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第十七話

 虚空教団ベイリル=オラリオン――その名が示す存在は、もはや単なる「第三勢力」ではなかった。

 彼らは戦場に介入せず、剣も振るわず、ただ観測し、必要とあらば世界の流れそのものへと指を差し入れる。

 その在り方は、セイセス=セイセスのような破壊者とは異なる。だが、より厄介で、より根深い。


 アルフレッドは歩きながら、グラウの言葉と仮面の声を反芻していた。

 自分は“例外”であり、“逸脱”であり、記録すべき対象だと彼らは言った。

 それは脅しでも警告でもない。

 ただの事実確認に過ぎないからこそ、胸の奥に重く沈んだ。


 だが――。


 セイセス=セイセスを潰す。

 その意志だけは、揺らがない。


 灰の荒原で見たものは、あくまで通過点に過ぎなかった。

 黒い石、異形化、狂気じみた実験、そしてグラウの愉悦に満ちた眼差し。

 あれらはすべて、結社が積み重ねてきた罪の一端でしかない。


 虚空教団の出現によって、戦いの“盤面”は確かに変わった。

 単なる復讐劇ではなく、より大きな流れの中に、自分が組み込まれつつあることも理解している。

 だが、だからといって剣を収める理由にはならなかった。


 観測されようと構わない。

 干渉されるなら、斬り返すだけだ。


 アルフレッドは城砦跡を振り返らず、荒原を後にする。

 灰の中に刻まれた足跡は、やがて風に消えるだろう。

 だが、その進路だけは、誰にも消せない。


 セイセス=セイセスを討つ。

 その先で、虚空教団ベイリル=オラリオンが立ちはだかるのなら――それもまた、斬るべき敵となるだけだ。


 世界が変わろうと、構図が歪もうと、選択は変わらない。


 アルフレッドの戦いは終わらない。

 より深く、より苛烈な闇へと踏み込むことになろうとも、彼は前へ進む。


 灰の彼方、西方の空に薄く光が差し込む。

 それは夜明けではない。

 新たな戦場が、静かにその姿を現し始めている兆しだった。



 灰の荒原を離れてなお、アルフレッドの感覚は研ぎ澄まされたままだった。

 戦いは終わったが、世界の奥底で蠢く気配は、むしろ以前よりもはっきりと輪郭を持ち始めている。


 その中心にあるのは――黒い石。


 腰の装具に収めた欠片が、微かに脈動していた。

 鼓動のように、不規則に、だが確かな方向性を伴って。


 アルフレッドは歩みを止めず、視線だけを落とす。

 黒い石は光を放たない。音も立てない。

 だが魔剣士としての感覚と、超常の身体が拾い上げる“歪み”が告げていた。

 これが偶然ではないことを。


 ――導かれている。


 セイセス=セイセスが各地にばら撒いた実験拠点。

 黒い石の集積点。

 異形と狂信が生まれる温床。


 グラウは去ったが、結社そのものは健在だ。

 むしろ今回の一件で、彼らはアルフレッドを「脅威」として明確に認識したはずだった。


「……好都合だ」


 呟きは風に溶ける。


 隠れて動く敵ほど厄介なものはない。

 だが、警戒し、分析し、狙ってくるなら話は別だ。


 西方街道をさらに進むにつれ、景色は徐々に変化していった。

 灰に覆われた荒野は薄れ、代わりに乾いた岩山と、朽ちかけた集落の跡が現れる。

 人の営みが、確かにここにあった痕跡だ。


 だが――生きている気配はない。


 家屋の壁には、黒い結晶が蔦のように食い込み、地面には歪んだ魔術陣の痕が残されている。

 逃げたのではない。

 “使い尽くされた”のだ。


 アルフレッドは足を止め、剣を抜かずに周囲を観察する。

 風の流れ、地面の摩耗、結晶の侵食具合。

 戦う前から、敵の性質を読み取る。


「即席の実験場……いや、前線拠点か」


 黒い石の反応は、集落の奥――地下へと伸びていた。

 隠す気はない。

 むしろ、辿り着けと言わんばかりの配置だ。


 罠か。

 それとも、別の“観測”が絡んでいるのか。


 アルフレッドは思考を切り替える。

 虚空教団ベイリル=オラリオンの存在は頭から消さない。

 だが、今はそれ以上に明確な敵がいる。


 セイセス=セイセス。


 この地で何が行われ、誰が指揮を執っているのか。

 それを確かめ、破壊する。


 それが自分の旅路であり、剣を振るう理由だ。


 地下へ続く石階段の前で、アルフレッドは立ち止まる。

 魔力を内側で循環させ、身体能力を静かに引き上げる。

 限界を超える必要はない。

 ここは、ただの“次の戦場”に過ぎないのだから。


 剣を構え、一歩、闇へ踏み出す。


 黒い石の導きは、確かにそこにあった。


 そして――

 セイセス=セイセスとの戦いは、まだ始まったばかりだった。



 石階段を降りるにつれ、空気は明らかに変質していった。

 湿り気を帯びた冷気の奥に、金属と血、そして黒い石特有の鈍い瘴気が混じり合い、肺の奥に沈殿するようにまとわりつく。ここはもはや地下ではない。意図的に“環境そのものを歪めた空間”だ。


