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奈々美さんの裏の顔  作者: 暁の裏


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第25話 「さよならと、おめでとう」

 十二月十一日。


 元樹は放課後、玲と二人きりで話すために屋上に向かった。


 冬の冷たい風が頬を撫でる。


 息を吐くと白い湯気が立ち上る。


「元樹……」


 玲が先に屋上にいた。


 フェンスに寄りかかり、遠くの空を見つめている。


 その横顔は、どこか寂しそうだった。


「玲」


 元樹が声をかけると、玲はゆっくりと振り返る。


「来てくれたんだ」


 その声は、いつもより小さい。


「ああ……話したいことがある」


 元樹はフェンスの隣に立った。


 二人は並んで、冬の空を見上げる。


 灰色の雲が、ゆっくりと流れていく。


「元樹」


 玲が口を開く。


「私……あの時のこと、謝りたくて」


「あの時……?」


「病院で……奈々美さんに、カッターナイフを向けた時」


 玲の声が震える。


「私……何をしようとしてたんだろうって」


「毎晩、考えるの」


「もし元樹が来なかったら……」


 玲の目から涙がこぼれる。


「私、奈々美さんを傷つけてたかもしれない」


「玲……」


 元樹は玲の肩に手を置く。


「でも、やらなかった」


「それは……元樹が止めてくれたから」


「違う」


 元樹が首を振る。


「俺が来る前に、お前はもう迷ってた」


「カッターナイフを握りながら、震えてただろ?」


 その言葉に、玲は頷く。


「うん……」


「握った瞬間、怖くなった」


「私、何をしてるんだろうって」


「それが本当のお前だよ」


 元樹が玲を見つめる。


「玲は優しい。人を傷つけられる人間じゃない」


「でも……」


 玲が俯く。


「私、あの時、確かに奈々美さんを憎んでた」


「元樹を奪われたって」


「元樹の血が奈々美さんの中にあるって聞いて」


「それが許せなくて……」


 玲の涙が、屋上のコンクリートに落ちる。


「憎しみで、頭がおかしくなってた」


 元樹は黙って玲の話を聞く。


「光明くんと未菜ちゃんが言ってくれたの」


 玲が続ける。


「やり直せるって」


「元樹に謝って、許してもらえって」


「だから……」


 玲が元樹を見上げる。


 目は涙で赤く腫れていた。


「ごめんなさい、元樹」


「私、元樹を苦しめた」


「奈々美さんを傷つけようとした」


「幼馴染として、最低なことをした」


 その謝罪に、元樹は胸が痛んだ。


「玲……」


「許してくれなんて、言わない」


 玲が首を振る。


「ただ……謝りたかった」


「そして……」


 玲は深呼吸をする。


「私の気持ちを、ちゃんと伝えたかった」


「気持ち……?」


「うん」


 玲が頷く。


「元樹、私ね……」


 玲の手が、強く握られる。


「元樹のことが……好き」


 その告白に、元樹は息を飲む。


「玲……」


「幼馴染として、じゃなくて」


 玲が続ける。


「男の子として、好き」


「いつからかは、わからない」


「でも、気づいた時には……もう遅かった」


 玲の涙が止まらない。


「元樹には、奈々美さんがいた」


「私は……ただの幼馴染だった」


「それが悔しくて、苦しくて」


「だから……あんな風になっちゃった」


 元樹は何も言えなかった。


 玲の気持ち。


 それは、薄々感づいていた。


 でも、はっきりと言葉にされると——


 胸が締め付けられる。


「玲……俺……」


「大丈夫」


 玲が微笑む。


 涙を流しながら、でも笑っている。


「答えは聞かない」


「だって、わかってるから」


「元樹は、奈々美さんを選んだ」


「それが元樹の答えでしょ?」


 その言葉に、元樹は頷くしかなかった。


「ごめん……」


「謝らないで」


 玲が首を振る。


「元樹は、自分の気持ちに正直になっただけ」


「それは……悪いことじゃない」


 玲は空を見上げる。


「私もね、わかってるの」


「元樹が奈々美さんを選んだ理由」


「奈々美さんは……元樹にとって、特別なんだよね」


「七年前の約束」


「事故のこと」


「全部……背負ってる」


 玲の言葉に、元樹は驚く。


「お前……知ってたのか」


「光明くんから聞いた」


 玲が答える。


「元樹が奈々美さんの両親の事故に関わってたこと」


「だから、罪悪感もあるんだよね」


「……ああ」


 元樹は認める。


「俺が声をかけなければ」


「奈々美の両親は死ななかった」


「奈々美は、孤児にならなかった」


 その言葉に、玲は首を振る。


「でも、それだけじゃないでしょ?」


「え?」


「元樹は、奈々美さんのことが……好きなんでしょ?」


