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誤解




パーティーでの一件以来、ウィルはいつにも増してリリアにベッタリするようになった。

リリアは少し戸惑ったものの、大好きなお兄ちゃんであるウィルと一緒だと安心するため、特に嫌がらなかった。


そんな日々が一年続き、ついにウィルが成人を迎える日がやってきた。


リリアはすっかり忘れていたが、ウィルは期間限定の兄妹なのである。

その日の朝からウィルはそわそわしていた。

リリアがそれに気づき、「どうしたの?」と声をかけると、ウィルは今日が成人の日だと言った。ああ、おめでとう言ってなかった! と思ったリリアが祝福の言葉をかけると、ウィルは少し呆けたようにありがとうと返す。


その様子を不思議に思っていると、母がやってきてこう言った。


「寂しくなるわね」と。


リリアはそこで思い出した。

期間限定の兄妹だということを。


「え。あ、えっと、え? ウィルお兄ちゃん、家出て行っちゃうの?」


混乱する頭でそう言うと、ウィルは寂しそうに頷く。


それを見た瞬間、リリアは強く嫌だと思った。

ウィルが……いなくなる?


「やだ、やだよウィルお兄ちゃん! 出てかないで!」


その今まで見たことがないほどのリリアの様子に、ウィルは嬉しい反面悲しくなる。きっと大切な()がいなくなるのが寂しいのだな、と。


そして自分が何故期間限定の兄だったのか、説明しようとした時。


「ウィルお兄ちゃ……っ、うぇ、待って……す、好きなの……ウィルお兄ちゃんのことが……!」


その言葉を聞いた瞬間、ウィルは固まった。

好き……好き、好き。それは……


「それは……兄妹として?」


「ち、ちがっ、うっ、うぇ、わ、私はウィルお兄ちゃんのことが……っ、恋愛の、好き──っ!」


最後まで聞いた瞬間、ウィルの身体は勝手に立ち上がり、リリアのことを抱きしめていた。


「ほんとにっ……ほんと? 僕のこと、好き?」


「う、うぇ、好き、好きぃっ! だ、だから出て行かないで! お願いだからぁ〜っ」


涙を滝のように流しながら、リリアはウィルを掴んで離さない。

今まで見て見ぬ振りをしていた感情が、ウィルがいなくなると思った瞬間に溢れ出てきた。

感情も涙も流れ出て止まらない。


「うん……うん、僕も好きだよ! だから、だからリリア……愛しのリリア、僕とお付き合いをしてくれませんか? これからは、兄妹じゃなくて……恋人として」


「ひくっ、う、は、はい……よろじぐお願いしますっ」


2人は見つめ合い、だんだんと顔を近づけ──。


「はい、そこまでよ? 親の前なの忘れないで?」


そこでローザのストップがかかったのだった。




晴れて両想いとなったウィルとリリア。

これにて一件落着……かと思われたが。



「へー、あの第一王子が婚約か。めでたいことだ」


新聞を読んでいたウィルは、そう呟く。

第一王子にはリリアを狙ういけすかない奴という印象しかない。

まぁどうでもいいな、とウィルは頭の中からその件を早々に消した。


第一王子の婚約が発表された次の日。

リリア宛に第一王子であるムタルドから手紙が届いた。表には『必ず1人で開封するように』と書かれている。


「ムタルド殿下から? なんの用かしら……」


リリアはハラハラしながら手紙を開封する。

そこに書かれていたのは──。




一週間後。


ウィルはたまたまその手紙を見つけた。

リリアが最近誰かと文通しているようだとは知っていた。だが相手は友達の女性だと思っていたし、気に留めていなかった。


それが、暖炉の薪の中に焚べられている紙切れが焼け残っており、掃除をしていたウィルはそれを発見した。読むつもりもなかったのだが、とある文字が目に飛び込みハッとしたのだ。


そのところどころ焼け落ちて読めない手紙はこう書いてあった。




『最……愛し……から、僕……態……ど………たい。君が……デートす……どこ……か。……聞か……欲し……。ムタ…ドより』


これを目にしたとき、ウィルはあまりの衝撃に気を失いそうであった。脳内で勝手に補完されていく手紙は、ウィルにはこう読めた。


『最も愛しているのは君だから、僕は今の状態をどうにかしたい。君が僕とデートするならどこがいいだろうか。是非聞かせて欲しい。ムタルドより』



ウィルが手紙を持つ手はブルブルと震え、怒りが爆発しそうだった。しかしそれと同時に、リリアの心を繋ぎ止めておけなかった自分への怒り、悲しみが心を一杯にしていた。



その夜。

ウィルはリリアを避け、1人食事処で呑んでいた。


(何故だリリア……僕のことを泣くほど好きだと思っていたのに。というかあいつはなんなんだ、つい最近婚約したばかりでリリアにうつつを抜かすなど。いっそこの手で屠るか?)