 アルフレッドは歩幅を崩さず、足音すら制御しながら進む。

 剣はまだ抜かない。

 敵がどの段階で気づき、どう迎撃するか――それを知ること自体が、戦いの一部だった。


 やがて通路は広がり、半円状の大広間へと繋がる。

 天井は低く、岩盤に無理やり刻まれた補強梁が蜘蛛の巣のように走り、その隙間に黒晶が打ち込まれていた。脈打つような光が、呼吸に合わせて明滅している。


 人の声が聞こえた。


 祈りではない。

 詠唱でもない。

 命令だ。


「第三区画、反応上昇。侵入者一名」


 冷静で、感情の起伏がない。

 狂信者特有の陶酔はないが、それ以上に不気味な均一さがあった。


 次の瞬間、広間の左右に設けられた隔壁が同時に開き、黒装束の兵が姿を現す。

 人数は六。

 全員が同じ装備、同じ歩調、同じ眼の光をしている。


 ――統制個体。


 セイセス=セイセスの実働部隊の中でも、選別された者たちだ。


 アルフレッドはそこで初めて剣を抜いた。

 刃に雷光を走らせはしない。

 ただ、魔力を薄く纏わせ、切れ味と反応速度を極限まで高める。


「退路を断ち、拘束優先。生死は問わない」


 指揮役の声が響いた瞬間、兵たちは一斉に動いた。

 だが速いだけではない。互いの死角を完全に補い合い、アルフレッドの動線を潰しにかかる。


 良い連携だ。

 ――だが、足りない。


 アルフレッドは半歩だけ踏み込み、最初の斬撃を放つ。

 剣が振られた瞬間、空気が裂け、雷の前兆が走る。


 真正面の兵が反応するより先に、胴体が静かにずれた。

 斬られたことを理解する暇もなく、肉体は二つに分かれ、床に崩れ落ちる。


 同時に背後から迫る刃。

 アルフレッドは振り返らない。踵で床を蹴り、常識外れの速度で後退しながら、剣を逆手に回して突き出す。


 喉を貫かれた兵が音もなく倒れる。


 残る四人が距離を取った。

 彼らは理解したのだ。

 数で押せる相手ではない、と。


「解析を更新。通常近接戦では対応不可」


 声が変わる。

 わずかだが、そこに“高揚”が混じった。


「第二段階を投入する」


 床の魔術陣が光り、広間の中央が沈み込む。

 黒い石を核とした装置がせり上がり、その表面に無数の符号が走る。


 次の瞬間、装置が破裂するように開き、中から現れたのは――人型だった。


 だが、それは人ではない。


 骨格は人間のそれを基にしているが、関節の数が異常に多く、筋肉は黒晶と融合し、表皮の下で蠢いている。

 顔は仮面のように固定され、感情というものが存在しない。


「……やはり来たか」


 アルフレッドの声は低く、冷静だった。


 異形は一歩踏み出すだけで床を砕き、空気を震わせる。

 純粋な膂力と魔力強化。

 無駄がなく、だからこそ殺しに特化している。


 だが――それでも。


 アルフレッドは剣を構え、魔力の循環を一段階引き上げた。

 雷が刃に宿り、青白い閃光が広間を照らす。


「いいだろう。

 次は俺が、お前たちを分析する番だ」


 異形が跳躍する。

 それを迎え撃つように、雷光が奔った。


 地下拠点は、もはや実験場ではない。

 ここは――確かな戦場となった。


 そしてアルフレッドは、その中心に立っていた。



 異形が空中で体勢を崩すことはなかった。

 雷光を正面から受け止めたにもかかわらず、黒晶と融合した骨格が軋む音を立てるだけで、その質量と勢いは微塵も削がれず、むしろ衝撃を推進力へと変換するかのように、さらに速度を増してアルフレッドへと迫る。


