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38.寄生の厄災


 ある日、トーリはいつもとは違う時間帯にシュカとリクロ、そしてリンリの暮らす、相変わらずボロボロな外観の住居までやってくる。そしてトーリは住居の扉の前まで来て、ドアノブに手をかける。


 その瞬間、住居の中から、獣じみた唸りのような、男と少女の湿った声が、漏れ聞こえて来る。


 そんな漏れ聞こえる声に、トーリは、ドアノブにかけた手を止めると、考えこむように、少し、顔を伏せる。するとドアノブから手を離し、住居の崩れた部分を補っている、コンクリートや土、植物が混ざった壁に近づいていく。

 そして住居の中を覗ける隙間を見つけると、そこから住居の中の様子を覗きこむ。


 住居の中では、中肉中背の男、リクロが裸でうずくまるような姿勢で、うつ伏せとなっており、蠢くような、粘着質な細かい動きで、震えるように体を揺らしていた。

 そしてリクロがうつ伏せとなっている下からは、ガタつくように変形し、歪な肉づきとなった、細い脚が飛び出ている。

 やがてリクロが、少し身じろぎし、姿勢をずらすと、その腕の中から、リンリの姿が、一瞬、覗く。


 一瞬、露わとなったリンリは、口の端から、透明度の高い涎を垂らしながら、獣じみた荒い鋭利さのある薄ら笑いを浮かべている。


 そしてリクロは、またすぐにリンリに顔を近づけ、体の揺れを激しくしていく。

 その瞬間、リンリの、歪な変形をしている脚が跳ね、足先がピンと張り、足の指が握りこまれ、しばらく細かく震える。


 トーリは、そこまで見ると、中の様子を覗くのを止め、考えこむように、少し顔を伏せる。


「あれは、まさか、〔ブレイン〕が人間の肉体を乗っ取った?

確かに〔ブレイン〕は生体の活用や理解に関しては、人類が太刀打ちできない領域にいる。現に、奴らは、この世のありとあらゆる繁殖方法が可能な生物で。人間の体に卵を植えつけ、羽化した例も、ある。

だが、今まで〔ブレイン〕が人間の体を乗っ取ったなんて、聞いたこともない。

乗っ取ったとしても、そもそも〔ブレイン〕は言語を理解する能力がない。コミュニケーションの依存先が、言語ですらないのだから」


 そう早口に、延々と独り言をまくし立てると、住居を補っている壁に、背をつけ、もたれかかる。

 そして、続けて「そう、あり得ない。いや、しかし」と呟くと、急に顔をあげ、更に「いや、そうか。もし奴なら」とも呟く。


「最悪の〔ブレイン〕の一角、〘尻尾〙だったとしたら? 最も、新しく断頭してきたにも関わらず、人類に、ただいな被害を与えている怪物。その能力の全容は、いまだにほとんど把握できていない、未知数の〔ブレイン〕」


 そして、また少し顔を伏せる。トーリの顔にかかる、ヒリつきのある陰りが、深くする。


「〔〘尻尾〙のブレイン〕について、分かっているのは〔尻尾付き〕の存在だけ。

〘尻尾〙の因子を取りこませることで、どんな〔ブレイン〕でも段違いな力を手に入れる。しかも〘尻尾〙の因子は、危機的状況になったら、宿主を見捨てて、別の〔ブレイン〕に取り込まれることになる。

その脅威は、まさに〔原初のブレイン〕ファムファタルの再来」


 そしてトーリは、顔をあげる。


「情報は少ないが、ここから予想できる〔〘尻尾〙のブレイン〕の力のいったんは寄生。そして人類を凌駕するほど、生体を理解し、活用できる種族の、最高峰の固体であれば」


 そう言うと、粘度のある動きで口角をあげる。圧迫感を持って連なる、小粒で、細い歯がむき出しとなる。


「想定外だけど、なかなか良い手札がそろったかも、だねぇ」


 そしてトーリは、もたれかかっていた壁から、背中を離し、ゆっくりと歩きだす。


 するとトーリの前方から、シュカが歩いてくる。

 トーリは、シュカに軽く手をあげ、笑いかける。

 シュカも、それに笑い返し「トーリちゃん」と呼ぶと、トーリの顔を、少し見つめ「あら、何かいいことでもあった?」と尋ねる。


 トーリは、その問いかけに、小首を傾げ、「ん? そう見える?」と返す。


 シュカは、それに頷く。


「えぇ、何があったの? 教えて?」

「はは、内緒ぉ。それより天気いいし、ちょっと歩こ? リクロには言ってあるからさ」

「そうなの? じゃあ、行きましょうか」


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