9.腕輪
腕輪には綺麗な虹色の石がついている。
「その石に触れてみて。」
ブラストに言われて右手の人差し指で触れてみる。
「わっ。」
光が身体を包み込み、眩しくて目を閉じた。
数秒後、
「目を開けてごらん。」
目を開けると色白の手が見える。
???
「君は今、普通の人間に見えるよ。
僕の魔道具のおかげでね。ちなみに…。」
「兄上、勝手に話を進めないでくれ。」
クライシスがいつの間にか近くにいた。
手には丸まっている紙を持っている。
この姿は、昔、伝承の本で見たイラストを再現したらしい。
黒髪ロングのサラサラヘアー、紺色のブレザーの制服、ローファー。
顔が気になる。
部屋にある備え付けの鏡の所へ行き、顔をよく見る。
ゲームの聖女の顔とは違う。
普通のどこにでもいる顔だった。
美人とか、可愛い系じゃないの?
本当に普通の人間だった。
クライシスが吊り目のイケメン、ブラストは可愛い系、顔面偏差値が自分と釣り合わない…。
クライシスがブラストに、つけている腕輪をくれ、と夜中に連絡したらしいが、お断りされたみたいだ。
代わりの物を用意するからと。
私の姿のままでは色々不都合があるかもしれないから、腕輪が必要だとクライシスは考えた。
ちなみに、変身時間は不明とのこと。
「試作品だから、不都合があるかもだけど、ごめんね。」
私は実験台か?
いや、人間に戻れるならいいか。
それが、短い時間だとしても。
そういえば…。
「ク、じゃなくて、アルジさん、聖女さくらの身体?ってどこにいるんでしょうか?」
クライシス改め、アルジに質問してみた。
「アルジって、呼ばせるの?へー。じゃあ、僕はトラストって呼んで。君は白いからシロ。」
ブラストが話に割って入ってきた。
「ダメだ。そいつはクロと名付けたんだ。」
アルジが拒否した。
「身体もこの世界にきているはずだ。ただし、どこにいるか分からない。」
えっ。
「聖女の身体を見つける、ブラストにそれは任せる。」
「ど、どうやって見つけるのですか?」
アルジは手に持っている紙を両手で広げた。
懸賞金をかけて探すらしい。
聖女さくらの似顔絵が描いてあった。
「この紙を一斉にばら撒く。近いうちに見つかるだろう。」
アルジが得意げに言う。
いや、無理じゃなかろうか。
全然似てないじゃないか。
「これは誰が描いたんですか?」
うっかり訊いてしまった。
「俺に決まっているだろう。」
武力も魔法も最強なのに、絵が下手だったのか。
これはこれでいいか。
いや、良くない。
「紙とペンはありますか?」
ブラストが、いつも持ち歩いているから、と貸してくれた。
テーブルに紙とペンを置き、椅子に座って集中する。
よし、と気合いを入れて聖女の似顔絵を描いた。
我ながらよく描けている。
絵を描くのは得意なんだ。
職業にはならなかったけど。
アルジと目が合う。
「俺の次に上手いな。仕方ない、お前の描いた絵も追加しておくか。」
描いた紙を取り上げられて、アルジの紙に吸収されていった。
不思議な光景だらけだ。
アルジがそれを真上に投げて何か呟くと、鳥の形になって飛んでいってしまった。
「準備が出来次第、出発する。まずは朝食だ。」
不安でしかない。
あれ?まだ変身しない方が良かったんじゃないの?