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フラグ管理は各自でお願いします  作者: real
1章 歯車《フラグ》は回り出す
23/40

■色あせた愚者の世界

他者の回想。

――世界は、こんな色をしていただろうか。



それを目にした時、彼はそう思った。

ありとあらゆるものが昨日までとはまったく異なる世界に見えた。



彼は重たい身体を引きずりながらも歩みを止めない。

ひどい夢を見ている。

こんな夢からは、早く目覚めてしまいたい。



やがてたどり着いた先で、彼は答えを得る。

けれどそれは彼の望んだものではない。



彼の眼前に広がるのは、変わり果てた故郷の姿。

家々が立ち並んでいた場所には焼け焦げた柱が残っているだけ。

彼の家はかろうじて原型を保っていた。しかしそれも崩れ落ちるのが遅いか早いかの違いでしかなかった。



彼は、腕の中で眠る彼女をかき抱いた。

もう既に事切れた、傷だらけの妻の亡骸。

村へと帰る道すがら、崖の下で彼女の亡骸を見つけた時は何もかも理解できなかった。

これは何かの間違いなのだと、ひどい夢なのだと思った。

けれど、眼前に広がるこの風景は――

血涙を流しながら、彼ははっと気付く。



――我が子は、私たちの娘は、どこにいるのだろう。



深い絶望の中、彼は一縷の希望を見出す。

妻の亡骸をそっと横たえ、変わり果てた故郷の中を歩き出した。

歩くにつれ焼け焦げたにおいと、腐臭がただよう。

何が起きたのかはわからない。だが、彼は思う。



――妻が娘を放り出すはずがない。



彼の妻は崖の下で亡くなっていた。であれば、崖に向かう道中に娘はいるのかもしれない。

崖へと向かった。しかしその道中、娘の姿はどこにも見当たらなかった。

とうとう崖の上へとたどり着いたが、そこにも誰もいなかった。


……いや。

よくよく耳を澄ませてみれば、物陰から怪しげな物音が聞こえてくる。

彼が足を向けると、彼もよく知る村に住む少年が、うつろな眼差しでしきりに何かをつぶやいていた。

彼が声をかけると、少年はひどく怯えた様子でこちらを見た。その目の下には深い隈が刻まれており、今にも逃げ出しかねない様子だった。

それでも少年が逃げ出さなかったのは、衰弱が激しいせいだろう。ほとんど聞こえない声でつぶやき続けるだけで動くだけの力は彼には残されていなかった。

少年に娘の行方を尋ねたかった彼だが、会話さえも困難な様子だった。迷い、困惑した彼は周囲を見渡す。

それは彼にとって幸か……不幸か。

彼は、見つけてしまった。



――どうして、あんな……あんなこと。



濁り始めた世界の中で、少年のつぶやきがだんだん聞き取れるようになってきた。



――父さん、母さん、何で僕、おばさんも、昨日まで普通、だったのに。



その声が頭の中で反響する中、彼は吸い寄せられるようにふらふらと歩み寄る。



――あの人たちが来て、それで、みんなと楽しく、なのにみんなを、あんな、愉しそう、に。



幼い子どもの足だけが、草むらから出ている。

震える手で草を掴んで、その先に、



――この世界は、地獄だ。



彼の地獄のはじまりを告げたのは、他ならぬ彼の慟哭。


彼の世界はこの日、色を失った。






5/5 次話(16話)と順番を入れ替え。

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