空より舞い降りし英雄の話
むかしむかし、山と森に囲まれた小さな村がありました。
そこでは人々がのどかに暮らしており、子どもたちは川で魚を追い、大人たちは畑を耕し、夜になれば囲炉裏の火を囲んで笑い合っておりました。
けれどもある日のこと。
山の向こうから黒い煙が立ちのぼり、「ズゥン、ズゥン」と地を踏み鳴らすような音が近づいてきました。
見ると、大木のような腕を持ち山のように大きい怪獣が、唸り声をあげながら村へとやってきたのです。
家は潰され、牛は吹き飛び、村人たちは悲鳴を上げました。
「逃げろー!」「神さまー!」「誰か、助けてくれぇ!」
その時です。
空の彼方から、まばゆい光が走りました。
風が逆巻き、雲が裂け、そこから一人の男が舞い降りてきたのです。
金色の鎧、白く輝く翼、眩しいほどの光を放ちながら、男は高らかに叫びました。
「恐れるな! 我こそは天の英雄! 悪を滅ぼし、正義を貫く者なり!」
村人たちは歓声を上げました。
「助かったー!」「我らのヒーローじゃ!」「これで村は救われる!」
英雄は大きく頷き、腕を突き出して空高く舞い上がると、渾身の力で怪獣に突っ込んでいきました。
が、勢いがつきすぎたのです。
空中で体勢を崩し、翼が風を裂く音を立て、
「ちょ、まっ……」と短く叫ぶと、そのまま地面へ急降下。
ズドオオオォン!
英雄は村のど真ん中に激突しました。
家々が吹き飛び、田畑はえぐれ、眩い光と土煙があたりを包み込みました。
しばらくして、煙の中から姿を現したのは……怪獣でした。
ほこりを払いながら、ムッとしたように鼻を鳴らし、「グルルル……」と一声吠えると、残った村を踏みつぶして歩き去っていきました。
その夜、村の灯はひとつも残りませんでした。
あとには、ぽっかりと大きな穴と、英雄のマントの切れ端だけが、風に揺れていたそうな。
そして旅の者がその地を訪れるたび、こう言うのだといいます。
> 「ここは――“英雄に救われそこねた村”」
めでたし、めでたし。




