第26話 「友達の仮面」
朝。窓の外を眺める少女の姿があった。
セミロングの黒髪、サラサラのストレートヘア、大きめの丸い瞳、黒い瞳、細身で華奢な体型。
清楚で控えめな印象の女の子、隣のクラスの草壁穂香だった。
いつものように朝のホームルームが始まる前の教室で、窓の外を眺めていた。
元樹くんたちがいる隣のクラス。
私の席は廊下側の窓際で、ちょうど隣のクラスの様子が見える位置だった。
「穂香ちゃん、また見てるの?」
隣の席の友達、佐藤愛が呆れたように声をかけてくる。
「え? 何のこと?」
とぼけるけど、愛はニヤニヤしながら言う。
「隣のクラスの上野さんでしょ? もう三回は見てたよ」
「……っ」
顔が熱くなる。
確かに、私は上野玲さんのことが好きだった。
いや、「好き」なんて生易しい言葉じゃない。
憧れ、尊敬、そして——恋心。
全部混ざった、複雑な感情。
「だって……」
私は小声で言う。
「玲さん、素敵じゃない」
「まあ、格好いいけどね」
愛が肩をすくめる。
「でも穂香ちゃん、女の子だよね?」
「関係ないよ」
私は即答する。穂香は好きになるのに性別なんて関係ないと考えている。
「好きになるのに、性別なんて関係ない」
思ったことがスッと口からも出る。
その言葉に、愛は少し驚いたような顔をした。
「……そっか」
「うん」
私は頷く。
「私、玲さんのことが本気で好きなの」
初めて見たのは、四月。
入学式の日だった。
体育館で、隣のクラスの生徒として玲さんがいた。
短い髪、凛とした表情、まっすぐな瞳。
一目見た瞬間、心を奪われた。
「格好いい……」
その時から、私は玲さんのことばかり考えるようになった。
休み時間になると、廊下に出て玲さんの姿を探す。
昼休みは、玲さんがどこで食べているか確認する。
放課後は、玲さんの帰り道をこっそり追いかける。
ストーカーだと自覚しているし、このままではダメだということも自覚している。
でも、やめられなかった。
五月に入って、私は玲さんについて色々なことを知った。
渡部元樹という男子と幼馴染であること。
山田未菜という女子と親友であること。
明るくて、友達思いで、でも少し不器用なところがあること。
全部が愛おしかった。
「でもさ」
愛が続ける。
「上野さんって、渡部くんのことが好きなんじゃないの?」
その言葉に、私の胸が痛んだ。
「……知ってる」
「え?」
「玲さんが、渡部くんのことが好きなの、知ってる」
私は窓の外を見つめる。
「でも……いいの」
「いいの?」
「うん」
私は頷く。
「玲さんが幸せなら、それでいい」
それが本心だった。
私は玲さんに好かれたいわけじゃない。
ただ、側にいたい。
友達でいいから。
玲さんの笑顔が見られれば、それで十分だった。
六月、七月、八月。
私は毎日、玲さんを見守り続けた。
でも、夏休みが明けてから、玲さんの様子が変わった。
直ぐに付き合いだしたのだとわかった。
いつもの明るさが消えて、どこか影がある。
でもしばらくすると玲さんが暗くなっていることに気づく。
笑顔も、無理をしているように見える。
「何があったんだろう……」
私は心配で仕方がなかった。
そして、十月。
玲さんと渡部くんが、明らかに距離を置いているのに気づいた。
「喧嘩……したのかな」
昼休み、廊下で二人がすれ違う場面を見た。
でも、お互い目も合わせない。
まるで、他人のように。
「一体、何が……」
その理由を知りたくて、私は情報を集め始めた。
友達に聞いたり、噂話に耳を傾けたり。
そして、知った。
渡部元樹と、柊奈々美という転校生が付き合っていること。
その後、分かれたこと。
玲さんが、渡部くんに告白して付き合いだしたが直ぐに分かれたこと。
柊さんが白血病で入院していること。
渡部くんが今はずっと病院に通っていること。
全部知った時、私の心は複雑だった。
玲さんは傷ついている。
渡部くんを失って、辛い思いをしている。
「玲さん……」
私は何度も、声をかけようと思った。
でも、できなかった。
私なんかが声をかけても、慰めになるだろうか。
見ず知らずの他のクラスの女子が、何を言っても。
「私、何もできない……」
そう思って、ただ遠くから見守るしかなかった。
十二月。
玲さんの様子は、どんどん悪くなっていった。
目の下にクマができて、表情も暗くなっている。
昼ごはんも、ちゃんと食べていないみたいだ。
「このままじゃ……」
私は不安で仕方がなかった。
そして、昨日。
私は偶然、玲さんが一人で泣いているところを見てしまった。
放課後、中庭のベンチ。
人気のない場所で、玲さんは顔を手で覆って泣いていた。
「玲さん……」
声をかけるべきか迷った。
でも、このままにはできない。
私は意を決して、近づいた。
「あの……上野さん……?」
玲さんが顔を上げる。
目は真っ赤で、涙で濡れていた。
「誰……?」
「草壁穂香です。隣のクラスの」
私は自己紹介する。
「隣の……」
玲さんは少し戸惑ったような表情を見せた。
「ごめんなさい、こんな顔見せて……」
慌てて涙を拭こうとする玲さん。
私はハンカチを差し出した。
「使ってください」
「え……」
「大丈夫です」
私は微笑む。
「泣きたい時は、泣いていいんですよ」
その言葉に、玲さんの目からまた涙が溢れた。
「ありがとう……ございます」
