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奈々美さんの裏の顔  作者: 暁の裏


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第21話 「残された罪悪感」

 朝、元樹は目覚ましが鳴る前に目を覚ました。


 今日は玲の誕生日。


 枕元に置いたスマホを手に取り、時刻を確認する。午前7時。待ち合わせまでまだ3時間ある。


 ベッドから起き上がり、机の引き出しを開ける。そこには、昨日買ったプレゼントが入っていた。


 小さな箱に入ったネックレス。シンプルなデザインだが、玲に似合うと思って選んだ。


「喜んでくれるかな……」


 独り言を呟きながら、箱を見つめる。


 昨日のキスを思い出し、頬が熱くなる。


 玲の柔らかい唇の感触。


 抱きしめた時の温もり。


「元樹のこと、本当に好き」という言葉。


 全てが鮮明に蘇ってくる。


「俺も……玲のことが好きだ」


 自分でも驚くほど素直に、あの言葉が出てきた。


 奈々美との関係で疲れ切っていた心が、玲の真っ直ぐな想いに救われた気がした。


「今日は、楽しい一日にしよう」


 元樹は決意を新たに、着替えを始めた。




 午前9時45分、駅前の広場。


 元樹は約束の場所で待っていた。


 休日の駅前は人で賑わい、買い物客や家族連れの笑い声が響いている。


「元樹!」


 振り返ると、玲が手を振りながら駆け寄ってきた。


 今日の玲は、いつもと違う。


 淡いピンクのワンピースに白いカーディガン。髪も少し巻いて、軽くメイクをしている。


「玲……」


 元樹は思わず見とれてしまう。


「どう? 変じゃない?」


 玲が少し恥ずかしそうに聞く。


「いや……すごく、似合ってる」


 元樹の素直な感想に、玲の頬が赤く染まる。


「ありがとう。元樹も格好いいね」


「そうか? 普通だけど」


 元樹は照れながら頭を掻く。


「ううん。今日の元樹、すごく素敵だよ」


 玲は嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、行こうか」


「うん!」


 二人は並んで歩き出した。


 朝の爽やかな空気が、二人の高揚感をさらに高めていく。





「ねえ、元樹。今日はどこの水族館行くの?」


 玲が期待を込めて聞く。


「それは……秘密」


 元樹は少しいたずらっぽく笑う。


「えー、教えてよ」


「着いてからのお楽しみ」


 そう言いながら、元樹は内心緊張していた。


 今日連れて行く場所は、以前奈々美と行った水族館。


 あの時も楽しんだっけ。


 でも今日は奈々美と一緒じゃない。玲となら、もっと楽しい思い出を作れる。


(あの場所を、玲との思い出で上書きしたい)


 元樹はそう思っていた。


 電車に乗り、二人は並んで座る。


「今日は本当に楽しみ」


 玲が元樹の肩にそっと頭を預ける。


「ありがとう、元樹。誕生日にこんな素敵な日を用意してくれて」


「まだ何も始まってないけど」


 元樹が苦笑すると、玲は顔を上げる。


「元樹と一緒にいられるだけで、もう最高の誕生日だよ」


 その言葉に、元樹の胸が温かくなる。


 奈々美との関係では常に緊張していた。


 いつも監視され、束縛され、自由がなかった。


 でも玲といると、自然体でいられる。


「俺も……玲と一緒にいると楽しいよ」


 元樹が素直に言うと、玲の目が潤む。


「元樹……」


 二人の距離が自然と近づく。


 しかし電車の中という場所を思い出し、二人は少し離れた。


「着いたら、いっぱい楽しもうね」


「ああ」




 水族館に到着したのは午前11時過ぎだった。


「わあ……水族館!」


 玲が目を輝かせる。


「来たかったんだ、ここ」


「そうなの?」


「うん。でも一人で来るのも寂しいし、誰か誘う機会もなくて」


 玲の言葉に、元樹は少し罪悪感を覚える。


(もっと早く、玲を誘えばよかった)