 その問いに、元樹は言葉に詰まる。


「俺は……」


「正直に言って」


 玲が元樹を見つめる。


「私、もう大丈夫だから」


「元樹の本当の気持ち、聞きたいの」


 元樹は深呼吸をする。


 そして——


「ああ」


 元樹は認めた。


「俺は……奈々美のことが好きだ」


「罪悪感だけじゃない」


「束縛されて苦しかったけど」


「それでも……奈々美のことが大切なんだ」


 その告白に、玲は静かに頷いた。


「そっか」


 玲が微笑む。


「それが、元樹の答えなんだね」


「玲……」


「ありがとう」


 玲が言う。


「正直に言ってくれて」


「それだけで……私、少し楽になった」


 冬の風が、二人の間を吹き抜ける。


「ねえ、元樹」


 玲が口を開く。


「なに?」


「私たち……友達に戻れるかな」


 その問いに、元樹は少し考えてから答えた。


「すぐには……無理かもしれない」


「でも、いつか……」


「いつか、また笑って話せる日が来るといいな」


「うん」


 玲が頷く。


「私も、そう思う」


「だから……」


 玲は元樹の手を握る。


「今は、さようなら」


「また……ね」


 その言葉に、元樹も手を握り返す。


「ああ……また」


 二人は手を離す。


 玲は最後にもう一度、元樹を見つめた。


「奈々美さんを、幸せにしてあげてね」


「……ああ」


「じゃあね、元樹」


 玲は屋上を後にした。


 その背中は、どこか寂しげだった。


 でも——まっすぐ前を向いて、歩いていた。


 残された元樹は、しばらく空を見上げていた。


「玲……」


 胸が痛む。


 玲を傷つけた。


 それは事実だ。


 でも——元樹は奈々美を選んだ。


 それも、また事実だった。


「奈々美……」


 元樹は決意を新たにする。


 奈々美を、幸せにする。


 それが、俺にできる唯一のことだ。



 その夜。



 元樹は自分の部屋で、奈々美へのプレゼントを準備していた。


 十二月十五日。


 奈々美の誕生日。


「何がいいかな……」


 元樹は悩む。


 奈々美は「プレゼントはいらない」と言った。


 でも、それでも何か渡したい。


「そうだ……」


 元樹は机の引き出しを開ける。


 中には、小さな箱が入っていた。


 おばあちゃんの形見ネックレス。


 シンプルなデザインだが、温かみのある銀のチェーン。


「これを……奈々美に」


 元樹は決めた。


 おばあちゃんも、きっと許してくれるだろう。


 奈々美を大切にするなら。


「あとは……」


 元樹はノートを開く。


 メッセージカードを書き始める。


『奈々美へ


 誕生日おめでとう。

 俺、ずっと伝えたいことがあった。

 でも、なかなか言えなくて。

 だから、この手紙で伝えさせて。

 奈々美のこと、好きだ。

 束縛されて苦しいときもあった。

 でも、それでも奈々美といたいと思った。

 七年前、俺は奈々美に酷いことをした。

 別れも告げずに、いなくなった。

 奈々美の両親の事故にも、関わってた。

 ずっと罪悪感があった。

 でも、それだけじゃない。

 俺は、奈々美自身が好きなんだ。

 これから、ずっと一緒にいる。

 約束する。


 元樹』


 文字を書きながら、元樹の目に涙が滲む。


 これが、本当の自分の気持ち。


 奈々美への愛情。


 罪悪感も、確かにある。


 でも、それ以上に——奈々美といたいと思う気持ちが、強かった。


「明日……伝えよう」


 元樹はカードを封筒に入れた。



 十二月十二日。



 光明と未菜は、放課後に玲を誘った。


「玲、今日暇?」


 未菜が声をかける。


「うん……特に予定はないけど」


 玲が答える。


「じゃあ、一緒にカラオケ行かない?」


 光明が提案する。


「三人で、久しぶりに遊ぼうよ」


 その誘いに、玲は少し迷ったが——


「うん、行く」


 笑顔で答えた。


 元樹との話し合いの後、少し心が軽くなっていた。


 三人は駅前のカラオケボックスに向かった。


「何歌う?」


 光明がリモコンを手に取る。


「私、最新のアニソン歌いたい!」


 未菜が元気よく言う。


「じゃあ、俺は定番のロックで」


 光明も笑う。


「玲は?」


「んー……バラードかな」


 玲が答える。


 三人は順番に歌い始めた。


 未菜の元気な歌声。


 光明の少し外れた音程。


 玲の切ないバラード。


 それぞれが、思い思いに楽しんでいた。


「ねえねえ、光明くん!」


 未菜が光明の隣に座る。


「デュエット、歌おうよ!」


「え、俺と?」


「うん!」


 未菜が画面を操作する。


「この曲、好きなんだ」


 流れ始めたのは、有名な恋愛ソング。


 二人は照れながらも、一緒に歌い始める。


 その様子を見て、玲は微笑んだ。


(二人とも、お似合いだな)


