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みじかい小説

みじかい小説 / 027 / ベルトコンベア

「おはようございます」

玄関を出ると隣人の男性と鉢合わせして、あわてて挨拶をする。

高齢の夫婦とその息子であろう男性という家族構成だが、つきあいは挨拶をする程度で、それ以上の会話はない。

いつもの朝である。


仕事へと向かう夫を送り出し、ゴミ出しをして、私もパートへと向かう。

私の職場は自転車で5分ほどの場所にある和菓子工場だ。

防護服のような白衣に身を包み、毎日毎日ベルトコンベアの上を流れてゆく和菓子に手を加える。

毎日毎日毎日毎日、ベルトコンベアの前に立って手を動かす。

何も考えなければ苦ではない。

パートは定時きっかりに終わる。

家に帰って一息ついてから夕飯の支度にとりかかる。

夫はいつも1,2時間ほど残業をして帰ってくる。

夫とはもう連れ添って15年になる。

子供はいない。

子供をつくろうとしたことはあったが、授からないのだから仕方がないねという話になり、二人で数年前に諦めることにした。

それ以来、夫とはなんだか晩年を迎えた老夫婦のような関係になっている。

当たり前だけれど、同じ空間に二人しかいないので、自然と話題が尽きてくる。

それに、どちらかがイライラしているとそれが伝染してもう片方もイライラしてしまう。

そういうことが分かっているから、夫と私はつとめて明るく振舞い、どちらからともなく話題を提供するという習慣がついた。

そこで最近、話題となっているのが隣人である。

隣の人は両親が亡くなれば一人だよね、僕たちはまだましだね、などと言い合っている。

昨日も、一昨日も、同じ話題で盛り上がった。

そうして同じ話題に飽きたら、次の話題を引っ張り出す。

その繰り返し。

こんな私たちの日々はまるでベルトコンベアの上の和菓子のようだ、と思う。

同じような日々の中で、ほんのり甘くて、味わい深い時間が流れる。

こうして私と夫は人生の最後まで一緒にゆくのだろう。

このベルトコンベアがどうか最後まで続きますように、私はひとり勝手に願っている。


※この小説は、youtubeショート動画でもお楽しみいただけます。

 以下のurlをご利用ください。

 https://youtube.com/shorts/WKTS7hPXZps

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