「じゃあ、今日はゆっくり見ていこう」


「うん!」


 二人はチケットを買い、館内に入った。


 入口を抜けると、そこには幻想的な青い世界が広がっていた。


 大きな水槽の中を、色とりどりの魚たちが優雅に泳いでいる。


「きれい……」


 玲が感嘆の声を上げる。


 元樹も同じように水槽を見つめる。


「ねえ、元樹。あの魚、見て」


 玲が指差す方を見ると、小さな熱帯魚が群れで泳いでいた。


「綺麗だな」


「うん。みんなで仲良く泳いでる」


 玲は嬉しそうに笑う。


 その笑顔を見て、元樹も自然と笑みがこぼれる。


 二人はゆっくりと水槽の前を進んでいく。


 クラゲの展示では、幻想的な光の中を漂うクラゲたちに見入った。


「不思議だね。こんなに綺麗なのに、毒があるなんて」


 玲が呟く。


「見た目と中身が違うってことか」


 元樹の言葉に、玲は何かを感じたように振り返る。


「……そうだね。人間も同じかもしれない」


 その言葉には、何か深い意味が込められているようだった。


 二人は次のエリアに進む。


 大きな水槽の中を、エイやサメが悠々と泳いでいる。


「わあ、サメだ!」


 玲がはしゃぐ。


「怖くないのか?」


「うん。ガラス越しだし、なんか格好いい」


 玲の無邪気な反応に、元樹は微笑む。


(玲といると、本当に楽しいな)




 イルカショーの時間になった。


 二人は観客席の中ほどに座る。


「楽しみだね」


 玲が期待を込めて言う。


「ああ」


 音楽が流れ、ショーが始まる。


 イルカたちが水面から飛び上がり、華麗なジャンプを見せる。


「すごい!」


 玲が拍手をする。


 元樹も一緒に拍手をしながら、横顔を盗み見る。


 キラキラと目を輝かせる玲。


 その表情は、子供のように無邪気で、純粋だった。


(玲は本当に素直だな)