ハンカチを受け取り、顔を拭く玲さん。
私はベンチの隣に座った。
「無理に話さなくてもいいです」
「でも……」
私は続ける。
「もし話したいことがあれば、聞きますから」
その優しさに、玲さんは堪えきれなくなったようだった。
「実は……」
玲さんが話し始める。
「私……大切な人を失って……」
その話を、私はじっと聞いた。
渡部くんのこと。
幼馴染として、そして好きな人として。
どれだけ大切だったか。
でも、もう手の届かないところに行ってしまったこと。
全部、聞いた。
「辛いです……」
玲さんが泣きながら言う。
「本当に……辛いです……」
私は玲さんの肩に手を置いた。
「辛いですよね」
「はい……」
「でも……」
私は言葉を選びながら続ける。
「上野さんは、一人じゃないですよ」
「え……?」
「友達がいるじゃないですか」
私は微笑む。
「山田さんとか」
「未菜ちゃん……」
玲さんが呟く。
「はい」
「それに……」
私は少し勇気を出して言う。
「もし良かったら……私も」
「え?」
「私も、上野さんの友達になりたいです」
その告白に、玲さんは驚いたような顔をした。
「どうして……?」
「どうしてって……」
私は頬を赤らめる。
「上野さんのこと、素敵だなって思ってて……」
「ずっと、話しかけたかったんです」
その言葉に、玲さんは目を丸くした。
「私のこと……?」
「はい」
私は頷く。
「上野さん、格好いいし、優しいし」
「だから……友達になりたいって」
「ずっと思ってました」
玲さんは言葉を失っている。
そして——
「ありがとう」
小さく呟いた。
「草壁さん……ありがとう」
その笑顔を見て、私の心は温かくなった。
これが、玲さんと私の出会い。
そして——
私の、新しい日々の始まりだった。
十二月十六日
朝。
私は少し早めに学校に来た。
昨日、玲さんと「また話そう」と約束したから。
廊下で待っていると、玲さんが教室に入ってくるのが見えた。
「玲さん!」
思わず声をかける。
玲さんが振り向く。
「あ、草壁さん」
昨日よりも、少し表情が明るい気がする。
「おはようございます」
「おはよう」
玲さんが微笑む。
その笑顔に、私の心臓が跳ねた。
「あの……」
私は勇気を出して言う。
「お昼、一緒に食べませんか?」
その誘いに、玲さんは少し考えてから頷いた。
「うん、いいよ」
「本当ですか!」
私は嬉しくて飛び跳ねそうになる。
「じゃあ、昼休みに」
「うん」
約束をして、私たちはそれぞれの教室に戻った。
でも、心はずっとドキドキしていた。
「玲さんと、お昼ご飯……」
考えるだけで嬉しい。
隣の席の愛が呆れた顔で言う。
「穂香ちゃん、顔が緩んでるよ」
「え、本当?」
慌てて表情を戻す。
「何かいいことあったの?」
「うん……」
私は嬉しそうに言う。
「玲さんと、友達になれたの」
「え! 本当に!」
愛が驚く。
「すごいじゃん!」
「でしょ?」
私は胸を張る。
「昨日、勇気を出して話しかけたんだ」
「へえ……」
愛が感心したように言う。
「穂香ちゃん、やるじゃん」
「えへへ」
照れ笑いをする私。
でも、心の中では不安もあった。
玲さんは今、傷ついている。
私は、ちゃんと支えられるだろうか。
友達として、役に立てるだろうか。
「大丈夫」
自分に言い聞かせる。
「私、頑張るんだ」
そして、昼休み。
私は玲さんと一緒に、中庭のベンチでお弁当を食べた。
「草壁さんのお弁当、美味しそうだね」
玲さんが私の弁当を見て言う。
「ありがとうございます」
私は嬉しくなる。
「でも、玲さんのも美味しそうですよ」
「これ、母さんが作ってくれたんだ」
玲さんが微笑む。
「最近、ちゃんと食べてなかったから心配されて」
「そうだったんですか……」
私は心配そうに言う。
「ちゃんと食べないと、体に悪いですよ」
「うん……わかってる」
玲さんが頷く。
「でも……なかなか食欲が出なくて」
その言葉に、私は胸が痛んだ。
やっぱり、玲さんは辛い思いをしている。
「玲さん」
私は言う。
「辛い時は、無理しなくていいんですよ」
「でも……」
「でも、ちゃんと食べないと」
私は続ける。
「元気になれませんから」
「玲さんが元気じゃないと、心配する人がたくさんいますよ」
その言葉に、玲さんはハッとした表情になった。
「心配する人……」
「はい」
私は頷く。
「山田さんとか、木口くんとか」
「それに……私も」
最後の言葉は、少し恥ずかしかった。
でも、言わなきゃいけないと思った。
玲さんは私を見つめる。
「草壁さん……」
「だから」
私は微笑む。
「一緒に頑張りましょう」
「前を向いて、歩いていきましょう」
その言葉に、玲さんの目に涙が浮かんだ。
「ありがとう……」
「草壁さん、本当にありがとう……」
私たちは、静かにお弁当を食べ続けた。
風が吹いて、木の葉が揺れる。
冬の陽射しが、優しく私たちを照らしていた。
この時、私は思った。
玲さんの側にいられて、本当に良かった。
これからも、ずっと支えていきたい。
そう、心の底から思った。
同じ日の放課後。
私、山田未菜は光明くんと一緒に帰っていた。
「ねえ、光明くん」
「ん?」
「玲ちゃん、最近元気になってきたよね」
その言葉に、光明くんも頷く。
「そうだな」
「昨日までは本当に心配だったけど」