 ――なるほど。


 アルフレッドは刹那の間に理解する。

 これは単なる強化個体ではない。

 受けた攻撃を解析し、最適化する“反応兵器”だ。


 剣を振り抜く角度をわずかに変え、真正面から迎え撃つのをやめる。

 踏み込みをずらし、相手の進行軸を外すと同時に、超常の身体能力を解放し、常人なら視認すらできぬ速度で側方へと跳躍した。


 次の瞬間、異形の拳が通過した空間が歪み、背後の岩壁が爆音と共に粉砕される。

 衝撃波が地下全体を揺らし、天井から黒晶の欠片と岩屑が雨のように降り注いだ。


 だがアルフレッドは止まらない。

 着地と同時に地面を蹴り、空中で体を捻りながら剣を振るう。


 雷光が弧を描き、異形の肩口を深く切り裂いた。

 黒晶が砕け、腐臭を帯びた蒸気が噴き出す。


 しかし――致命傷には至らない。


 異形は自らの損傷を一切気に留めず、関節を異様な角度に折り曲げ、即座に次の攻撃動作へと移行する。

 肉体そのものが「戦うための構造体」に書き換えられているのだ。


「いい反応だ」


 アルフレッドの口元がわずかに歪む。

 恐怖ではない。

 高揚でもない。

 戦士としての、純粋な評価だった。


 背後で、生き残っていた黒装束の兵が動く。

 異形の攻撃に合わせ、魔術拘束具を展開し、空間そのものを縛り上げる術式を展開し始めた。


 連携。

 無駄のない、理詰めの殺し。


 だが――それでも。


 アルフレッドは剣を低く構え、魔力の流れを変調させる。

 雷だけではない。

 風、熱、そして純粋な運動エネルギーを一つに束ね、刃の内部で圧縮する。


 次の瞬間、彼は“消えた”。


 否、消えたように見えただけだ。

 視認できない速度で距離を詰め、異形の懐へと潜り込んでいた。


 剣が走る。

 一閃ではない。

 三度、五度、十度――瞬きの間に放たれた連続斬撃が、異形の関節、魔力導管、黒晶の核を正確に切断していく。


 異形の動きが、初めて乱れた。


「解析、追いつか――」


 兵の声が途中で途切れる。

 アルフレッドは振り返りもせず、剣を投擲する。

 雷を纏った刃は一直線に飛翔し、詠唱中だった兵の胸を貫き、壁へと縫い止めた。


 同時に、異形が崩れ落ちる。

 膝をつき、黒晶の核が露出し、不安定な輝きを放つ。


 アルフレッドは歩み寄り、剣を再び手に取る。

 表情は変わらない。


「構造は優秀だ。だが――」


 刃を核へと突き立てる。


「使う相手を間違えたな」


 雷光が爆ぜ、黒晶が粉砕され、異形の肉体は内側から破裂した。

 衝撃が地下拠点を揺るがし、魔術装置が次々と悲鳴を上げる。


 静寂が戻る。


 だが、それは終わりを意味しない。


 広間の奥、さらに深い区画から、別の気配が立ち上っていた。

 数ではない。

 質だ。


 アルフレッドは剣についた黒い液体を振り払い、視線を闇の奥へ向ける。


「……まだいるな。

 本命は、もっと下か」


 黒い石の脈動が、はっきりと強まった。


 セイセス=セイセスの次なる拠点は、

 ようやく――牙を剥き始めていた。



 地下の奥から立ち上る気配は、先ほどまでの統制兵や反応兵器とは明確に質を異にしていた。

 数の圧ではない。

 殺意の濃度でもない。

 それは――意志だ。


 アルフレッドは瓦礫を踏み越え、さらに深部へと進む。

