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奈々美さんの裏の顔  作者: 暁の裏


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第20話 「Love Spiral」

 翌日、放課後。

 元樹は約束通り、駅前で奈々美を待っていた。


 9月の終わりの風が、少し肌寒く頬を撫でる。

 心臓が激しく跳ねる。


「元樹くん」


 背後から声がした。

 振り返ると、奈々美が立っていた。


 今日の奈々美は、淡いピンクのカーディガンに白いスカート。

 髪は綺麗に整えられ、いつもより柔らかい印象だ。


「奈々美……」

「待った?」

「いや、今来たところ」


 元樹は嘘をついた。

 実際は15分も前から待っていた。


「良かった。どこかで話す?」


 奈々美は微笑むが、その目は元樹の表情を探るように動いている。


「ああ……あのカフェでいいか?」


 元樹は駅前のチェーン店のカフェを指差す。


「いいわよ」


 二人は並んで歩き始めた。

 沈黙が重い。

 いつもなら奈々美から話しかけてくるはずなのに、今日は静かだ。




 カフェに入り、窓際の席に座る。

 注文を済ませた後、元樹は意を決して口を開いた。


「奈々美、運動会でのこと……聞きたいことがあるんだ」


 その言葉に、奈々美の表情が一瞬固まる。


「運動会?」

「ああ。運動会の時、玲にスポーツドリンクを渡したよな」


 元樹の言葉に、奈々美は優しく微笑む。


「ええ、渡したわよ。午後のリレー、頑張ってほしかったから」

「そのドリンク……何か入れたりしなかったか?」


 その直球の質問に、奈々美の目が細くなる。


「元樹くん、何を言ってるの?」


 声は穏やかだが、その奥に冷たさが滲む。


「玲があのドリンクを飲んだ後、お腹の調子が悪くなった」


 元樹は続ける。


「偶然じゃないよな?」


 奈々美は静かにコーヒーカップを持ち上げる。

 一口飲んでから、元樹を見つめる。


「証拠は?」


 その一言が、全てを物語っていた。


「奈々美……」

「証拠もないのに、私を疑うの?」


 奈々美の声は静かだが、鋭い。


「私は元樹くんの昔からの友達。あの子は、ただの幼馴染でしょう?」


 その言葉に、元樹の拳が握られる。


「玲はただの幼馴染じゃない。俺の恋人だ」


 元樹の宣言に、奈々美の表情が歪む。


「恋人……」


 奈々美は小さく呟く。


「そう。だから、玲を傷つけることは許さない」


 元樹は真剣な目で奈々美を見つめる。


「もしまた何かしたら……」


 その言葉を遮るように、奈々美が笑い出した。


「ふふ……ふふふ」


 その笑い声に、周りの客が振り返る。


「奈々美?」

「面白いわね、元樹くん」


 奈々美は笑いを止め、冷たい目で元樹を見つめる。


「私を脅してるの?」


 その瞳には、狂気が宿っていた。


「脅してなんかない。ただ……」

「ただ?」


 奈々美は身を乗り出す。


「玲さんを守りたい? 素敵ね」


 その言葉は皮肉に満ちていた。


「でもね、元樹くん」


 奈々美は元樹の手を掴む。


「私たちには約束があるでしょう?」


 7年前の、あの約束。


「ずっと一緒にいるって、誓ったわよね」


 元樹は手を引こうとするが、奈々美の握る力は異常に強い。


「あれは……子供の頃の約束だ」

「子供の頃でも、約束は約束よ」


 奈々美の目が、危険に光る。


「元樹くんは私のもの。誰にも渡さないって言ってるでしょ」


 その言葉に、元樹は背筋が寒くなった。


「奈々美……もう、やめてくれ」


 元樹は手を強引に引き抜く。


「俺は玲と一緒にいたいんだ」


 その言葉に、奈々美の表情が凍りつく。


「……そう」


 奈々美は静かに立ち上がる。


「わかったわ、元樹くん」


 その声は氷のように冷たい。


「でも、後悔するわよ」


 そう言い残して、奈々美はカフェを出て行った。


 残された元樹は、深いため息をついた。


「これで……終わりじゃないよな」


 不安が、心を締め付ける。




 同じ頃、玲は自宅で勉強をしていた。

 しかし、集中できない。

 元樹のことが気になって仕方がない。


「今頃、奈々美さんと話してるのかな」


 窓の外を見ると、夕焼けが空を染めている。


 スマホが震える。

 元樹からのメッセージだった。


『玲、話してきた。今から行ってもいいか?』


 玲は即座に返信する。


『うん、来て。待ってる』


 10分後、チャイムが鳴った。

 玲が玄関を開けると、元樹が立っていた。


「元樹……」

「玲、話がある」


 二人は玲の部屋に入った。

 ベッドに座る玲を前に、元樹は立ったまま話し始める。


「奈々美に、はっきり言ってきた」


 元樹は奈々美とのことを全て話した。

 スポーツドリンクのこと。

 証拠を求められたこと。

 そして、奈々美の最後の言葉。


「後悔するって……」


 玲は不安そうに元樹を見つめる。


「怖いね」

「ああ……でも、もう逃げない」


 元樹は玲の手を握る。


「玲を守る。絶対に」