 心から、そう思えた。


 嫉妬も、羨望も——


 もう、ない。


 ただ、友達の幸せを願う気持ちだけが残っていた。


 デュエットが終わると、未菜と光明は顔を見合わせて笑った。


「息ぴったりだったね!」


「まあな」


 光明が照れる。


「じゃあ次、玲ちゃんの番!」


 未菜がリモコンを渡す。


「ありがとう」


 玲は曲を選び、歌い始めた。


 失恋の歌。



「さよならの空」


 冬の風が頬を撫でて

 あなたの温もり 思い出す

「好きだった」って言えたけど

 返ってきたのは 優しい嘘


 手を繋いだ帰り道も

 二人で笑った放課後も

 全部 全部 色褪せていく

 あなたがいない世界で


 だけど泣かないって決めたから

 涙はもう見せない

 さよなら 大好きな人

 幸せになってね


 あなたが選んだ未来を

 私は祝福するよ

 胸が痛くても 笑えるから

 さよなら この恋



 今の玲の気持ちが込められているような歌。


 でも、その歌声は——


 もう、悲しくなかった。


 前を向いて、歩き出す決意が込められていた。


 歌い終わると、拍手が起こる。


「玲ちゃん、すごく良かった!」


 未菜が目を輝かせる。


「ありがとう」


 玲が微笑む。


「なんか……スッキリした」


「そっか」


 光明も頷く。


「元樹と、話したんだろ?」


「うん」


 玲が答える。


「ちゃんと謝って……気持ちも伝えた」


「それで……?」


 未菜が心配そうに聞く。


「振られた」


 玲は笑う。


「でも、スッキリした」


「元樹の本当の気持ち、聞けたから」


 その言葉に、未菜と光明は顔を見合わせる。


「玲……」


「大丈夫」


 玲が二人を安心させる。


「私、もう泣かない」


「前を向いて、歩いていくから」


 その強さに、二人は感動した。


「玲ちゃん……強いね」


 未菜が玲の手を握る。


「ありがとう、未菜ちゃん」


「光明くんも」


 玲が二人を見つめる。


「二人がいてくれたから……立ち直れた」


「当たり前だろ」


 光明が笑う。


「俺たち、友達だからな」


「うん……友達」


 玲も笑顔を見せた。


 しばらく三人は、カラオケを楽しんだ。


 笑い、歌い、ただ楽しい時間を過ごす。


 元樹のことも、奈々美のことも——


 一旦、忘れて。


 ただ、友達として。


 そんな時間が、三人には必要だった。


 カラオケを出た後、三人はファーストフード店に入った。


 ハンバーガーとポテトを注文して、窓際の席に座る。


「あー、疲れた!」


 未菜が伸びをする。


「でも、楽しかったな」


 光明も笑う。


「うん、楽しかった」


 玲も頷く。


「久しぶりに、こんなに笑った気がする」


 三人は食事を始める。


 でも、その時——


「ねえ、光明くん」


 未菜が突然、真剣な表情になった。


「ん? どうした?」


「光明くん……玲ちゃんのこと、どう思ってるの?」


 その質問に、光明は驚く。


「え?」


「だって……」


 未菜が続ける。


「光明くん、玲ちゃんのこと、すごく心配してたじゃない」


「いつも玲ちゃんの家に行ってたし」


「それは……友達として心配してただけだよ」


 光明が答える。


「本当に?」


 未菜の目が、疑いの色を帯びる。


「本当だって」


「でも……」


 未菜の声が震える。


「私、不安なの」


「光明くんが、玲ちゃんのこと好きなんじゃないかって」


 その言葉に、玲と光明は驚いた。


「未菜ちゃん、それは……」


 玲が口を開こうとするが、未菜は続ける。


「だって、光明くんは玲ちゃんのことばっかり」


「私のこと、見てくれてない気がする」


 その不安が、ついに爆発したのだ。


「未菜……」


 光明が困惑する。


「俺は、お前のことが好きだよ」


「玲は友達だ」


「本当に?」


 未菜が涙目で聞く。


「本当だって」


 光明が強く言う。


「じゃあ、証明して」


「証明……?」


「私より、玲ちゃんを優先しないで」


 未菜が要求する。


「これから、玲ちゃんのことで悩んでも」


「まず私に相談して」


「玲ちゃんの家に行くのも、やめて」


 その要求に、光明は戸惑った。


「それは……」


「やっぱり」


 未菜が立ち上がる。


「光明くんは、玲ちゃんのこと……」


「待って、未菜」


 光明も立ち上がる。


「違うんだ、俺は……」


「もういい!」


 未菜が叫ぶ。


「私、帰る!」


 未菜は店を飛び出した。


「未菜!」


 光明が追いかけようとすると——


「光明くん、待って」


 玲が光明の腕を掴んだ。


「玲……?」


「私が行く」


 玲が言う。


「未菜ちゃん、今は光明くんの顔、見たくないと思う」


「でも……」


「大丈夫」


 玲が微笑む。


「私が話してくる」


「……頼む」


 光明は頷いた。


 玲は店を出て、未菜を追いかけた。


「未菜ちゃん!」


 玲が叫ぶ。


 未菜は駅前の公園で立ち止まっていた。


 ベンチに座り、俯いている。


「未菜ちゃん……」


 玲が隣に座る。


「玲ちゃん……」


 未菜が顔を上げる。


 目は涙で赤く腫れていた。


「ごめんね……」


「謝らないで」


 玲が首を振る。


「未菜ちゃんの気持ち、わかるよ」


「でも……」


 未菜が俯く。


「私、ひどいこと言っちゃった」


「光明くんは、玲ちゃんのこと、友達として心配してただけなのに」


「それを……疑っちゃった」


 玲は未菜の肩を抱く。


「未菜ちゃん」


「なに……?」


「光明くんは、未菜ちゃんのことが好きだよ」


 玲が断言する。


「私には、わかる」


「でも……」


「光明くんの目、見てた?」


 玲が続ける。


「未菜ちゃんを見る時の光明くん」


「すごく優しい目をしてる」


「あれは、恋してる人の目だよ」


 その言葉に、未菜の目から涙が溢れる。


「本当……?」


「本当」


 玲が頷く。


「光明くんは、未菜ちゃんが好き」


「私のことは、ただの友達」


「それは、間違いない」


 玲の言葉に、未菜は安心した。


「玲ちゃん……ありがとう」


「ううん」


 玲が微笑む。


「それより、早く光明くんに謝りに行こう」


「うん……」


 未菜が立ち上がる。


 二人はファーストフード店に戻った。


 光明は窓際の席で、心配そうに待っていた。


「未菜!」


 光明が駆け寄る。


「光明くん……」


 未菜が涙を流す。


「ごめんなさい……」


「俺こそ、ごめん」


 光明が未菜を抱きしめる。


「お前を不安にさせて」


「でも、信じてくれ」


「俺が好きなのは、お前だけだ」


 その言葉に、未菜は泣き崩れた。


「光明くん……」


「大好き……」


「俺も、未菜のことが大好きだ」


 二人は抱き合ったまま、しばらく離れなかった。


 その様子を見て、玲は静かに微笑んだ。


(良かった……)


