17.異変
身体が聖女、外側聖女のいわちゃんと、一緒に行動することになった。
「おい!アルジ!オレの身体に指一本触れるなよ?触ったら貴様を◯るからな!」
アルジがこっちを見た。
「俺は別に構わないが。」
流れ的にはよくないのかも。
「私が魔物に襲われて、手に負えない時は助けてほしい…かな。」
いわちゃんが憤慨した。
「オレの身体はそんな弱っちくねぇよ。岩を全方位に飛ばせ!ダメならオレが守ってやるよ。泥舟にのったつもりでいな!」
そ、それ、助からないやつ。
大船じゃないの?怖いよ。
アルジを見ると、肩が震えて、くっくっと声を押し殺している。
側から見ると、少女が怪人を守ってやる宣言してる風に見えるよね。シュールだ。
アルジとのキスだって、人間と怪人のキス…。
思い出して叫びたくなった。
アルジは私のことなんか1ミリも好きじゃないくせに。
ゲームの強制力のせいで一緒にいるだけ…。
あれ?でも、だいぶゲームの流れと変わってきていないか?
「あの、アルジ、ひとつ気がついたのですが。」
「なんだ?」
「私が知っている世界と色々変わってきています。まあ最初から変だったけど。王子が2人も行動するのもそうだし、12の魔物は一体ずつ現れるはずなのに。だから油断して噛まれてしまったのですが。」
さっきまで私の肩に乗っていたマオは、上着のポケットの中で寝ている。
お気楽なやつ。
「俺も不可解なことがある。神の強制力が薄れてきている気がする。」
「どうでもいいから、さっさと行ってさくっと魔王を封印しようぜ。ブラストが魔物を倒してるんだったら早く終わるだろ?」
いわちゃんがぶーぶー文句を言った。
いわちゃん、可愛いよね。
こんな可愛い子なら、アルジも惚れちゃうよね。
アルジもいわちゃんとキスしたかったよね。
「なんか自分にジロジロ見られるの、むずむずするなー。なんだよ、なんか文句ある?」
いわちゃんに言われた。
あっ、ダジャレみたい。
「いわちゃんとアルジならお似合いなのに。」
うっかり心の声がもれた。
「きっしょいこと言うな!!オレにそんな気はない!!アルジ、貴様、オレに近寄るなよ?」
心底嫌そうな顔をしている。
「俺はクロの方がいいが。」
アルジの一言で心臓がドクンとはねた。
絶対好きじゃないくせに。
男性に耐性がないから…心拍数がアホになっちゃったよ。
「おや?魔法のレベルが上がったみたいだ。」
アルジのやつ、わざとだろ!
そのニヤニヤ顔やめろ!
次の街に着く頃には、夕方になった。
たぶん、ハーゼが現れると思うけれど。
「宿に泊まるか。」
あっ、野宿じゃないんですね。
ゲームの時は、どうだったっけ?覚えてないや。
アルジが、さくっと宿を見つけて2部屋借りた。
これ、どういう部屋分けにするの?
宿の主人が私の姿をみて腰を抜かしたが、アルジがこういう病気なんだと説明した。
納得してもらえた。
え?いいの?ってか腕輪で変身すればよくない?
「いつ魔物が来るかわからんから、そのままがいいだろう。ブラストもこの宿に来るしな。」
えっ、そうなの?
それから一刻もたたずに、ブラストが宿に着いた。
「ハーゼ、ドラッヘ、シュランゲ、プフェーァト…シャーフ、アッフェ、ヴォーゲル…まで倒したよ。あと2体かな?」
ブラストの服にはあちこち血の染みがついていた。
腕の止血をしたみたいで、余裕そうに見せているが、実際は相当痛いだろう。
「ちょっと手こずったのもいるけど。」
ふふ、とブラストが笑った。
見ていられなくなって、ブラストの両手を握り、神に祈った。
「神様!ブラストを回復させてください!お願いします!!」
必死に心の中で叫んだ。
真っ白の光がブラストの全身を包んだ。
ブラストが腕の切り傷を確かめると、塞がっていた。
体力も魔力量も回復したらしい。
ブラストが興奮して、力強く抱きついてきた。
「ありがとう!クロ!!」
やはりブラストは大人でも可愛い。
「どういたしまして。」
えへへ、と照れた。
にこにこ笑うブラストに、急にキスをされた。
え?
く、くちびる?
いわちゃんが、呆気に取られている。
アルジは?無?
マオ、は、こっちを見てない。
え?マジですか?
尊し?
え?天国?なに?これはご褒美ですか?
「もう一回する?」
ブラストに訊かれて首を横にぶんぶん振った。
そんなの失神してしまう。
我に返ったいわちゃんが、ブラストに蹴りを入れた。
「変な真似をすんじゃねー!それはオレのだ!」
正確には『オレの身体』ですよね。
部屋割りはもう一つ部屋をかりて、
アルジとブラスト
いわちゃん
私
にした。
ブラストが乗ってきた赤い馬は、外に繋がせてもらった。マオも一緒だ。
馬は、魔物が近づけば知らせてくれる。
マオの顔を見た時は、めっちゃ怒っていたけど、なんか仲良くなってるし。
その時は、大丈夫だと思っていた。
でも、この世界に絶対というものはなかったんだ。