 奈々美との違いを、改めて感じる。


 奈々美は常に計算していた。


 どう振る舞えば元樹の気を引けるか。


 どう行動すれば元樹を独占できるか。


 でも玲は違う。


 ただ素直に、今この瞬間を楽しんでいる。


「元樹、見て! あのイルカ、すごく高く飛んだ!」


 玲が元樹の腕を掴む。


 その手の温もりが、元樹の心を温かくする。


「ああ、見てたよ」


 元樹も笑顔で答える。


 ショーが終わり、二人は館内をさらに巡る。


 ペンギンのエリアでは、ペンギンたちのよちよち歩きに癒された。


「可愛い……」


 玲がペンギンを見つめながら呟く。


「お前もよちよち歩きするのか?」


 元樹が冗談を言うと、玲は頬を膨らませる。


「しないよ! ……多分」


「多分って何だよ」


 二人は笑い合う。


 そんな何気ないやり取りが、とても心地よかった。




 お昼時になり、二人は館内のレストランに入った。


 窓からは海が見え、開放的な雰囲気だった。


「何食べる?」


 元樹がメニューを見ながら聞く。


「んー、パスタにしようかな」


「じゃあ、俺はピザで」


 注文を済ませ、二人は海を眺めながら話す。


「今日、本当に楽しい」


 玲が幸せそうに笑う。


「良かった。喜んでもらえて」


「元樹は……こういうデート、慣れてる?」


 玲が少し不安そうに聞く。


「慣れてるって……そんなに経験ないよ」


 元樹は正直に答える。


「奈々美さんとは……」


 玲が言いかけて、口を閉じる。


「奈々美とは、デートらしいデートはあまりなかったかな」


 元樹は少し考えてから答える。


「いつも束縛されてる感じで、楽しめなかった」


 その言葉に、玲は複雑な表情を見せる。


「そう……」


「でも今日は違う。玲といると、本当に楽しい」


 元樹の素直な言葉に、玲の表情が明るくなる。


「私も。元樹と一緒だと、何をしても楽しいよ」


 料理が運ばれてくる。


 二人は食事を楽しみながら、他愛のない話をする。


 学校のこと。


 友達のこと。


 将来のこと。


 奈々美といた時は、こんな普通の会話さえできなかった。


 常に奈々美の機嫌を伺い、束縛に耐えていた。


 でも今は違う。


 玲となら、何でも話せる。


「ねえ、元樹」


 玲が急に真剣な表情になる。


「なに?」


「私ね……ずっと元樹のことが好きだったの」


 その告白に、元樹の心臓が高鳴る。


「昨日も言ったけど、改めて言いたくて」


 玲の目が潤む。


「幼馴染としてじゃなくて、一人の女の子として……元樹のことが好き」


 その真っ直ぐな瞳に、元樹は言葉を失う。


「俺も……玲のことが好きだ」


 元樹も素直に答える。


「本当?」


「ああ。奈々美のことで混乱してたけど、玲といると心が落ち着く」


 元樹は玲の手を握る。


「これから、ずっと一緒にいたい」


 その言葉に、玲の目から涙がこぼれる。


「元樹……」


「そうだ、後でプレゼント、渡すよ」


「嬉しい」


 二人の手が、テーブルの上で固く結ばれる。




 水族館を出たのは午後2時過ぎだった。


「次はどこ行く?」


 玲が嬉しそうに聞く。


「そうだな……ショッピングモールでも行くか?」


「うん!」


 二人は近くのショッピングモールに向かった。


 館内は休日で賑わっており、多くの人で溢れていた。


「何か買いたいものある?」


 元樹が聞くと、玲は少し考える。


「特にないけど……見て回るだけでも楽しいよ」


 二人は手を繋ぎながら、店を見て回る。


 雑貨店では、可愛い小物を見つけて玲がはしゃぐ。


「これ可愛い!」


「似合いそうだな」


 服屋では、玲が元樹に似合いそうな服を選ぶ。


「これとか、元樹に似合うと思う」


「そうかな……」


 元樹は照れながらも、玲の選ぶ服を見る。


 ゲームセンターでは、クレーンゲームに挑戦した。


「よし、あのぬいぐるみ取るぞ」


 元樹が意気込むが、なかなか取れない。


「元樹、頑張って」


 玲が応援する。


 何度か挑戦した後、ようやくぬいぐるみをゲットした。


「やった!」


「すごい、元樹!」


 玲が拍手をする。


「これ、玲にあげる」


 元樹がぬいぐるみを渡すと、玲は嬉しそうに抱きしめる。


「ありがとう。大切にするね」


 その笑顔を見て、元樹も満足感を覚える。




 夕方になり、二人はカフェで休憩することにした。


 窓際の席に座り、コーヒーとケーキを注文する。


「今日は本当に楽しかったね」


 玲が幸せそうに笑う。


「ああ。俺も楽しかった」


 元樹も心から笑顔になる。


「元樹といると、時間があっという間」


 玲がコーヒーを飲みながら言う。


「俺もだよ」


 二人は窓の外を眺める。


 夕暮れの空が、オレンジ色に染まり始めていた。


「そろそろ帰ろうか」


 元樹が時計を見ながら言う。


「うん……でも、まだ一緒にいたいな」


 玲が少し寂しそうに言う。


「じゃあ……もう少しいるか?」


「いいの?」


「ああ。玲の誕生日だし」


 その言葉に、玲は嬉しそうに微笑む。




 カフェを出た後、二人は夕暮れの街を歩いた。


「ねえ、元樹」


 玲が立ち止まる。


「なに?」


「今日、うちに来ない?」


 その提案に、元樹は少し驚く。


「え……でも」


「両親、今日は夜まで出かけてるの。一人で家にいるのも寂しいし」


 玲が少し寂しそうに言う。


「それに……もう少し、元樹と一緒にいたい」


 その言葉に、元樹は迷う。


 玲の家に二人きり。


 何か起こるかもしれない。


 でも、玲の寂しそうな表情を見て、断ることができなかった。


「……わかった」


「本当? ありがとう!」


 玲が嬉しそうに笑う。


 二人は玲の家に向かった。




 玲の家は、駅から少し離れた静かな住宅街にあった。


「お邪魔します」


 元樹が靴を脱ぎながら言う。


「うん。上がって」


 玲は元樹を自分の部屋に案内した。


 部屋は清潔で、女の子らしい雰囲気だった。


 ベッド、机、本棚。


 壁には、小さい頃の元樹と玲の写真が飾られていた。


「懐かしいな、この写真」


 元樹が写真を見ながら言う。


「うん。小学校の運動会の時だね」


 玲も写真を見つめる。


「あの頃は……何も考えずに一緒にいられたのに」


 玲の声が少し寂しげになる。


「玲……」


 元樹が玲の肩に手を置く。


「でも、今は違う。俺たちは、お互いの気持ちを確かめ合えた」


「そうだね」


 玲は元樹を見つめる。


「元樹、座って。飲み物持ってくるね」


 玲は部屋を出ていく。


 元樹は一人、部屋に残される。


 机の上には、教科書やノートが綺麗に並べられていた。


 本棚には、小説や漫画が整理されている。


(玲らしいな)


