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期限つきの兄妹




馬車の横転事故があった次の日。

怪我をした黒髪の男の子は昼ごろに目を覚ました。


「……う……。っ、ここは……?」


まだ意識が朦朧としているのか、ぼんやりとした眼で天井を見つめる男の子を、そばでずっと見守っていたリリアが息を飲んで見つめる。


うろうろと目線を漂わせた男の子は、隣に座って自分を見つめるリリアに気付き、ハッと息を呑む。


「っ、君は……?」


「あ……! わ、わたし、リリア! ちょっと待って、お母様よんでくる!」


そう言ってバタバタと走りかけ、怪我人の男の子を思い出して急停止し、パタパタと静かに走って行くリリア。

そんなリリアを見つめながら、黒髪の男の子は昨日何があったか思い出していた。


(たしか、昨日は……父さんと母さんと一緒に街外れの森まで薬草を採取しに……そして──)


そこで思い出す。

突然馬車の馬が暴走し、馬車が横転したことを。


「っ、父さん、母さんは!?」


そう言いながら飛び起きた少年は、右肩に激痛が走り唸り声を上げながら再度寝転ぶ。


そんな様子の少年の元へ、リリアとローザが駆け寄ってきた。


「黒髪のお兄ちゃん、大丈夫!?」


「まだ起きてはダメよ、傷口が開くわ」


そう言って心配そうに見つめるチェリーピンクと深紅の瞳に、少年は痛みを堪えながら言う。


「すみません……。あの、僕の父と母はどうなったのですか?」


ローザはその質問に悲しそうな瞳をしてから答える。


「貴方のご両親は……お亡くなりになられたわ」


その言葉を聞いた少年は、目を見開くと愕然とする。

頭の中をぐるぐると色んな感情が駆け巡る。

両親を失った悲しみ、これからどうすれば良いかという不安、そして絶望。

そうして呆然としていると、リリアが少年の手を握りながら言った。


「黒髪のお兄ちゃん、お兄ちゃんのお父様とお母様は女神様の元へ行っちゃったんでしょ? だからね、これからはリリアが一緒にいるよ! リリアと家族になろう?」


リリアは真剣な目をしながら言う。

それを聞いた少年は、絶望し真っ暗だった目の前に一筋の光が刺したように見えた。


「……え? 僕と……家族に?」


「うん! これからはずっと一緒だよ!」


そう言って髪とは違い、まるで紫水晶のようなアメジスト色の瞳を見つめるリリア。

そんなチェリーピンクの瞳を見つめ返した少年は、一筋の涙を溢すと、目を閉じて言った。


「ありがとう。少し……考えさせて欲しい」







その後、少年は自身の名をウィル・ウィスタリアと名乗った。

リリア達が住む村の隣の隣にある街に住む、薬屋を営む家族だという。


今回何故こんな街外れまで来たかというと、森に自生する薬草を採取し研究するために来たと言う。採取した薬草を持ち帰ろうと馬車に乗り込んだところで突然馬が暴れ出し、馬車が横転したらしい。


ウィルが目覚めてからほどなく、リリアの父が様子を見に来た。

そこで、リリアの父と母から今後の事について話をされた。

ウィルには、2つの選択肢が与えられた。1つは怪我が治るまでここにいて、治ったら孤児院に行くこと。もう一つはリリアたちの家族になること。ゆっくり考えればいいと、リリアの両親は言った。


それから、ウィルの怪我が治るまでリリアはウィルに付き添っていた。


朝起きてから夜眠るまで、献身的にウィルを支え続けた。


ウィルが明るく優しいリリアに心惹かれるまでそう時間はかからなかった。

だからこそウィルは悩んだ。ここでリリアと家族になればこれからずっと共にいられるだろう。しかし、家族になればそれすなわち兄妹と言うことだ。


ウィルはリリアに対しての気持ちが、ただの家族愛ではないと自覚していた。これから先、自分もリリアも成長し、やがて結婚できる年齢になったとき。自分はリリアを妹として、素直に祝福できるだろうか。いや、きっとできないだろう。わかっている。わかってしまった。この感情は、妹に向けるものではない。だからこそ、今ここで家族となってしまうのはいけない気がした。


ウィルは悩んだ。孤児院に行くべきか。だが、孤児院に行っている間にリリアを他のものにとられてしまうかもしれない。それこそ、たまに様子を見に来る隣のラウルとやらに。


悩んだ末、ウィルはリリアの両親にある提案をした。


それを聞いたリリアの両親は、驚きながらも、それがウィルの選んだ道ならばと背中を押してくれた。

そして右肩の怪我も良くなり、多少の動きにくさはあるが、日常生活には問題がない位回復した頃。ウィルはリリアに今後のことを話した。


「リリア、僕は君と家族になろうと思う」


「え! ほんと? うれしい。じゃあウィルはお兄ちゃんだね!」


「うん。でもね、期限付きのお兄ちゃんなんだ」


「期限付き? どういうこと?」


「僕が成人するまで。つまり、18歳になるまで。それまで僕はリリアのお兄ちゃんだ」


「え……? どうして?」


「それはね、リリア。君はまだわからないと思う。だから、僕が成人したら教えるよ。約束だ」


「ふーん? よくわからないけれど、わかった!   

 約束ね」


「ああ、約束だ」


こうしてウィルとリリアは、期限付きの兄妹となったのだった。







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