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不穏な兆し
昼近く、空はいつもより重く、灰色の雲が町を覆い始めていた。遠くで小さく揺れる木々を見て、父はふと眉をひそめる。
「ん…少し揺れてるか?」
軽い地震だと思った。だが、その揺れは徐々に大きく、長くなっていった。家族は戸惑い、母がすぐに弟と姉を抱き寄せる。父は家具の固定を確認し、ドアを開け、玄関の靴をそろえる。
ニュースでは、近隣の町で地震があったと報じていたが、まだ深刻さはわからなかった。しかし、胸の奥のざわつきが消えない。小さな違和感は、時間とともに大きな不安へと変わっていった。
その夜、家族は居間に集まり、いつもの夕食をとった。誰もが心ここにあらずで、箸を持つ手が少し震えていた。外では風が強まり、雨が窓を叩く音が、静かに不安を煽る。
「明日も…普通に過ごせるのかな」
姉の小さな声に、家族は誰も答えられなかった。ただ、手を握り合い、目を合わせるしかなかった。
――明日、何が起こるのか、まだ誰も知らなかった。




