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奈々美さんの裏の顔  作者: 暁の裏


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18/21

第18話「踏み出せない一歩」

 夏休みも残すところ、あと二日となった。

 元樹は部屋のカレンダーを見つめながら、複雑な気持ちでいた。


「もうすぐ新学期か……」


 この夏休みは、本当に色々なことがあった。

 玲からの告白。

 奈々美との再会。

 自分の気持ちの混乱。


「まだ……答えが出せてない」


 窓の外を見ると、夏の終わりを告げるような、少し涼しい風が吹いている。

 蝉の声も、少し弱々しい。

 スマホが震える。

 奈々美からのメッセージだった。


『元樹くん、明日暇? 夏休み最後だから、一緒にどこか行かない?』


 その提案に、元樹は少し考えた。

 明日は8月31日。

 夏休み最後の日。


『どこに行くの?』


 すぐに返信が来た。


『水族館! 前から行きたかったの。元樹くんと一緒に見たいな』


 水族館。

 元樹は少し前に、玲と一緒に行った場所を思い出した。

 あの時も、二人で楽しく過ごした。


『いいよ。何時に?』

『午前10時に駅前で待ち合わせでいい?』

『わかった』

『やった! 楽しみ!』


 メッセージを閉じた後、元樹は少しため息をついた。


「奈々美と二人きりか……」


 最近、奈々美と過ごす時間が増えている。

 そして、その度に心が動かされる。


「玲には……言わないとな」


 元樹は玲にメッセージを送った。


『玲、明日奈々美と水族館に行くことになった』


 しばらくして、玲から返信が来た。


『そっか。楽しんできてね』

『ごめん……』

『謝らないで。元樹が自分の気持ちを確かめるのは大切なことだから』


 玲の優しさに、元樹は胸が痛んだ。


『ありがとう』

『おやすみ、元樹』


 メッセージを閉じた後、元樹はベッドに横になった。


「明日……少し楽しみだな」


 不安と期待が入り混じる中、元樹は眠りについた。




 翌朝、元樹は少し早めに起きた。


「今日は水族館か……」


 身支度を整えながら、元樹は鏡を見る。

 髪を整え、清潔な服を選ぶ。


「なんで、こんなに気を使ってるんだ……」


 自分でも不思議だった。

 玲とのデートの時も、もちろん身だしなみには気を使った。

 でも、今日は――もっと意識している。


「奈々美は……どんな顔で来るかな」


 思い浮かべるだけで、少し胸が高鳴る。

 リビングに降りると、由美が朝食を食べていた。


「おはよ、お兄ちゃん。今日はお出かけ?」

「ああ……奈々美と水族館に」

「デートじゃん!」


 由美が目を輝かせる。


「デートって……」

「だってそうでしょ? 二人きりで水族館だよ」


 由美はにやにやしながら続ける。


「お兄ちゃん、ちゃんと楽しんできなよ」

「まあ……楽しんでくるよ」


 元樹は照れながら答えた。

 朝食を済ませ、元樹は家を出た。


「行ってきます」

「いってらっしゃい! 楽しんでね!」


 由美の明るい声に送られて、元樹は駅に向かった。

 駅前での待ち合わせ

 午前10時。

 駅前は夏休み最後の日ということもあり、家族連れや学生たちで賑わっていた。

 元樹は約束の場所で待っていた。


「少し早く着きすぎたかな」


 時計を見ると、まだ9時55分。

 周りを見渡すと、待ち合わせをしている人たちが何人もいる。


「奈々美……どんな格好で来るんだろう」


 そう思った瞬間、遠くから見覚えのある姿が見えた。


「あ……」


 奈々美が歩いてくる。

 今日の奈々美は、薄いブルーのワンピースに、白いサンダル。

 髪は綺麗に整っていて、小さなヘアピンで留めている。

 夏の終わりを感じさせる、爽やかな装い。


「元樹くん!」


 奈々美が手を振る。

 その笑顔が、朝の光に照らされて輝いている。


「おはよう」


 元樹も手を振り返す。