 心から、そう思えた。


 二人の幸せを、素直に喜べる自分がいた。


「ねえ、二人とも」


 玲が声をかける。


「そろそろ、外に出よう」


「店の人、見てるよ」


 その言葉に、二人は慌てて離れた。


「あ、そうだった……」


 未菜が恥ずかしそうに笑う。


 三人は店を出た。


「玲、ありがとうな」


 光明が頭を下げる。


「未菜を、説得してくれて」


「ううん」


 玲が首を振る。


「友達だから、当然だよ」


「玲ちゃん……」


 未菜も涙ぐむ。


「本当に、ありがとう」


「私……玲ちゃんに、酷いこと言っちゃった」


「大丈夫」


 玲が微笑む。


「もう、気にしてないから」


 三人は笑い合った。


 そして——また、歩き始めた。


 それぞれの未来に向かって。



 十二月十三日。



 玲が学校の帰り道を歩いていると、一台の車が止まった。


「あの……」


 車から降りてきたのは、二十代後半くらいの女性だった。


 長い髪を一つに結び、スーツを着ている。


「すみません、山田未菜の友達ですか?」


 その質問に、玲は頷く。


「はい、そうですが……」


「良かった」


 女性が安堵の表情を見せる。


「私、未菜の姉の山田真由美と申します」


「未菜の……お姉さん?」


 玲は驚く。


 未菜から、姉のことは聞いたことがなかった。


「はい」


 真由美が頷く。


「実は……妹のことで、相談があるんです」


「相談……?」


「少し、お時間いただけますか?」


 真由美が頭を下げる。


 その真剣な様子に、玲は頷いた。


「わかりました」


 二人は近くのカフェに入った。


 席に座ると、真由美は深呼吸をした。


「実は……」


 真由美が口を開く。


「未菜のこと、最近様子がおかしいんです」


「様子が……おかしい?」


「はい」


 真由美が頷く。


「家では、いつも部屋に閉じこもって」


「スマホばかり見てる」


「ご飯もあまり食べない」


 その言葉に、玲は首を傾げる。


「でも……昨日、未菜ちゃんと遊んだ時は」


「元気でしたよ」


「本当ですか?」


 真由美が安心した表情を見せる。


「それを聞いて、安心しました」


「未菜さんのお姉さん……どうして私に?」


 玲が聞く。


「実は……」


 真由美が続ける。


「未菜から、あなたの話を聞いたんです」


「上野玲さん、って」


「私の……?」


「はい」


 真由美が頷く。


「未菜が言ってました」


「玲ちゃんは、すごく強い人だって」


「辛いことがあっても、前を向いて歩ける人だって」


 その言葉に、玲は照れる。


「そんな……」


「未菜は、あなたを尊敬してるんです」


 真由美が微笑む。


「だから……」


「これからも、未菜の友達でいてあげてください」


 その頼みに、玲は強く頷いた。


「もちろんです」


「未菜ちゃんは、大切な友達ですから」


「ありがとうございます」


 真由美が頭を下げる。


「それと……」


 真由美が何か言いかけた時——


 カフェのドアが開いた。


「お姉ちゃん!?」


 入ってきたのは、未菜だった。


「未菜……」


 真由美が驚く。


「どうしてここに……」


「お姉ちゃんの車、見かけたから」


 未菜が答える。


「玲ちゃんと……何話してるの?」


「それは……」


 真由美が言いよどむ。


「未菜ちゃん」


 玲が口を開く。


「お姉さんは、未菜ちゃんのことを心配してたんだよ」


「心配……?」


「うん」


 玲が頷く。


「最近、元気がないから心配してたって」


 その言葉に、未菜は真由美を見つめる。


「お姉ちゃん……」


「未菜」


 真由美が妹に近づく。


「あなた、最近ずっと部屋にこもってたでしょう」


「何か、悩んでることがあるなら」


「お姉ちゃんに話して」


 その優しい言葉に、未菜の目に涙が浮かぶ。


「お姉ちゃん……」


「実は……」


 未菜は光明との関係について話し始めた。


 好きな人ができたこと。


 でも、不安だったこと。


 友達の玲が、その相手を好きだったかもしれないこと。


 全部、姉に打ち明けた。


 真由美は黙って聞いていた。


 そして——


「未菜」


 真由美が妹を抱きしめた。


「よく頑張ったわね」


「お姉ちゃん……」


「恋は、不安なものよ」


 真由美が優しく言う。


「でも、その不安を乗り越えられたのは」


「未菜が強くなった証拠」


「お姉ちゃん……」


 未菜が泣き出す。


「怖かった……」


「光明くんを失うのが、怖かった」


「大丈夫」


 真由美が妹の背中を撫でる。


「お姉ちゃんが聞いた感じ」


「光明くんは、未菜のことが本当に好きよ」


「どうして……わかるの?」


「女の勘」


 真由美が笑う。


「それに……」


 真由美が玲を見る。


「玲さんも、そう言ってたでしょう?」


「はい」


 玲が頷く。


「光明くんは、未菜ちゃんのことが大好きです」


「それは、間違いありません」


 その言葉に、未菜は安心した。


「玲ちゃん……お姉ちゃん……」


「ありがとう」


 三人は微笑み合った。


 しばらく話した後、玲は席を立った。


「それじゃあ、私はこれで」


「玲さん」


 真由美が声をかける。


「未菜を、よろしくお願いします」


「はい」


 玲が頷く。


「未菜ちゃんは、大切な友達ですから」


 玲はカフェを後にした。


 一人で帰り道を歩きながら、玲は考えていた。


(未菜ちゃんには、お姉さんがいる)


(光明くんがいる)


(支えてくれる人が、たくさんいる)


 そして——


(私にも、いる)


