第一章(1):宝珠の輝き、緊迫の神界へ
【シリーズ第三部】
「転生したら推しが魔王様になってた件~①三千年の時を超えて会いに行きます!」
「転生したら推しが魔王様になってた件~②魔界に行っても推し活は健在です!」の続編となります。
登場人物たちの背景や物語の展開を深く理解するためにも、よろしければ先に第一部からお読みいただけると幸いです。
第一部はこちら: https://ncode.syosetu.com/n8840kn/
第二部はこちら: https://ncode.syosetu.com/n0934kp/
婚約発表の喜びに沸き立っていた白亜の城の庭に、突如として冷たい空気が流れ込んだ。
私たち全員の宝珠が、けたたましく光を放ち始める。
「……!」
宝珠の輝きが収まると、その光の中から、神界のエリアス様の声が響き渡った。
「ルシアン君、セラフィナ君、そして勇者たちよ。緊急の連絡だ」
エリアス様からの直接の、しかも神界への召喚。
それは、よほどの事態であるということを意味していた。平和に慣れ親しんでいた私たちの心臓が、警鐘を鳴らすように激しく打ち始める。
「ガイアが、また何かやらかしたのか……」
カスパール君が、不機嫌そうな声で吐き捨てるように呟いた。その表情には、苛立ちと、隠しきれない不安が入り混じっている。
私もまた、同じ疑問と恐怖に苛まれていた。せっかく築き上げた平和な日々が、またもや崩れ去るのではないか。この世界が、再び危険な状態に陥るのではないか。そんな懸念が、胸の奥底を冷たく締め付けていく。
「急いで祈りを捧げなくては……!」
ローゼリアちゃんが、真剣な面持ちで両手を胸の前で組み、今にも神殿へ駆け出そうと慌て始めた。その瞳には、世界の平和を願う純粋な思いと、私たちを案じる色が浮かんでいる。
カスパール君は迷うことなく、一歩踏み出し、ローゼリアちゃんの肩をそっと抱き寄せた。
ローゼリアちゃんは驚いたように目を見開いたが、カスパール君の腕の中に収まると、張り詰めていた体が少しだけ緩んだようだった。
「おい、そんなことしてる暇があるなら、とっとと準備しろ。無駄な労力だ、そんな祈りなんて。俺たちがいる限り、何もさせないから、安心しろ」
ぶっきらぼうな言い方だったが、その声には微かな優しさが含まれており、その言葉はローゼリアちゃんの心にじんわりと染み渡るようだった。彼女はカスパール君の胸に顔を埋め、小さく頷いた。
私もまた、不安で胸がいっぱいだった。視線を隣にいるルシアン様に向けると、彼もまた、私の心情を察したかのように、心配そうな目で私を見つめ返した。言葉を交わさずとも、互いの心に渦巻く懸念が痛いほど伝わってくる。
普段は冷静沈着で、感情を内に秘めるタイプのアルドロンさんが、真剣な面持ちで妻のリリアさんの元へ歩み寄った。
リルは、突然の緊迫した空気に戸惑い、不安げにアルドロンさんの服の裾を掴んでいる。
「リリア、すまないが、リルを頼む」
アルドロンさんの声は、いつになく重かった。リリアさんは、夫の言葉から事態の重大さを察し、静かに頷く。彼女の瞳には、夫への深い愛情と、得体の知れない不安が入り混じっていた。
「あなたも、気をつけて。必ず、無事に帰ってきてください」
リリアさんの声は震えていたが、その表情には強い意志が宿っていた。
アルドロンさんは、リルを抱き寄せると、優しくリリアさんの腕の中に収めた。
一瞬だけ交わされた視線には、言葉にならないほどの信頼と、未来への願いが込められていた。
私たちは、躊躇なくそれぞれの宝珠を構える。
その光は、まばゆいばかりに城の庭を照らし出した。
「行くぞ!」
ルシアン様の短い号令と共に、私たちは光の渦に包まれていく。
心臓の鼓動が、耳元で激しく鳴り響く。
神界で何が待ち受けているのか、誰にも分からない。
しかし、確かなのは、この光の先に待つものが、私たちの想像を絶するほどのものであるということ。
「今度こそ、ルシアン様も、みんなも、そしてこの世界も守り抜く……!」
私は、心の中で強く誓った。
目の前に広がる光の向こう側で、神界の扉が、静かに開かれようとしていた。
その重々しい開門の音は、まるで世界の命運を告げる鐘の音のように、私たちの耳に深く響き渡った。