「おはよう! 待った?」

「いや、今来たところ」

「良かった」


 奈々美は嬉しそうに微笑む。


「じゃあ、行こうか」

「ああ」


 二人は並んで歩き始めた。

 水族館までは、駅から電車で30分ほど。


「今日は暑くなりそうだね」


 奈々美が空を見上げる。


「そうだな。でも、水族館は涼しいから大丈夫だろ」

「うん。楽しみ!」


 奈々美の無邪気な笑顔に、元樹は心が温かくなった。

 電車に乗ると、二人は並んで座った。


「ねえ、元樹くん」


 奈々美が話しかける。


「何?」

「夏休み、もう終わっちゃうね」

「そうだな……」

「でも、今日一緒に過ごせて嬉しい」


 奈々美は元樹を見つめる。


「夏休み最後の日、元樹くんと一緒にいられるなんて」


 その言葉に、元樹は少し照れる。


「俺も……楽しみにしてたよ」

「本当?」

「ああ」


 二人の会話が、電車の揺れに合わせて続いていく。




 午前11時、二人は水族館に到着した。


「わあ! 大きい!」


 奈々美が目を輝かせる。

 入り口には大きな水槽があり、色とりどりの魚たちが泳いでいる。


「チケット、買ってくるよ」

「ありがとう」


 元樹がチケットを購入し、二人は館内に入った。

 薄暗い館内。

 青い光が幻想的な雰囲気を作り出している。


「綺麗……」


 奈々美が小さく呟く。

 最初のエリアは、熱帯魚のコーナーだった。

 色鮮やかな魚たちが、優雅に泳いでいる。


「見て、あの魚! すごく綺麗!」


 奈々美が指差す。


「本当だ。色が鮮やかだな」


 二人は水槽の前で立ち止まり、じっと魚たちを見つめる。


「元樹くん」

「ん?」

「私ね、小さい頃から水族館が好きだったの」


 奈々美は遠い目をする。


「両親が……生きてた頃、よく連れて行ってくれたの」


 その言葉に、元樹ははっとする。


「そうだったんだ……」

「うん」


 奈々美は微笑む。


「だから、今日元樹くんと来られて……すごく嬉しい」

「新しい思い出が作れるから」


 その言葉に、元樹は胸が温かくなった。


「そっか……じゃあ、たくさん思い出作ろうな」

「うん!」


 二人は手を繋いで、次のエリアに向かった。

 その瞬間、元樹は気づいた。

 自然と手を繋いでいる。

 奈々美の手は、柔らかくて温かい。


「あ……」


 離そうかと思ったが、奈々美が嬉しそうに握り返してくる。


「元樹くんの手、大きいね」

「そうか?」

「うん。安心する」


 その言葉に、元樹は手を離せなくなった。

 光明と未菜との遭遇

 次のエリアに入ったところで、元樹は見覚えのある声を聞いた。


「おお! すごいな、これ!」


 振り返ると、そこには光明と未菜がいた。


「光明!?」


 元樹が声を上げると、光明も驚いて振り返る。


「元樹!? お前もここに!?」

「まさかお前がいるとは……」


 二人は驚きながらも、近づいていく。


「あら、こんにちわ、デート?」


 奈々美が挨拶する。


「柊さん……」


 未菜の表情が、一瞬曇った気がした。


「お前ら、デートか?」


 光明が笑いながら聞く。


「まあ……そんなところかな」


 元樹は照れながら答える。


「お前らもか?」

「ああ。夏休み最後だからな」


 光明は未菜の肩に手を置く。


「二人で来たんだ」

「そっか……」


 四人は少し気まずい空気の中で立っていた。

 特に、未菜の視線が奈々美に向けられている。

 警戒するような、探るような目。


「じゃあ、一緒に回る?」


 光明が提案する。


「え、でも……」


 元樹が言いかけると、奈々美が微笑む。


「いいよ。せっかくだし」

「そうか?」

「うん」


 奈々美は穏やかに答えたが、その目の奥には何か別の感情が宿っていた。

 四人は一緒に水族館を回り始めた。




 しばらく一緒に歩いていると、未菜が奈々美に話しかけた。


「柊さん」

「何?」

「元樹くんと、最近よく会ってるんですね」


 その質問には、少しトゲがあった。