 その決意に、玲の目に涙が浮かぶ。


「ありがとう、元樹」

「ごめんな、心配かけて」

「ううん」


 玲は首を振る。


「元樹が私を選んでくれた。それだけで十分」


 二人は抱きしめ合った。

 しかし、その温もりの中でも、不安は消えなかった。




 その夜、奈々美は一人で部屋にいた。


「元樹くん……」


 鏡の前で、自分の顔を見つめる。


「拒絶された……」


 その事実が、心に重く沈む。


「でも……仕方ないわね」


 奈々美は深呼吸をする。


「まだ、方法はある」


 引き出しから、あるものを取り出す。

 写真だった。

 元樹と玲が手を繋いで歩いている写真。

 学校での二人の写真。

 デートの写真。


「全部……監視してた」


 奈々美の目が、狂気に染まる。


「元樹くんは、まだわかってない」


 奈々美は写真を壁に貼り始める。


「私の愛の深さを」


 部屋の壁が、元樹と玲の写真で埋め尽くされていく。


「もっと……もっと強く、愛さないと」


 奈々美の計画は、さらにエスカレートしていく。


「次は……もっと確実に」


 奈々美はノートを開く。

 そこには、元樹の詳細なスケジュールが書かれていた。

 登校時間、帰宅時間、玲と会う時間。

 全てが記録されている。


「完璧に、監視してる」


 奈々美は微笑む。


「元樹くんは、私から逃げられない」




 翌日、学校。

 元樹と玲は、いつも通り手を繋いで登校した。


「今日も一緒だね」


 玲が嬉しそうに言う。


「ああ」


 元樹も笑顔を返す。

 しかし、その笑顔の裏には不安があった。


 校門をくぐると、生徒たちの視線が集まる。


「あ、渡部と上野だ」

「今日も仲良しだね」


 様々な声が聞こえる。

 しかし、その中に――冷たい視線があった。

 遠くから、二人を見つめている。

 その目には、嫉妬と怒りが渦巻いていた。


「元樹……」


 玲が不安そうに元樹の袖を引く。


「大丈夫」


 元樹は玲を安心させるように、手を強く握る。


 教室に入ると、光明と未菜が迎える。


「おはよう、二人とも」

「おはよう」


 いつも通りの挨拶。

 しかし、教室の空気が少しおかしい。


「どうしたの、みんな?」


 未菜が周りを見回すと、クラスメートたちが何かを囁き合っている。


「なんか……噂が広がってるみたい」


 光明が小声で言う。


「噂?」


 元樹が聞き返すと、光明は困った表情を見せる。


「元樹が玲を選んだから、柊が怒ってるって」


 その言葉に、元樹の表情が曇る。


「誰がそんなこと……」

「わからない。でも、朝からみんな話してる」


 確かに、周りの生徒たちが元樹と玲を見ながら囁いている。


「気にしない方がいいよ」


 未菜が励ます。


「噂なんて、すぐに消えるから」


 しかし、その噂は簡単には消えなかった。

 女子生徒が近づいてきた。


「ねえ、渡部くん」

「何?」

「柊さん、本当に怒ってるの?」


 その質問に、元樹は戸惑う。


「いや……そんなことは」

「でも、朝学校来るときに見かけたよ、転校したのに」


 別の女子生徒が言う。


「渡部くんと上野さんが付き合い始めてから、ずっと」


 その言葉に、玲の表情が不安そうになる。


「気にしないで」


 元樹は玲に優しく言う。


「俺たちは何も悪いことしてない」


 しかし、女子生徒たちは続ける。


「でも、柊さんって怖いよね」

「何するかわからない感じ」


 その会話に、玲は不安を隠せない。


「元樹……」

「大丈夫だから」


 元樹は玲の手を握る。


 しかし、その時――教室のドアが開いた。

 女生徒が入ってくる。

 奈々美だった。

 教室の空気が、一瞬で凍りつく。


 先生が入ってくる。


「はい、みんな席について」


 先生が声をかける。


「ええ、今日からまた柊がこのクラスに転校してきた。みんな仲良くな」


 奈々美が挨拶する。


「みんな、またよろしくね」


 奈々美は元樹と玲を見つめ、微笑んだ。

 しかし、その笑顔は冷たく、どこか不気味だった。


「元樹くん、上野さん、よろしくね」


 その言葉に、周りの生徒たちが息を呑む。


「奈々美……」


 元樹が立ち上がろうとすると、奈々美は手を振る。


「気にしないで。またこっちの学校に通うことになっただけだから」


 そう言って、奈々美は席に座った。

 しかし、その背中から放たれる雰囲気は、明らかに異常だった。


「元樹……怖い」


 玲が小さく呟く。


「ああ……」


 元樹も同感だった。




 放課後、元樹と玲が帰ろうとすると、校門の前で事件が起きた。


 玲の靴箱に、手紙が入っていたのだ。


「何これ……」


 玲が震える手で封筒を開ける。

 中には、一枚の紙。


『元樹くんから離れなさい。さもないと……』


 その続きは、赤いペンで書かれていた。


『後悔することになるわよ』


 玲の顔が青ざめる。


「元樹……」

「見せて」


 元樹が手紙を見ると、怒りが込み上げてくる。


「奈々美……」


 間違いない。

 この文体、この脅し。

 全て奈々美だ。


