16.信じられない
魔物の中で一番可愛いのは、ハーゼだ。
ハーゼは野うさぎの形に近い。
行動は夕方から夜明けにかけてだったはず。
詳しく思い出そうとした。
サンドイッチをじっくり見た。
「さっさと食え。マオスが見てるぞ。」
え?私の横にちょこんと座っているマオを見る。
マオは、サンドイッチを穴が開くほど見ている。
「ちょっと食べる?」
マオが首を縦にぶんぶんふった。
サンドイッチが6個あったので、ひとつ手渡した。
「ども!」
受け取ってすごいスピードで食べ始めた。
体の割に食べるなぁ。
「さっさと魔物を倒したい。まとめて一網打尽にする方法はないか…。クロはどう思う?お前の祈りで全部なんとかならないのか?」
「えーっと多分なんですけれど、祈りは1日3回しか使えないかもしれません。
それと、祈りってそんなに万能じゃないかと…。」
私にもっと力があれば違うかもだけど。
そうすれば、ティーガーだってもしかしたら仲間になったかもしれない。
「クロ、俺の恋人になるか?」
は?何言ってんの??この人は???
聞き間違い?????
呆然とアルジを見た。
全然私のこと好きじゃないじゃん!!!
感情がっ、表情がっ、無の顔じゃんっ!!!
「な、な、な、何言ってるんですか?」
どもってしまった。
「強くなるために、必要なんだろ?」
正面に座っているアルジが、私の左手を握って引き寄せてきた。
え?え?え?え?え?
アルジの胸に飛び込んでんじゃん!!!!!
しかも、ぎゅうぎゅうに抱きしめられた。
力、強い!この身体だから平気だけど。
は、は、は、鼻血でるよ!これは!!!
意識が飛びそう…。
「うーむ、やっぱり無理か。いけると思ったが。」
そ、そりゃそうだよ。
告白していないのに、振られた気分だ。
なんか、悲しい。
ってか、早く離してほしい。
口になにか柔らかいものが触れた。
それが、アルジのくちびると気付くまで、数十秒かかった。
フリーズした。
「なっ、なにするんですか!!!」
我に返って、ジタバタした。
「嫌だったか?俺の接吻。」
アルジが理解できないという顔をした。
これだから、モテる男は。
「い、嫌とかそういうことじゃ…。」
「あっ、今、魔力量が増えたな。」
ん?
「お前と親しくなれば強くなる、は本当だったか。」
いや、分かっていたけど。
酷くないか?
「げー!オレの身体で何やってんだ!!」
甲高い女の子の声が聞こえた。
声の方角に視界を移すと、聖女がいた。
「せ、せ、聖女きたっ!!!」
「だーかーらー、オレはせいじょじゃねー!!!身体返せよ!!!」
聖女が全力ダッシュで向かってきた。
怖い。顔は可愛いのに、めっちゃ怖い。
「む、無理です。」
思わずアルジの後ろに隠れた。
隠れきれてないけれど。
「気持ちわりいな!!オレの身体でそんな動きすんな!」
アルジが聖女に
「あなたの力が必要なんです。魔王を封印してくれれば、身体を返しますから。協力してください。」
と言った。
「断る。オレには関係ない。」
「あなたもケイに騙されたのでしょう?」
聖女は激怒した。
「ケイを知っているのか!?どうすれば会える!?」
「魔王を封印すれば会えますよ。封印できなければ、この世界は亡び、私も貴方もみな消滅する。」
「協力するしか道はないのか、ちっ。仕方ねーな。分かったよ。ところで、魔王って、あの魔王か?」
どの魔王?
「知っているのですか?」
「ブラストに聞いた。」
ブラストと一緒にきたらしい。
「ブラストは?」
魔石が欲しいからって、オレをそこまで赤い馬で連れてきて、先に行った。」
えー!?
自由すぎでしょ。
魔物を全部、魔石にするつもりか…。