第16話:王の犠牲/前編
ネストの格納庫に、けたたましい警告音が鳴り響いた
「敵襲!所属不明機、高速で接近ッ!」
管制室から響いたのは、悲鳴に近い絶叫だった
その声に、整備中だったアダリズたちが弾かれたように顔を上げる
ブラインは息を呑み、モニターに映し出された一点の光を睨んだ
その光は、あまりにも速く、そしてあまりにも真っ直ぐに、このネストを目指していた
「なんだこの信号は…!?バカな、ありえん!」
隣でコンソールを叩いていたイオロが、血の気の引いた顔で叫ぶ
「あの残骸だ!自己修復して位置情報を…!まずい、もうそこまで来てるぞ!」
その報告と、管制室からの絶叫がほぼ同時だった
解析を続けていたあの残骸が、結果としてこの襲撃を招いたのだ
「総員、迎撃用意」
ファルシアの冷静な声が、格納庫の混乱を断ち切る
だが、敵の到着は彼らの準備が整うよりも早かった
ネストを覆う岩盤が、轟音と共に砕け散る
粉塵の向こうから現れたのは、誰もが見たことのない異形のフェザーフレームだった
そこにあったのは、神話から抜け出たかのような、白銀のグリフォン
翼を持つ獅子の如きその機体は、無機質なカメラアイで静かにネストを見下ろしている
その姿は神々しく、同時に底知れぬ冒涜を感じさせた
「なんて機体だ…」
誰かが呆然と呟く
だが、感嘆の声を上げる暇はなかった
白銀のグリフォンは、その巨大な翼を一度羽ばたかせると、音もなくネストの防衛ラインへ突入する
「リース、ギャレス、散開して撹乱しろ」
ファルシアの指示が飛ぶ
ネストのアダリズたちが、それぞれの機体でグリフォンを迎え撃つ
だが、彼らの攻撃は白銀の装甲に触れることすら叶わない
グリフォンは最小限の動きで全ての攻撃をいなし、あるいはその分厚い装甲で弾き返す
そして、その反撃はあまりにも無慈悲だった
ハチドリが舞うように放たれたリースのドローンは、翼から放たれた光の鞭に一瞬で薙ぎ払われ、制御を失い爆散する
ギャレスの機体は、レールガンを発射する直前、その鋭いクローによって砲身ごと胴体を貫かれ、まるで玩具のように引き裂かれる
悲鳴を上げる間もない、一方的な蹂躙
パイロットは誰だ
ブラインの脳裏に、あの赤い機体を駆っていた男の顔が浮かぶ
「エフニス…」
だが、モニターに映るグリフォンの動きには、かつて彼が感じた狂気や激情は微塵も感じられない
ただ、無表情に、無言のまま、プログラムされた破壊を遂行する機械のようだった
ブラインのことも、ネストのアダリズたちのことも、まるで認識していないかのように
その圧倒的な力の前に、次々と仲間たちが地に伏していく
格納庫に残されたのは、ブラインのクレセントと、ファルシアのヘブリンだけになっていた
白銀のグリフォンは、ゆっくりとこちらへ向き直る
その無機質なカメラアイが、ブラインを捉えた気がした