喫茶店1
第二章始まりです。
イジメはされたが独り好きのきっかけとしてはピンとこない。
何だ、何だったんだろう……。
更に、記憶を辿ろうと、深く意識を脳内に落とし込もうとするが、
「ちょっと、聞いてるの〜?」
苛立ちを隠さない女性の声で意識が浮上した。
「あれっ、何の話してましたか?」
全く話を聞いていなかった。何処から話を聞かなかったのかも分からない。
「何それ〜、マジ意味わかんないだけどぉ」
相手は膨れっ面をし、コップに入ったオレンジジュースをストローで飲んでいる。
「本当ぉ、いつも話をちゃんと聞いて〜って言ってるじゃん」
さらに苛立った声を出す。
「そうでした、そうでした」
言われた覚えは無いが、返事合わせておけば間違いないだろう。
「もう〜……」
不服そうに向かいに座る女性の顔を、其れとなく眺める。
幼い頃の私に、相手の顔は見覚えが無かった。むしろ、覚えがあったら怖い。なぜなら、化粧で素顔が分からなくなっていのだ。
いや、もはや日本人という事も分からない。
肌の色は焦げ茶色で子供がプールや海に通い黒くなった感じだ。目鼻立ちは元よりクッキリしているが、目は縁取りをされ、睫毛は人工物のようで不自然な黒、育毛と増毛をしたみたいである。目の回りの筋肉が、発達しそうだ。口は小ぶりのタラコが着いているようで、さらにタラコの購買意欲を高めるために光沢感を強くした感じだった。
女性は、まだ膨れっ面をしていて、茶色と所々黄色の斑に染まった長い髪が邪魔だったのか掻き上げ、耳にかける。
髪をかけた耳にはピアスがズラリと着いていた。ピアスの重みで福耳になりそうだ。穴を開けてまで福耳に矯正しようとは見上げた根性の持ち主だ。髪を書き上げた手の爪は、細々な何かが着いている。細かすぎて良く分からない。じっくり見る必要も無いだろう。服装に視線を向けたが直ぐに外した。目がチカチカしたため目頭を抑える。
この一瞬見ただけでも派手と分かる女性に、会うのは初めてではない。ここ二年間ほど、私がこの喫茶店を利用時に時々現れていた。
それこそ、偶然この場所であった時は『久しぶりじゃ〜ん』と話し掛けられたが、今日まで顔は勿論のこと、何処のどなたで私とどういった関わりがあったのか、うっすらとも思い出せない。
本人に聞こうと思った事はあったが、勝手に話しは繰り広げられ進行し、これ以上に新たな話題を提供して、さらに鬱陶しくなったら堪らないので尋ねようとは思わなかった。
最初の三ヶ月は、もし今度会う機会があったら尋ねようと思っていたが、中々話すタイミングが掴めなかったため諦めた。
ただ月平均にしてニ、三回出くわし、多いときは十回もにもなり、毎回タイミングが無ければ尋ねる気も起きなくなる。
懐かしいというほど年月は過ぎていないと思うが、目の前にいる女性に声をかけられ記憶の片隅から名前と顔を一致するために思考が過去へと行ってしまった。
それに独りで読書を楽しみたいため、女性から遠ざかりたかった。物理的には無理なので意識だけ遠ざかるついでに、何故こんなにも独り好きになったのか思い出そうとしたのだ。
結果、きっかけはいつも分からず仕舞いだが……。