「うん。夏休みだし」


 奈々美は穏やかに答える。


「そうですか……」


 未菜は少し考えてから続ける。


「柊さんって、元樹くんのこと、本当に好きなんですね」

「ええ」


 奈々美は躊躇なく答える。


「元樹くんは、私にとって特別な人だから」


 その言葉に、未菜の表情がさらに険しくなる。


「でも……玲ちゃんは?」


 その名前が出た瞬間、空気が変わった。


「上野さん?」


 奈々美は首を傾げる。


「上野さんは関係ないわ、元樹くんが、自分で選ぶもの」


 奈々美は微笑む。


「私は、ただ待ってるだけ」


 その言葉には、自信が滲み出ていた。

 未菜は何か言いたそうにしたが、光明が割って入る。


「おい、未菜。あんまり詮索するなよ」

「でも……」

「いいから。俺たちも楽しもうぜ」


 光明に促され、未菜は渋々頷いた。

 しかし、その目は依然として奈々美を警戒していた。

 元樹は二人のやり取りを見て、複雑な気持ちになった。


「未菜も……玲のことを心配してるんだな」


 当然だろう。

 親友の玲が、今苦しんでいる。

 それを見て、未菜が何も思わないわけがない。


「元樹」


 光明が小声で話しかけてくる。


「大丈夫か?」

「何が?」

「柊との関係」


 光明は真剣な表情で続ける。


「お前、まだ答え出してないんだろ?」

「ああ……」

「早く決めた方がいいぞ」

「わかってる」


 元樹は小さく頷いた。


「でも……まだ」

「焦らせるつもりはないけどさ」


 光明は肩を叩く。


「玲も、柊も、お前の答えを待ってる」

「あまり長く待たせるのは、酷だぞ」


 その言葉に、元樹は胸が痛んだ。


「わかってる……」


 四人はイルカショーの会場に向かった。

 大きなプールの周りに、観客席が設けられている。


「おお、もうすぐ始まるぞ」


 光明が時計を見る。

 四人は前の方の席に座った。

 元樹の隣に奈々美、その隣に未菜と光明。


「楽しみだね」


 奈々美が嬉しそうに言う。


「ああ」


 元樹も微笑む。

 しばらくすると、音楽が流れ始め、ショーが始まった。

 イルカたちが華麗にジャンプし、観客を楽しませる。


「すごい!」


 奈々美が目を輝かせる。

 その無邪気な表情に、元樹は見惚れてしまった。


「可愛いな……」


 思わず呟いてしまう。


「え?」


 奈々美が振り向く。


「何か言った?」

「いや……何でも」


 元樹は慌てて誤魔化す。

 ショーが終わり、四人は次のエリアに向かった。




 次のエリアは、深海魚のコーナーだった。

 暗い館内に、不思議な形の魚たちが展示されている。


「わあ……怖いような、でも綺麗」


 奈々美が水槽に近づく。

 その時だった。


「うわぁぁぁん!」


 突然、近くで女性の悲鳴が聞こえた。


「なんだ!?」


 元樹たちが振り返ると、小さな女の子が泣いている。



「ママ……ママがいない……」


 どうやら、母親とはぐれてしまったようだ。

 周りの人たちが心配そうに見ているが、誰も具体的な行動を取らない。


「大丈夫?」


 奈々美が女の子に近づく。


「ママ……」


 女の子は泣き続けている。


「ママ、探そうね」


 奈々美は優しく女の子の手を取る。


「お名前は?」

「……ゆい」

「ゆいちゃんね。私は奈々美」


 奈々美は女の子の目線に合わせて、しゃがみ込む。


「ママは、どんな服を着てた?」

「……赤い服」

「そっか。じゃあ、一緒に探そうね」


 奈々美の優しい対応に、女の子は少し落ち着いた。

 元樹は、その光景を見て心が温かくなった。


「奈々美……」


 子供への接し方が、とても自然で優しい。


「元樹くん、手伝って」

「ああ」


 元樹も加わり、三人で母親を探し始めた。

 光明と未菜も、別のエリアを探してくれる。


「ママー!」


 ゆいちゃんが大きな声で呼ぶ。

 しかし、返事はない。


「大丈夫。必ず見つかるから」


 奈々美が励ます。

 そして――

