18.思い通りにいかない
深夜、眠れずにいた。
ふと、横を見ると部屋に真っ黒ででっかい蜘蛛がいることに気がついた。
タランチュラに似ている気がする。
子猫くらいの大きさだから、異常だ。
蜘蛛は、怖い。
見た目が駄目だ。
ベッドのうえで三角座りをした。
奴がどんな動きをするか分からないから、目が離せない。
「みつけた。みつけたぞ。」
どこからか男性の低い声が聞こえてきた。
「ゆ、ゆうれい?」
びくびく震えていると、目の前の蜘蛛が人の形になった。
思わず悲鳴が出そうになった。
蜘蛛人間?に口を押さえられた。
「はい、ゲームオーバー。」
蜘蛛人間が、ぼそっと言った。
なっ、なに?ま、魔物?
こんな奴知らない!!なんで?なんで?
脳内がパニックになった。
「ぼくは魔物じゃない。このゲームの虫だ。聖女は2人もいらないし、王子も2人もいらない。1人ずつ消えてもらうよ。君ってさ、全然戦えないし、面白くないよ。」
ま、待って!!
バグを両手で押しのけた。
奴はちょっとよろけただけだった。
手を組んで祈ろうとしたら、バグが笑った。
「それとも君が選ぶかい?君かあの女か。どちらの王子を残すか。」
選べるわけがない。
怒りのせいか岩が全方位に飛び出して、部屋の壁とバグに突き刺さった。
バグが蜘蛛の姿に戻った。
「きみもうまくやれそうにないと思うけど、、、。」
そう言って消えた。
嫌な予感がする。
いわちゃんの眠る部屋の前に行き、ドアを激しくノックした。
「いわちゃん!?起きてる!?」
返事がない。
ドアノブを回すと鍵がかかっていなかったので、すぐ開いた。
急いで中に入ると、誰もいなかった。
隣りのアルジとブラストの部屋に行き、ドアをやっぱり激しくノックすると、ブラストが出てきた。
「どうしたの?眠れない?」
「あ、アルジは?アルジはいますか?いわちゃんがいないの!!」
「アルジ?いわちゃん?それって誰だい?」
ブラストがちょっと困った顔をした。
そんなバカな…。
涙が溢れ出てきた。
短い付き合いだけど、そんなのってない。
「どういうことか説明できる?」
私はブラストにさっきの出来事を話した。
埒があかないので、この世界に来てから何があったのかを出来る限り詳しく話した。
キスされた話は抜きで。
「つまり、君と僕とでは記憶がちがうんだね?」
ブラストの記憶では、私が選んだのはクライシス(アルジ)ではなかった。
出発の準備をしたのはクライシスだが、魔王封印のための旅に出たのはブラストだという。
腕輪を見ると、マオに噛まれた傷があった。
マオはいるのだろうか?
「マオは?マオは外にいるの?」
「マオスなら、外にいるよ。僕の馬と一緒にね。」
急いで部屋から出て、馬のいる場所まで走った。
「うるさい!!」
知らないお客さんから怒鳴られて、謝ったが走るのをやめなかった。
馬と一緒にいるマオが、ぐーぐー寝ていた。
寝言で、さんどいっちーと言って幸せそうな顔をしている。
ちょっと脱力しかけた。