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フラグ管理は各自でお願いします  作者: real
1章 歯車《フラグ》は回り出す
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第20話  雨は止み、夜は明ける



 その後、トマスさんに聞いておおよその現在地を把握。さて彼らが出発するという段階になって、またも服の裾を引っ張られました。いい加減服伸びそうです。


「どうしたんです? やっとおうちに帰れるんですよ」

「うん、そうなんだけど……」


 短い時間ではありましたが、ともに捕まっていた仲です、それで親近感を抱いてくれたのでしょうか?


「また……会える?」


 すぐには答えられず、少し悩んでしまいました。私は村から出るつもりはないですし、この子が自分であの村に行けるかと言うと難しいでしょう……かと言ってここで「絶対無理です」なんて言って場の空気を冷ややかにする強さは私にはありません。


「そう、ですね…すぐにとはいきませんが、いずれ近くを通ることがあったら訪ねますよ。だから名前を教えてもらえますか? あ、私はリィムって言います」

「ありがとう、リィムおねえさん。うん、ぼくはね、サニアって名前だよ」


 うん?

 サニア……まあ、一般的な名前、ではあるんですけど。

 男の子にしては珍しい……女の子らしい名前ですね? 今はそんな名前も多いのでしょうか。そう考えていると、トマスさんが微笑んでいました。


「女の子らしい、いい名前だね」

「えへへ、ありがと!」


 ……。

 …………えっ。

 女の子らしい……えっ、女の子?


「リィム?」

「えっ。そ、そうですね、いい名前だと思いますよ、私も」


 ずるい大人でごめんなさい……いえ、この世には黙っていたほうがいいこともあるんですよ。

 あと、一人称が「ぼく」なのも紛らわしくて……いえごめんなさい、間違えたのは私です。


「と、とにかく、その子の……サニアのこと、お願いしますね。トマスさん」

「任されたよ。じゃあレグザート、メサイアたちによろしく言っといて」

「文句は言われるだろうが……まあ、行ってこい」


 そうしてふたりは出発し、それを見送りました。さて私たちも……とはいかないですよね。

 まだこっちの、商人さんたちのほうが解決してないですし。さっきあれだけ語っておいて「それじゃあ」とは言えないですよどう考えても。

 というか、少し目を離していましたけど、あちらどうなってるんですかね。そう思ってゼロさんたちのほうを見ると、ふたりはぽつぽつと会話をしているようでした。

 その様子は、元気、というわけではないけれど、先ほどの切羽詰まったような空気ではありませんでした。

 ゼロさんは頷くか首を振るだけ……かと思ったら、なにかを言っているようでした。うーん、遠い上に声が小さいようでまったく聞こえないですけど、商人さん驚いていますね。その後しばらくして頷いていました。何を話しているんでしょうね…?

 気になってつい見ていたら、ゼロさん、次いで商人さんがこちらを向きました。ええと、きゅ、急だったから何言ったらいいのかわかりませんよ…!?


「え、ええと……」


 焦りすぎてわたわたと慌てるだけになってしまいました。い、言うことが浮かばない…!

 そんな私の様子がおかしかったのか、商人さんはふっと笑いました。ああ、少しでも笑える元気が出てきたんでしょうか。

 それなら私のこの失態も無意味ではないのかな、と思いました。まあ無様なのは取り繕いようのない事実なんですけど。


「……これから、どうするんですか?」


 気付けば自然と、そう問いかけていました。

 ついさっきまで死のうとしていた相手に先のことを聞くなんてどうかしているかもしれません。

 それでも私には、彼が少しだけ元気を取り戻したように見えたんです。笑う時って、意外と原動力となる元が必要なんですよね。

 やがて商人さんは私の問いに答えてくれました。


「今もまだ、生きる気概といったものはありません。けれども、そう。あなたが語ったように、私にはやるべきことがある。まずはその責務を……償いを、果たそうと思うのです」


 奪った者は償いを。私が言った言葉です。

 生きてほしいと言いながら、突き放すような冷たい言葉だったかもしれません。それでも私は言わずにはいられなかったから。

 生きたいと願う気持ちを。生きられなかった無念さを。生きてほしいと望む想いを。

 私の身勝手な気持ちかもしれないと考え込む私に、商人さんはまた静かに笑みを浮かべました。


「あなたは……不思議な人ですな。私には妻と子の無念までは理解できていた。けれども私に対する想いまでは考えられずにいた。……礼を言わせてください。私は大切なことにようやく気付くことができた」


 その言葉で、胸がじわりと温かくなりました。私の声は届いていたから。

 それは今の私が抱いたものなのか、かつての残滓でしかないのかはわかりません。

 いえ、どちらでも構いません。


「しかし、とても驚きましたとも。まるで……本当に亡くなった人の言葉のようでしたからな」

「え、あー……」


 思わず変な声が出ました。そりゃあ本当に死んだことありますよ私、なんて言えないですし……笑ってごまかしておきましょうか。ははは。


「彼もまだ同行してくれるとのことですから、私が自身の役目から逃げ出さないよう見張っていてもらいますよ」

「え、そうなんですか?」


 ゼロさんのほうを見ると、小さな声で「料金分は働く」と答えてくれました。何でも、最後の依頼内容がなくなった代わりに護衛としてしばらく一緒に行動をするみたいです。商人さんが罪から逃れようとするとは思いませんけど、少しでも心の支えになってくれたらいいと思います。


「いつか、罪を償い、あなたとまた出会うことがあったなら。その時は喜んで力をお貸しします」

「……はい。ありがとうございます」


 そう告げて商人さん、そしてゼロさんは去っていきました。私は、商人さんが先のことを考えられるようになったことが嬉しくて、ただただその背中を見守っていました。


「俺たちも、そろそろ行こう」

「そう、ですね」


 さあ、今度は私たちの番。

 私はこの方向音痴を制御しつつ、村に帰らなければなりません。






五ヶ月ぶりとかいうパワーワード。生きてます。

活動報告に近況について書いています。

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