失われたもの
町に戻ると、あの日まで当たり前だった景色はすっかり変わっていた。
瓦礫に埋もれた道、倒れた木々、半壊した家々――その光景を目にした母と父は、胸の奥がぎゅっと締め付けられた。
弟は言葉を失い、目を丸くして辺りを見回す。
「でも…ここに、私たちがいる。」
母は小さな声でつぶやき、弟の手を握り直す。父もそっと背中を撫で、互いの存在を確かめるように見つめ合った。
家の跡地には、かろうじて残った庭の一角があり、そこには小さな花が一本だけ咲いていた。
柔らかな風に揺れる花びらに、母は目を潤ませる。
「小さな命も、こうして残ってる…私たちも、まだここにいるんだね。」
家や思い出の品は多くを失った。けれど、互いに寄り添う手や声、笑い合える瞬間は、何者にも奪われない。
母は弟を抱きしめ、父と顔を見合わせる。
「失ったものは多いけれど、私たちはまだ一緒にいられる。」
夜、空には満天の星。瓦礫の町の上に、静かに光が瞬いている。
母はそっと弟に言った。
「見て、星は変わらず輝いてる。どんなことがあっても、明日は来るんだよ。」
弟は小さくうなずき、母に寄り添う。
――失ったものの重みと、残ったものの温かさ。
悲しみと希望が入り混じる夜、家族の絆は少しずつ、確かに強くなっていった。