 光明や未菜。


 そして、元樹も。


 みんな、大切な友達だ。


「私、一人じゃないんだ」


 玲は空を見上げる。


 冬の夕焼けが、空を染めている。


「大丈夫」


「私、また前を向いて歩ける」


 その決意と共に、玲は家に向かった。



 十二月十五日。



 奈々美の誕生日。


 元樹は朝早く起きて、準備を始めた。


「よし……」


 ネックレスの入った箱。


 メッセージカード。


 そして、病院の売店で買った小さな花束。


 全部を持って、元樹は病院に向かった。


「奈々美……」


 心臓が激しく鼓動する。


 今日、全部伝えよう。


 自分の気持ちを。


 病院に着くと、元樹は奈々美の部屋に向かった。


 ノックをする。


「はい」


 奈々美の声が聞こえる。


 ドアを開けると——


「元樹くん!」


 奈々美が笑顔で迎えてくれた。


 今日の奈々美は、髪を綺麗に結んでいる。


 病院の服だが、どこか特別な雰囲気だった。


「おはよう、奈々美」


「おはよう」


 奈々美が微笑む。


「来てくれたんだ」


「当たり前だろ」


 元樹も笑う。


「今日は、奈々美の誕生日だから」


「一日中、一緒にいるって約束したじゃないか」


 その言葉に、奈々美の目に涙が浮かぶ。


「元樹くん……」


「それと……」


 元樹は花束を差し出す。


「誕生日おめでとう」


「わあ……」


 奈々美が花束を受け取る。


「綺麗……ありがとう」


「これは、始まりだよ」


 元樹が微笑む。


「今日は、色々準備してきたから」


「色々……?」


 奈々美が首を傾げる。


「それは、後でのお楽しみ」


 元樹が椅子に座る。


「まずは、朝ごはん食べよう」


「うん」


 二人は一緒に朝食を食べた。


 病院の質素な食事だが、二人にとっては特別だった。


「美味しいね」


 奈々美が微笑む。


「ああ」


 元樹も頷く。


「奈々美と一緒だと、何でも美味しく感じる」


 その言葉に、奈々美の頬が赤くなる。


「もう……」


 朝食を終えると、元樹は立ち上がった。


「さて、次は……」


 元樹がカバンから何かを取り出す。


 トランプのカードだった。


「カード?」


「うん」


 元樹が頷く。


「奈々美、カードゲーム好きだったろ?」


「覚えてたの……?」


 奈々美が驚く。


「当たり前だろ」


 元樹が笑う。


「小さい頃、よく一緒に遊んだじゃないか」


 その言葉に、奈々美は感動した。


「元樹くん……」


 二人はカードゲームを始めた。


 ババ抜き、七並べ、神経衰弱。


 簡単なゲームだが、二人は夢中になった。


「あ、負けた!」


 元樹が悔しそうに言う。


「ふふ、私の勝ち」


 奈々美が笑う。


 その笑顔は、本当に楽しそうだった。


 束縛も、狂気も——今は、どこにもない。


 ただ、純粋に楽しんでいる少女がいた。


「次は、負けないぞ」


 元樹が真剣な顔をする。


「頑張ってね」


 奈々美が微笑む。


 二人は何度もゲームを繰り返した。


 時間を忘れて、ただ楽しんだ。


 気づけば、昼を過ぎていた。


「あ、もうこんな時間……」


 元樹が時計を見る。


「お昼、食べようか」


「うん」


 奈々美が頷く。


「でも……」


 奈々美が少し寂しそうに言う。


「病院の食事、質素だから……」


「大丈夫」


 元樹が笑う。


「実は、お弁当を作ってきたんだ」


「え……?」


「母さんに手伝ってもらったけどね」


 元樹がカバンからお弁当箱を取り出す。


「奈々美の好きなもの、詰めてきた」


 お弁当箱を開けると——


 唐揚げ、卵焼き、おにぎり、ウインナー。


 奈々美の好きなものばかりだった。


「元樹くん……」


 奈々美の目から涙がこぼれる。


「ありがとう……」


「泣くなよ」


 元樹が優しく言う。


「せっかくの誕生日なんだから」


「うん……」


 奈々美は涙を拭く。


 二人は一緒にお弁当を食べた。


「美味しい……」


 奈々美が笑顔を見せる。


「元樹くんが作ってくれたお弁当」


「世界で一番、美味しい」


 その言葉に、元樹も嬉しくなった。


「そうか……良かった」


 お弁当を食べ終えると、元樹は外を見た。


「奈々美」


「なに?」


「外、出られるか?」


 その質問に、奈々美は少し考える。