 元樹は微笑む。


 しばらくして、玲が飲み物を持って戻ってきた。


「お待たせ」


 二人はベッドに並んで座る。


 少し緊張した空気が流れる。


「ねえ、元樹」


 玲が元樹の方を向く。


「なに?」


「プレゼント……くれるって言ってたよね」


 その言葉に、元樹ははっとする。


「あ、そうだった」


 元樹はポケットから小さな箱を取り出す。


「これ……」


 箱を玲に渡すと、玲は嬉しそうに受け取る。


「開けてもいい?」


「ああ」


 玲が箱を開けると、中には繊細なデザインのネックレスが入っていた。


「わあ……綺麗」


 玲が感嘆の声を上げる。


「気に入ってくれた?」


「うん。すごく嬉しい」


 玲は目を潤ませる。


「つけてくれる?」


 玲がネックレスを元樹に渡す。


「え……俺が?」


「うん」


 玲は背中を向ける。


 元樹は緊張しながら、玲の首にネックレスをかける。


 細い首。


 柔らかい髪の毛。


 近くで感じる玲の香り。


 全てが元樹の心を揺さぶる。


「……できた」


 元樹が言うと、玲は振り返る。


「ありがとう、元樹」


 玲は鏡でネックレスを確認する。


「すごく似合ってる」


 元樹が言うと、玲は嬉しそうに微笑む。


「私からも……プレゼントがあるの」


 玲は机の引き出しから小さな箱を取り出す。


「これ……」


 箱を開けると、中にはペアリングが入っていた。


「ペアリング……」


 元樹が驚く。


「うん。元樹とお揃いのリングが欲しくて」


 玲が一つのリングを取り出し、元樹の指にはめる。


「玲……」


 元樹も玲の指にリングをはめる。


「これで……私たちは繋がったね」


 玲の目が潤む。


「ああ」


 二人は見つめ合う。


 そして、自然と唇が重なった。




 長いキスの後、二人は離れた。


「元樹……」


 玲が元樹の胸に顔を埋める。


「ずっと……ずっと一緒にいて」


 その声は、切実な願いに満ちていた。


「ああ。これから、ずっと一緒だ」


 元樹が玲を抱きしめる。


「本当に……?」


 玲が顔を上げる。


「ああ。約束する」


 その言葉に、玲の表情が変わる。


 何か決意したような、真剣な眼差し。


「元樹……私ね」


 玲が元樹を押し倒す。


「え……玲?」


 突然の行動に、元樹は混乱する。


「私、元樹のこと……本当に好き」


 玲の目が、熱を帯びている。


「だから……もっと、繋がりたい」


 玲が元樹に覆いかぶさる。


「ちょ、ちょっと待て、玲」


 元樹が慌てて言う。


「嫌?」


 玲が不安そうに聞く。


「嫌じゃないけど……急すぎる」


 元樹は玲の肩を優しく押す。


「でも……」


 玲の目から涙がこぼれる。


「私、怖いの」


「怖い?」


「元樹が……また奈々美さんのところに行っちゃうんじゃないかって」


 玲の声が震える。


「だから……既成事実を作りたい」


 その言葉に、元樹は戸惑う。


「玲……」


「そうすれば、元樹は私のものになる」


 玲の瞳は、どこか奈々美に似た執着を帯びていた。


「私だけの元樹……」


 玲が元樹の頬に触れる。


「落ち着けよ、玲」


 元樹が玲の手を握る。


「俺は、どこにも行かない」


「本当……?」


「ああ。玲のこと、好きだから」


 その言葉に、玲は少し落ち着く。


「ごめん……私、おかしくなってた」


 玲が元樹から離れる。


「いいんだ。気持ちは嬉しい」


 元樹が玲の頭を撫でる。


「でも、焦らなくていい。ゆっくり、二人で進んでいこう」


 その優しい言葉に、玲は涙を流す。


「元樹……優しいね」


「そんなことないよ」


 元樹が玲を抱きしめる。


「ありがとう。私のこと、受け止めてくれて」


 玲が元樹の胸に顔を埋める。


 二人はしばらく、そのまま抱き合っていた。




 ピンポーン――。


 突然、玲の家のチャイムが鳴った。


「え……?」


 玲が顔を上げる。


「誰だろう?」


 元樹も不安そうに言う。


「ちょっと見てくる」


 玲が立ち上がり、部屋を出ていく。


 元樹は一人、部屋に残される。


 嫌な予感がする。


 この時間に、誰が来るのか。


 玄関の方から、声が聞こえてきた。


「奈々美さん……?」


 玲の驚いた声。


 元樹の心臓が跳ね上がる。


(奈々美……?)


 なぜ奈々美が、ここに?


