19.あいつのせい
残酷な描写に当てはまるかもしれません。
朝になるまで宿の部屋にいた。
これからどうなるか分からないけど、進むしか選択肢はないんだ。
アルジといわちゃんのことが気になるけど。
朝食と身支度を済ませて、宿の玄関で合流した。
馬とマオの世話は、宿の主人がしてくれたらしい。
宿は前払いだったので、ブラストがチップを渡した。
外に出ると、
「僕と一緒にきて欲しい。僕を選んで欲しい。」
ブラストが真剣な顔で言った。
普段は余裕があるキャラなのに、今は切羽詰まっているように見える。
「もちろんだよ。私のよみの石が必要なんだよね?」
ブラストが一瞬、悲しい顔をした気がした。
そして、ぎゅうぎゅうにハグされた。
「うん。」
私の方が身長高いし、怪人だし、変な組み合わせだと思う。
ゲームをしている時は一番好きだったし、今も心臓が破裂しそう。
アルジとは違ういい匂いがする。
それなのに、アルジのことばかり考えている。
いや、惚れてないけど。
「あれ?アルジさまは?うるさいおんなは?」
とことこ歩いてきたマオが言った。
「マオ!アルジといわちゃんを覚えているの?」
マオがため息をついた。
「クロ、いくらなんでも、そりゃねーよ。
きのうのことをわすれるかよ。のうみそがちっこいとかばかにしてる?」
「そんなことないよ。ありがとうマオ。」
全部が無かったことにはなっていない。それが分かっただけでもいい。
ブラストの持っている魔石は10個らしい。
魔物はあと2体。
たぶん。
ブラストの赤い馬の名前をフランメというらしい。
フランメに2人と1匹が乗った。
私の前にはマオ、後ろにはブラスト。
ドキドキする。めっちゃドキドキする。
「よろしくね、フランメ。」
私は撫でながら言った。
フランメは鼻息で答えた。
フランメ、君もか。
マオは落ちないように、命綱をつけた。
私のベルトと繋がっている。
だいぶ祈りの森に近づいている。
初めて馬に乗ったのに、少しも苦じゃない。
フランメと、この身体のお陰かな。
景色が目まぐるしく変わる。
もう人家は見当たらない。
ブラストが昨日、魔物を倒したのは、やはりそのまま有効みたいだ。
そして11番目の魔物、フントが現れた。
見た目は黒い大型犬だ。
輪郭がモヤのようにはっきりしない。
「おもったよりはやかったね。」
魔物が喋った。
「わたしはおまえたちとはたたかわない。まおうさまにいわれたんだ。もうせんそうはしない。」
理解できなかった。
魔王がこの世界を滅ぼしたいと思っているんじゃないの?
「魔物は人間を憎んでいるんじゃないのかい?長いこと封印されてしまって。」
「にくんでいるのもいるよ。でもそれはわたしじゃない。」
フントの感情が読めない。
「君はどうしたいの?」
ブラストが優しく問いかけた。
「わからない。ただ、もうたたかいたくはない。
このせかいは、なんどもわたしたちをふういんしてきた。せいじょもしょせんこまにすぎないのに。」
「何度もだって?数百年前の一度だけじゃないのかい?」
「ふういんされるたび、じかんがまきもどるのさ。こんかいのせいじょはかわったふうぼうをしているがね。」
そんな…。
魔物も魔王も苦しんでいるのか。
封印して終わりじゃないのか。
「魔王は復活したの?魔王と話せるかい?」
「ふっかつしただろうね。はなすのは、たぶんむりじゃないかな。にんげんはまものをころしすぎた。いまもつづいているだろう。いっそのことこのせかいがほろべばいいとお…」
フントの言葉が途切れた。
「あーあ。喋りすぎだよ。もう一度最初からにしようかなぁ。」
ケイが突然姿を表した。
「と、いうことで、消えてもらいまーす。」
ケイの手には大きすぎる鎌が握られていた。
私の目の前で鎌が振り下ろされそうになり、慌てて避けてナイフを取り出した。
ナイフは形を変えて、剣に変化した。
「あなたに勝ち目はないと思うけど。ま、楽しいからいいか。」
ブラストの方を横目で見ると、フリーズしていた。
生気がない。
「助けてもらおうと思っても無駄だよ。この世界は僕の庭だもん。イレギュラーの君だけしか動けないよ。」
鎌を振り下ろされるたび、剣で応対する。
「守りだけじゃ僕を倒せないよ?あなたに倒される未来はみえないなぁ。」
ケイは厭な笑を作ったように見えた。
相変わらず顔がよく見えない。
岩を全方位に飛ばしてみても、なぜか当たらない。
「本物の怪人だったら、もっと強かっただろうに。」
スピードに追いつけなくなって、鎌が何度か身体を切りつけた
身体がほぼ岩で出来ているせいか、あちこちの岩がボロボロ砕けて落ちた。
やはり普通の鎌じゃない。
バランスを崩して、地べたに這いつくばった。
「あーあ。もう終わり?じゃあね、、、」
もうダメだ、そう思った瞬間に、ケイの悲鳴が聞こえた。
見上げると、マオがケイの首に噛みついていた。
「おれ、おまえがだいっっっきらいだ。」
ケイがマオを左手で捕まえて握りつぶした。
「い、いれぎゅら、もういっぴき…」
ケイの姿が消えた。
自分の意識が遠ざかっていくのが分かる。
「クロ!!」
誰かの叫び声が聞こえた。