんとメサイアらしき人影が見えます。
メサイアがそこにいるのは不自然ではないんですけど、勇者さん、戦う気ないんですか……しかも何だかこっち見てるような気がするんですが。
えー……もしかして私がちゃんと戦うか確認しておきたいとかそんな感じですか。わざわざ確認しなくても言った以上ちゃんとやりますってば。
「――ふう」
目を閉じ、息を吐く。再び目を開いた時にはもう意識を切り替える。
ここからは自分の戦い。
村の中には「彼ら」がいるけれど、外は私が任された領域。
やると言ったからにはやるし、村を守れるのなら守りたい。
「……懐かしいな」
思わず漏れ出る言葉とともに苦笑する。
戦いの気配。魔物の発する敵意。ひりつく肌。命の危機に対する緊張感。身体を巡る魔力。
戦いなんて苦手だったけど、それでも「帰ってきた」と思えるから不思議だ。
――自分と自分の境界線があいまいになる。
「まあでも、今はどっちでもいい、か――!」
身体中を循環していた魔力を右手に集め、まずは一発。右側の魔物に向けて発射した。
選んだ属性は光。本当は威力のある炎あたりにしたかったんだけど、水壁と相殺し合っちゃうし、火を噴く魔物がいるからあんまり期待できないと思って止めた。
その点、光なら多くの魔物が苦手とするし。ただし光魔法って私もあんまり得意じゃない。
「次は左、ですかね……!」
――左側へも攻撃をしておきます。私の目的は殲滅より足止めです。今も入口で戦っているカインさんたちの援護だと考えれば、こうしてどちらにも程よく攻撃しておいたほうが助かるでしょう。
右に左に、全体の様子を確認しながら攻撃を繰り返していきます。
さて次は右にと思った頃。左側から何かの気配を察知しました。あれ、これ何の感覚でしたっけ。
そちら側を見ると、壁から離れた位置に魔物がいて、何やら灯りが灯っているのが見えました。いえ、灯りではなくあれは火球ですね。
なるほど。水壁にはいくらやっても効果がなくて、何かと攻撃してくる私がいるものだからそちらを狙いにきた、と。角度の都合上、村の建物に当てるのは難しいけれど、私を狙うのであれば充分可能ですしね。
――リィム!
どこかで私を呼ぶ声がしたような気がしましたが、今は対処を優先します。
まずは左手に簡単に出せる分の水魔法を用意。そこから、栓をひねるようにして徐々に段階を上げて水球を大きくします。そしてそれが大きくなったところで少し持ち上げて。
簡易的な水壁の出来上がり、っと。火球は水壁に吸い込まれ、音とかすかな火のにおいだけが残りました。
でもこんな攻撃がある度に守っていたら効率が悪いですね。残った水壁を薄くしながら回し、大まかに私の周囲全体を覆うようにしました。完全に守る必要もないですし、こんなものでいいでしょう。
これでひとまずは大丈夫……あ、そういえば誰かが私の名前を呼んでいたような…?
入り口付近を見ると、勇者さんがこちらを見上げている……ような気がします。たぶんメサイアも。遠いのでちょっと自信ないんですけど、手を止めているようですし、たぶん私を見ているのでしょう。
こちらは大丈夫です、という気持ちを込めて、少しばかり手を振りました。まあこれも見えているかはわかりませんけど、勇者さんはしばらくすると戦い始めたのできっと伝わったんだと思います。
多少バタバタしましたが、あれ以降は特に大きな問題も起こらず魔物たちも大多数がやられたと判断すると徐々に村から離れていきました。
本当は殲滅させたほうがいいんでしょうけど、深追いは禁物ですし、勇者さんやメサイアが心配しそうなのでそういうことを言うのは止めておきました。
あと何より、疲れました……早く眠りたい……お風呂にも入りたい……でもやっぱり眠い……もう私帰ってもいいですかね?
「リィム、その……」
「ごめんなさい。いまほんとに、ねむ、くて」
「まあ疲れたよな。お疲れさん。しっかり休みな」
勇者さんが何か言おうとしていましたけど、戦闘が終わって気が抜けたのか一気に眠気が来ました。これもうお風呂は無理そうですね。起きてからにします……。
「あ、すまんリィム。これだけ聞かせてくれ」
「ふぁい……?」
その後カインさんに何か聞かれた気がするんですが、眠かったので正直なんて答えたのか記憶にないです。
はい、おやすみなさーい。
話し方を途中で変えるという珍しい書き方をしたので、そのままいくか悩んで時間がかかりました。
あとは、最後の質問何にしよう、とか。
眠くてぼーっとしてたら、何も考えずにしゃべっちゃいますよね。カインはそういう奴すき間狙う奴。
次回は勇者視点。