「元樹くん、いるんでしょう?」


 冷たい声が聞こえる。


 元樹は立ち上がり、玄関に向かった。




 玄関には、奈々美が立っていた。


 黒い服を着て、表情は冷たく固まっている。


「奈々美……なんでここに」


 元樹が驚いて聞く。


「なんで?」


 奈々美が笑う。


 しかし、その笑みには温かみがない。


「元樹くんが、ここにいるからよ」


「どうして俺がここにいるって……」


「ずっと見てたのよ。今日一日」


 奈々美の言葉に、元樹と玲は凍りつく。


「見てた……?」


 玲が震える声で聞く。


「ええ。水族館も、ショッピングモールも、カフェも」


 奈々美が一歩、中に入ってくる。


「そして……この家に入るところも」


 その瞳は、怒りと嫉妬で燃えている。


「奈々美……」


 元樹が何か言おうとするが、奈々美は聞かない。


「元樹くん、約束したわよね」


 奈々美が元樹に近づく。


「明日、私とデートするって」


「え?……」


 玲が元樹を見る。


「元樹……デートの約束してたの?」


「?、いや、俺は……」


 元樹が言葉に詰まる。


「説明してよ、元樹」


 玲が涙声で言う。


「玲……」


「やめてよ」


 奈々美が玲を睨む。


「元樹くんは、私のものなのよ」


 その言葉に、玲の表情が変わる。


「違う! 元樹は、私のものよ!」


 玲が奈々美に反論する。


「何を言ってるの?」


 奈々美が冷笑する。


「元樹くんと私は、7年前から繋がってるのよ」


「そんなの……過去のことでしょ!」


 玲が涙を流しながら叫ぶ。


「今の元樹は、私と一緒にいるの!」


 その言葉に、奈々美の表情が歪む。


「一緒……?」


 奈々美が玲の部屋の方を見る。


「まさか……あなたたち」


 奈々美がゆっくりと玲の部屋に向かう。


「待って!」


 玲が奈々美を止めようとするが、奈々美は振り払う。


 部屋に入った奈々美は、乱れたベッドを見る。


「……そう」


 奈々美の声が、氷のように冷たくなる。


「そういうことなのね」


 奈々美が振り返る。


 その目には、狂気が宿っていた。


「許さない……」


 奈々美が呟く。


「絶対に……許さない」


「奈々美、落ち着け」


 元樹が奈々美に近づこうとする。


「近づかないで!」


 奈々美が叫ぶ。


「元樹くんは……私だけのものなのに」


 奈々美の目から、涙がこぼれる。


「なんで……なんでこの女と」


 奈々美が玲を睨む。


「この女のどこがいいの?」


「奈々美……」


「私じゃダメなの?」


 奈々美の声が悲痛に響く。


「私は……ずっと元樹くんのこと想ってたのに」


「7年間……ずっと探してたのに」


 奈々美が膝をつく。


「なのに……なんで」


 その姿を見て、玲も複雑な表情になる。


「奈々美さん……」


 玲が奈々美に近づく。


「来ないで!」


 奈々美が玲を拒絶する。


「あなたは……私から元樹くんを奪った泥棒よ!」


 その言葉に、玲の表情が強張る。


「泥棒……?」


 玲が呟く。


「違う! 元樹は最初から、私の幼馴染だった!」


 玲が反論する。


「あなたが後から現れて、元樹を束縛したのよ!」


 その言葉に、奈々美は立ち上がる。


「束縛?」


 奈々美が笑う。


「それは愛情よ」


「愛情なんかじゃない!」


 玲が叫ぶ。


「あなたは元樹を苦しめてただけ!」


 その言葉に、奈々美の表情が歪む。


「苦しめてた……?」


 奈々美が元樹を見る。


「元樹くん……そうなの?」


 元樹は答えに窮する。


「私といると……苦しかったの?」


 奈々美の目から、涙が止まらない。


「奈々美……」


 元樹が何か言おうとするが、言葉が出てこない。


