第一章(3):予期せぬ選択と、未来への招待
「えー!!!」
私の叫び声が、神界の庭園に木霊する。
あの日から、私の時間が止まっているだなんて!?
いやいや、そんな展開、少女漫画どころか深夜アニメでも滅多に聞かない、常識外れのぶっ飛び設定ではないか!
混乱で頭の中がぐるぐるする中、私は目の前のエリアス様を、もはや胡散臭い発明家を見るような目で凝視した。
「君が、あの日、眠りについて、ルシアン君のアクスタを鍵として、勇者たちの世界に来たよね。あの眠りについている間、佐倉花君の時間はストップしていたんだよ。ピタッとね!」
エリアス様は、涼しい顔でそう言い放つ。まるで「今日の天気は晴れですよ」とでも言うかのように。
「セラフィナ君を勇者たちの世界に召喚したのは、何を隠そう、この私だ。佐倉花君とセラフィナ君が同じ魂を持っていること。そして何より、君のルシアン君への『推し愛』にかけて、君を呼び寄せたんだ。もし、佐倉花君の世界に帰りたいと思うなら、いつでも元の世界に戻れるようにと、ずっと考えていたんだ。勝手に私が召喚したのだからね。君が望むなら、佐倉花としての人生を送ることもできるよ」
私の心臓が、ジェットコースターに乗ったかのように跳ね上がった。
元の世界に帰れる?
佐倉花としての人生を送れる?
そんな選択肢が、本当に私の目の前にちらついているだなんて、誰が想像できただろうか!
しかし、私の心には一切の迷いもなかった。
「そんなこと、望んでませんっ!」
私は反射的に叫んだ。
ルシアン様と離れるなんて、冗談じゃない!
この世界で、ルシアン様と共に生きることこそが、私の何よりも大切な「推し活」なのだ。他の人生なんて、私には必要ない!
その私の言葉を聞いたルシアン様が、すっと私の隣に歩み寄ると、私の手を優しく握りしめる。
「当然だ。俺も、お前と離れるつもりはない」
彼の真剣な眼差しに、私の胸は甘く締め付けられた。もう、きゅんが止まらない。
「ルシアン様……!」
私たちは見つめ合い、お互いの存在の尊さを確かめるように、そっと手を握りしめ合った。まるで、世界に私たち二人しかいないかのように。
「あら、あら。熱いわねぇ」
エリアス様は、そんな私たちを見て、まるでドラマの結末を見届けたかのように、にこやかに微笑んだ。
「あら、そんなに深刻に考えないで。ただ、私が日本に行くから、ついでに一緒に行く?って思っただけ。別に、帰れるし」
「え?」
「帰ってこれるんですか!?」
思わず身を乗り出した私に、エリアス様は「もちろん」とあっさり頷いた。この軽やかさ、神様だから許されるのだろう。
「セラフィナ君がこの世界を行き来する鍵はね、他ならぬ私の神力が込められたルシアン君のアクスタさ!これさえあれば、理論上は何度でも行ったり来たりできるわけなんだ。以前はね、空間に歪みを生じさせることもあったんだ。現に、君を勇者たちの世界に召喚した時、私はその歪みを意図的に生じさせ、世界を救うために利用させてもらったんだけどね。だが、今は君自身がガイアの神力を吸収した宝珠を持っているよね?あの宝珠の力があるからこそ、君がアクスタを使って移動する際には、空間の歪みがほとんど生じないようになっているんだよ。その点は安心してくれて構わない!ま、今回は私も一緒だから心配はないよ!」
「そしてね」
エリアス様は、私の様子をじっと見つめながら、とどめの一言を放つ。
「今回私が日本に行くことで、止まっていた佐倉花の時間が動き出す。もし君が一緒に行かないなら、君の不在が周囲に知られてしまうだろう。だから、これが日本に戻る最後のチャンスだよ!」
それを聞いて、私の頭の中では、様々な考えが駆け巡った。
帰れるのなら、少しだけ、元の世界を見てみたい気持ちもある。
お父さん、お母さん、どうしているだろう?
もしかして、私のことをずっと心配しているのだろうか?
いや、待てよ。
時間が止まっているなら大丈夫なはず……いや、違う!
エリアス様が時間を動かし始める、と言ったではないか。
もしそうなれば、私がいないことに両親が気づいてしまうのではないか!?
ああ、どうしよう、心配をかけてしまう……!
「どうしよう…時間が動き出したら、お父さんもお母さんも、きっと心配するよね…?」
不安と期待が入り混じった声が、自然と口からこぼれ落ちた。