23.急展開
今、祈りの森にいるのは魔王、ケイ、私だけだ。
ヴィルトシュバインもいなくなった。
「それじゃあ魔王の勝ちで終わりにしようか。」
ケイが呑気な声で言った。
「私はもう嫌だ。この世界を、ループを終わらしたい。私の存在自体を消してくれ。」
魔王が頭を抱え、膝から崩れ落ちた。
「うーん、僕には無理かなぁ。僕も神様の端くれだけど。この世界の強制力が強すぎるんだよね。プレイすることは出来ても、物語を破壊することはできないなぁ。この世界の神様に頼んでみるしかないかなぁ。やってくれるかはわからないけどね。」
ふと思いついた。
アルジは神様の加護を受けている。神の愛し子だ。
アルジの頼みなら聞いてもらえるのではないか。
「わ、わ、私に考えがあります。アルジをここに呼びだしましょう。」
私は手を挙げて喋った。
心臓がバクバクしているし、冷や汗がすごい。
「その必要はない。」
バサッバサッと羽音が上空から聞こえる。
あ、あ、あ、あ、あ、あ…アルジ!!!
「な、な、な、な、な、な、なんでぇ。」
アルジがヘミングと一緒に…。
「ヒーローは遅れてやってくる、というだろう。」
え、この世界にヒーローという概念があるの?
ちょっと分からないツッコミを心の中でしてしまった。
「お前、クロか?間抜け面だな。」
ククッとアルジが笑った。
「記憶があるの、なんで?バグが消したはず。」
ケイが言った。
「神の強制力が薄れたからな。城まで身体は飛ばされたが、記憶は削除できなかったみたいだな。」
アルジが魔王を正面から見た。
「俺もこの世界が嫌いだ。新しい時代が必要だと思う。魔王、お前を俺が救ってやる。クロ、協力してくれ。悪いようにはしない、たぶんな。」
魔王に嘘は通用しない。
アルジの本心だ。
私は二つ返事をした。
「神を呼び出す。クロは、神がここに来るよう祈れ。俺がいいと言うまで、絶対目を開けるな、絶対しゃべるなよ、いいな。お前に知能があればな。」
「わ、分かったよ。」
私は手を組んで目を閉じて、神様がここに来ることを願い、祈った。魔王を救うことも祈った。
アルジが、私の両手を握りしめた。
温かい力が流れ込んできた。
大丈夫、絶対大丈夫だ。神様は来てくれる。魔王も救われる。
「クライシス、お前の声が聞こえたよ。私が必要なのね。」
女性の声だ。神様が来たらしい。女神様なのかな。
「キッドと魔王、もいるなんて。どういうことかしら。」
わ、私も一応いますよ。
心の中で呟いた。
「この世界のループを終わらせてください。魔王や俺達を解放してください。お願いします。」
アルジが神様に願い事をした。
「いいわよ。」
呆気なく神様が言った。
よ、良かった、そう思った途端、
「でもね、代わりが必要なの。この世界には絶対悪が必要なの。でないと、私が消滅しちゃうのよ。」
い、意味がわからない。
「消滅するとどうなるのでしょうか?」
「わからないわ。経験がないもの。」
な、なんだそりゃー。
アルジが閉口した。
「みつけた。みつけたぞ。」
ギャー!アイツ、また来たよ!
蜘蛛人間…。
「なぁに。バグ。お前を呼んでいないわよ?」
「僕が呼んでみたよ。バグは、何かを消さないと帰らないからなぁ。困ったなぁ。」
ケイの声が弾んでいる。
「この場に相応しくないのは、神、様。消えてもらいます。」
「な、何言ってるの!?お前を造ったのは私なのよ。」
「無駄だと思うなぁ。だってバグだもん。」
「いや、いやよ。消えたくないぃ。お願いクライシス、たすけ…。」
神様の声が聞こえなくなった。
「クロ、目を開けていいぞ。」
目を開けると、至近距離にアルジがいた。
「ち、近すぎます。」
慌ててアルジを両手で押しのけた。
「神様はどうなったのですか?なんで、ケイがバグを呼んだのですか?バグはなんで…。」
「さあな。もう、ループはしないと思うが。」
「ブラストやいわちゃんにもう会えないのかな…。魔物だって、分かり合えたかもしれない、マオのように。」
「魔王はこれからどうするんだ?」
アルジが魔王に問いかける。
「わからない、が、ひっそりといきたい。」
「アルジ、俺が救うって言ったよね。魔王のこと、助けて。」
アルジは黙っている。
突然、魔王が私のことをぎゅうぎゅうにハグしてきた。
え?脈絡あった?
「クロ、お前は嘘をつかないんだな。変なことは考えるみたいだが。」
え?ちょ、ちょっと待って、バラさないで。
「変なことって何だ?」
え?な、何?何でアルジが不機嫌になるわけ?
魔王が唐突に私の顎を掴んで、接吻をしてきた。
な、な、な、なんで?
脳内がパニックになった。
が、アルジが無理矢理、私を引き離した。
「この、浮気者!」
え?な、何で?
怒ったアルジが、私の後頭部を掴んで接吻をしてきた。
逃げられない。
心臓が破裂しそう。
私が一番好きなのは…愛しているのは…アルジだ。