などと物騒な思考に陥っていたウィル。

その席のすぐそばに、誰かが座る気配がした。


「親父さん、おすすめを一つ」


「あいよ!」


その声を聞いた瞬間、ウィルは弾かれたように顔を上げる。

そして近くに座った男の顔を見ようとするが、生憎その男は目深にフードを被っている。


だがじっと観察していると、見られていることに気づいたのかこちらを振り向いた。

視線が交錯する。

次の瞬間、ウィルはその男に殴りかかっていた。




リリアが近所の人からウィルが暴れている、という報告を受けて現場に駆けつけると、そこはまるで武闘大会かのように人だかりができ、その中心にはボロボロになったウィルとフードを被った男が対峙していた。


「ウィル! どうしちゃったの!? 戦いをやめて!」


リリアは必死になって声をかける。


その声に反応したウィルは、リリアに目線を向けずにフードの男だけを見つめながらこう言い放った。


「リリア……君が僕を裏切るはずがないだろう? だから手紙を燃やしていたんだろう? この男に……付き纏われているんだろ!?」


リリアは手紙というワードにハッとする。

なるほど、ウィルは盛大な勘違いをしているらしい。


リリアは悩んだ。この公の場では説明できない。なんとかしてウィルを止めなければ。

リリアはフードの男に目を向けると、フードの男もこちらを見ていた。

なんだかその眼が疲れ切っている気がして、リリアは申し訳なくなった。


「ウィル、誤解させたことは謝るわ。それについて説明するから、こちらに来てちょうだい」


「嫌だ」


あまりにも早く即答されたことにリリアは一瞬思考が停止した。

これまでウィルが自分へ拒否の言葉を吐いたことがあるだろうか。それくらいのことにリリアは驚いた。


「ウィル……」


「リリア。この男は一発どころか百発殴っても足りない。僕の……大切なリリアを誘惑するなんて……」


それを聞いたフードの男は、埒が開かないことに苛立ったのか、ようやく発言しだした。


「お前……勘違いも甚しいぞ。私がいつリリア嬢を誘惑したんだ」


「な……あれだけ動かぬ証拠を書いておいて、勘違いで片付ける気か!」


「先程手紙がどうとか言っていたやつか。それは燃えかすだったのだろう? きちんとした文書だったのか?」


「それは……」


ウィルは考える。

確かに脳内が勝手に補完しただけで、きちんとした文章を読んだ訳ではない。


「……おい、この手紙の正しい文を教えろ」


フードの男はため息を吐くと、ウィルの耳元で囁く。


「正解はこうだ。……『最近は愛しの君から、僕への態度がどうにも冷たい。君がもし僕とデートするなら、どこがいいだろうか。参考までに聞かせて欲しい。ムタルドより』……これでいいか」


それを聞いたウィルは、自分の早とちりに穴があったら入りたい、と思うのだった。




事の顛末はこうだ。

ムタルドは3年以上前からとある平民の女性に恋をしていた。

よって王家主催のパーティーの際、同じく平民であるリリアにアドバイスを貰いたいとダンスに誘った。しかしウィルによりその機会は潰えた。健気なムタルドはどうにかこうにか好きな相手を婚約者にすることに成功した。

それが一週間前に発表された相手である。


だがせっかく婚約までこぎ着けた相手が、最近つれない気がする。不安になったムタルドは、同じ平民であるリリアに相談することにした。


だが恋愛相談の手紙を残すことは気恥ずかしく、リリアには読んだら燃やすように伝えていた。


その燃え残りを読んだウィルが派手に勘違いをしたと。


何故偶然庶民の店にムタルドが居たかというと、平民の婚約者と少しでも同じ話題を話したい為お忍びで来たというなんとも健気な理由であった。



ウィルはその後ムタルドとリリアに対して低頭平身していたが、ムタルドは「誤解を招く行動をしたこちらの落ち度でもある」と快く許してくれた。リリアに至っては、ウィルからの愛を再認識してときめいていたくらいだ。



この騒動以降、ウィルとムタルドは馬があったのか親友と呼べる仲になり、ウィルとリリアは周囲が砂糖を吐きそうな程甘い空気を纏っていたという。





こうして、トワール王国の片隅で巻き起こった物語はハッピーエンドを迎えたのだった。









これにて完結となります。

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