「ここまでするのか、もう我慢できない」


 元樹は手紙を握りしめる。


「元樹、やめて」


 玲が止めようとするが、元樹は聞かない。


「玲を脅すなんて、許せない」


 元樹は奈々美を探しに行こうとする。


「元樹!」


 玲の必死の声に、元樹は立ち止まる。


「お願い……エスカレートさせないで」


 玲は涙を流しながら言う。


「これ以上、奈々美さんを刺激したら……何をされるかわからない」


 その言葉に、元樹は我に返る。


「玲……」

「私は大丈夫。元樹が一緒にいてくれるなら」


 玲の必死の説得に、元樹は手紙を手放す。


「わかった……でも」


 元樹は玲を抱きしめる。


「何かあったら、すぐに言ってくれ」

「うん」


 二人は抱き合いながら、不安に震えていた。




 その夜、玲は一人で考えていた。


「このままじゃダメだ……」


 奈々美のエスカレートは、明らかに危険だ。

 元樹を守らないといけない。

 そして、自分も――


「私も、強くならないと」


 玲は鏡を見つめる。


「奈々美さんに負けないくらい……」


 その時、玲の中で何かが変わった。


「元樹を奪われる前に……」


 玲の目が、危険に光る。


「私が、元樹を完全に手に入れないと」


 玲の心の中で、新しい感情が芽生え始めていた。


 それは――独占欲。


 奈々美と同じ、危険な感情。


「元樹は、私のもの」


 玲は自分でも気づいていなかった。

 自分の中に、そんな暗い感情があったことを。


 しかし、奈々美の脅威に晒されることで、その感情が目覚めてしまったのだ。




 翌日、玲の様子が少し変わっていた。


「おはよう、元樹」


 いつもより積極的に、元樹の腕に抱きつく。


「あ、おはよう」


 元樹は少し驚くが、嬉しそうに笑う。


「今日も一緒だね」

「うん」


 玲は満面の笑みを見せる。

 しかし、その目は――どこか計算的だった。


 教室に入ると、わざと元樹の隣に密着する。


「玲?」

「何?」


 玲は無邪気に笑う。


「いや……いつもより近いなって」

「ダメ?」

「いや、ダメじゃないけど……」


 元樹は照れながら答える。


 その様子を、遠くから奈々美が見ていた。


「ふふ……」


 奈々美は小さく笑う。


「上野さん、必死ね」


 その目には、嘲りが浮かんでいた。


「でも、無駄よ」


 奈々美は教科書を開きながら呟く。


「元樹くんは、私のもの」




 昼休み、玲は元樹と屋上で二人きりになった。


「元樹」


 玲が真剣な表情で呼びかける。


「何?」

「ねえ……私のこと、本当に好き?」


 突然の質問に、元樹は戸惑う。


「当たり前だろ。何を今更」

「じゃあ……」


 玲は元樹に近づく。


「もっと、私だけを見て」


 その言葉に、元樹は胸が高鳴る。


「玲……」

「奈々美さんのこと、もう気にしないで」


 玲は元樹の頬に手を添える。


「私だけを、見ていて」


 その瞳には、強い独占欲が宿っていた。


「玲……どうしたんだ?」


 元樹は玲の変化に気づく。


「いつもと違う」

「違わないよ」


 玲は首を振る。


「ただ……元樹を奪われたくないだけ」


 その言葉に、元樹は複雑な気持ちになる。


 嬉しい反面、どこか不安も感じる。


「玲、無理してないか?」

「してないよ」


 玲は笑顔を作る。


「これが、私の本当の気持ち」


 しかし、元樹には分かっていた。

 玲が、何かを無理している。


「玲……」


 元樹が何か言いかけた時、屋上のドアが開いた。


 奈々美が立っていた。


「あら、お邪魔だった?」


 その言葉に、玲の表情が強張る。


「奈々美さん……」

「ふふ、仲良しね」


 奈々美は二人に近づく。


「でも、屋上は他の生徒も使うのよ?」


 その視線は冷たく、二人を見下ろしている。


「わかってるよ」


 元樹が答えると、奈々美は微笑む。


「そう。じゃあ、お邪魔しないわ」


 そう言って、奈々美は去っていった。


 残された二人は、沈黙に包まれる。


「元樹……」


 玲が不安そうに元樹を見つめる。


「大丈夫。俺が守るから」


 元樹は玲を抱きしめた。


 しかし、二人とも気づいていなかった。

 奈々美が、ドアの影から二人を見ていたことを。


 その目には、狂気と憎悪が渦巻いていた。




 放課後、玲は一人でトイレにいた。

 手を洗っていると、背後に人の気配がする。


「誰……?」


 振り返ると、そこには奈々美が立っていた。


「奈々美さん……」


 玲は警戒する。


「上野さん、少しお話しできるかしら」


 奈々美の声は穏やかだが、その目は冷たい。


「何の話?」

「元樹くんのこと」


 奈々美は玲に近づく。


「彼は、私のものよ」


 その宣言に、玲は怒りを感じる。


「違います。元樹は私の恋人」

「恋人?」


 奈々美は笑う。


「ただの肩書きでしょう?」


 その言葉に、玲は反論する。


「違う!」

「じゃあ、元樹くんの全てを知ってる?」


 奈々美の問いに、玲は言葉に詰まる。


「彼の過去、彼の約束、彼の心の奥底」


 奈々美は続ける。