 通路は狭まり、壁面には黒晶が脈絡なく露出し、まるで血管のように赤黒い光を走らせている。

 ここは拠点の最下層。

 戦闘区画ではなく、運用と実験、その中枢だ。


 足を踏み入れた瞬間、空気が張り詰めた。


「歓迎しよう、魔剣士」


 闇の奥から声が響く。

 低く、抑制されているが、その底に確かな愉悦が潜んでいる。


 現れたのは一人の男だった。

 黒衣ではあるが、兵のそれとは違う。装飾を排し、機能と象徴だけを残した外套。

 胸元には、黒い石を精密に加工した制御核が埋め込まれている。


「ここは前線拠点だが、私が責任者だ。名乗る必要もあるまい」


 男はゆっくりと歩み出る。

 その足取りは人間のものだ。

 だが、床に刻まれる重さが違う。魔力で強化された肉体――しかも極めて洗練されている。


「セイセス=セイセスは、君を敵として評価した。

 だから私は、こうして直接出向いた」


 アルフレッドは剣を下げたまま、男を観察する。

 呼吸、重心、魔力循環。

 どれも破綻がない。


「……研究者か」


「半分はな」


 男は笑った。


「だが残りの半分は、実証だ。

 理論は戦場で完成する。そうだろう?」


 次の瞬間、男の背後に魔術陣が展開され、黒晶が共鳴を始める。

 異形化ではない。

 強化でもない。


 ――同調。


 空間全体が男の魔力に引きずられ、地下区画そのものが一つの兵装へと変貌する。


 床が隆起し、壁が歪み、無数の黒晶片が浮遊して配置につく。

 それらは即席の砲台であり、刃であり、盾だった。


「君の戦い方は見た。

 分析も済んでいる」


 男が指を振る。


 空間が裂け、黒晶の刃が四方からアルフレッドへと射出された。

 同時に床が沈み込み、足場を奪いにかかる。


 アルフレッドは一切の焦りを見せない。

 剣を振るうのではなく、踏み込む。


 常識を無視した加速。

 空中を蹴り、飛来する刃を身体能力だけでかわしながら、最短距離で男へと迫る。


「近接は無意味だ」


 男の声が冷える。


 次の瞬間、男の前に展開された黒晶障壁が、アルフレッドの斬撃を受け止め、衝撃を拡散する。

 だが、それで終わりではない。


 アルフレッドは剣を押し込まない。

 代わりに、刃を引き、体勢を崩し――拳を叩き込む。


 魔力と身体能力を同時に解放した一撃が、障壁ごと男を吹き飛ばした。

 壁が砕け、制御核が悲鳴を上げる。


「……その距離でも来るか」


 男は瓦礫の中から立ち上がる。

 口元が歪み、抑えていた感情が漏れ出す。


「いい。実にいい。

 やはり君は、観測対象で終わる器ではない」


 黒晶がさらに輝きを増す。

 地下区画が完全に戦場へと変貌し、逃げ場は消えた。


 アルフレッドは剣を構え直す。

 雷光が刃を覆い、空間が震える。


「話は終わりだ」


 低く、確かな声。


「実証なら――

 俺が、ここで終わらせる」


 次の瞬間、雷と黒晶が激突し、地下拠点全体を揺るがす轟音が響き渡った。

 セイセス=セイセスの牙と、魔剣士の刃。


 新たな戦いは、もはや後戻りのできない段階へと踏み込んでいた。



 雷鳴の余韻が地下区画に反響し、砕けた黒晶の欠片が雨のように降り注ぐ中で、男――セイセス=セイセス前線拠点の責任者は、なおも崩れぬ姿勢を保ったまま、瓦礫の中からゆっくりと立ち上がった。

