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39.わずかな不穏


 それから、ある日、住民の憩いの場となりつつある広場で、大きめな木に、トーリは背を預け、周りに小型の《蟲》を放ち、それが這う姿に、フードに隠れた顔を向けるだけで、何かをしている様子は、いっさいない。


 沈殿した濁りの燻りびような、ゆっくりとした時間が流れている、と錯覚していまいそうになる、そのトーリの様子を、子どもたちが数人ほど集まり、遠巻きに、怪訝そうにうかがっている。


 子どもたちに見られているにも関わらず、トーリは、いつまで経っても、これといった反応を示すことなく、蛞蝓の鈍い進みに、顔を向けている。

 なんの反応も示さないトーリに、子どもたちは困惑気に目配せし合うと、少しづつ近づいていく。

 するとトーリは、木から背を離すと、少し身じろぎし、すぐにまた背を預け直す。


 そんなトーリの、一瞬の動作にも、子どもたちは、すぐさま身を引く。しかしトーリが、それ以上、反応しないと分かると、また近づき始める。


 その瞬間、トーリが座っている、木の上から、先頭の男の子に、何かが飛びかかり、その腰に巻きつく。

 男の子は「なっ、なんだっ!」と驚きの声をあげ、巻きつかれた、自らの腰を見る。


 そこには木の上から、体を伸ばしてもなお、男の子の腰を一周しても、なお余裕があるほどに長い、尺取虫が巻きついていた。

 尺取虫は、男の子を引っ張ると、宙につるしあげる。

 男の子は、尺取虫から抜け出そうと、もがくように暴れている。


 すると、その時、いっさい身動きしなかったトーリが、立ちあがり、尺取虫につるされる男の子に、顔を向ける。


「んだよぉ、ガキども。みせもんじゃねぇぞぉ」


 そしてトーリは、そう面倒くさそうな声を、男の子にかける。


 男の子は、そんなトーリに「なにすんだっ! はなせっ!」と怒鳴りつける。


 トーリは、怒鳴り声をあげる男の子を、鼻で笑い、他の子どもたちに馬陸を放つ。

 子どもたちは、馬陸から散らばって逃げ、それを馬陸は追いかけるが、その動きは、あまりにも鈍く、子どもたちを捕まえることができない。


 そんな様子を、トーリはため息をつき見つめると、やがて「待ちやがれぇ」と声をあげ、子どもたちを追いかけ始める。

 しかしトーリ走り出して、すぐに足をもつれさせて、盛大に転ぶ。


 すると尺取虫から抜け出した男の子が、トーリの横を、おちょくるような軽い足取りで「へっ、だっせっ」と吐き捨て、通り過ぎる。


 男の子の、その言葉を聞いたトーリは、荒い動きでフードに手を突っこみ、頭をかくと、ゆっくりとした動きで立ちあがる。そして黒い粒子を体から溢れさせると、蜻蛉を呼び出す。





「てめぇっ、空とぶなんて、ひきょうだぞっ!」


 先ほど尺取虫に巻きつかれて男の子が、今度は馬陸に巻きつかれ、座りこんだ状態で、子どもたちを見おろすトーリを睨みつけながら、食ってかかる。


 そんな男の子に、周りの子どもたちは、同じく馬陸に巻きつかれながら「レクちゃん」と、くたびれた声で呼びかけると、トーリをうかがうように見る。

 トーリは、周りの子どもたちからレクと呼ばれた男の子に、顔を向け、見下すような笑みを浮かべる。


「はっ、これだからガキはよぉ。今の自分の立場が、まだ分かってないようだなぁ、レク?」


 そう言うトーリを睨みつけ、レクは「きやすく呼ぶんじゃねぇ」と吐き捨て、その小さい口を開く。


「てか、おまえ、聞いたけど大人なんだろ? 子どもた相手に、はずかしくねぇのか? 大人のやることじゃねぇだろ。あっ、てことは、やっぱ見た目どおりガキなんだな」


 トーリに対して、レクは、その口をバカにするに歪め、そう挑発する。


 そんなレクの挑発に、トーリは口元を、一瞬、小さいなヒリつきを持って引きつらせると、続けて「こいつっ、なめやがってっ」と吐き捨て、レクに飛びかかる。そしてレクに覆いかぶさると、その頬をつねりあげる。


 レクは「なにすんだっ、やめろっ!」と叫びながら、トーリを、小さい脚で引きはがそうするように蹴る。


 そんなモメあいとなる二人を、子どもたちは困ったように、目配せしあいながら、見守る。



―――――――――


 やがて子供たちと別れたトーリは、いつものように〔ブレイン〕に囚われていた人たちを集めた住居に、怠そうな足取りで向かいながら、「なんだったんだ、あのガキは」と疲れ気味に呟く。


 しばらく歩き、住居が見えて来ると、そこには何人かの住民が集まっており、更にそこからは獣じみた、けたたましい唸り声まで響いてくる。

 それにトーリは、顎に手を当てると、「ふむ」と呟き、その人だかりに近づき、人だかりの前まで来る。


 すると人だかりの中の、一人の、若い男が、トーリに気づき「あ、トーリさん」と声をかける。


 その声に、他の者たちもトーリに気がつくと、脇に寄り、道を譲る。

 人だかりが脇に寄りできた、隙間の先には、土に拘束された一人の男が、そこから抜け出そうと体が傷つくこともいとわず、激しくもがいている。


 そんな男を見ると、トーリは胸元から芋虫を這いあがらせ、馬陸を出すと、男に巻きつかせ拘束すると「これは、中の人たちと同じ」と呟き、住居を見る。そして次に、最初に声をかけてきた若い男を見る。


「ちょっと彼を部屋に運ぶの手伝ってくれない?」


 トーリは、馬陸で拘束した男を、顎で指しながら言う。

 そんなトーリに、若い男は「は、はい」と頷く。


 それを聞くと、トーリは「じゃ、よろしく」と言い、部屋に入っていく。


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