「全部、私が知ってるのよ」


 その自信に満ちた態度に、玲は不安を感じる。


「でも……元樹は私を選んだ」

「今はね」


 奈々美は玲の肩に手を置く。


「でも、いつまで続くかしら」


 その言葉が、玲の心に突き刺さる。


「元樹くんは優しいから、傷つけたくないだけ」


 奈々美は囁く。


「本当は、私のことが好きなのよ」


 その言葉に、玲は怒りが爆発しそうになる。


「嘘だ!」

「嘘?」


 奈々美は微笑む。


「じゃあ、試してみたら?」


 その提案に、玲は戸惑う。


「試す……?」

「元樹くんに、究極の選択をさせるの」


 奈々美の目が、危険に光る。


「私と上野さん、どちらか一人しか選べないって」


 その恐ろしい提案に、玲は震える。


「そんなこと……」

「怖いの?」


 奈々美は嘲笑う。


「自信がないのね」


 その言葉に、玲の中で何かが切れた。


「わかった」


 玲は奈々美を睨みつける。


「やってみせる」


 その宣言に、奈々美は満足そうに笑う。


「楽しみにしてるわ」


 そう言って、奈々美はトイレを出て行った。


 残された玲は、震える拳を握りしめた。


「負けない……」


 しかし、その言葉の裏には、深い不安があった。




 その日の夜、元樹は玲からの長いメッセージを受け取った。


『元樹、今日奈々美さんに言われたことがあるの。詳しくは明日話すね。でも、一つだけ約束して。私のこと、信じてくれる?』


 その内容に、元樹は不安になる。


『もちろん信じる。何があったんだ?』


 すぐに返信が来る。


『明日話す。おやすみ、元樹』


 それきり、玲からの返信はなかった。


「玲……」


 元樹は不安で眠れなかった。




 翌日、登校途中。

 元樹は玲と合流した。


「おはよう、玲」

「おはよう、元樹」


 玲の表情は、いつもより強張っている。


「昨日のメッセージ……」

「ああ、それね」


 玲は立ち止まる。


「奈々美さんに、挑戦されたの」


 その言葉に、元樹は眉をひそめる。


「挑戦?」

「元樹に、私と奈々美さんのどちらかを選ばせるって」


 玲は続ける。


「究極の選択をさせるって言われた」


 その内容に、元樹は怒りを覚える。


「そんなこと……俺はもう選んだんだけどな」

「でも、私」


 玲は元樹を見つめる。


「受けて立つって言っちゃった」


 その言葉に、元樹は驚く。


「玲!」

「ごめん……でも」


 玲は拳を握る。


「私、奈々美さんに負けたくない」


 その決意に、元樹は複雑な気持ちになる。


「玲……無理しないでくれ」

「無理じゃないよ」


 玲は微笑む。


「私は、元樹と一緒にいたい。それだけ」


 その言葉に、元樹は胸が熱くなる。


「わかった。俺も、玲と一緒にいたい」


 二人は手を繋ぐ。


 しかし、その握る手には、不安が滲んでいた。




 学校に着くと、奈々美が校門で待っていた。


「おはよう、元樹くん、玲さん」


 その笑顔は、いつもより不気味だった。


「奈々美……」


 元樹が警戒すると、奈々美は首を傾げる。


「どうしたの? 怖い顔して」

「お前が玲に何を言ったか、聞いたぞ」


 元樹の言葉に、奈々美は微笑む。


「ああ、あのこと」


 奈々美は玲を見る。


「上野さん、決心してくれたのね」

「ええ」


 玲は負けじと奈々美を睨む。


「私は、元樹を渡さない」


 その宣言に、奈々美の目が光る。


「じゃあ、楽しみにしてるわ」


 そう言って、奈々美は教室に向かった。


 残された元樹と玲は、不安と決意が入り混じった表情で見つめ合った。


「玲……」

「大丈夫」


 玲は強がって笑う。


「私たち、絶対に負けないから」


 しかし、その笑顔の裏には、深い不安が隠されていた。




 それから数日後。


 奈々美の行動は、さらにエスカレートしていった。


 元樹のロッカーに、毎日手紙が入るようになった。

 内容は全て、愛の告白。


『元樹くん、今日も素敵だったわ』

『元樹くんの笑顔を見ると、幸せになる』

『いつか、また二人きりで話したいな』


 最初は無視していた元樹だが、次第に手紙の内容が過激になっていく。


『玲さんより、私の方が元樹くんを理解してる』

『玲さんと別れて、私のところに来て』


 そして、ある日――


『玲さんに何かあっても、私は知らないわよ』


 その脅迫めいた内容に、元樹は血の気が引いた。


「奈々美……」


 もう、限界だった。

 元樹は手紙を持って、奈々美のところに向かった。




 放課後、屋上。

 元樹は奈々美を呼び出していた。


「これ、どういうことだ」


 元樹は手紙を突きつける。


「ああ、読んでくれたのね」


 奈々美は嬉しそうに微笑む。


「嬉しそうに笑うな!」


 元樹の怒鳴り声に、奈々美は驚く。


「元樹くん……」

「玲を脅すようなこと、もう書くな」


 元樹は真剣な目で奈々美を睨む。


「これ以上続けるなら……警察に行く」


 その言葉に、奈々美の表情が変わる。


「警察?」


 奈々美は笑い出す。


「あははは! 面白いこと言うのね」