 その沈黙が、答えだった。


「……そう」


 奈々美が俯く。


「そうなのね」


 奈々美の肩が震える。


「じゃあ……私は何だったの?」


 奈々美が顔を上げる。


「7年間……ずっと元樹くんのこと想ってた私は……」


 その目には、絶望が宿っていた。


「ただの……重荷だったの?」


「違う!」


 元樹が叫ぶ。


「奈々美は……重荷じゃない」


 元樹が奈々美に近づく。


「でも……束縛は苦しかった」


 その言葉に、奈々美は顔を歪ませる。


「束縛……」


 奈々美が呟く。


「私は……ただ元樹くんを愛してただけなのに」


「それは愛情じゃない」


 玲が言う。


「本当の愛情は、相手を尊重するもの」


 玲が元樹の隣に立つ。


「束縛して、監視して、自由を奪うのは……愛情じゃない」


 その言葉に、奈々美は歯を食いしばる。


「あなたに……何がわかるの?」


 奈々美が玲を睨む。


「あなたは……ずっと元樹くんのそばにいられたじゃない」


 奈々美の声が震える。


「私は……7年間、離れてたのよ」


「だから必死だった」


 奈々美が拳を握る。


「二度と……離れたくなかった」


 その言葉には、深い悲しみが込められていた。


「だから……あんなに必死に繋ぎ止めようとした」


 奈々美が泣く。


「でも……それが間違いだったのね」


 奈々美が元樹を見る。


「元樹くんは……私のことが嫌いになったのね」


「嫌いになったわけじゃない」


 元樹が言う。


「でも……今は、玲のことが好きなんだ」


 その言葉に、奈々美の心が砕ける。


「……そう」


 奈々美が俯く。


「じゃあ……私は」


 奈々美が玄関に向かう。


「もう……邪魔しないわ」


 その背中は、とても小さく見えた。


「奈々美……」


 元樹が声をかけるが、奈々美は振り返らない。


「さようなら……元樹くん」


 奈々美がドアを開ける。


「本当に……幸せになってね」


 その言葉を残し、奈々美は去っていった。




 ドアが閉まり、静寂が戻る。


 元樹と玲は、しばらく立ち尽くしていた。


「元樹……」


 玲が元樹を見る。


「これで……良かったのかな」


 玲の声は、罪悪感に満ちていた。


「わからない……」


 元樹も複雑な表情を見せる。


「でも……これが、俺の選択だ」


 元樹が玲を抱きしめる。


「俺は……玲のことが好きだ」


 その言葉に、玲は涙を流す。


「私も……元樹のことが好き」


 二人は抱き合う。


 しかし、心の奥には、奈々美への罪悪感が残っていた。


 窓の外には、暗くなり始めた空が広がっていた。




 その夜、奈々美は一人で夜道を歩いていた。


 涙は、もう枯れていた。


 心は、空っぽだった。


「元樹くん……」


 小さく呟く。


「幸せに……なってね」


 その言葉は、呪いのように夜に溶けていった。


 奈々美は自分の部屋に戻り、壁を見つめる。


 そこには、元樹の写真が貼られていた。


「……完全に、終わったのね」


 奈々美が写真を一枚ずつ剥がしていく。


「私の……7年間」


 写真が床に散らばる。


「全部……無駄だったのね」


 奈々美が床に座り込む。


「元樹くん……私、こんな最後は嫌だな」


 涙が再び溢れ出る。


「私……最後は元樹くんに看取って欲しかったな…」


 その問いに、誰も答えてくれない。


 部屋には、奈々美の嗚咽だけが響いていた。




 同じ頃、元樹は玲の家を出て、自分の家に向かっていた。


「今日は……色々ありすぎたな」


 元樹が呟く。


 楽しいデート。


 玲との確かな想い。


 そして、奈々美との決別。


「これで……良かったのか」


 元樹は自問する。