 次のエリアに入った時、赤いワンピースを着た女性が慌てて走ってくるのが見えた。


「ゆい!」

「ママ!」


 ゆいちゃんが母親に駆け寄る。


「ゆい、どこ行ってたの! 心配したのよ!」


 母親が泣きながらゆいちゃんを抱きしめる。


「ごめんなさい……」

「もう、離れちゃダメよ」


 母親はゆいちゃんをしっかり抱きしめた後、奈々美と元樹に深々と頭を下げた。


「本当にありがとうございました」

「いえ、無事で良かったです」


 奈々美は微笑む。


「気をつけてくださいね」

「はい……本当に、ありがとうございます」


 母親とゆいちゃんは、手を繋いで去っていった。

 その後ろ姿を見送った後、元樹は奈々美を見つめた。


「奈々美……すごいな」

「え?」

「子供への対応、すごく優しかった」


 元樹の言葉に、奈々美は少し照れる。


「そんなこと……ないよ」

「いや、本当に」


 元樹は真剣な表情で続ける。


「奈々美は、優しい人なんだな」


 その言葉に、奈々美の頬が赤く染まった。


「もう……恥ずかしいこと言わないで」

「本当のことだよ」


 二人が見つめ合っていると、光明と未菜が戻ってきた。


「おお、見つかったのか?」

「ああ。母親と無事に会えた」

「良かったな」


 光明は安堵の表情を見せる。

 未菜も、少しだけ奈々美を見る目が変わった気がした。


「柊さん……優しいんですね」

「え?」

「さっきの対応、すごく良かったです」


 未菜は素直に言った。


「ありがとう」


 奈々美は微笑む。

 四人はその後も一緒に水族館を回り、午後2時頃に外に出た。




 水族館の前で、四人は別れることになった。


「じゃあ、俺たちはこれで」


 光明が手を振る。


「ああ。今日はありがとう」

「楽しかったよ」


 未菜も笑顔で言う。


「柊さん、またね」

「うん。また」


 光明と未菜が去っていった後、元樹と奈々美は二人きりになった。


「疲れた?」


 元樹が聞くと、奈々美は首を振る。


「ううん。すごく楽しかった」

「良かった」

「元樹くん」


 奈々美が呼びかける。


「何?」

「今日、本当にありがとう」

「こちらこそ」


 元樹は微笑む。


「俺も楽しかった」

「夏休み最後の日、元樹くんと過ごせて幸せだった」


 奈々美の目が、優しく輝いている。


「また……会えるよね?」

「ああ。学校が始まっても、また会えるだろ」

「そう...だよね」


 奈々美は嬉しそうに微笑んだ。


「じゃあ、帰ろうか」

「うん」


 二人は駅に向かって歩き始めた

 駅までの道を歩きながら、二人は今日の思い出を語り合った。


「イルカショー、すごかったね」

「ああ。奈々美、すごく楽しそうだった」

「うん。元樹くんと一緒だったから」


 奈々美は元樹の腕に手を絡める。


「元樹くんと一緒だと、何でも楽しいの」


 その言葉に、元樹は胸が温かくなった。


「俺も……奈々美と一緒だと、楽しい」

「本当?」

「ああ」


 二人は自然と歩調を合わせ、寄り添いながら歩いていく。

 駅に着くと、奈々美の電車の時間まで少しあった。


「少し、座って待とうか」

「うん」


 二人はベンチに座った。


「ねえ、元樹くん」


 奈々美が口を開く。


「何?」

「新学期が始まったら……ううん、何でもない」


 何か言いかけた菜々美に、元樹は少し考えてから答えた。


「ああ……また一緒に出掛けような」

「良かった」


 奈々美は安心したように微笑む。

「でも……」

「でも?」

「まだ決めてないんだよね」


 その言葉に、元樹は頷く。


「ああ……まだ」

「わかってる」


 奈々美は優しく言う。


「焦らないで。ゆっくり考えて」

「でも、私は諦めないから」


 その宣言に、元樹は何も言えなかった。

 電車の到着を告げるアナウンスが流れる。


「行かなきゃ」

「ああ」


 奈々美が立ち上がり、元樹も一緒に立つ。


「今日は、本当に楽しかった」


 奈々美が元樹を見上げる。


「ありがとう」

「こちらこそ」


