22.凶事
確か、祈りの森の中心に魔王が封印されていたのだ。
彼が移動していなければ、今もそこにいるはず。
フントは、魔王と話し合うことは出来ないはず、と言った。
しかし、ヴィルトシュバインは話し合いたいと魔王が言ったと…。
恐怖で足がすくむ。
連鎖したのか、ヴィルトシュバイン以外のみんなが止まる。
「フランメ、君はここで待っていてくれ。」
ブラストが馬から降りた。
「おまえたち、よろこびなさい。まおうさまがじきじきにこちらへきましたよ。」
ヴィルトシュバインが言った。
会いたくない、恐怖が込み上げてくる。
顔を上げることができない。
城の騎士団が大勢いるはずなのに、声が全く聞こえない。1人も会わないのはおかしい。
数え切れないほどの足跡はあるのに。
そんなことはありえないのに。
「ここにきた騎士団なら、一人残らず消えてもらった。こっちも魔物を大勢やられたんだ。文句はないだろう。」
魔王だ。
圧倒的な力の差があるのは、戦わなくても分かる。
魔王は思考が読めるんだった。
「数百年前の聖女は問答無用で私を封印してきた。封印を免れた一部の魔物を飼い慣らして、魔石を生み出して…相変わらず、人間は醜い、なぁブラスト。」
驚いてブラストを見た。
ブラストに関係があるの?
「なんのことかわかりかねます…。」
戦慄している…。
今、恐怖がこの場を支配している。
「私は嘘つきが嫌いでね。お前とは話し合えない。」
魔王が右手を払うと、ブラストが消えた。
一瞬の出来事だった。
頭が真っ白になった。
「お前達は思い合ってはいなかったんだな。」
淡々と魔王が言った。
「今回は、私を封印することは出来ないようだ。この世界を滅ぼせば終焉だろうか?このループから抜け出したい。」
魔王の声に感情がない。
「お前達もブラストの後を追うだろう。次はそこの男だ。怪物のお前は最後を見届けろ。」
「ふっざけんな!!貴様の言う通りになんかならん!!」
いわちゃんが激昂して、腕を前に出し両手を魔王にかざした。
「どうやらオレも『せいじょ』らしい。」
その声を合図に、無数の光る黒い石が魔王めがけて飛んでいった。
魔王の顔を見ると、仮面を被っていた。
表情が分からない。
魔王は微動だにせず、石を弾き飛ばそうとした。
しかし、それは叶わずに命中していた。
「うぐっ。」
魔王が初めて感情をだした。
「くっ、あははは。お前、なかなかやるな。そんなにその男が大事か。なら…一緒に消してやる。」
いわちゃんが更に光る石の数を増やして飛ばした、と同時に、地面に落ちたリュックから剣を引き抜き、
「最大出力!」
と叫び、魔王に放った。
魔王は避けなかった。
むしろ、すべてを受け止めようとしているように見えた。
魔王は剣を受け止めた。
「半分だけだ。完全体じゃない。お前たちは紛い物だ。」
魔王の仮面が割れ落ちた。
ゲームでは素顔が見られなかったが、まさかここで見られるとは。
不謹慎だが、イケメンがすぎる、と思った。
黒いサラサラのショートの髪の毛、色白、可愛らしい二重、大きな口、綺麗な肌質…綺麗な筋肉…ツボすぎるだろ!!
神様、どうして彼は魔王なんですか!!
いや、落ち着け、魔王は、魔王は、ブラストを消したんだ。
許せないよ!!(早口)
いわちゃんが苦しそうな顔をした。
私が祈りをしようとしたら、いわちゃんに止められた。
いわちゃんの手には、真っ黒の石が握られている。
な、なにこれ?
「クロ、これを飲み込め。これがオレの石だ。お前の石と一緒になれば、完全体じゃないか?一か八かだけど。」
オレの石?
「『せいじょ』ってやつは『よみの石』を持っているんだろう?オレの身体、この身体に生まれたんだ。念力で取り出してみた。」
「やはり、いわ様は聖女様だったのですね。」
ジークが頷いた。
魔王は沈黙している。
石を、の、飲めるのか?
いわちゃんの目は真剣だ。
圧がすごいので、石を口に入れた。
「無理だろうなぁ。だってクライシスがいないもん。」
ケイが再び現れた。
やはりまた来たか。
魔王がケイに向かって剣を振り下ろした。
動きが素早くてよく見えなかったが。
思わずごくん、とした。
「無駄だって。前回も無理だったでしょう?」
ケイが剣を避けた。
「ケイ!!貴様!!オレの身体を元に戻せ!!騙しやがって!!」
ケイがいわちゃんを見た。
「しっつこいなぁ。分かったよ。」
身体から魂が無理矢理引き離された。
私の魂は聖女の身体に入り、いわちゃんは、いわちゃんだった身体に入った。
魂の交換が終わった。
「これで満足でしょ。今回のプレイヤーはつまらなかったなぁ。」
ケイがぶつぶつ言った。
「とりあえず、外野は消えてもらおうか。」
ケイが、パチンと手を叩いた。
いわちゃんとジーク、フランメが消えた。
「安心して。次の周回では生きてるからさ。このゲームのものならね。」
その言葉にゾッとした。