20.とばされた
今から少し時間を遡る。
宿のベッドはそんなにふかふかしていなかった。
むしろ、ぺたんこだった。
がっかりはしていない、オレはそんなことに拘ったりしない。
クロが心配だが、まぁ、不埒なやつはいないだろう。
なにかあれば、助けに行かなくては。
本当は一緒の部屋が良かったが。
自分の身体のあだ名なんて、気持ちわりいが仕方ない。
ベッドに入るとすぐに眠りに落ちた。
目が覚めるとふかふかベッドの中にいた。
こいつは素晴らしいベッドだ。オレはこのベッドを知っているぞ。
これは神殿の…。
そんなわけがあるか!
意識が覚醒して、飛び起きた。
部屋の扉を開けて廊下に出て叫んだ。
「おーい!!誰か!!誰かいないか!?」
声を聞いたジークが駆けつけてきた。
「い、いわ様!?どうしてここにいるのですか!?他の皆様はどうされたのですか!?」
イライラしてジークを蹴り飛ばしたくなった。
「オレだって分かんねーよ!でも、絶対良くないことが起こっているはずなんだ。頼む、オレを連れて行って欲しい。」
ジークは、困った顔をして黙っている。
そんなに、だいしんかん、って奴が大事かよ。
「貴様の選択肢は2つだけだ。オレの言うことを聞くか、それとも今すぐこの世界にお別れするか、だ。」
オレの力は完全ではないが、ジークを屠ることなどわけない。
お願いだ、目の前の人間の力が必要なんだ。
一部始終を見ていたルークが、声をかけてきた。
「それはこの世界に関わることなんでしょうね?」
ルークが眼鏡をクイっと指で持ち上げた。
「当たり前だろ!!お前でもいい。頼むよ。」
「私の言う通り行動できますか?出来なければ諦めてください。」
え、なんかこいつ偉そうだな。
しかし選んでられるか!
「分かった。頼む。」
「伝承で読んだ話を試してみましょう。ジーク、いわ様と両手を繋ぎなさい。」
ジークが真っ赤になって狼狽えた。
イライラして、オレから手を繋いだ。
「いわ様は、目的地を頭にイメージしてください。ジークは、いわ様に接吻をしてください。」
「き、貴様、ふざけているのか!?」
「ふざけていません。いわ様は約束を反故するのですか?」
ぐぐぐ、堪えるんだ。
「さっさとやれ!ジーク!」
「は、はい!」
オレは目を閉じてジークの接吻を待った。
数秒待って、やっと…。
「神の加護がありますように。」
ルークの言葉が聞こえると、身体が強烈な力で引っ張られた。
「愛の力がないなら、辿り着けないよ。」
ルークがぽつりともらした。