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フラグ管理は各自でお願いします  作者: real
1章 歯車《フラグ》は回り出す
25/40

第18話  経験でモノを言います

あの……まさかの続き、書けたので……。

久々すぎるので前話を読み返してこられることをお勧めします。



 ゼロさんと商人さん、ふたりの間に割って入った私はどちらを向くか一瞬だけ考えて――まずはゼロさんのほうを見上げました。

 その表情は相変わらず読み取りづらかったですが、それでもなんとなく困惑している様子が感じ取れました。


「リィム!?」


 私の突然の行動に勇者さんが驚いています。すぐ近くにいたトマスさんも。

 無理もありません。私だって驚いているんですから。


「大丈夫です。勇者さんはそこにいてください」


 勇者さんがこちらへ来る前に先手として声をかけておきました。言っておかなければすぐにこちらに来そうでしたし。

 不安そうにしているあの子を放ってはおけないでしょうから、今すぐに私を連れ戻し足りはしないはずです。

 それに、勇者さんだって本当は危険じゃないってことくらいわかっているはずです。

 ゼロさんが私を排除する気だったら私はもうとっくに死んでいるでしょうから。


「何故……」


 商人さんが動揺している様子がすぐ後ろから伝わってきます。

 そうですよね。突然間に入ってきた私の考えがわからないでしょうから。

 しかしそれはすぐに決意に満ちた声に変わりました。


「…どいてください。あと少しで…終わるのですから…」


 けれど私はこれに頷けません。ゼロさんは先ほどと変わらない様子だったので振り返り、商人さんの目を見て告げました。


「どきません。今私がどいてしまったら、ゼロさんはあなたの依頼通り――あなたを殺そうとするでしょうから」


 商人さんが息をのむ様子で私の予想が当たっていたことがわかりました。できれば外れていてほしかったですけど。


「もう、やめましょうよ……死ぬだなんて、そんな、馬鹿なこと」


 私の言葉に、商人さんは優しく微笑みました。馬車の中で見たのとよく似た、悲しみをたたえた弱々しい笑み。


「あなたは本当に…優しいお嬢さんですな。私のせいでひどい目に遭ったというのに」


 私は首を振りました。

 怖い思いをしたのは事実ですが、商人さんが私たちを傷つけまいとしているのも感じ取っていました。

 そんな人を恨んだりなんかできません。


「私は…もう、疲れました。妻と子のもとへ行きたいのです。罪を償うためにも、ここで…死んでしまったほうがいい」


 ため息とともに吐き出された言葉。商人さんの疲労がにじみ出ていました。

 その声を聞いて理解しました。

 この人は生きるための力だけでなく、死ぬための力も残っていないんだ、と。


「私が守らなければいけなかったものは、もう私の手を離れました。手を取り合う者がいる、私の支えはもはや必要ない。

 ……いえ、支えを失ったのは私のほうなのでしょうな」


 唯一生き残った少年が再度立ち上がることを支えとしてきた商人さんは、今、やるべきことのすべてを終えてしまった。

 やるべきことがなくなった。だから死ぬって?

 そんな考え、そんなのは――


「――何故だ」


 突然声が聞こえ、私の思考は中断されました。

 その声は思わぬ方向から聞こえました。振り返り、彼を――ゼロさんを、見上げます。


「死にたがっている人間を…何故、止める」


 彼の言葉は淡々としているようで、どこか、自分自身に問いかけるかのようでした。

 私は会話をしているというより、彼の気持ちを聞いているような、そんな気持ちになりました。


「何もない人間には…意志も、願いも…存在しない。あるのは、ただ…」


 ゼロさんはそこで口をつぐんでしまいました。

 私にはゼロさんの言葉の続きがわかりません。

 だから、私の言葉に意味があるのかはわからないけれど――それでも私には、どうしても言いたいことがありました。


「死にゆく人が最期に何を想うのか。考えたことはありますか?」


 強くなった雨が、地面をたたく音が響きます。

 その音が、冷たさが、あの時の記憶を呼び覚ますかのようでした。


「痛くて、つらくて、どうしてこんな想いを、どうしてこんなことになったのかと、何度も何度も考えるんです」


 自分の命があとわずかだと理解したあの時。

 悲しくて、寂しくて、そして……怖かった。


「でもそれ以上につらいのは、これから先、大切な人の傍にいられないこと。支えることも、見守ることもできない。残されたわずかな時間の中でそのことを知ってしまうんです」



――遠い昔。約束を交わした。死の間際に浮かぶのは約束を違える無念さ。



「理不尽に命を摘み取られた者は、誰しも生きたいと思っていたんです。それでも、叶わなかった。命を、生を、未来を、奪われてしまった。だから……願うんです」



――せめて、大切な人が、生きてくれるようにと――




「私は……しかし、もう何も……それに人を殺めて……」


 商人さんは目を伏せて拳を堅く握りしめていました。その手は震えていて、声は今にも泣いてしまいそうでした。自分にはもう何もないと言うこの人は、けれどまだ誰かを悼む気持ちが残っていたのですね。

 そのことが嬉しくもあり、同時に悲しくもありました。それはとても大切な感情ですが、時に心を傷つけてしまうから。


「はい。人を殺めることは、絶対にしてはならないことです。だからこそ私は、あなたに生きて償ってもらいたいんです」


 死にたくないと思ったのは、商人さんの家族だけではありません。商人さんが手にかけたという他の商人さんたちも同じはずです。


 奪われたから奪うのではなく。

 奪ったものは償わなくてはならない。


「あなたは命を奪ったんです。だから、償わないと。すべてを終えて楽になろうだなんて、そんなの許しません。あなたは遺された想いと、奪ってしまった罪の分だけ生きなきゃいけないんです」


 私は本来、こんな偉そうなことを言える立場じゃありません。ただの村人ですから。

 でも……かつて大切な人を遺していった記憶がある人間なんて、私くらいのものでしょう。

 だからこそ私は、その無念さ、虚しさを伝えられるんじゃないかと、そう思ったんです。




自分でも驚きの更新再開です。説得に3年かかりました。

相変わらず遅筆ではありますが、何かのついでにのんびりお待ちいただきたく。


8/12 誤字修正。

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