 その笑い声は、どこか壊れている。


「奈々美……」

「警察に何を言うの?」


 奈々美は元樹に近づく。


「ラブレターを書いたこと? それとも、昔の約束を守ってって言ったこと?」


 奈々美の目が、狂気に染まる。


「何も……犯罪じゃないわよ」


 その言葉に、元樹は言葉に詰まる。


 確かに、法的には問題ない。

 ただのラブレター。

 ただの告白。


 しかし――その執着は、明らかに異常だ。


「奈々美……お願いだ」


 元樹は頭を下げる。


「もう、やめてくれ」


 その姿を見て、奈々美の表情が柔らかくなる。


「元樹くん……」


 奈々美は元樹の肩に手を置く。


「わかったわ」


 その言葉に、元樹は顔を上げる。


「本当か?」

「ええ」


 奈々美は優しく微笑む。


「もう、手紙は書かない」


 その約束に、元樹は安堵する。


「ありがとう……」

「でも」


 奈々美の目が、再び冷たくなる。


「条件があるの」


 その言葉に、元樹は嫌な予感がする。


「条件?」

「もう一度だけ、私とデートして」


 奈々美の要求に、元樹は戸惑う。


「デート……?」

「ええ。二人きりで、一日だけ」


 奈々美は続ける。


「それで私が納得できたら、もう元樹くんには近づかない」


 その提案に、元樹は迷う。


「でも、玲が……」

「玲さんには内緒でいいわ」


 奈々美は元樹の手を握る。


「最後の思い出を作らせて」


 その悲しそうな表情に、元樹は心が揺れる。


「わかった……一度だけだ」


 元樹の言葉に、奈々美は満足そうに微笑んだ。


 しかし、その笑顔の裏には、別の計画が隠されていた。




 その夜、元樹は罪悪感に苛まれていた。


「玲に言うべきか……」


 でも、心配をかけたくない。

 それに、一度だけなら大丈夫だろう。


 そう自分に言い聞かせながら、元樹はベッドに横になった。


 しかし――その決断が、大きな間違いだったことに、元樹はまだ気づいていなかった。




 同じ頃、玲は元樹のことを考えていた。


「最近、元樹の様子がおかしい……」


 何か隠し事をしているような気がする。


「まさか……奈々美さんと?」


 不安が募る。


「私も、もっと積極的にならないと」


 玲の中で、新しい計画が芽生え始めていた。


 それは――元樹を完全に自分のものにするための、危険な計画。


「元樹を……誰にも渡さない」


 玲の目が、危険に光った。


 その瞬間、玲の中にも眠っていた「裏の顔」が、目覚め始めたのだった。




 翌日、玲は元樹に対して、いつもより積極的だった。


「元樹、今日も一緒に帰ろうね」

「ああ」


 元樹は笑顔で答えるが、どこか罪悪感を感じている。


「ねえ、元樹」


 玲が真剣な表情で言う。


「私のこと、好き?」

「当たり前だろ」


 元樹は即答する。


「じゃあ……」


 玲は元樹の手を強く握る。


「私だけを見ていて」


 その言葉には、強い独占欲が込められていた。


「玲……」


 元樹は玲の変化に戸惑う。


「どうしたんだ? 最近、ちょっと……」

「ちょっと?」


 玲は首を傾げる。


「何が?」

「いや……いつもより、その……積極的というか」


 元樹の言葉に、玲は微笑む。


「ダメ?」

「ダメじゃないけど……」


 元樹は戸惑いながらも、嬉しそうに笑う。


「でも、無理してない?」

「してないよ」


 玲は元樹に抱きつく。


「これが、私の本当の気持ち」


 しかし、その言葉の裏には、何かが隠されていた。




 放課後、玲は一人で図書館にいた。

 スマホで何かを調べている。


「元樹を完全に手に入れる方法……」


 画面には、様々な恋愛心理学のサイトが表示されている。


「男性を虜にする方法」

「彼氏を離さない方法」

「ライバルに勝つ方法」


 玲は真剣に読み込んでいく。


「なるほど……」


 玲の目が、計算的に光る。


「これを使えば……」


 玲は立ち上がり、ある決意を固めた。


「元樹を、完全に私のものにする」


 その瞬間、玲の「裏の顔」が、完全に目覚めたのだった。




 翌日の放課後、玲は元樹を呼び出した。


「元樹、ちょっといい?」

「どうした?」


 二人は人気のない教室に入る。


「元樹、最近冷たくない?」


 玲の突然の言葉に、元樹は驚く。


「え? そんなことないけど……」

「本当に?」


 玲は元樹に近づく。


「私、寂しいの」


 その言葉に、元樹は罪悪感を覚える。


 確かに、最近奈々美のことで頭がいっぱいだった。


「ごめん……」

「謝らなくていいよ」


 玲は元樹の頬に手を添える。


「ただ……もっと私のこと、見ていてほしいの」


 その瞳には、強い感情が宿っていた。


「玲……」


 元樹が何か言いかけた時、玲が突然キスをした。


「!?」


 元樹は驚くが、玲は離れない。


 長いキスの後、玲は元樹を見つめる。


「元樹、私……」


 玲は息を切らしながら言う。


「元樹のこと、本当に好き」


 その告白に、元樹の心が揺れる。


「俺も……玲のことが好きだ」


 二人は抱き合う。


