5.嘘はつかない方がいい
城から離れて街のなかにまぎれる。
似たような建物が並び、その一つの前で立ち止まる。
扉には城でみた宝石?と同じような物が埋め込められていた。
クライシスが扉を開けて指をパチンと鳴らすと中が明るくなる。
「中に入れ。」
入るとテーブル、椅子が2脚、ベッド、簡素なキッチンがあった。
クライシスが椅子を引く。
「座れ。喋っていいぞ。」
大人しく命令に従った。
「わ、私の事が分かるんですか?」
おどおどしながら訊いてみた。
「俺は神様の加護が兄弟一強くてね。夢で神託があったのさ。キッドが最初に邪魔してきたのに、逆恨みされてしまった。お前は本当は絶世の美女、聖女さくら、として生まれ召喚されるはずだった。
キッドはいたずらが大好きでね。魔王の封印を解いたきっかけも、キッドが関わっているのさ。お前の知っていることをすべて話せ。そうすれば縄を解いてやる。」
ケイと名乗った人物はキッドというのか?
私はどこから話せばいいのか混乱した。
「お前が知っているこの世界の話だ。そうそう、嘘をつくのはオススメしない。お前に知能があればな。」
微笑みながら怖いことを言っている。
「この世界はおそらく、私がいた世界のゲームの物語、なんて説明したらいいか…。」
「いい、そのまま続けろ。」
頬杖をつきながら右手でしっしっ、とされた。
右手の人差し指には白い石のついた指輪をはめているのが見えた。
「ま、魔王の封印が解かれてしまって、森から魔物が出始める。神殿側と王家は言い伝えに従い、聖女召喚を実行する。聖女は城に連れて行かれ、さ、3人の王子の中から、1人選び、一緒に魔王を倒しに行く…。」
「どうやって魔王を倒すんだ?」
クライシスはつまらなそうな顔をしている。
「えーっと…知りません。」
そう言った途端に、クライシスは笑い出した。
「嘘をついたな?」
クライシスは右手の指輪を見せた。
石が濃い灰色になっている。
嘘をつくと色が変わるのか?
「まぁ、もう一度チャンスをやる。ついでに教えてやるが、お前に悪意があればその身の保証はしない。扉の魔石を見ただろ。あれには仕掛けがあってな、まぁいい。どうやって倒す?」
話したくないが、仕方がない。
「お、皇子が持つ石が武器の形に変身するんです。
変身させるには、聖女と親密度を上げなければなりません。最後に聖女が持つ石で魔王を封印する。」
「…親密度?お前と恋仲になれというのか?」
クライシスが吹き出した。
「それと、魔王は討伐じゃないのか?なぜ封印なんだ。」
「魔王が強すぎるんです、弱らせて封印なんだと思います。」
ゲームの流れがそうなので、考えたことがなかった。
「俺とお前の2人で行動するのか?他に一緒に行くやつはいないのか?魔王はいつ復活するんだ?まだ弱い魔物しかでてきていないから、騎士団でなんとかもっているが。俺が行こうとすると、なぜか不都合なことが起きやがる。」
たぶんゲームの強制力が働いているのかもしれない。
なにか大事なことを忘れている気がするが、思い出せない。
「それ以上は思い出せません。」
クライシスは、あ、とつぶやいた。
「腹は減っていないか?」
そういえば、ずっとなにも食べていない。
お腹が空いたような気もする。
いや、怪人ってなにを食べるんだ。
あれ、トイレにも行ってないけど、この身体ってどういう構造だろう?
そもそもこの身体になってから、一度も全身の自分の姿を見ていない。