表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フラグ管理は各自でお願いします  作者: real
プロローグ 日常にわずかに入る亀裂《フラグ》
3/40

第3話   記憶と記録

『魔法使いリムは王都を守るため大規模守護魔法を展開、魔力を大幅に消耗したところを現れた魔族により刺殺される。勇者レグナムらにより魔族は逃走、王都は被害を免れる』




「うーん…………」


ベッドの上でごろごろ転がりながら文献を読んでいます。大事な本だとは思いますが、少しでも気を紛らわせながら読みたいもので許していただけると有り難いです。


ここまで読んでみて、内容が簡潔だという印象を受けました。しかも微妙に間違って書かれた箇所があります。正確には魔族に……ではないのですが、その辺りは伏せたのでしょうか。……あまりいい内容でもないですし、ね。


でも、思ったよりも内容がまっとうでした。もっと改ざんや隠匿などがあるかと思ったのですが、私の死に関する部分以外は実際の通りに書いてあります。もしかするとそれだけ重要度の高い文献なのかもしれませんが深くは考えないようにします。

自分リムが死んだ後の頁を読み進めます。




『魔法使いリムの死亡により勇者レグナムは精神に異常をきたす。旅の継続が困難かと思われたが、魔法使いリムの死亡から半月もしない内に勇者レグナム魔法使いリム両名の幼なじみを名乗る女性が現れ、勇者レグナムを殴打。数日後勇者レグナムは心身ともに回復し魔王討伐を続行した』




「え、えーと……」


何だか物騒な文字が見えた気がします。『勇者を殴打』って歴史的文献に残ってていい文字じゃないですよ……。

私たちの幼なじみとありますから、どう考えてもアリアです。

怒ってくれたこと、悲しんでくれたことは幼なじみとして有り難く、そして申し訳ないのですが……勇者を殴打してはいけないと思いますよ、アリア……。

呆れを通り越して少し笑ってしまいましたが、再び文章を読んで今度はもう一人の幼なじみのことを考えました。


「レグナム……」


精神に異常をきたす、とありました。それほどまでに私の死を悼んでくれたんですよね……。




―降り注ぐ雨の中、熱を失っていく私の身体を抱きかかえるレグナム。



―身体は冷たかったけれど、彼の腕が、涙が、とても温かかったことを覚えている。



最期に見た幼なじみの顔を思い出して、情けない顔になりました。


「でも……続けたん、です、よね……」


そう、それでも彼は続けた。

私が死んで、悲しんで、アリアに元気付けられて、もう一度立ち上がって。

そうして――魔王を倒した。

レグナムが魔王を倒したことは、今この世界があることで証明されています。

彼は…使命を果たしたんですね。

……少しだけ、胸がずきりと痛んだような気がしました。


―理由は、よく、わからない。





次に訪れた街でその街の住人たちを庇いながら戦う混戦状態に陥った、との記述を見つけ詳しく読み始めました。



『魔法使いリム同様、竜ヴァンが守護魔法を用いたところで魔力を大幅に消耗。竜の姿に戻るための時間も足りず、』



「……っ!!」


思わず勢いよく本を閉じていました。心臓がばくばく言っています。

何より……書き出しが不吉です。私同様ってなんですか。その書き出しだと、ヴァンは……。

……わかってはいるんです。

あれから300年経っているそうですし、誰ひとり生き残ってるはずないんです。ヴァンは竜でしたけど、それでも寿命はあと100年ほどと言っていましたから彼でさえ再会することは叶わないと知っています。


そう……、頭ではわかっていても。

知っている人が、大切な人たちが、あの時の自分のように冷たく、孤独になっていくと考えるだけで――怖い。


「…………」


私はなけなしの勇気を振り絞り、最後の頁を開きました。

まとめの部分、私が知りたかった「勇者のその後」を知るために。





『勇者の容姿に関しては周知であったが、その後の消息はつかめておらず、同様に聖剣も行方が判明していない。一説には旅に出たまま戻らなかったとあるが、王家に入ったとする説も濃厚である。神殿が保有しなければならない聖剣の行方、そして神殿と王家の関係性を明確にするため調査を続行するものとする』



恐れていたことが書かれていなかったことに安堵しつつも、少しがっかりしました。

途中まではあんなに細かく書かれていたのに、最後が曖昧なんて……。

レグナムはその後どうしたのでしょうか。旅を続けたのでしょうか?何のために?

それとも王家に……この場合、王族の誰かと結婚したということなんでしょうか?だとしたら誰と?

確か当時の王家って、王様に…王子に……えっと、第二王子?もいたような……。

うーん、そこまでは何とか覚えているんですが、王女、って……いましたっけ?


リムたちが王都に立ち寄ったのはレグナムが王様に呼ばれたからだったんですが、それに同行する予定だった私は直前で体調を崩してしまったため、数人の仲間たちと一緒に街で待っていたんです。

ただの謁見のはずでしたが何故か当初の予定よりも長引いてなかなかレグナムが戻ってきませんでした。

だからこそ王都が襲撃された時には体調もしっかり回復していましたし、レグナムたちより先に迎撃に向かったわけですが……あの時レグナムと一緒に行っていれば王家に誰がいたかわかっていたかもしれないですね。





「ふぅ……」


文献を閉じて、息を吐き出しました。詳細を知らない私がこれ以上文献とにらめっこしても知りたい情報を得られることはありませんしね。諦めることにします。


「でも、できれば……」


どちらであっても、残りの人生を穏やかに、幸福に過ごしてくれたなら、と思いました。

頑張って魔王まで倒したんです。

その分幸せにならないと、レグナムは報われていないじゃないですか。







“文献”

ここでは前回の勇者に関してまとめられたものを指す。

前回の勇者の旅に関わりのある人物の協力を得て書かれたものらしい。



“王族のこと”

リムがそういったことにあまり関心がないというのもあるが、彼女たちの世代にはいまいち知られていない。

一番の理由は王子たちが彼女たちと同世代であり、自分の生まれる前後に遠方で行われた誕生祭など知らないため。



12/24 一部修正。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