 しかし、その教室のドアの外で――

 奈々美が、全てを見ていた。


 その目には、激しい怒りと嫉妬が渦巻いていた。


「許さない……」


 小さく呟く奈々美。


「絶対に……許さない」


 その言葉と共に、奈々美の計画は最終段階に入っていく。




 その夜、奈々美は部屋で計画を練っていた。


「元樹くんと玲のキス……」


 思い出すだけで、怒りが込み上げてくる。


「私のものなのに……」


 奈々美は壁に貼られた元樹の写真を見つめる。


「でも、大丈夫」


 奈々美は深呼吸をする。


「もうすぐ、元樹くんとデートできる」


 その約束の日まで、あと3日。


「その時に……全てを決める」


 奈々美の目が、危険に光る。


「元樹くんを、完全に手に入れる」


 そのために、奈々美は最後の準備を始めた。




 一方、玲も自分の計画を進めていた。


「10月25日……私の誕生日」


 玲はカレンダーを見つめる。


「その日に、元樹に特別なプレゼントをもらおう」


 玲の計画は、誕生日を利用して元樹との関係をさらに深めること。


「元樹を、完全に私だけのものにする」


 玲の目にも、奈々美と同じような狂気が宿り始めていた。


 二人の女性の、危険な感情。

 それが、元樹を中心に渦巻いていく。




 10月に入り、学校は中間試験の準備期間に入った。


「元樹、一緒に勉強しない?」


 玲が誘うと、元樹は頷く。


「ああ、いいよ」


 図書館で二人は勉強を始める。


 しかし、玲の目的は勉強ではなかった。


「ねえ、元樹」


 玲が小声で話しかける。


「私の誕生日、覚えてる?」


 その質問に、元樹は一瞬考える。


「ああ、10月……25日だっけ?」

「そう」


 玲は嬉しそうに微笑む。


「何がほしい?」


 元樹が聞くと、玲は少し考える。


「んー……秘密」


 その意味深な答えに、元樹は首を傾げる。


「秘密?」

「うん。当日のお楽しみ」


 玲は元樹の手を握る。


「ただ……一緒にいてくれるだけでいいの」


 その言葉に、元樹は胸が温かくなる。


「もちろん。一緒に祝おう」


 二人の会話を、遠くから奈々美が見ていた。


「誕生日……」


 奈々美は小さく呟く。


「邪魔させてもらうわ」


 その目には、危険な計画が浮かんでいた。




 10月15日、元樹と奈々美のデートの日がやってきた。


 元樹は罪悪感を感じながら、約束の場所に向かった。


 駅前で、奈々美が待っていた。


「元樹くん」


 奈々美は今日、特別に可愛らしい服装をしていた。

 水色のワンピースに、白いカーディガン。


「奈々美……」

「待った?」

「いや、今来たところ」


 二人は並んで歩き始める。


「今日は、どこ行く?」


 元樹が聞くと、奈々美は微笑む。


「元樹くんに、見せたい場所があるの」


 その言葉に、元樹は不安を感じる。


「どこ?」

「秘密」


 奈々美は元樹の手を取る。


「ついてきて」


 元樹は引かれるまま、奈々美についていった。




 二人が向かったのは、あの時の公園だった。


「7年前、私たちが約束した公園よ」


 奈々美の言葉に、元樹は胸が苦しくなる。


「覚えてる?」


 奈々美はベンチに座る。


「ここで、ずっと一緒にいるって約束したの」


 元樹も隣に座る。


「ああ……覚えてる」

「その約束、まだ有効よ」


 奈々美は元樹を見つめる。


「元樹くんは、私のもの」


 その言葉に、元樹は首を振る。


「奈々美……俺は」

「言わないで」


 奈々美は元樹の唇に指を当てる。


「今日だけは、昔に戻りましょう」


 その瞳には、悲しみと狂気が混在していた。


「奈々美……」


 元樹は複雑な気持ちで、奈々美を見つめていた。


 そして、その日の出来事が、後に大きな問題を引き起こすことになる。


 しかし、その時の元樹は、まだそのことに気づいていなかった。




 デートが終わり、元樹は家に帰った。


「ただいま」


 リビングに入ると、由美がテレビを見ていた。


「おかえり、お兄ちゃん。どこ行ってたの?」

「ちょっと……友達と」


 元樹は嘘をつく。


「ふーん? 玲さんとじゃないの?」


 由美の鋭い質問に、元樹は動揺する。


「あ、ああ……」

「嘘ついてる」


 由美はじろりと兄を見る。


「顔に書いてあるよ」


 その指摘に、元樹は何も言えない。


「まあいいけど」


 由美はテレビに視線を戻す。


「秘密、守ってあげる」


 その言葉に、元樹は罪悪感を感じた。


 部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。


「玲に……言うべきだったかな」


 しかし、もう遅い。

 終わってしまったことだ。


「これで、奈々美も諦めてくれるだろう」


 そう自分に言い聞かせながら、元樹は目を閉じた。


 しかし――その希望は、すぐに打ち砕かれることになる。




 翌日、学校。

 元樹のロッカーに、また手紙が入っていた。


「約束が違う……」


 元樹は手紙を開く。


『元樹くん、昨日は楽しかったわ。でも、一度じゃ足りない。もっと、一緒にいたい』


