喫茶店3
久々の投稿。申し訳ございません。
「あたしぃ、霞だよ。遠野霞だよ。分かるでしょ」
泣き止んではいないが少し落ち着いてきたみたいだ。それでも上目遣いでこちらを見る顔は怖い。
そんなことを思いながら名前を記憶の中から探してみるが、
「残念ながら記憶には無いのだけど……」
「う〜、中学の時一緒のクラスだったんだけどぉ……」
名前を聞いても、同じクラスと聞いても記憶に引っ掛かることはなく、頭を傾げても思い出せなかったので過去の私と大きな繋がりはなかったのであろう。
「知らない」
「うわ〜んっ!ひどいよぅ〜!」
泣き声が店内に響き渡る。近くの席の方は耳を塞いでいる。あからさまに迷惑顔だ。
「知らない事は申し訳ないが、そろそろ泣くのを止めてもらえないだろうか」
辺りを気にせず再度泣きはじめた霞という方にお願いしてみた。
顔を上に向け黒い涙を流しながら、子供の様に泣く迷惑な人を、これ以上放っとくことはできない。
何故かって?
周囲から仲間なんて思われたらこのお気に入りの喫茶店にはもう来れないじゃないか!
なので、必死に見えるようにお願いをしたんだけど…、
「ひどいよ〜ぅ…、う゛ぇ〜ん」
ムリか…。この人泣き止まない。
面倒な人だな。
もういいや。ここは放置といきましょう。
読書の旅へと行くことにしよう。
えっと、どこまで読んでたかな?
説得を早々に諦め、小説に手を伸ばし栞の位置を確認した。いざ愛する本の中へダイブとしようしたら奪われてしまった。
本!本!私の本!!
触らないで!!
呆気に捕われながらも視線は常に小説にくぎづけ。手から離れても視線は離れる事なくガン見。
上下、左右、斜め、回転あれど視線は外れず、一定に愛する本へと注がれる。目の前で激しく移動する
ああぁぁっ!
本当にやめてぇっ!
本の角がぶつかる!
そんなに強く持ってちゃダメ!
手後がぁぁっ!
ーーーっ!
うっ、うっ…。泣けてきた。
一通りの動きを終えたのか、急に私の正面で本が止まった。手を伸ばせば簡単に届く距離であるが躊躇いが生じる。涙でぼやけた視界からは、本の上に滲んだ黒い縁取られた二つの目玉がニョキッと生えているように見えた。
ゾンビ改め、妖怪に人質をとられた。