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フラグ管理は各自でお願いします  作者: real
1章 歯車《フラグ》は回り出す
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第13話  忘れた頃にやってくる、その名は



その後、何を話して帰ったのか、どういう言い訳をして自分の部屋に籠ったのかは覚えていません。

でもあれ以上彼の笑顔を見ていることはできませんでした。

彼は、レグナムじゃない。違う人。

頭では理解しているのに、どうしても重ねてしまうんです。

勇者って似ちゃうんですかね。似た人が選ばれるんですかね。

いっそ立場がまったく違っていれば、勇者とは無縁の生活をしていれば、彼もあんな表情を浮かべなくて済んだのに、なんてことを考えてしまいます。


「リィムー、カインが夕食決めるから来てくれってー!」


階下からメサイアの声が聞こえます。もうそんな時間ですか。

少しだけ落ち着いたこともあり、私は考えを放棄して階下へと向かいました。

もちろん、夕食作りもカインさんの独壇場でした。こんな楽しちゃっていいんですかね。








夕食を終えて、少し経った頃。


「う」


馬の食事を持っていこうと玄関に向かったら、避けていた勇者さんの姿がそこにありました。


「そろそろ来る頃だと思った。一緒に行くって言っただろう?」


言外に置いて行こうとしたと責められています。言葉にはしてませんけど、やっぱり気付かれてます……よね。

うーん、馬車のところに行く時には心強いんですけど、またゼロさんとの睨み合いが始まったら困るんですが……。


「大丈夫だ。俺は蔵の外で待つ。それでいいだろう?」


不安が表情に表れていたのでしょう、勇者さんなりの折衷案を提案されました。それならいい……のでしょうか?

……私が勇者さんのことを避けていたのは、ゼロさんのことだけじゃなかったりするんですけどね……やっぱり気まずいです。





「うん?リィム、一つしかないんだが」


「あ」


外に出て、玄関すぐそばに置いていたバケツを取ろうとした勇者さんが怪訝な声をあげました。言われて思い出しました。馬車と蔵、両方の分を用意はしたんですが、早く部屋に戻りたくて片方しかこっちに持ってきてないんです。

一人で行くつもりにしていましたから、わざわざ両方を玄関前に揃えておく必要性も感じませんでしたしね……。


「一応家の裏手に用意だけはしてあるんですけど……」


「わかった。俺がとってくるからそこで待っててくれ」


「え、ちょっ……」


詳しい場所も聞かずに勇者さんはバケツをとりに行ってしまいました。

とは言え、隠すように置いているわけでもありませんし、すぐにわかりますよね?

……そう思ったんですが、待っている体感なのか、勇者さんは数分経っても戻ってきませんでした。うーん、やっぱりわかりにくかったですかね……?

いっそ、このバケツを持って先に行っておいたほうがいいかもしれませんね。

あ。そうだ。今のうちにこっちをゼロさんのところに持って行けばいいんじゃないでしょうか。

昼食後に勇者さんと一緒に行った時には馬車側から先に行きましたから、そっちに行ったと思ってもらえるかも。ゼロさんのところに行った後で直接そちらに向かえばちょうどよく合流できるかもしれません。


うーん……文句も言われそうな気がしますけど、事後報告って形にしましょうか。済んだことを後から言ってもどうしようもないのですよ。

そうと決まればさっそく蔵に向かいます。残念ながらこちらのバケツには果物は入ってないですけど、今回は諦めてもらいましょう。

勇者さんが戻ってこないかとちらちら後ろを振り返りながら向かったのですが、勇者さんは最後まで姿を見せませんでした。






「ゼロさー…ん?……あれ」


蔵の扉を開けると、見慣れた馬の姿はあれどゼロさんはいませんでした。

ゼロさんは食事もこっちでとっていたはずですが……あ、もしかしたら私以外の人になったことで別の場所でとることになったのかもしれません。

ん?でもお昼の時にはこちらにいましたよね……。

うーん……?

真相はわかりませんが、既に勇者さんが馬車のほうに向かっているかもしれません。バケツをその場に置いて蔵を後にしました。





「誰も……いない……?」


馬車に近付いた私は異変に気付きました。

勇者さんがいないのはさておき、どんな時だって必ず商人さんたちの誰かが馬車の傍にいるはずなのに、何故か今は誰もいませんでした。

蔵に引き続きどうして人がいないのだろうと首を傾げていると、人が近付いてくる気配がしました。

二人組の商人さん。一瞬だけ見えたその姿に、思わず馬車の陰に隠れてしまいました。私、あの商人さんたち苦手です……。


「ったく……あの女。とっとと治療すれば済むもんを。使えねえ」


「口先だけでも報酬を払うって言っといたほうが早かったんじゃないか?」


「駄目だな。ありゃ交渉に慣れてやがる。文書作らされるだけならまだしも、最悪取引先はどこだと突いてくるぜ」


「そ、そうか……」


前々から思ってましたけど、商人さんたちの中でも順番……上下って言えばいいんでしょうか?そういうのがあるみたいです。

実質取り仕切ってるのが今そこにいる人……私が一番苦手な人です。

って、とっさに隠れちゃいましたけど何だか盗み聞きしてるみたいになってます。だからって今出ていったら絶対怒鳴られるんですけど……早くどこか行ってくれませんかね。


「けどよ、いい加減もう限界だろ?どうするんだ」


「こうなりゃ仕方ねえ。怪我してても何でもいいから、引かせるしかねえだろ」


引かせる……怪我をしていると言っていますし、馬のことですよね?