 制御核に走った亀裂からは赤黒い光が漏れ、空間そのものが不安定に軋み始めているにもかかわらず、その表情には恐怖ではなく、抑えきれぬ興奮が浮かんでいた。


「素晴らしい……理論値を軽々と踏み越えてくる。

 魔剣士という枠では、もはや説明がつかないな」


 男が指を鳴らすと、空間に浮遊していた黒晶片が一斉に再配置され、床と天井、壁面を含めた全方位から幾何学的な魔術陣を形成する。

 それは防御でも攻撃でもない。

 戦場そのものを“演算装置”へと変えるための布陣だった。


 アルフレッドは一瞬で理解する。

 この男は、自分と正面から打ち合う気はない。

 戦いの過程そのものを、次なる兵器と実験の礎にするつもりだ。


「――悪趣味だな」


 低く呟いた瞬間、アルフレッドは踏み込んだ。

 床が変質し、重力が歪むのを感じながらも、超常の身体能力で強引に均衡を保ち、雷光を纏った剣を横薙ぎに振るう。

 刃は空間を裂き、黒晶の陣列をいくつも粉砕するが、それと同時に砕けた欠片が魔力を帯び、逆流するように再び彼へと襲いかかった。


「データは十分だ。

 君の加速、反応、魔力干渉率……すべて想定以上」


 男の声が、もはや拠点全体から響いてくる。

 制御核を介し、空間そのものと同化し始めているのだ。


 アルフレッドは足を止めない。

 剣で斬り、拳で叩き、雷撃で黒晶を焼き払いながら、確実に“核”へと距離を詰めていく。

 この手の敵は知っている。

 どれほど戦場を広げ、理屈を積み上げようと、要は中枢を破壊すれば終わる。


「分析は好きにしろ」


 雷が剣身に収束し、刃が白熱する。


「だが――

 俺は、お前らの実験結果になるつもりはない」


 次の瞬間、アルフレッドは床を蹴り砕き、空間歪曲の中心へと一気に踏み込んだ。

 重力が反転し、視界が裏返る感覚の中で、彼は制御核の真正面へと躍り出る。


 男の眼が見開かれた。


「そこまで踏み込むか……ッ!」


 だが遅い。

 雷と魔力、肉体の力を完全に重ね合わせた一撃が、黒晶の制御核へと叩き込まれる。

 轟音とともに核が砕け、空間を支えていた演算構造が連鎖的に崩壊していった。


 地下拠点全体が悲鳴を上げる。

 壁が裂け、床が崩れ、黒晶は制御を失ってただの石屑へと変わる。


 瓦礫の中で、男は膝をついた。

 それでも笑っていた。


「……やはり、君は危険だ。

 セイセス=セイセスにとっても、世界にとってもな」


 アルフレッドは剣を下ろし、男を見下ろす。

 情けも躊躇もない。


「それを選んだのは、お前らだ」


 次の瞬間、拠点は完全に崩落を始める。

 アルフレッドは踵を返し、崩れ落ちる通路を疾走しながら地上へと脱出した。


 背後で、セイセス=セイセスの拠点が音を立てて潰え、黒い石の気配が一つ、確実に消滅する。


 だが彼は立ち止まらない。

 これは終わりではない。

 次なる拠点、次なる敵が、すでにその先で待っていることを、彼自身が誰よりも理解していた。


 黒い石は、なおも微かに脈打ち、さらなる戦場の方角を示している。

 アルフレッドは視線を西へと向け、剣を肩に担いだ。


「……行くぞ」


 復讐の旅は、もはや単なる私怨ではなく、世界そのものを揺るがす戦いへと変貌しつつあった。


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