「たぶん……大丈夫」


「じゃあ、ちょっと散歩しよう」


 元樹が手を差し伸べる。


「病院の中庭、綺麗だったから」


「うん」


 奈々美が元樹の手を取る。


 二人は病院の中庭に出た。


 冬の日差しが、二人を照らす。


 冷たい空気が、頬を撫でる。


「気持ちいい……」


 奈々美が目を閉じる。


「外の空気、久しぶり」


「そうだな」


 元樹も深呼吸をする。


 中庭には、小さな池がある。


 鯉が泳いでいて、ベンチもある。


「あそこに座ろう」


 元樹がベンチを指差す。


 二人はベンチに座った。


 しばらく、黙って景色を眺める。


「元樹くん」


 奈々美が口を開く。


「なに?」


「今日、すごく楽しい」


 奈々美が元樹を見つめる。


「こんなに幸せな誕生日、初めて」


 その言葉に、元樹は胸が温かくなった。


「そうか……」


「うん」


 奈々美が頷く。


「両親が死んでから……」


「誕生日なんて、ただの日だった」


「養護施設でも、誰も祝ってくれなかった」


「一人で、ケーキも食べられなかった」


 奈々美の声が震える。


「でも、今日は違う」


「元樹くんが、一緒にいてくれる」


「祝ってくれる」


「それだけで……すごく幸せ」


 奈々美の目から涙が溢れる。


「元樹くん……」


「大好き……」


 元樹は奈々美を抱きしめた。


「俺も……奈々美が大好きだ」


 その言葉に、奈々美は泣き崩れた。


「本当……?」


「ああ、本当だ」


 元樹が強く抱きしめる。


「俺、ずっと言えなかったけど」


「奈々美のことが、好きなんだ」


「束縛されて苦しかったけど」


「それでも、奈々美といたいって思った」


「七年前、酷いことをした」


「別れも告げずに、いなくなった」


「奈々美の両親の事故にも、関わってた」


「ずっと、罪悪感があった」


 元樹の声も震える。


「でも、それだけじゃない」


「俺は、奈々美自身が好きなんだ」


「奈々美の優しいところも」


「必死に俺を想ってくれるところも」


「全部、好きなんだ」


 その告白に、奈々美は号泣した。


「元樹くん……」


「元樹くん……」


 何度も名前を呼ぶ。


 元樹は優しく、奈々美の背中を撫で続けた。


 しばらくして、奈々美は泣き止んだ。


「ごめんね……」


 奈々美が涙を拭く。


「せっかくの誕生日なのに」


「泣くなって言ったのにな」


 元樹が笑う。


「でも……嬉し涙だから、いいだろ?」


「うん……」


 奈々美が頷く。


「嬉し涙」


 二人は再びベンチに座る。


「そういえば」


 元樹が思い出す。


「まだ、渡してないものがあった」


「え?」


 元樹はポケットから、小さな箱を取り出す。


「これ……」


 奈々美が箱を受け取る。


「開けてみて」


 元樹が促す。


 奈々美が箱を開けると——


 中には、銀のネックレスが入っていた。


 シンプルなデザイン。


 でも、温かみのあるネックレス。


「これ……」


「母さんの形見なんだ」


 元樹が説明する。


「でも、奈々美に渡したいって思った」


「俺にとって、一番大切なものを」


「一番大切な人に、渡したかった」


 その言葉に、奈々美は言葉を失った。


「元樹くん……」


「こんな大切なもの……」


「いいんだ」


 元樹が頷く。


「母さんも、きっと喜んでくれる」


「奈々美が、大切にしてくれるなら」


 奈々美はネックレスを手に取る。


「つけてくれる?」


 奈々美が元樹に頼む。


「ああ」


 元樹が奈々美の首にネックレスをつける。


 銀のチェーンが、奈々美の白い首に映える。


「似合ってる」


 元樹が微笑む。


「本当?」


 奈々美が嬉しそうに聞く。


「ああ」


「ありがとう、元樹くん」


 奈々美が元樹を抱きしめる。


「大切にする」


「ずっと、ずっと……」


 二人は抱き合ったまま、しばらく離れなかった。


 冬の日差しが、二人を優しく照らしている。


「元樹くん」


 奈々美が顔を上げる。


「なに?」


「キス……してもいい?この気持ち抑えられないの…」


 その問いに、元樹は少し驚いたが——


「ああ」


 元樹は頷いた。


 奈々美が目を閉じる。


 元樹も目を閉じて——


 二人の唇が、重なった。


 優しい、温かいキス。


 束縛でも、執着でもない。


