42.河川
一族の水飲み場となっている、住居区の近くの、流れのゆるい川まで、トーリたちは、子どもたちを連れてきた。
川に着くと、レクを先頭に、一直線に、川にかけていく子どもたちと、足を引きずりながらも駆けるリンリ、それを追うリクロを傍目に、トーリとシュカは、近くの木の下に、布を敷くと、そこに二人腰かける。
腰かけてすぐに、トーリは、シュカが腕にかけているバスケットを掴む。
シュカは、そんなトーリを小首を傾げ、見ると、バスケットを渡す。
トーリは受け取ったバスケットを開き、自分の分のサンドウィッチを取り出し、ためらいなく食べ出す。
そんなトーリに、シュカは「えぇ、トーリちゃん」と呆れ気味の、小さい声で、呼びかける。
トーリは、そのシュカの呼びかけに、「ん?」と呟き、首を傾げるような、小さい動きで、少し、シュカに顔を向ける。
「別に、今でも、後でも、一緒じゃん」
そう言うと、シュカから顔を逸らすと、トーリは、子どもたちが遊んでいる川の方を見つめながら、かなり早いペースで、ガツガツと、サンドウィッチを小さくしていく。
そんなトーリに、シュカは「はぁ、もう」とため息交じりに呟く。
しばらく二人が、川の方を、ボーッと見つめていると、いつの間にか、子どもたちは全員で、巨大な何かを抱え上げていた。
それにトーリは「なんだ、アレ」と呟き、シュカを見る。
シュカも首を傾げる。
すると子どもたちの中から「トォーリィー」と叫ぶ、レクの声が響く。
トーリは、一回子どもたちの方を向き、またシュカを見ると、横に、首を振ると、面倒そうな動きで肩をすくめる。
シュカは、そんなトーリの様子に、口元に、少し手を当て、小さく笑う。
トーリは鈍い動きで立ち上がると、「なんなんだよ」と吐き捨て、子どもたちの元まで歩いていく。
そんなトーリの後ろ姿を、シュカが微笑まし気に見つめる。
トーリが川までやって来ると、子どもたちは、全員で巨大な魚を抱えてあげていた。
川までやって来たトーリに、レクが、得意げな笑顔で見る。
「どうだトーリ。スゲェだろっ! おまえ、こうゆうの好きだろ?」
そう自慢げに言う、レクに、トーリは「はぁ? なにそれ」と冷たく、あしらうように言う。
すると子どもたちの中から、周りより、少し、背の低い、幼い女の子が、大きな声を上げる。
「レクちゃんが、つかまえたのっ!」
女の子は、巨大な魚を指さし、嬉しそうに、そう言うと、トーリに駆け寄っていく。
するとトーリは、幼い女の子に、柔和な笑みを浮かべ、抱き寄せる。
「そっかそっか、レクが捕まえてくれたんだねぇ。良かったねぇ」
トーリは、自らの胸の位置にある、女の子の頭をなでる。
女の子は抱き着いた、トーリの顔を見上げ「うんっ!」と嬉しそうに頷く。
そんな女の子の様子に、トーリは横目で、レクを見る。
「レクも、たまには良いことすんじゃん」
「たまにはってなんだよっ」
「けっ、めんどくせぇな。これだからボンボンのガキは」
トーリの、その言葉を聞いたレクは「んだとっ、てめぇっ!」と叫び、トーリに飛びかかる。
するとトーリの襟から、芋虫が這い出て来て、その背中から、団子虫が出て来て、閉じる。
団子虫が閉じると、トーリと女の子の周りを、覆い、包むくらいの、大きさの団子虫の、黒い虚像が現れる。
レクは、その団子虫の虚像に激突し「いてっ!」とうめき声を上げる。
トーリは、そんなレクを鼻で笑う。
すでに魚を、川に離した、他の子どもたちが、心配そうに「レクちゃん」と呟く。
すると、トーリに抱きかかえられた、女の子が、トーリを見上げ「ねぇねぇ」と呼びかける。
「あっちでね、リンリちゃんが、ハナカンムリつくってて。すごく、じょうずだったのぉ!」
トーリは、団子虫を片手で持ち、女の子を見下ろしながら「へぇ」と呟く。
女の子は、トーリの空いている方の、手を握り「きて」と言い、トーリの手を引き、駆けていく。
そんな二人の背中に、レクが「おいっ!」と声をかけるが、二人は振り向くことなく、駆けていく。