 玲を選んだことに、後悔はない。


 でも、奈々美を傷つけたことは事実だ。


「奈々美……」


 元樹が空を見上げる。


 月が、冷たく光っていた。


「ごめん……」


 その言葉は、夜に消えていった。


 家に着き、元樹は自分の部屋に入る。


 机の上には、以前奈々美にもらったフィギュアがあった。


「……」


 元樹はフィギュアを手に取る。


 奈々美との思い出が蘇る。


 楽しかった時も、確かにあった。


 でも、束縛は苦しかった。


「これで……本当に良かったのか」


 元樹は自問し続ける。


 答えは出ないまま、夜は更けていった。




 翌日。


 元樹は学校に向かう。


 いつもの通学路。


 でも今日は、誰も待っていない。


 奈々美も、玲も。


「……」


 元樹は一人で歩く。


 これが、自分の選んだ道。


 玲と一緒にいることを選んだ道。


「これから……どうなるんだろう」


 元樹は不安と期待を胸に、学校に向かった。


 教室に入ると、玲が席についていた。


「おはよう、元樹」


 玲が笑顔を見せる。


「おはよう」


 元樹も笑顔で返す。


 二人は視線を交わし、確かな絆を確認する。


 しかし――


 隣の席は、空いていた。


 奈々美の席。


 もう、彼女がそこに座ることはない。


「……」


 元樹は複雑な気持ちで、席に座る。


 授業が始まり、日常が戻ってくる。


 でも、心の奥には、奈々美への想いが残っていた。


 罪悪感。


 後悔。


 そして、少しの寂しさ。


 それらが混ざり合い、元樹の心を揺らしていた。




 放課後、元樹は一人で屋上にいた。


 風が髪を撫で、空は青く広がっている。


「元樹」


 背後から声がかかる。


 振り返ると、玲が立っていた。


「一人でいたかったのに……ごめん」


 玲が申し訳なさそうに言う。


「いや、いいよ」


 元樹が笑う。


「玲も来てくれて、嬉しい」


 玲が元樹の隣に立つ。


 二人は並んで、空を見上げる。


「元樹……後悔してる?」


 玲が不安そうに聞く。


「後悔……」


 元樹が考える。


「後悔は……してない」


 元樹が玲の手を握る。


「でも……奈々美を傷つけたことは、事実だ」


 その言葉に、玲も頷く。


「私も……罪悪感がある」


 玲が俯く。


「でも……元樹と一緒にいたい」



 玲が元樹を見つめる。


「それは……わがままなのかな」


 その問いに、元樹は首を横に振る。


「わがままじゃないよ」


 元樹が玲を抱きしめる。


「俺も……玲と一緒にいたい」


 二人は抱き合う。


 しかし、心の奥には、まだ影が残っていた。


 奈々美という影。


 それは、簡単には消えないだろう。


 でも、二人は前を向くことを選んだ。


 一緒に、この影を乗り越えていくことを。


「これから……どうなるんだろう」


 玲が呟く。


「わからない……」


 元樹が答える。


「でも……一緒に歩いていこう」


 その言葉に、玲は微笑む。


「うん」


 二人の手が、固く結ばれる。


 空は青く、風は優しく吹いている。


 未来は不確かだが、二人は前を向いていた。


 奈々美という過去を背負いながら――。


玲の誕生日を祝う幸せなデートは、奈々美の出現で一転する。7年間の想いと新たな愛、そして束縛と自由。

三人の感情が激しくぶつかり合い、ついに決着の時を迎えた。元樹の選択は玲だったが、心に残る奈々美


への罪悪感。本当にこれで良かったのか――答えのない問いを抱えながら、二人は前へ進む。しかし物語


はまだ終わらない。奈々美の絶望の先に、何が待っているのか。



暁の裏

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