光明くんが続ける。
「今日は、ちょっと表情が明るくなってた」
「うん」
私も同意する。
「良かった……」
でも、心の奥には小さな違和感があった。
「でも……」
「でも?」
光明くんが首を傾げる。
「何か気になることある?」
「うん……」
私は言葉を選びながら言う。
「玲ちゃん、隣のクラスの子と仲良くなったみたいなの」
「隣のクラス?」
「うん」
私は頷く。
「草壁さんっていう子」
「ああ……」
光明くんが思い出したように言う。
「確か、B組の……」
「そう」
「それが、どうかしたの?」
光明くんが聞く。
「別に、友達が増えるのはいいことじゃないか」
「そうなんだけど……」
私は少し考えてから言う。
「なんか……違和感があるの」
「違和感?」
「うん」
私は自分の気持ちを整理する。
「草壁さん、すごく玲ちゃんに優しいの」
「それはいいことじゃないか」
「うん、でも……」
私は続ける。
「なんていうか……優しすぎるっていうか」
「まだよく知らない相手なのに」
「すごく親身になってるの」
その言葉に、光明くんは少し真剣な表情になった。
「それって……」
「何か裏があるって思ってるの?」
「いや、そこまでは……」
私は首を振る。
「でも、ちょっと気になるっていうか」
「ふうん……」
光明くんが考え込む。
「でも、未菜」
「ん?」
「もしかしたら、考えすぎかもしれないよ」
光明くんが言う。
「玲が辛そうだったから」
「助けたいって思っただけかもしれない」
「そう……かな」
私は不安そうに言う。
「うん」
光明くんが微笑む。
「それに、玲が元気になってるなら」
「それが一番大事だろ?」
その言葉に、私も頷いた。
「そうだね」
「玲ちゃんが元気なら、それでいいよね」
でも、心の奥の違和感は消えなかった。
草壁穂香という女の子。
彼女は、本当に玲ちゃんの味方なのだろうか。
それとも——
「まあ、様子を見よう」
光明くんが言う。
「もし何かおかしいことがあれば」
「その時は、俺たちが動けばいい」
「うん」
私は頷く。
「そうだね」
二人で歩きながら、私は考え続けていた。
草壁穂香のこと。
彼女の目的は何なのか。
そして、玲ちゃんは本当に大丈夫なのか。
その答えは、まだ分からなかった。
十二月十七日。
私は今日も、玲さんと一緒に昼ごはんを食べた。
「草壁さん」
玲さんが私を呼ぶ。
「はい?」
「あのさ……」
玲さんが少し恥ずかしそうに言う。
「もう、名前で呼んでもいい?」
「え……」
私は驚く。
「穂香って呼んでもいい?」
その申し出に、私の心臓が激しく鳴った。
「もちろんです!」
私は嬉しくて声が大きくなる。
「じゃあ、私も玲さんって呼んでいいですか?」
「うん」
玲さんが微笑む。
「玲でいいよ」
「玲……さん」
名前を呼ぶと、なんだか特別な感じがする。
「これから、よろしくね」
玲さんが手を差し出す。
私はその手を握った。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
温かい手。
玲さんの体温が、私に伝わってくる。
「あ、そうだ」
玲さんが思い出したように言う。
「今日、放課後空いてる?」
「え、はい」
私は頷く。
「じゃあ、一緒に帰らない?」
「本当ですか!」
私は嬉しくて飛び跳ねそうになる。
「うん」
玲さんが笑う。
「穂香と、もっと仲良くなりたいから」
その言葉に、私の顔が真っ赤になった。
「は、はい……」
「喜んで……」
玲さんは本当に優しい。
そして、素敵だ。
私は、ますます玲さんのことが好きになっていった。
放課後。
私たちは一緒に学校を出た。
「どっち方向?」
玲さんが聞く。
「あ、私は駅の方です」
「じゃあ、途中まで一緒だね」
玲さんが微笑む。
二人で並んで歩く。
冬の夕暮れ。
空はオレンジ色に染まっている。
「ねえ、穂香」
玲さんが話しかけてくる。
「はい?」
「穂香は、将来の夢とかある?」
その質問に、私は少し考える。
「夢……ですか」
「うん」
「んー……」
私は正直に答える。
「まだ、はっきりとは決まってないです」
「でも……」
「でも?」
「誰かの役に立てる仕事がしたいです」
私は続ける。
「困ってる人を、助けられるような」
その言葉に、玲さんは優しく微笑んだ。
「あの時声をかけてくれた穂香らしいね」
「え……」
「だって、穂香は優しいから」
玲さんが言う。
「私が辛い時も、声をかけてくれた」
「あれ、本当に嬉しかったんだ」
その言葉に、私の胸が温かくなる。
「玲さん……」
「これからも」
玲さんが私を見る。
「よろしくね」
「はい」
私は力強く頷く。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
二人で笑い合う。
この瞬間が、ずっと続けばいいのに。
そう思った。
駅に着いて、私たちは別れた。
「じゃあ、また明日」
「はい、また明日」
玲さんが手を振る。
私も手を振り返す。
玲さんの姿が見えなくなるまで、ずっと見送った。
そして——
「やった……」
小さく呟く。
玲さんと、友達になれた。
いや、もっと特別な関係になりたい。
でも、焦っちゃいけない。
ゆっくりと、確実に。
玲さんの心に、近づいていこう。
そう心に誓った。
終業式前日
