記憶15
八回目から九回目は、かなりの期間が開いた。
その間、細々とした事はあったが、気にするほどではなかった。
例え、気付くとペン類が減っていたり、ペンケースが消えていたりしても。例え、授業で返却された提出物が無くなったり、戻ってきたテストの答案用紙が紛失しても。例え、鞄に入れて置いた飴玉が無くなったり、お財布に入っていたレシートが何処かへいっても。帰宅時、学校から家まで付け回されたり、敢えて遠回りをしたため家に着くまでニ時間歩いたとしても……。
特に気にする事ではなく、可愛らしい出来事だったと思う。
最後の九回目、突き飛ばされ卒業式遅刻。
誰もが別れを惜しむ日、遅刻をしたのは私だけだった。
母が式に来る事になっていたが、母の仕度が終わるのを待ってられず、いつもと同じ時間に家を出る。
学校に着けど受付の方がおらず、長机の上に卒業生が胸に刺す花が置いてあった。辺りを見るが逸れらしき人物どころか、人が全く居ないので勝手に持っていく事にする。
教室に入り席に着くと、いつも通り読書を始めた。普段より時間が長く感じられ、一冊読み終わりそうだ。 ――今、読み終わってしまった。
この時間ならば、ほぼ生徒の登校が終わっている。おかしいと思いつつ、暇だったため仮眠を取る事にした。
そのうち誰か来るだろう。
まだ、肌寒い季節に日差しが気持ち良かったため、直ぐに夢の扉を開こうする――。
ガラッ!
意識の彼方から教室の戸が開く音がした。
トッ、トッ、トッ
人が近付いてきている。
キュッ
近くで立ち止まった。
ポン、ポン
肩を叩かれた?
ガシッ!
肩を掴まれた……。
ユサ、ユサ
そのまま揺さぶられた。
ユサ、ユサ
揺さぶられている……。
ユサ、ユサ
これは起きなければいけないのか?
私は、俯せていた顔を上げ、眠りの妨げを探す。原因はとなっていたのは顔の知らない女子だった。
「ちょっと、いい?」
私は、首を傾げる。
「ちょっと、立って!」
眠気のためノロノロと立ち上がり、開ききらない瞼を一生懸命持ち上げて知らぬ女子を見つめる。
「ちょっと、ついて来て!」
そのまま立ち尽くす。
「いいから!」
腕を引っ張られ、教室の外へ向かう。
ガタッ!
痛い!
机の角に左の手の甲打ってしまい、痛みで目が覚めた。右手を取られているので摩ることもできず、そのまま連れられて行く。
登校時間にはまだ早いのか、廊下には生徒はいなかった。にも関わらず、普段でも人気が無く、今日は絶対使用しないはずの移動教室の方へ向かっているみたいだ。勢い良く進んでいると、急に立ち止まられぶつかりそうになる。そして、思いっきり腕を振り払われ、知らぬ女子は私に向き直った。
暫し、見つめ合う……。
むしろ、睨まれた。
こんな場所まで連れて来られ疑問だが、訳があるのだろうと相手の言葉を待つ。知らぬ女子は眉を寄せ、思い詰めたような顔をしていた。
突然、衝撃が走る。喉元の下、胸骨を片手で突き飛ばされた。まさかの攻撃に、無防備な私の体は勢いに乗り、壁に背中を強打。痛みと苦しさで、しゃがみ込んでしまう。
ゲホッ! ゲホッ!
息が詰まり、咳を繰り返した。
パタ、パタ、パタ
私が苦しんでいる中、知らぬ女子は『キャーッ!』と叫びながら駆け足で去って行く。
彼女に一体何があったのだろう。叫んで良い方はこちらではないだろうか。もっとも、うめき声も出せず、咳ばかりが出るが……。
私の体の状態は、左手は錘を持ったされてように重たく、背中は熱を持つように痛い。喉元は、空気が詰まって出てこないような感じだ。摩れば少しでも楽になると思い、胸骨部分に手を置くと物足りなさを覚えた。
いつの間にか、制服のリボンが無かった。
辺りを見回したが落ちてはいない。探そうかと思いはしたが、そんな余裕は無く立つのも億劫だった。その場で正座の格好から右手を床に着け、その上に頭をのせて枕にし、左手を抱え込んでうずくまって回復を図った。
何より回復を優先した。
そう、時間よりも。
やっと動けるようになった私は、教室に向ういながらリボンを探したが見つからなかった。自分ね教室に着いき、戸を開けると誰も居なかったため、卒業式の会場である体育館へと向かわなければならなかった。
卒業生入場は始まっており、自分のクラスまでは行けず、最後尾に並んで進んだ。
式には少し遅れたが、名前を呼ばれる卒業証書授与までに間に合ったので、問題無いだろうと思いながら席に着いた。
途中、通路の幅が狭く、椅子を動かす音が聞こえたのは仕方が無いことである。
そして式後に再度、リボンを探したが出てくる事は無かった。
何処へ消えたのか……。
ここまでが一章となっています。
長いプロローグみたいな感じです。