 その内容に、元樹は頭を抱える。


「奈々美……」


 約束は、一度だけのデートだったはずだ。

 それで諦めると言っていた。


 しかし――奈々美は、諦めていなかった。


 むしろ、さらに執着を強めていた。


『次は、もっと長い時間、二人きりでいたいな』


 最後の一文を読んで、元樹は背筋が寒くなった。


「もう……限界だ」


 元樹は決心した。

 全てを、玲に話そう。

 隠し事をしていることが、もう耐えられない。


 昼休み、元樹は玲を呼び出した。


「玲、話があるんだ」


 屋上で二人きりになる。


「どうしたの?」


 玲が心配そうに聞く。


「実は……」


 元樹は全てを話し始めた。

 奈々美とのデートのこと。

 約束のこと。

 そして、今朝の手紙のこと。


 玲は黙って聞いていた。

 その表情は、徐々に曇っていく。


「そう……」


 話が終わると、玲は小さく呟いた。


「元樹は、奈々美さんとデートしたんだ」


 その声は、震えていた。


「ごめん……でも」


 元樹が言い訳しようとすると、玲は首を振る。


「いいよ」


 玲は無理に笑顔を作る。


「元樹が、ちゃんと話してくれたから」


 しかし、その笑顔は引きつっていた。


「玲……」

「大丈夫」


 玲は元樹の手を握る。


「私、信じてるから」


 その言葉に、元樹は救われる思いがした。


「ありがとう……」


 二人は抱き合う。


 しかし、玲の心の中では――

 激しい怒りと嫉妬が渦巻いていた。


「奈々美さん……」


 玲の目が、危険に光る。


「許さない……」


 その瞬間、玲の「裏の顔」が、完全に覚醒したのだった。




 その日の放課後、玲は一人で行動を起こした。


 奈々美のクラスに向かう。


「奈々美さん、ちょっといい?」


 玲が声をかけると、奈々美は驚いた表情を見せる。


「上野さん……どうしたの?」

「話がある」


 玲の真剣な表情に、奈々美は興味を示す。


「いいわよ」


 二人は人気のない階段に移動した。


「それで、話って?」


 奈々美が聞くと、玲は真っ直ぐ奈々美を見つめる。


「元樹とデートしたんだって?」


 その言葉に、奈々美は微笑む。


「ああ、そのこと」

「元樹との約束を破ったわね」


 玲の声は冷たい。


「一度きりのデートで諦めるって言ったのに」


 その指摘に、奈々美は笑う。


「約束? そんなの、元樹くんとしただけよ」


 奈々美は玲に近づく。


「上野さんとは、何の約束もしてないわ」


 その態度に、玲の怒りが爆発しそうになる。


「あなた……」

「それに」


 奈々美は続ける。


「元樹くん、すごく楽しそうだったわよ」


 その言葉が、玲の心に突き刺さる。


「嘘……」

「嘘じゃないわ」


 奈々美は玲の耳元で囁く。


「元樹くんの本当の笑顔、私だけが知ってるの」


 その瞬間、玲の中で何かが弾けた。


「ふざけないで!」


 玲は奈々美を突き飛ばす。


 奈々美は壁にぶつかるが、笑っていた。


「ふふ……やっと本性を見せたわね」


 奈々美は玲を見上げる。


「上野さんも、私と同じなのね」


 その言葉に、玲は我に返る。


「私は……あなたとは違う」

「本当に?」


 奈々美は立ち上がる。


「元樹くんを独占したい気持ち、私と同じでしょう?」


 その指摘に、玲は何も言えない。


 確かに――最近の自分は、奈々美と似ていた。


「認めたくないけど……」


 奈々美は玲の肩を叩く。


「私たち、同類よ」


 その言葉と共に、奈々美は去っていった。


 残された玲は、自分の手を見つめる。


「私……」


 震える手。


「私、どうなっちゃったんだろう」


 玲は壁に背中を預ける。


「元樹を守りたいだけなのに……」


 しかし、その方法が、次第に歪んでいることに、玲は気づき始めていた。




 その夜、元樹はスマホを見ていた。

 玲からメッセージが来ていた。


『元樹、ごめんね。今日は少し取り乱しちゃった』


 その内容に、元樹は返信する。


『いや、俺の方こそごめん。隠し事してて』

『もう、隠し事はなし?』

『ああ、もうない』


 元樹の返信に、玲から返事が来る。


『よかった。信じてるから』

『ありがとう』


 やり取りを終えて、元樹は安堵する。


「玲……優しいな」


 しかし、元樹は知らなかった。

 玲が今、どんな状態にあるのかを。


 そして――玲の中に、もう一つの顔が芽生えていることを。




 10月20日。

 玲の誕生日まで、あと5日となった。


 学校では、誕生日の準備が話題になっていた。


「玲ちゃん、誕生日何するの?」


 友人が聞くと、玲は微笑む。


「元樹と二人で過ごすの」

「いいなー、羨ましい」


 友人たちが騒ぐ中、玲は元樹を見つめる。


 元樹も玲を見て、微笑み返す。


 しかし――その様子を、奈々美が見ていた。


「誕生日……」


 奈々美は小さく呟く。


「邪魔してあげようかしら」


 その目には、危険な光が宿っていた。




 放課後、元樹は玲の誕生日プレゼントを買いに行った。