教室では、終業式と冬休みの話題で持ちきりだった。
「明日で終業式だね」
愛が言う。
「うん」
私は頷く。
「冬休み、何する予定?」
「んー……」
考える。
「家族で温泉行くかも」
「いいなあ」
愛が羨ましそうに言う。
「穂香ちゃんは?」
「私は……」
私は少し考えてから言う。
「まだ決まってないかな」
本当は、玲さんと過ごせたらいいなと思っている。
でも、それは言えない。
「そういえば」
愛が話題を変える。
「穂香ちゃん、最近上野さんとよく一緒にいるよね」
「う、うん……」
私は頬を赤らめる。
「仲良くなったの?」
「うん」
私は頷く。
「玲さん、本当にいい人で……」
話し始めると止まらない。
玲さんの優しさ、強さ、全部。
愛は笑いながら聞いている。
「穂香ちゃん、本当に好きなんだね」
「え……」
「上野さんのこと」
その言葉に、私は言葉を失った。
「……うん」
正直に答える。
「大好き」
「そっか」
愛が微笑む。
「頑張ってね」
「うん」
私は決意を新たにする。
玲さんの側にいるために。
頑張ろう。
昼休み。
私は今日も玲さんと一緒だった。
「明日で終業式だね」
玲さんが言う。
「はい」
私は頷く。
「冬休み、何か予定ある?」
玲さんが聞いてくる。
「特にないです」
私は答える。
「玲さんは?」
「んー……」
玲さんが考える。
「まだ決まってないかな」
「そうなんですか」
「うん」
玲さんが微笑む。
「でも……」
「でも?」
「もし良かったら」
玲さんが少し恥ずかしそうに言う。
「冬休み中も、会えたら嬉しいな」
その言葉に、私の心臓が跳ね上がった。
「本当ですか!」
「うん」
玲さんが頷く。
「穂香と一緒にいると、楽しいから」
「玲さん……」
私は感動で涙が出そうになった。
「もちろんです」
「いつでも会いましょう」
「ありがとう」
玲さんが微笑む。
その笑顔が、本当に美しくて。
私は、心の底から幸せを感じていた。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
そう願わずにはいられなかった。
十二月十九日、終業式
体育館に全校生徒が集まった。
私は自分のクラスの列に並びながら、隣のクラスを探す。
玲さんの姿が見えた。
私と目が合う。
玲さんが小さく手を振る。
私も手を振り返す。
胸が温かくなる。
「草壁さん」
後ろから声をかけられる。
振り返ると、担任の先生だった。
「はい」
「前を向いて」
「すみません」
慌てて前を向く。
でも、心は玲さんのことでいっぱいだった。
校長先生の話が始まる。
長い話。
でも、全然頭に入ってこない。
ただ、玲さんのことを考えていた。
冬休み、玲さんと会える。
それだけで、嬉しくて仕方がない。
「それでは、良いお年を」
校長先生の締めの言葉で、終業式が終わった。
教室に戻り、ホームルーム。
「はい、それじゃあ冬休みの注意事項を……」
担任の先生が話し始める。
でも、やっぱり頭に入ってこない。
「草壁」
名前を呼ばれて、ハッとする。
「はい!」
「ちゃんと聞いてる?」
「す、すみません……」
先生が呆れたように言う。
「まったく……」
「冬休みの宿題、忘れないようにね」
「はい……」
恥ずかしい。
愛がクスクス笑っている。
「穂香ちゃん、上の空だったね」
「う、うるさい……」
ホームルームが終わり、放課後。
私は急いで廊下に出た。
玲さんを探すために。
「玲さん!」
声をかけると、玲さんが振り返る。
「穂香」
「あの……」
私は少し緊張しながら言う。
「今日、一緒に帰りませんか?」
「うん、いいよ」
玲さんが微笑む。
二人で学校を出る。
冬の夕方。
風は冷たいけど、心は温かい。
「ねえ、穂香」
玲さんが話しかけてくる。
「はい?」
「冬休み、いつ会える?」
その質問に、私は嬉しくなる。
「いつでも大丈夫です」
「じゃあ……」
玲さんが考える。
「クリスマスとか、どう?」
「クリスマス……」
私は心臓が高鳴る。
「一緒に過ごしませんか?」
玲さんが提案する。
「もちろんです!」
私は即答する。
「やった」
玲さんが嬉しそうに笑う。
「じゃあ、楽しみにしてるね」
「はい」
私も笑顔になる。
「私も、楽しみにしてます」
二人で駅まで歩く。
話題は尽きない。
学校のこと、趣味のこと、好きな音楽のこと。
全部が楽しい。
玲さんと一緒なら、どんな話でも楽しい。
駅で別れる時。
「じゃあ、また連絡するね」
玲さんが言う。
「はい」
私は頷く。
「待ってます」
「うん」
玲さんが手を振る。
私も手を振り返す。
そして——
玲さんの姿が見えなくなるまで、ずっと見送った。
「クリスマス……」
小さく呟く。
玲さんと、クリスマスを過ごせる。
考えるだけで、胸が高鳴る。
「楽しみ……」
私は家に向かって歩き出した。
心は、もう冬休みのことでいっぱいだった。
同じ日の夕方。
私、山田未菜は光明くんと一緒に駅前のカフェにいた。
「終業式、お疲れさま」
光明くんが言う。
「うん、お疲れさま」
私もコーヒーを飲む。
「それにしても……」
光明くんが続ける。
「玲、最近本当に元気になったよな」
「うん……」
私は複雑な表情で答える。
「それは良かったんだけど……」
「また、気になることがあるの?」
光明くんが聞く。
「うん」
私は頷く。
