表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/43

37.リンリとリクロ


「まぁ、私の母親の話しはどうでもよくて。それよりリンリの、あの口調なんだけど」


 しばらくの沈黙の後に、トーリは、いまだにリクロと身を寄せ合っている、リンリを見つめながら、シュカに声をかける。そして続けて「元からあんな幼い喋り方だったのかい?」と問いかける。


 そんなトーリの疑問に、シュカも首を傾げながら、リンリを見る。


「いいえ、年相応だった、って言うか。同年代よりも、少し大人びてた方だったはずで」


 シュカの返答に、トーリは「そう」と呟き、リンリから目を逸らす。シュカも、リンリから目を逸らすと、腕の中に納まる、トーリのつむじを見おろす。


「正直、私は、リンリだけは絶対に助からない、って考えてたんだけどねぇ。未成年が麻薬、使うみたいなものだからさ」


 そう言うと、トーリは顎をさすりながら、思案気な顔をして、続けて口を開く。


「考えられるとしたら、依存症のストレスからの防衛のために記憶喪を消して、後遺症として幼児退行してしまった。もしくは〔ブレイン〕がリンリの脳の回路か、何かを破壊したことによる後遺症で、こんな状態になったか」


 そしてトーリは、続けて「まぁ、でも、私は専門家でもないからなぁ」と言い、更に「なんで回復したかは、分からんなぁ」と言い、首を、横に振ると、少し顔を伏せる。


 シュカも「そう、なのね」と呟くと、またトーリを引き寄せ、その少し脂ぎったテカリの浮く、長い髪で覆われた後頭部に、顔をうずめ、目を閉じる。

 しばらく、そのまま状態で黙りこむと、やがて目を開くと「トーリちゃん、最近ちゃんと体、拭いてる?」と、じっとりとした目で、トーリに問いかける。


 トーリは「あぁ、えっと」と、しどろもどろに呟き、シュカから離れようと体を動かす。


 しかしシュカは黙りこんだまま、トーリが逃げないように、抱きつく力を、更に強める。


「ダメよ。トーリちゃんだって女の子なんだから。綺麗にしないと」


 そんなシュカの言葉に、トーリは弱々しい動きで、頬をひっかく。


「今どき、男とか女とか、関係ないじゃん」

「いや、男の人とか女の人とかじゃなくてね? ふつうは綺麗にしておくものよ?」


 嫌そうに言うトーリに、そうシュカは言い、トーリを抱いた状態のままで膝から降ろし、立ちあがる。そして抱きしめているトーリを、引きあげるようにして、立ちあがらせる。

 そんなシュカに、嫌そうにしながらもトーリは、逆らうことなく立ちあがる。


「えぇ、だ、だって、水、冷たいまんまじゃん。寒くてさぁ。せ、せめて風呂に」


 トーリは、そう弱々しい顔で、シュカを見ながら言う。

 シュカは、トーリを抱く、腕の、片方を解くと困ったように、解いた方の手を、困ったように頬に当てる。


「お風呂とかは、ぜいたくはできないんだけど。でもトーリちゃん、お風呂あっても入るのかしら?」


 そう言うと、シュカはうっすらと浮く、ほうれい線の掘りを深め、困り気味の微笑みを浮かべ、トーリを抱きしめる腕を完全に解く。

 そんなシュカの微笑みに、トーリは気まずそうに視線を逸らし、黙りこむ。


 トーリの、その態度に、シュカは困ったように小首を傾げ、トーリの手首を掴む。そしてトーリを引き連れ、二人は部屋を出て行こうとする。


 そんな二人の後ろ姿を、リンリが、リクロの腕の中で、静かに見つめていた。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