43.花冠に土柱
女の子に手を引かれ、トーリは、リンリが座る、背の低い草が生い茂る、草むらまで歩いて来る。
そこではリンリが黙々と花冠を編み続けて、その近くでリクロは、リンリが花冠を編む様子を、ボーッと見つめていた。
リンリが編む花冠は、全て緻密に編みこまれ、一種類の草花だけで編まれ、シンプルであるにも関わらず、飽きを感じさせない、計算されたリズムのある意匠が組みこまれている。
トーリは無造作に置かれている花冠の一つを、屈みこんで見つめる。
「ほぉ、ずいぶんと器用だねぇ。美しいな」
そんなトーリの言葉に、女の子は「でしょっ!」と元気に言うと、地面に置かれている花冠を、一つ拾い、うっとりとした表情で見つめる。
女の子が花冠を手に取った瞬間、リンリは女の子に顔を向け、不安定な、ガタつくような、揺らめきのある動きで、立ち上がる。
すると、やけに横に揺れる歩き方で、女の子に近づいていく。そして、花冠を持っている方の、女の子の腕を掴む。
女の子は、驚いた表情で、跳ねるような動きをして、リンリを見る。
リンリは、花冠を壊れないように掴むと、無表情で、しかし大人びた硬い滑らかさのある、丸い目を見開いて、女の子を見つめ、「やっ、かいしてっ」と小さいが、余裕のない声で言う。
女の子は、少し身を引き、「え、あ、ご、ごめん」と目を泳がせながら、言い、花冠を手放す。
リンリは花冠を受け取り、すぐに女の子に背を向けると、元の位置に戻っていく。
女の子は「あ、その」と小さく呟くと、そんなリンリをチラチラ見ながらも、気まずそうに草むらから離れていく。
そんな女の子の背中に、一瞬、見ると、団子虫を弄びながら、その場に座りこみ、胡坐をかいて、花冠を編むリンリを見つめる。
その場には、しばらくリンリが草花を摘ままれ、草花の細い茎が擦れる、儚い音のみが響き渡る。
やがてリンリが、また一つ花冠を編み終えると、トーリを見る。
そんなリンリに、トーリは小首を傾げる。
するとリンリは、四つん這いになり、花冠を踏まないようにして、トーリに近づいていく。そしてリンリは、トーリの前で膝立ちになると、フードで覆われたトーリの頭に花冠を乗せる。
そんなリンリに、トーリは「ふぅん、いいの? ありがとね」と言う。
リンリは、一つ頷くと、トーリの肩を掴み、なにも感情を読み取れない、冷ややかな目でトーリを見つめる。
トーリは、そんなリンリに、「ん?」と呟き、また小首を傾げる。
「あぁ、なるほどね。大丈夫大丈夫。君がここにいるくらいなら、不都合はないからさ。むしろ君がここに潜んでてくれるなら、こっちも助かるからさぁ」
そう言うと、トーリは広めの歯茎のが目立つ、陰湿な笑みを浮かべる。
「だから安心しろよ。〔尻尾付き〕」
そのタイミングで、その場に、近づいて来る足音が響き、リンリは元の位置に戻っていく。足音の主は、トーリの隣まで来ると、座りこむ。
トーリは隣を見ると、そこにはシュカが居り、「あぁ、シュカか」と呟く。
そんなトーリに、シュカは振り向き、微笑みかける。
その瞬間、急に、草むら全体の地面から、鋭い、土の柱が、天を突くようにして伸びていく。