「草壁さんのこと」
「ああ……」
光明くんも真剣な顔になる。
「やっぱり、気になるか」
「うん」
私は続ける。
「玲ちゃんと草壁さん、すごく親しくなってるの」
「それは知ってる」
「でも……」
私は言葉を選ぶ。
「なんか、草壁さんの目……」
「目?」
「玲ちゃんを見る目が……」
私は小声で言う。
「普通じゃないの」
その言葉に、光明くんは眉をひそめた。
「どういうこと?」
「んー……」
私は説明しようとする。
「なんていうか……」
「すごく……熱烈っていうか、元樹くんを見る柊さんや玲ちゃんと同じ感じ」
「友達として見てる目じゃない気がするの」
光明が考え込む。
「つまり……」
「草壁さんが、玲に恋愛感情を持ってるってこと?」
「たぶん……」
私は頷く。
「それって……」
光明くんが続ける。
「問題なのか?」
「わからない」
私は正直に答える。
「でも……」
「玲ちゃん、今すごく傷ついてるから」
「もし草壁さんが、それを利用してるとしたら……」
その言葉に、光明くんの表情が険しくなった。
「それは……問題だな」
「うん……」
私たちは黙り込む。
しばらくして、光明くんが口を開いた。
「でも、証拠はないんだろ?」
「うん……」
「だったら、まだ決めつけるのは早い」
光明くんが言う。
「もう少し、様子を見よう」
「でも……」
「大丈夫」
光明くんが私の手を握る。
「俺たちが、玲のことをちゃんと見守ってるから」
「何かあれば、すぐに動けばいい」
その言葉に、私は少し安心した。
「そうだね」
「うん」
光明くんが微笑む。
「それに、玲が元気になってるのは事実だろ?」
「うん……」
「だったら、今は見守ろう」
私は頷く。
「わかった」
でも、心の奥の不安は消えなかった。
草壁穂香。
彼女は、本当に玲ちゃんの味方なのだろうか。
それとも——何か、別の目的があるのだろうか。
その答えは、まだわからなかった。
十二月二十四日、クリスマスイブ
今日はクリスマスイブ。
私は朝から緊張していた。
玲さんと会う約束をしているから。
「穂香、大丈夫?」
母が心配そうに言う。
「う、うん……」
「顔、真っ赤よ」
「そ、そう……?」
鏡を見ると、確かに顔が赤い。
「友達と会うの?」
母が聞く。
「うん……」
「大切な人?」
その質問に、私は頷く。
「うん……大切な人」
母は微笑む。
「楽しんできなさい」
「うん」
私は家を出た。
待ち合わせ場所は、駅前のクリスマスツリーの前。
着いた時、玲さんはもう待っていた。
「玲さん!」
声をかけると、玲さんが振り向く。
「穂香」
玲さんは今日、いつもと違う服装だった。
白いコートに、赤いマフラー。
髪も、少しセットしている。
「可愛い……」
思わず呟く。
「え?」
玲さんが聞き返す。
「あ、いえ……」
私は慌てる。
「その服、とても似合ってますって」
「ありがとう」
玲さんが微笑む。
「穂香も、可愛いよ」
その言葉に、私の顔がさらに赤くなった。
「あ、ありがとうございます……」
「さ、行こう」
玲さんが歩き出す。
私も隣に並ぶ。
街はクリスマスの装飾で華やかだった。
イルミネーションが輝き、クリスマスソングが流れている。
「きれい……」
私が呟くと、玲さんも頷く。
「うん、きれいだね」
二人で街を歩く。
ショッピングモールに入り、色々な店を見て回る。
「これ、可愛い」
玲さんがアクセサリーを手に取る。
「本当ですね」
私も見る。
小さなネックレス。
星の形をしている。
「穂香に似合いそう」
玲さんが言う。
「え……」
「つけてみたら?」
「いいんですか?」
「うん」
玲さんが微笑む。
店員さんに頼んで、試着させてもらう。
鏡を見ると、確かに可愛い。
「すごく似合う」
玲さんが後ろから覗き込む。
近い。
玲さんの顔が、すぐ近くにある。
心臓が激しく鳴る。
「ほ、穂香?」
「は、はい……」
「大丈夫? 顔、赤いよ」
「だ、大丈夫です……」
慌ててネックレスを外す。
玲さんは不思議そうに見ている。
「これ、買おうか」
「え……」
「クリスマスプレゼント」
玲さんが言う。
「穂香に」
「そんな……」
私は慌てる。
「いいんですか?」
「うん」
玲さんが頷く。
「いつもありがとうって気持ち」
その言葉に、私は感動した。
「玲さん……」
「ありがとうございます……」
玲さんはネックレスを買ってくれた。
そして、私の首にかけてくれる。
「似合う」
玲さんが微笑む。
「ありがとうございます……」
私は嬉しくて、泣きそうになった。
ショッピングモールを出て、私たちはカフェに入った。
「何飲む?」
玲さんが聞く。
「んー……」
メニューを見る。
「ホットココアにします」
「じゃあ、私も同じで」
注文して、二人で席に座る。
窓の外では、雪が降り始めていた。
「雪……」
私が呟く。
「ホワイトクリスマスだね」
玲さんが言う。
「はい……」
ココアが運ばれてきて、二人で飲む。
温かくて、甘い。
「美味しい」
「うん」
玲さんも微笑む。
しばらく、二人で雪を眺めていた。
静かな時間。
でも、心は満たされていた。
「ねえ、穂香」
玲さんが口を開く。
「はい?」
「穂香に会えて、本当に良かった」
その言葉に、私の胸が温かくなる。
「私も……」
私は正直に言う。
「玲さんに会えて、本当に良かったです」
