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31.一族の今後


「【セキコ】は、最も寛容な国の代名詞でもあるんだ」


 意味深なトーリの、その言葉に、ロクは顔をあげ、トーリの顔を見つめる。


 それを見て、トーリは、お盆の上の、少し冷めてしまった湯吞を手に取り、すする。そして湯呑を唇から離し、湯呑の中の、お茶の水面を見つめながら、一息ついてから、口を開く。


「【セキコ】が君たちの排除を考える理由は、ひとえに君たちの討伐に、手間取ることはない、って考えてるからだよ」


 そしてトーリは、湯呑を、お盆の上に置き直すと、その節くれだったように関節が目立つ、細い指の、華奢な手を持ち上げる。


「この国はねぇ、部外者を徹底して排除しようとする、傍ら、〔ブレイン〕の対処に追われて、時間がなくてね。だから彼らは、時間の取られず、かつ見逃せない問題にしか、対処しない。できないんだよ」


 トーリは、華奢な、自らの手を見つめながら、続けて「まぁ、対処できる、って判断すると、すごい粘着質なんだけど」と小さく呟く。


「だからねぇ、もしも、この国に、対処に時間がかかる、って判断させれば、一気に手を引かせることができる。おまけで、役に立つ人材だ、とも証明できれば、不干渉どころか、秘密裏に、多少の便宜も図ってくれるかもね。医療機関の提供、みたいな?」


 トーリの言葉に、ロクは「なるほど」と頷くと、少し俯き、考え込むように、その細い顎をなでる。

 そんなロクを見つめながら、トーリは、ガタつくような反りの目立つ、人差し指を立てる。


「そこで、君たちに、提案なんだけど。一つ、裏稼業に、手を貸してはくれないかい?」


 ロクは、俯いていた顔を、ゆっくりと上げ、険しい表情で、しばらくトーリを見つめると、やがて重々しく口を開く。


「我らが一族に、汚れ仕事の業を背負え、と?」


 その問いかけに、トーリは手を降ろし、胡坐の上で手を組むと、少し俯く。そして、組んだ手を見つめながら、小さく頷く。


「まぁ、そうだねぇ。君たちの能力的に、血筋が重要そうだし、ちょっと複雑かもね。でも、もしも、協力してくれる、っていうんだったら、君たちの生存ルートの確保を、約束しよう」


 そう言いながら、トーリは身じろぎのように、小さく、静かな動きで、ロクに改めて向き合う。一瞬、微かにフードの奥に入り込んだ光により、滑らかさを持って、鋭利に釣り上がる細い、一重の目が、チラつく。

 そして、見つめてくるロクに対し「どうする?」と問いかける。


 ロクは、その問いかけに、しばらく黙り込み、やがて「なにを、するんだ?」と聞き返す。


 そのロクの問いかけに、トーリは、少し口角を釣り上げながら、口を開く。


「実は、ちょうど最近、人身売買じみたことをしてた武闘派組織があってねぇ。彼らは、外国人を奴隷にしてたわけでさぁ。

それでも、侵入してくる外国人の削減は、できてはいた、ってんで、見逃されてきてたんだけど。

今、いろんな所から信頼を失っててね。もう壊滅を待つだけ、みたいな状態なんだ」


 そう言いながら、釣り上げた口角を自嘲気味な、ゆがませ方をし「同じ国民として、恥ずかしい限りだよ」とも呟く。


「というわけで、私としては、君たちを、こいつらの後釜に据えたい、と思ってるわけだ。君たちが排除が困難で、それと同時に、外国人の侵入を阻む、有用な人材である、と分かれば、この国は君たちの存在を、必ず黙認する。悪い話じゃない、と思うけど、どうだい?」


 そんなトーリの提案に、ロクは、少し黙り込むと、やがて「少し、考えさせてくれ」と答える。

 ロクの返答に、トーリは「うん、しっかり考えるといいよ」と言いながら、小さく頷く。


 ロクは、骨っぽさの目立つ、痩せた顔に、疲労をにじませ、トーリを見る。


「すまない。それと、本当にありがとう」

「はは、気にすんなよ。これも荷物運びの、仕事の一つさ」


 真っ直ぐと礼を言うロクに、そう軽く、流すような声でトーリは答える。

 トーリが一息つくように、湯呑を持ち、茶をすする。それに倣うように、ロクも湯呑を持ち、茶を飲む。


 するとトーリが、急に「あっ」と声を漏らし、ロクを見ながら、続けて口を開く。


「そいやさぁ、ここって、充電器かコンセントとか、って、やっぱりないかなぁ」

「あぁ、すまない。そういうのは、なくてな」


 ロクの答えを聞くと、トーリは「そっかぁ」と残念そうに呟く。


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