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33.日常


 トーリは、シュカとリクロの住居について行き、部屋の中で、三人は、一緒の時間を過ごす。シュカとリクロの間には、重たい沈黙が落ちており、その二人の様子を、トーリも黙って見つめる。

 やがてトーリは、座った姿勢のまま、シュカの傍らまで這うようにして、近づいていく。地面に敷いた布の端がめくれる。


 そんなトーリを、シュカは小首を傾げ、見下ろす。


 トーリは、シュカに、すり寄るようにして、体をくっつけ、腕を絡ませ、少しうつむく。


「二人とも、ごめんね。いきなり見せて」


 その言葉に、シュカは、トーリの頭をなでながら、リクロと目を合わせる。トーリの、べたつきを持った、少し癖のある長い黒髪が、微かに揺れる。


 シュカは、もう一度、トーリに視線を戻し「えっと」と困惑気に呟く。


 そんなシュカの肩に、トーリは、のしかかり、上目遣い気味に、シュカの顔を見あげ、口を開く。


「家族のあんな姿、無理やり見せられたら、もう彼らの世話するなんて、できなくなって当然だよ」


 トーリは、そう言うと、また少し俯く。トーリの顔に、髪が、濡れるようにかかり、陰りを作る。

 シュカは困ったように「そんなの、気にしなくたって」と言い、やがて「あぁ、そういうことなの」と何かに、気がついたように呟く。


 その呟きに、トーリは気まずそうに、顔を逸らす。


 シュカは、そんなトーリの肩に腕を回し、抱き寄せる。


「だから、トーリちゃん、最初にリンリの体、拭いたのね。私たちが、やめても仕方ない理由を作るためにじゃない?」


 そう言い、微笑みながら、シュカは、トーリの顔を隠す髪を、その指先でかきあげ、耳に引っかける。

 かかっていた髪の奥からは、トーリの、少し不満げな仏頂面が露わとなる。


「だって、これからあんな状態の娘、見続けることになるんだよ?」


 トーリは横目で、シュカを見あげるながら言い、すぐに目を逸らす。

 シュカは、苦笑しながら、トーリを見おろす。


「そんなこと気にしてたの? 私たちは大丈夫よ。それに、これじゃあ、いつまでもトーリちゃんに頼りっぱなしになっちゃうもの」


 そう言いながら、シュカは、トーリを抱きしめると、リクロの方を見る。

 そんなシュカに、リクロも「あぁ」と頷く。


 リクロに頷き返し、シュカは、またトーリを見おろす。


「それに私たちは、戦いでは、役に立たないから。これくらいはしたいの。皆が大変なのに、なにもしないなんて、嫌なの」


 そう言う、悲し気な顔の、シュカの目を、トーリは見あげ、少し見つめる。

 そんなトーリと目を合わせながら、シュカは、小首を傾げる。


 トーリは「そんなことないよ」と呟き、またシュカから目を逸らすと、続けて口を開く。


「二人は、家族が大変なのに、それでも皆のことを考えれて、行動もしてる。それに、ここの皆が、どれだけ励まされてるか。二人が挫けないで、辛い現実と戦ってる。その姿がここにいる皆の、挫けない理由になってる。確実に、役に立ってるよ」


 そっぽを向きながら、トーリは言う。


 そんなトーリを見ながら、シュカは「トーリちゃん」と呟く。


 トーリは、そう呟くシュカに、気まずそうに癖のある髪を、指に巻きつけるように、いじりながら、一瞬、横目を向ける。


「でも、二人が無理をして、限界になったら、絶対、ここの皆に、良い影響はないと思う。皆のためになりたいんでしょう? そうなったら本末転倒だよ」


 そう言いながら、ぶっきらぼうな動きで、シュカの手を握ると、何でもないことのように「だから、無理しちゃダメだよ」と呟く。

 それにシュカは、リクロと目を合わせながら、笑い合うと「えぇ、もちろん私たちは、大丈夫よ」と言い、リクロも同様に頷く。


 そんな二人を、トーリは、一瞬、横目で見ると、すぐ逸らし「なら、良いんだけど」と呟く。


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