「これからも」
玲さんが私を見る。
「ずっと友達でいてね」
「はい」
私は力強く頷く。
「ずっと、側にいます」
その約束に、玲さんは微笑んだ。
カフェを出ると、雪はますます強くなっていた。
「すごい雪だね」
「はい……」
「帰り、大丈夫?」
玲さんが心配そうに言う。
「大丈夫です」
私は微笑む。
「玲さんは?」
「うん、私も大丈夫」
駅で別れることになった。
「今日は、ありがとう」
玲さんが言う。
「楽しかった」
「私も……」
私は嬉しそうに言う。
「本当に楽しかったです」
「また、会おうね」
「はい」
玲さんが手を振る。
私も手を振り返す。
そして——
玲さんの姿が見えなくなるまで、ずっと見送った。
首元のネックレスに触れる。
玲さんがくれた、大切なプレゼント。
「ありがとう……玲さん」
小さく呟く。
今日は、最高のクリスマスだった。
玲さんと過ごせて、本当に幸せだった。
「これからも……」
私は心に誓う。
「ずっと、玲さんの側にいる」
そして、家に向かって歩き出した。
雪の中、私の心は温かかった。
十二月二十五日、クリスマス
元樹視点
今日はクリスマス。
俺は朝から、病院に向かっていた。
奈々美の誕生日から十日。
奈々美の体調は、少しずつ良くなっているらしい。
病院に着き、奈々美の部屋に向かう。
ノックをする。
「はい」
奈々美の声が聞こえる。
ドアを開けると——
「元樹くん!」
奈々美が笑顔で迎えてくれた。
今日の奈々美は、髪を下ろしている。
病院の服だが、どこか可愛らしい。
「おはよう、奈々美」
「おはよう」
奈々美が微笑む。
「メリークリスマス」
「ああ、メリークリスマス」
俺も笑顔で答える。
「これ……」
俺はプレゼントを差し出す。
「クリスマスプレゼント」
「わあ……」
奈々美が嬉しそうに受け取る。
「開けてもいい?」
「ああ」
奈々美がプレゼントを開ける。
中には、小さなぬいぐるみが入っていた。
クマのぬいぐるみ。
白くて、ふわふわしている。
「可愛い……」
奈々美が抱きしめる。
「気に入ってくれた?」
「うん」
奈々美が頷く。
「すごく嬉しい」
「ありがとう、元樹くん」
その笑顔を見て、俺も嬉しくなった。
「良かった」
二人で並んでベッドに座る。
窓の外では、雪が降っている。
「ホワイトクリスマスだね」
奈々美が言う。
「ああ」
俺も頷く。
「きれいだな」
「うん……」
しばらく、二人で雪を眺めていた。
「元樹くん」
奈々美が呟く。
「ん?」
「私……幸せ」
その言葉に、俺は奈々美を見る。
「元樹くんが、側にいてくれるから」
「こうして、一緒にクリスマスを過ごせるから」
「本当に……幸せ」
奈々美の目に、涙が浮かぶ。
「奈々美……」
「ありがとう」
奈々美が俺を見る。
「ずっと、一緒にいてね」
「ああ」
俺は頷く。
「ずっと、一緒だ」
その約束に、奈々美は微笑んだ。
昼過ぎ、看護師さんが昼食を持ってきた。
「メリークリスマス」
看護師さんが言う。
「今日は特別メニューですよ」
トレイには、チキンとケーキが載っていた。
「わあ……」
奈々美が嬉しそうに言う。
「豪華だね」
「ああ」
俺も微笑む。
「二人で食べよう」
「うん」
奈々美と一緒に、昼食を食べる。
チキンは美味しくて、ケーキは甘い。
「美味しい」
奈々美が笑顔で言う。
「うん」
俺も頷く。
「クリスマスらしいな」
食事を終えて、俺たちは再び雪を眺めていた。
「元樹くん」
奈々美が呟く。
「ん?」
「来年も……」
奈々美が続ける。
「一緒に、クリスマスを過ごせるといいな」
その願いに、俺は頷く。
「ああ」
「絶対に、一緒に過ごそう」
「約束ね」
奈々美が小指を差し出す。
俺も小指を絡める。
「約束」
二人で微笑み合う。
この瞬間が、ずっと続けばいいのに。
そう思った。
夕方、俺は病院を出た。
「じゃあ、また来るから」
「うん」
奈々美が手を振る。
「気をつけてね」
「ああ」
病院を出ると、雪はまだ降り続けていた。
でも、心は温かかった。
奈々美と過ごせて、良かった。
これからも、ずっと側にいよう。
そう心に誓った。
十二月三十日
冬休みも、もう終わりに近づいていた。
私は今日も、玲さんと会う約束をしていた。
待ち合わせ場所は、駅前。
着いた時、玲さんはもう待っていた。
「穂香」
「玲さん」
二人で微笑み合う。
「今日は、どこ行く?」
玲さんが聞く。
「んー……」
私は少し考える。
「公園とか、どうですか?」
「公園?」
「はい」
私は頷く。
「雪が積もってて、きれいだと思います」
「いいね」
玲さんが微笑む。
「行こう」
二人で公園に向かう。
公園は一面、雪で覆われていた。
「わあ……」
私が感嘆の声を上げる。
「きれい……」
「うん」
玲さんも頷く。
「まるで、童話の世界みたい」
二人で雪の中を歩く。
足跡が、雪に残る。
「ねえ、穂香」
玲さんが話しかけてくる。
「はい?」
「雪だるま、作らない?」
その提案に、私は嬉しくなる。
「いいですね」
「じゃあ、作ろう」
二人で雪を集めて、雪だるまを作る。
大きな雪玉と、小さな雪玉。
顔も、枝で作る。
「完成!」
私が嬉しそうに言う。
「可愛い」
玲さんも微笑む。
「二人で作った雪だるま」
「写真、撮りましょう」
私がスマホを取り出す。
「いいよ」
