21.もうすぐ
気がつくと、ふとんに寝ていた。
テントの中にいるらしい。
助かったのか、私は。
ブラストが横にいた。
私の右手をブラストが握りしめている。
「ブ、ブラスト?」
声をかけると、ブラストがこっちを見た。
「よかった、クロ…。」
目が赤い。
心配してくれたのか。
「抱きしめていい?思いっきりハグしたい。」
ブラストに訊かれて驚いたけど、頷いた。
友達だって、ハグするもんね。
上半身を起こそうとすると、止められた。
「無理しないで。僕が言うのも変だけど。」
ブラストが私の横に寝そべって、ぎゅうと抱きしめてきた。
私もお返しをしたくて、抱きしめ返した。
「クロ、ちょっと痛い。力緩めて。」
「ご、ごめん。」
慌てて手を離した。
ははっ、とブラストが笑った。
ごほん、とテントの外から咳が聞こえた。
ブラストはハグをやめて、起き上がった。
「もう、いいよな、オレ、我慢したよな。」
テントの出入り口が開いて、いわちゃんが入ってきた。
いわちゃんは無事だった!
いわちゃんの後ろには、神殿で会ったあの神官がいた。
テントに入ろうとはしないっぽいけど。
「クロの身体をちょっといじらせてもらったよ。核が無事なら自己再生ができるんだ。魔物と一緒とかうけるよな。」
いわちゃんが自虐的に言った。
「いわちゃん、どこにいってたの?消えちゃったのかと思った。マオが、ケイに…。」
言葉に詰まった。
「気付いたら神殿にいた。不可抗力だろ、こんなん。ケイに会ったんだな?何もんだよあいつ。倒したわけじゃないよな?」
「よく分からない。いわちゃんの身体に私の魂を入れられたんだよ。アルジが『キッド』って言った人物かもしれない。マオがケイに噛みついたら、消えたんだ。」
「オレはケイと賭けをして勝ったら強くしてやる、と、言われて勝ったのに、身体を奪われて、この人間のなかに入れられちまった。」
さっきから気になる。
いわちゃんとあの神官の関係を。
「ところで、あの神官といわちゃんどういう関係?」
「ん?相棒だよ。ジークが責任とるってうるさいけど。」
「え?なんの責任?」
「まあ、訳あってな。」
話を逸らされてしまった。
そういえば、フントはどうなったのだろうか?
「フントはどうなったの?」
ブラストに訊いてみた。
「ジークが…。」
苦虫を噛み潰したような顔をした。
何も知らなかったんだ。
仕方ないのかもしれない。
魔物は人を襲うものだと刷り込みされてきたのだ。
すぐには分かり合えないのかもしれない。
心が痛くなった。
「最後の魔物、ヴィルトシュバインに明日会いに行く。クロ、君の祈りが必要なんだ。いいかい?」
「うん。」
「オレがクロを援護してやる。ジークは帰りたければ、勝手に帰れ。」
「ここまできたら、いわ様と一蓮托生です。嫌と仰られても、一生ついていきますから!」
テントの外でジークが叫んだ。
重いよ。
ジーク、重すぎるよ。
「ジークさん、テントに入ってください。」
とりあえず、中で話そうか。
朝になって、朝食をみんなで食べた。
パンを食べると涙がでてきた。
アルジが用意したリュックには、必要なものが全部入っていた。
テントを畳み、リュックにしまった。
フランメには全員は乗れないから、ここからは徒歩になる。
ブラストは王子なのだから、乗ったらいいのに。
多数決でブラストがフランメに乗った。
道中はみんな無口だった。
しばらく歩くと、ヴィルトシュバインがゆっくりと現れた。
「せんそうはおわりだ。もうじゅうぶんだろう。
まおうさまがおまえらにあいたがっている。ついてこい。」
ヴィルトシュバインが向きを変えて
「こい。」
ともう一度言った。
私達は黙って後に続いた。
祈りの森の入り口。
昼間なのに、うす暗い。
木々の隙間からさす光は頼りない。
この森はとても広大だ。
迷ったら出てこられないかもしれない。
普段は人が入らない。
神殿の毎月の祈りの日の時だけ、出入りがあるらしい。
魔王に近づくにつれて、空気が変わっていくのかもしれない。
鳥肌がとまらない。
会いたくない、本能が叫んでいた。