「何がいいかな……」


 ショッピングモールを歩きながら、色々な店を見て回る。


 アクセサリー、服、本、様々な商品を見るが、決められない。


「玲が喜ぶものって……」


 そう考えていた時、ある店が目に入った。


 手作りアクセサリーの店だ。


「これだ……」


 元樹は店に入り、店員に相談する。


「彼女の誕生日に、手作りのネックレスを贈りたいんです」


 店員は優しく微笑む。


「素敵ですね。一緒に選びましょう」


 元樹は時間をかけて、パーツを選んでいく。

 玲に似合う色、デザイン。


 全てを考えながら、慎重に選ぶ。


 そして――完成したネックレスは、シンプルだが温かみのあるデザインだった。


「ありがとうございました」


 元樹は満足そうにネックレスを受け取った。


 しかし――その様子を、誰かが見ていた。


 奈々美だった。


「元樹くん……玲にプレゼント」


 奈々美の拳が、強く握られる。


「許さない……」


 その瞬間、奈々美の計画は最終段階に入った。




 10月23日。

 誕生日まで、あと2日。


 元樹は玲と、誕生日の予定を話し合っていた。


「25日、どこ行きたい?」


 元樹が聞くと、玲は少し考える。


「んー……水族館とか?」

「水族館いいね」


 元樹は笑顔で答える。


「じゃあ、午前中に水族館行って、お昼食べて、夜は……」


 玲は少し照れながら言う。


「夜は、二人きりでゆっくり話したいな」


 その言葉に、元樹は頷く。


「わかった。完璧な一日にしよう」


 二人は笑い合う。


 しかし――その会話を、奈々美が盗み聞きしていた。


「水族館……」


 奈々美はスマホにメモを取る。


「25日、水族館ね」


 その目には、恐ろしい計画が浮かんでいた。




 10月24日。

 誕生日の前日。


 元樹は最終確認をしていた。

 プレゼントのチェック。

 デートコースの確認。

 全てが準備万端だ。


「明日は、玲を喜ばせないと」


 元樹は決意を新たにする。


 一方、玲も準備をしていた。


「明日は、特別な日にする」


 玲は鏡の前で、様々な服を合わせている。


「元樹が喜ぶ格好……」


 そして、玲は引き出しから、あるものを取り出す。


 小さな箱だった。


「これを、元樹に渡そう」


 箱の中には――指輪が入っていた。


「ペアリング……」


 玲の目が、決意に燃える。


「明日、元樹にこれを渡して……」


 玲は深呼吸をする。


「完全に、私のものにする」


 その決意は、もはや普通の恋愛感情を超えていた。


 玲の中の「裏の顔」が、完全に表に出ようとしていた。




 同じ夜、奈々美も準備をしていた。


「明日……全てを終わらせる」


 部屋の壁には、元樹と玲の写真が貼られている。


「二人の幸せそうな顔……」


 奈々美はその写真を睨みつける。


「全部、壊してあげる」


 奈々美は引き出しから、あるものを取り出す。


 カッターナイフだった。


「これで……」


 奈々美の目が、狂気に染まる。


「玲の顔に、傷をつける」


 その恐ろしい計画に、奈々美は満足そうに笑う。


「元樹くんが、玲の傷ついた顔を見た時……」


 奈々美は想像する。


「きっと、私を選ぶはず」


 その狂った論理に、奈々美は疑問を抱かない。


「明日……楽しみ」


 奈々美は部屋の電気を消し、ベッドに横になった。


 そして――運命の誕生日を待つのだった。




 10月25日、朝。


 元樹は早めに起きた。


「今日は玲の誕生日……」


 緊張と期待で、胸が高鳴る。


 身支度を整え、プレゼントを確認する。


「完璧だ」


 元樹は玄関を出た。


「行ってきます」


 由美が見送る。


「お兄ちゃん、玲さんを喜ばせてあげてね」

「ああ、任せろ」


 元樹は自信満々に答えた。


 しかし――この日、元樹を待ち受けているものを、まだ知らなかった。




 同じ頃、玲も準備を整えていた。


 白いワンピースに、薄いピンクのカーディガン。

 髪には小さな花の飾り。


「完璧」


 玲は鏡を見て、満足そうに微笑む。


 そして、引き出しから指輪の箱を取り出す。


「これで……元樹は完全に私のもの」


 玲の目が、危険に光る。


 しかし、その時――玲はまだ知らなかった。


 今日、自分の「裏の顔」が、完全に表に出ることになることを。




 そして、奈々美も準備を整えていた。


 黒いパーカーに、ジーンズ。

 目立たない格好だ。


 ポケットには、カッターナイフ。


「準備完了」


 奈々美は鏡を見て、冷たく微笑む。


「元樹くん……今日で全てが決まる」


 奈々美は家を出た。


 水族館に向かうために。


 そして――運命の一日が、幕を開けようとしていた。

誕生日って、本当は幸せな日なのにね。


この日だけは、みんなが笑っていられるはずだったのに――


奈々美も、玲も、どこで間違えたんだろう。


次回、壊れる音が聞こえるかもしれない。



暁の裏

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