玲さんが隣に並ぶ。
二人で雪だるまの前で写真を撮る。
笑顔で。
「いい写真」
私が確認する。
「うん」
玲さんも頷く。
「送ってね」
「はい」
写真を玲さんに送る。
そして、二人でベンチに座った。
「冬休み、もうすぐ終わっちゃうね」
玲さんが言う。
「はい……」
私も寂しそうに答える。
「でも」
玲さんが続ける。
「学校が始まっても」
「また一緒にいられるよね」
その言葉に、私は嬉しくなる。
「はい」
「ずっと、一緒にいましょう」
「うん」
玲さんが微笑む。
しばらく、二人で雪景色を眺めていた。
静かで、穏やかな時間。
「穂香」
玲さんが呟く。
「はい?」
「穂香に会えて、本当に良かった」
その言葉に、私の胸が温かくなる。
「この冬休み、穂香のおかげで」
玲さんが続ける。
「楽しく過ごせた」
「ありがとう」
「玲さん……」
私も言う。
「私も、玲さんに会えて幸せです」
「これからも」
私は続ける。
「ずっと、側にいます」
その約束に、玲さんは微笑んだ。
二人で公園を出て、駅に向かう。
別れ際。
「じゃあ、また」
玲さんが手を振る。
「はい」
私も手を振り返す。
「また、新学期に」
「うん」
玲さんの姿が見えなくなるまで、ずっと見送った。
そして——
「玲さん……」
小さく呟く。
私の大切な人。
これからも、ずっと側にいたい。
どんなことがあっても。
そう心に誓った。
十二月三十一日、大晦日
大晦日。
一年の最後の日。
俺は家族と一緒に、年越しの準備をしていた。
「元樹、手伝って」
母が呼ぶ。
「はい」
キッチンに行くと、母が年越しそばを作っている。
「ネギ、切ってくれる?」
「わかった」
ネギを切りながら、俺は今年一年を振り返っていた。
四月、奈々美が転校してきた。
それから、色々なことがあった。
奈々美の執着。
玲との関係の変化。
そして——
奈々美の病気。
全部が、一年の中で起きた。
「お兄ちゃん、ぼーっとしてる」
由美が声をかけてくる。
「ああ、ごめん」
「何考えてたの?」
「んー……」
俺は正直に答える。
「今年一年のこと」
「そっか」
由美が微笑む。
「色々あったもんね」
「ああ……」
俺は頷く。
「でも」
由美が続ける。
「お兄ちゃん、成長したと思うよ」
「え……」
「だって」
由美が言う。
「前よりも、自分の気持ちに正直になれてるもん」
「奈々美さんのこと、ちゃんと選んだし」
その言葉に、俺は少し照れくさくなった。
「そう……かな」
「うん」
由美が頷く。
「お兄ちゃん、格好良かったよ」
「ありがとう」
俺は妹の頭を撫でる。
「由美も、成長したな」
「えへへ」
由美が笑う。
夕食の時間。
家族で年越しそばを食べる。
「今年も、色々あったね」
母が言う。
「ああ」
俺は頷く。
「でも、良い一年だった」
「来年も」
母が続ける。
「良い年になるといいね」
「うん」
全員で頷く。
食事を終えて、俺は自分の部屋に戻った。
ベッドに座り、スマホを手に取る。
奈々美にメッセージを送る。
『今年も、お世話になりました』
『来年も、よろしく』
すぐに返信が来た。
『元樹くん、ありがとう』
『来年も、ずっと一緒にいようね』
その言葉に、俺は微笑む。
『ああ、約束する』
メッセージを終えて、俺は窓の外を見る。
夜空には、星が輝いている。
「来年は……」
小さく呟く。
「もっと良い年にしよう」
そして、新しい年を迎える準備をした。
同じ日の夜。
私、山田未菜は光明くんと電話していた。
「今年も、色々あったね」
光明くんが言う。
「うん……」
私は答える。
「でも、玲ちゃんのこと……」
「まだ気になってる?」
「うん……」
私は正直に言う。
「草壁さんと、すごく仲良くなってるから」
「それ自体は、いいことだろ?」
光明くんが言う。
「うん、でも……」
私は続ける。
「草壁さんの目が……」
「やっぱり、普通じゃない」
「友達として見てる目じゃないの」
その言葉に、光明くんは黙り込む。
「どうする?」
「わからない……」
私は不安そうに言う。
「でも、このまま放っておいていいのかな」
「うーん……」
光明くんが考える。
「でも、証拠がないからな」
「それに、玲が幸せそうなら」
「それでいいんじゃないか?仲もよさそうだし」
その言葉に、私は何も言えなかった。
確かに、玲ちゃんは元気になっている。
それは良いことだ。
でも……
何か、引っかかる。
「新学期になったら」
私は言う。
「もっと注意深く見てみる」
「ああ」
光明くんも頷く。
「俺も、気をつけて見るよ」
「ありがとう」
私は微笑む。
「光明くん」
「ん?」
「来年も、よろしくね」
「ああ」
光明くんが笑う。
「こちらこそ」
電話を終えて、私は考え込んだ。
草壁穂香。
彼女は、本当に玲ちゃんの味方なのか。
それとも——
何か、別の思惑があるのか。
来年、その答えがわかるかもしれない。
私は、そう思った。
十二月三十一日、午後十一時。
私は自分の部屋で、ベッドに横になっていた。
今年一年を振り返る。
玲さんに出会えて。
友達になれて。
たくさんの思い出ができた。
「幸せだった……」
小さく呟く。
でも、これで終わりじゃない。
来年も、玲さんと一緒にいられる。
それが、何よりも嬉しい。
「玲さん……」
名前を呟く。
大好きな人。
憧れの人。