 ただ、愛情だけがそこにあった。


 キスを終えると、二人は顔を見合わせて笑った。


「幸せ……」


 奈々美が呟く。


「俺も」


 元樹も答える。


「これから、ずっと一緒だ」


「うん」


 奈々美が頷く。


「ずっと、ずっと一緒」


「元樹くんと、離れない」


 その言葉に、元樹は少し不安も感じた。


 奈々美の執着は、まだ消えていない。


 でも——


「大丈夫」


 元樹は自分に言い聞かせる。


「俺が、奈々美を支えていく」


「執着を、愛情に変えていく」


「時間はかかるかもしれない」


「でも、きっとできる」


 その決意と共に、元樹は奈々美の手を握った。


「奈々美」


「なに?」


「これからも、よろしくな」


「うん」


 奈々美が微笑む。


「こちらこそ、よろしく」


 二人は手を繋いだまま、中庭を歩き始めた。


 冬の空は青く、雲一つない。


 二人の未来を祝福するかのように。


 でも——その未来が、どうなるかは。


 まだ、誰にもわからなかった。



 夕方。



 元樹と奈々美は病室に戻った。


「楽しかったね」


 奈々美が微笑む。


「ああ」


 元樹も頷く。


「でも、まだ終わりじゃないぞ」


「え?」


 元樹がカバンから何かを取り出す。


 小さなケーキだった。


「ケーキ……」


 奈々美が驚く。


「誕生日といえば、ケーキだろ?」


 元樹が笑う。


「ろうそくも用意してきた」


 元樹はケーキにろうそくを立てる。


 そして、火をつけた。


「さあ、願い事をして」


 元樹が促す。


 奈々美は目を閉じる。


(願い事……)


(元樹くんと、ずっと一緒にいられますように)


(元樹くんが、ずっと私を愛してくれますように)


(そして……)


(私も、元樹くんを愛し続けられますように)


 目を開けて、ろうそくを吹き消す。


「おめでとう、奈々美」


 元樹が拍手する。


「ありがとう、元樹くん」


 二人はケーキを食べ始めた。


 甘くて、美味しい。


「美味しいね」


 奈々美が笑顔を見せる。


「ああ」


 元樹も笑う。


「奈々美の笑顔を見ると」


「俺も幸せになる」


 その言葉に、奈々美は涙ぐんだ。


「元樹くん……」


「また泣くのか?」


 元樹が笑う。


「だって……」


 奈々美が涙を拭く。


「嬉しすぎて……」


「今日、本当に幸せ」


「生まれて初めて」


「こんなに祝ってもらった」


 その言葉に、元樹は胸が痛んだ。


 奈々美が、どれだけ孤独だったか。


 それを思うと、胸が締め付けられる。


「これから、毎年祝うからな」


 元樹が約束する。


「誕生日だけじゃない」


「クリスマスも、お正月も」


「全部、一緒に祝おう」


「本当?」


 奈々美が目を輝かせる。


「ああ、本当だ」


 元樹が頷く。


「約束する」


「やった……」


 奈々美が飛びつく。


「元樹くん、大好き!」


「俺も、奈々美が大好きだ」


 二人は抱き合った。


 ケーキを食べ終えると、外はすっかり暗くなっていた。


「もう、こんな時間か……」


 元樹が時計を見る。


「うん……」


 奈々美が寂しそうに言う。


「元樹くん、帰っちゃうの……?」


「ごめん……」


 元樹が謝る。


「でも、明日も来るから」


「本当?」


「ああ」


 元樹が頷く。


「毎日、来るって約束したろ?」


「うん……」


 奈々美が微笑む。


「じゃあ、おやすみ」


 元樹が立ち上がろうとすると——


 奈々美が手を握った。


「待って」


「なに?」


「もう一度……キスして」


 その願いに、元樹は頷いた。


「ああ」


 二人は再び、唇を重ねた。


 今度は、さっきより長い。


 深い。


 愛情に満ちたキス。


「おやすみ、奈々美」


「おやすみ、元樹くん」


「今日は……本当にありがとう」


 奈々美が微笑む。


「人生で一番、幸せな日だった」


「そうか……」


 元樹も微笑む。


「それなら、良かった」


 元樹は病室を後にした。


 廊下を歩きながら、元樹は考えていた。


(奈々美……)


(これから、どうなるんだろう)


(俺たちの関係は……)


 不安もある。


 奈々美の執着は、まだ消えていない。


 でも——


(それでも、一緒にいたい)

(奈々美を、幸せにしたい)