で、でも村に来る時でさえ何とか持ちこたえたくらいギリギリだったというのに、この山道を馬車を引いて大丈夫なんでしょうか?

もう一人の商人さんも私と同じことを思ったのでしょう。疑問を口にしていました。


「えぇ?かろうじてここまで来れたくらいだぜ?馬車引けるか?」


「さっき立たせてみたらすんなり立ったからな、案外もう治ってきてんじゃねえか?」


な、治ってるわけないじゃないですかー!治癒魔法で痛みを和らげてるだけです!

……とは、もちろん言えません。


けど、「治癒魔法を使ったわけでもなく、痛がる素振りも見せない」となると、そう結論付けてしまうのかもしれません。

困りました。本当のことは言えませんけど、馬のためを思ってしたことが裏目に出てしまいました。

帰ったらメサイアに治療をお願いしようと思います。あの商人さんたちのために行動するみたいで癪ですけど、このままじゃ馬が可哀想です。

……それにしても、そろそろどいてもらえないですかね。それともこのままここで話続けるんでしょうか。


「まあいい。もう一度くらい交渉の余地はあんだろ。戻るぞ」


「ああ。しっかり見張ってろよ、ゼロ」


……って、ゼロさん、いるんですか!?ど、どこに!?

慌てて見渡しましたが見当たりません。そうこうしているうちに商人さんたち二人は恐らく元神官様の家へと戻っていきました。

商人さんたちはいなくなりましたが、ゼロさんがどこにいるのかはまだわかりません。そのまま息をひそめていると、土を踏みしめる音がしました。馬車の向こう側です。

わずかに覗き込むと、ゼロさんはこちらに背を向けて村の外へと足を向けていました。どうやら私には気付かなかったようです。ほっと息を吐きました。


どこに向かっているのか気にはなりますけど、それ以上に助かりました。さすがに馬車の様子を見に来たら気付かれていたでしょう。

って……これってもしかして、また誰も馬車の近くにいないってことですか?

もう一度だけ辺りを見渡してみましたが、馬がいるだけで、商人さんはおろかゼロさん、勇者さんも見当たりません。

勇者さん、どうしたんでしょうか。確かに家の裏手にバケツを用意したはずなんですけどひっくり返しでもしましたか。

いやいや、考えるより先にここを離れるほうが先ですね。あの口ぶりだとゼロさんがここを見張ることになっているようですし、ゼロさんが戻ってくる前に――




――その時、馬車が揺れた、と感じました。



記憶が呼び起こされます。まだ鮮明な、昨日の記憶です。

その時も、馬の食事を持ってきていて、馬車が揺れたように感じたんでした。そのせいで……大事な荷を乗せているせいで過敏になっている商人さんが、怒って。


「…………」


気が付くと右手が馬車に触れていました。この馬車は前後から荷を入れられるのでしょう、後方であるこちらから乗り込むのは難しそうですが、中を見る分には充分です。

誘うようにかすかに揺れた目隠し部分を――ぐっと握りしめ、開きました。


「…………え」


目が合いました(・・・・・・・)。そこにいる誰かと。


商人さんたちにとって大事な荷が乗っているはずの、馬車に。

後ろ手に縛られ、口に猿轡さるぐつわをかまされ、ぐったりしている――子どもの姿。

その子は、私が現れたことに驚いているようでした。それはもちろん、私も。


「な、なん……で……」


後から考えると、予感はしていたのでしょう。

馬車が独りでに揺れるはずなどないのですから。

けれど予想と現実は別物で、私はすっかり動揺していました。


「っ、んーっ!んー!」


「…え?」


だから、縛られていた子が必死に何かを教えてくれようとしていたのにも、気付くのが遅れて。



――トン、と軽い音がして、反対に身体は重くなりました。



意識が遠のいているのだと、揺れる世界の中で気が付きました。

最後に見えたのは――ゼロさん。



――あー……、知ってます。こういうの、なんて言うんでしたっけ。



見慣れてきたゼロさんの無表情。なのにどこか悲しげに見えたのはやはり気のせいなんでしょうか。



――そうそう。死亡フラグって言うんですよね、これ。









段々タイトルが適当になってるのは気のせいじゃない。

次回は回想です。

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