これからも、ずっと側にいたい。
どんなことがあっても。
「来年は……」
私は決意する。
「もっと、玲さんに近づこう」
友達として。
そして——
いつか、それ以上の関係になれたら。
そんな淡い期待を抱きながら。
私は、新しい年を迎える準備をした。
玲の視点。
私は家のリビングで、家族と一緒にテレビを見ていた。
カウントダウン番組。
あと数分で、新しい年が始まる。
「玲、今年はどうだった?」
母が聞いてくる。
「うん……」
私は少し考える。
「色々あったけど……」
「でも、良い年だったと思う」
それは本当だった。
元樹を失って、辛かった。
でも——
穂香に出会えた。
新しい友達ができた。
それが、私を支えてくれた。
「来年も、良い年になるといいね」
母が微笑む。
「うん」
私も頷く。
「絶対に、良い年にする」
テレビでは、カウントダウンが始まっていた。
「10、9、8……」
みんなで一緒に数える。
「3、2、1……」
「ハッピーニューイヤー!」
新しい年が始まった。
私は窓の外を見る。
花火が上がっている。
きれいな色が、夜空を彩る。
「来年は……」
私は小さく呟く。
「もっと前を向いて歩こう」
元樹のことは、まだ忘れられない。
でも、立ち止まってはいられない。
前に進まなきゃ。
そのために——
穂香が、側にいてくれる。
「ありがとう、穂香」
心の中で呟く。
新しい年。
新しい始まり。
私は、前を向いて歩き出す。
そう決意した。
元樹の視点。
午前零時。
新年を迎えた。
俺は自分の部屋で、窓の外を見ていた。
花火が上がっている。
「新しい年か……」
小さく呟く。
去年は、色々なことがあった。
奈々美との再会。
玲との別れ。
そして、奈々美の病気。
全部が、俺を変えた。
「来年は……」
俺は決意する。
「奈々美を、絶対に守る」
病気を治して。
一緒に、幸せになる。
そのために、できることは全部やる。
「待ってろ、奈々美」
心の中で呟く。
「絶対に、お前を幸せにする」
その決意と共に。
俺は、新しい年を迎えた。
奈々美の視点。
私は病室のベッドで、窓の外を見ていた。
花火が上がっている。
きれいな色が、夜空を彩る。
「新しい年……」
小さく呟く。
去年は、辛いこともあった。
病気が見つかって。
入院して。
でも——
元樹くんが、側にいてくれた。
ずっと、支えてくれた。
「元樹くん……」
名前を呟く。
大好きな人。
一番大切な人。
「来年は……」
私は決意する。
「絶対に、病気を治す」
そして、元樹くんと。
ずっと一緒にいる。
「待っててね、元樹くん」
心の中で呟く。
「私、頑張るから」
その決意と共に。
私は、新しい年を迎えた。
未菜の視点。
私は光明くんと一緒に、初詣に来ていた。
神社は、たくさんの人で賑わっている。
「すごい人だね」
光明くんが言う。
「うん」
私も頷く。
列に並んで、順番を待つ。
「今年の願い事、決めた?」
光明くんが聞いてくる。
「うん」
私は微笑む。
「みんなが、幸せになりますように」
「みんな?」
「うん」
私は頷く。
「元樹くんも、玲ちゃんも」
「奈々美さんも、光明くんも」
「みんなが、幸せになってほしい」
その願いに、光明くんは微笑んだ。
「優しいな、未菜は」
「えへへ」
私も照れ笑いする。
お参りを終えて、二人で帰る。
「今年も、よろしくね」
光明くんが言う。
「うん」
私も頷く。
「こちらこそ」
手を繋いで、歩く。
新しい年。
新しい始まり。
みんなが、幸せになりますように。
そう願いながら。
私たちは、家路についた。
午前二時。
穂香はまだ起きていた。
ベッドに座り、スマホを見ている。
玲さんとのメッセージのやり取り。
写真。
全部が、大切な思い出。
「玲さん……」
名前を呟く。
新しい年が始まった。
来年は、どんな年になるだろう。
玲さんと、もっと親しくなれるだろうか。
私の気持ちは、伝わるだろうか。
「わからない……」
でも——
「頑張ろう」
私は決意する。
玲さんの側にいるために。
玲さんを、幸せにするために。
できることは、全部やろう。
「玲さん、大好き」
小さく呟く。
その想いを胸に。
私は、新しい年を迎えた。
そして――
それぞれの想いを抱えて。
みんなが、新しい日々を歩み始める。
これから、どんなことが起こるのか。
それは、誰にもわからない。
でも、一つだけ確かなことがある。
それぞれが、大切な人のために。
前を向いて、歩き続けるということ。
その先に、何が待っているのか。
それは――
これからの物語が、明らかにしていくだろう。
この度は第二十六話をお読みいただき、ありがとうございました。
今回は新キャラクター・草壁穂香を登場させ、玲を中心とした新しい関係性を描きました。穂香は一見優しく穏やかですが、玲への執着心を内に秘めた、奈々美とは異なるタイプのヤンデレキャラクターです。
物語も冬休みに入り、それぞれのキャラクターが新年を迎えました。元樹と奈々美、玲と穂香、光明と未菜。それぞれのカップル(あるいは今後カップルになるかもしれない関係)が描かれ、物語は新しい段階に入ろうとしています。
未菜が感じる穂香への違和感は、今後の展開で重要な意味を持つでしょう。穂香は本当に玲の味方なのか、それとも——。
次回もお楽しみに。
暁の裏