 その気持ちは、本物だった。


 元樹は病院を出た。


 冬の夜は冷たく、星が綺麗に見えた。


「さて……」


 元樹は空を見上げる。


「明日も、頑張らないとな」


 そう呟いて、家に向かって歩き始めた。


 その背中には——決意と、覚悟があった。


 奈々美と共に生きる。


 その決意が。



 同じ夜。



 玲は自分の部屋で、日記を書いていた。


『十二月十五日


 今日は、奈々美さんの誕生日。

 元樹は、きっと一日中、奈々美さんと一緒にいたんだろう。

 少し……寂しい。

 でも、それでいい。

 元樹が選んだ道だから。

 私も、前を向いて歩かないと。

 未菜ちゃんと光明くんのこと。

 二人、本当にお似合い。

 未菜ちゃんのお姉さんにも会えた。

 優しい人だった。

 みんな、それぞれの幸せを見つけている。

 私も……いつか。

 きっと、見つけられる。

 そう信じて、明日も頑張ろう』


 日記を書き終えて、玲はペンを置いた。


 窓の外を見ると、星が輝いている。


「元樹……」


 小さく呟く。


「奈々美さんを、幸せにしてあげてね」


 その願いと共に、玲は布団に入った。


 明日も、また新しい一日が始まる。


 それを信じて。


 光明と未菜は、公園のベンチに座っていた。


「寒いな」


 光明が息を吐く。


 白い湯気が立ち上る。


「うん……」


 未菜が光明に寄り添う。


「でも、光明くんと一緒だと、温かい」


 その言葉に、光明の頬が赤くなる。


「そうか……」


「ねえ、光明くん」


 未菜が顔を上げる。


「なに?」


「私たち、これからもずっと一緒だよね?」


 その問いに、光明は強く頷いた。


「当たり前だろ」


「俺は、お前のことが大好きなんだから」


「私も……」


 未菜が微笑む。


「光明くんのこと、大好き」


 二人は抱き合った。


 冬の夜は冷たいが——二人の心は、温かかった。


「でも……」


 未菜が不安そうに言う。


「元樹くんと玲ちゃんのこと……」


「心配だね」


「ああ……」


 光明も頷く。


「でも、きっと大丈夫だ」


「二人とも、強いから」


「うん……」


 未菜も頷く。


「信じよう」


 二人は手を繋いで、公園を後にした。


 それぞれの未来に向かって。


 病室に一人残された奈々美は、窓の外を見ていた。


「元樹くん……」


 小さく呟く。


「今日は、本当に幸せだった」


 首にかけたネックレスを触る。


「元樹くんの、大切なもの」


「私に、くれた」


 奈々美の目が、危険に光る。


「これで……」


「元樹くんは、完全に私のもの」


「誰にも……渡さない」


 その執着は、まだ消えていなかった。


 いや、むしろ——今日のことで、さらに強くなっていた。


「元樹くんの優しさ」


「元樹くんの愛情」


「全部、私だけのもの」


 奈々美は立ち上がる。


 窓に近づき、外を見つめる。


「玲……」


 その名前を呟く。


「まだ、諦めてないでしょう?」


 奈々美の口元に、冷たい笑みが浮かぶ。


「でも、無駄よ」


「元樹くんは、もう私から離れられない」


「血で繋がった以上」


「そして、今日の告白で」


「元樹くんの心も、私のものになった」


 奈々美の笑みは、狂気を帯びていた。


「これから……」


「もっと、もっと深く」


「元樹くんを、私の世界に引き込む」


「誰にも……邪魔させない」


 その決意と共に、奈々美はベッドに戻った。


 でも——


 心の奥底では。


(でも……本当にいいの?)


(元樹くんを、こんなに束縛して)


(本当に、元樹くんは幸せなの?)


 そんな疑問も、わずかに残っていた。


 でも、それを押し殺す。


(いいの)


(元樹くんは、私を愛してくれた)


(それだけで、十分)


(私も、元樹くんを愛してる)


(だから……)


(これでいいの)


 奈々美は目を閉じた。


 今日の幸せな記憶を、大切に胸にしまいながら。


 でも——


 その心の奥底には。


 まだ、消えない闇があった。


 それが、いつか表に出る日が来るかもしれない。


 でも、今は——


 ただ、眠るだけだった。


 幸せな夢を見ながら。



 十二月十六日。



 元樹は朝早く起きて、また病院に向かった。


「おはよう、奈々美」


 病室に入ると、奈々美が笑顔で迎えてくれた。


「おはよう、元樹くん」


「昨日は、よく眠れたか?」


「うん」


 奈々美が頷く。


「すごく幸せな夢を見た」


「そうか」


 元樹も微笑む。


「今日も、一緒にいような」


「うん!」


 二人は手を繋いだ。


 これから、どんな未来が待っているのか。


 それは、まだ誰にもわからない。


 でも——


 確かなことが一つある。


 元樹と奈々美は、共に歩むことを選んだ。


 その道が、どこに続くのか。


 幸せなのか、それとも——


 それは、これからの物語で明らかになる。


 でも、今は——


 ただ、二人の時間を大切にする。


 それだけで、十分だった。


「元樹くん」


「なに?」


「ありがとう」


 奈々美が微笑む。


「昨日は、最高の誕生日だった」


「そうか……」


 元樹も微笑む。


「それなら、良かった」


 二人は抱き合った。


 窓の外では、冬の日差しが二人を照らしている。


 温かく、優しく。


 まるで、二人の未来を祝福するかのように。


 でも——


 その日差しの先には。


 まだ見えない未来が、待っていた。


 光か、闇か。


 それは、まだわからない。


 でも、確実に——


 物語は、新しい章へと進んでいく。


 元樹と奈々美の物語。


 玲の物語。


 光明と未菜の物語。


 それぞれが、交差しながら。


 新しい未来へと、進んでいく。


二十五話、いかがでしたでしょうか。

今回は、大きな転換点となるエピソードでした。

玲と元樹の最後の対話。

そこで明らかになった、お互いの本当の気持ち。

玲は元樹への恋心を告白し、でも同時に前を向くことを決意しました。

元樹も、自分の気持ちを正直に認めました。

奈々美を愛していると。

そして、奈々美の誕生日。

元樹の精一杯の愛情表現。

奈々美の純粋な喜び。

二人の関係は、新しい段階に入りました。

でも——

奈々美の執着は、まだ完全には消えていません。

むしろ、元樹の愛情を得たことで、さらに強くなっているかもしれません。

これから、二人の関係はどうなっていくのでしょうか。

玲は、本当に前を向いて歩けるのでしょうか。

光明と未菜の関係は、順調に進むのでしょうか。

そして——

未菜の姉、真由美の登場。

彼女は、これからの物語にどう関わってくるのでしょうか。

次回も、お楽しみに。


暁の裏


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