 元樹も微笑む。

 その時、奈々美が少し躊躇してから、元樹に抱きついた。


「え……」

「ごめん」


 奈々美は元樹の胸に顔を埋める。


「少しだけ……このままでいさせて」


 その温もりに、元樹の心臓が激しく跳ね上がった。


「奈々美……」

「元樹くんの温もり……忘れたくないの」


 その言葉に、元樹は何も言えなくなった。

 ただ、奈々美を抱きしめ返すことしかできない。

 しばらくして、奈々美が顔を上げた。


「ありがとう」

「ああ」

「また、連絡するね」

「うん」


 奈々美は電車に乗り込み、窓から手を振る。

 元樹も手を振り返す。

 電車が動き出し、奈々美の姿が遠くなっていく。

 一人残された元樹は、大きく息を吐いた。


「奈々美……」


 今日一日、奈々美の色々な顔を見た。

 楽しそうな笑顔。

 子供に優しく接する姿。

 そして、最後の抱擁。


「俺は……本当に、どうしたいんだろうな?」


 その問いに、答えはまだ見つからない。

 でも、確実に心は動いている。


「玲……」


 玲の顔も浮かぶ。

 優しくて、いつも元樹のことを考えてくれる玲。


「どうすればいいんだ……」


 元樹は重い足取りで、家に向かった。

 家に帰って

 午後6時、元樹は家に帰り着いた。


「ただいま」

「おかえり、お兄ちゃん」


 由美が出迎える。


「どうだった? 楽しかった?」

「ああ……楽しかった」


 元樹は靴を脱ぎながら答える。


「でも、疲れた」

「そっか」


 由美は兄の表情を見て、何かを察したようだった。


「お兄ちゃん、複雑な顔してるね」

「そうか?」

「うん」


 由美は続ける。


「奈々美さんと、楽しかったんでしょ?」

「ああ」

「でも、玲さんのことも考えてるんでしょ?」


 その指摘に、元樹は頷いた。


「わかるよ……大変だね」


 由美は優しく言う。


「でも、ちゃんと決めないとね」

「わかってる」


 元樹は部屋に向かった。

 ベッドに横になり、天井を見つめる。


「夏休みが終わる……」


 新学期が始まれば、また日常が戻ってくる。

 玲とも、毎日顔を合わせることになる。


「答えを出さないと」


 元樹は決意を新たにした。

 夏休み最後の夜・玲からのメッセージ

 午後9時。

 元樹が部屋でぼんやりしていると、スマホが震えた。

 玲からのメッセージだった。


『元樹、今日はどうだった?』


 元樹は少し迷ったが、正直に返信することにした。


『楽しかった。奈々美と水族館に行ってきた』


 しばらくして、玲から返信が来た。


『そっか。良かったね』

『玲……ごめん』

『謝らないで』


 玲は続ける。


『元樹が自分の気持ちを確かめるのは大切なことだから』


 その優しさに、元樹は胸が痛んだ。


『でもね、元樹』

『何?』

『もう新学期だね』

『ああ』

『ちゃんと答えを聞かせてほしいな』


 玲の言葉に、元樹は息を呑んだ。


『わかった』

『急かしてるわけじゃないの。でも……』

『私も、ずっと待ってるのは辛いから』


 その正直な気持ちに、元樹は申し訳なさでいっぱいになった。


『ごめん、玲』

『謝らないで』

『明日……話そう』

『わかった。待ってる』

『おやすみ、元樹』

『おやすみ、玲』


 メッセージを閉じた後、元樹は深く息を吐いた。


「明日……答えないとな...」


 その決意を胸に、元樹は夏休み最後の夜を過ごした。

こんばんは、玲です。

夏休みが終わりましたね……。

長かったはずなのに、気づけば一瞬のようでした。


元樹は、まだ答えを出してくれていません。

でも、それでいいんです。

彼が本当に自分の気持ちに向き合ってくれるなら。


奈々美さんと過ごした一日が、

元樹の中でどんな意味になったのか……

私は、明日ちゃんと聞きます。


怖いけれど、逃げません。

それが“好き”という気持ちだから。


――玲

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