12.ジーク視点
「飯をくれるのはありがてーんだけど、もっと肉ねぇかな?芋とか葉っぱだらけじゃん?」
なんなんだこの少女は。
見目は可憐なのに、口と態度が悪い。
そして一般男性より食べる。
「それはすみません。ところで、貴方様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
ポテトサラダをスプーンですくった少女は動きを止めた。
「オレは いわ だ。」
「いわ様ですか。いわ様は聖女様じゃないのですか?」
「さっきも言ったけど、せいじょさまじゃない。オレは、か…。」
「か?」
「か、関係ない。オレの身体を見つけて元の世界に帰る。」
「それはできません。この世界に呼ぶことは出来ても返す方法がありません。おれのからだ とはどういうことですか?」
いわ がうーんと唸る。
なんなんだこの少女は。
この小柄の少女に違和感がある。
「まぁ、いいか。オレはさ、ケイって奴に騙されたの。そいつが助けてやるっていうから、賭けにのったわけ。そしたら身体を奪われちまった。
気がついたらこの身体なわけよ。けど、オレには分かるね。オレの身体は近くにいるってさ。」
いわ様の言うことが理解できない。
魂の交換なのか?
しかし、いわ様が普通の少女ではないのは分かる。
只者ではない、殺気をまとっている。
「あんたさ、オレに協力してくんない?」
急な申し出にジークは戸惑った。
「それは出来ません。私は大神官さまの指示で動きますから。」
「うーん。困ったな、この身体だとさ、パワーがでなそうなんだよ。」
いわ がテーブルに置いてあるナイフとフォークを扉に向けて放った。
重みのある音を立てて木製の扉に刺さり、扉の向こう側から悲鳴が聞こえた。
何人か盗み聴きをしていたらしい。
「向こう側に通り抜けないじゃん?弱っちいよね。この身体。」
いわ がつまらなそうに話す。
『普通の人間』だったらそもそも扉にフォークを投げても刺さらなかっただろう。
普通の人間は魔法は使えない。
使えるのは王族と神殿の中の上位のもの、上位貴族、稀に平民にも素質がある人間がいるが。
いわ様の場合、魔法じゃない何か別の力が働いていた。
それが何かは分からないが。
「これからどうすればいい?責任とってくれるわけ?」
「聖女様のお世話をさせていただくものがおりますので、とりあえず今夜は神殿にお泊まりください。いわ様が聖女様でなくとも、何かしら力になりたいとは思いますので。」
いわ が席を立ち、ジークの前にツカツカと歩いてきた。
ジークが身構えると、いわ がジークの両手を握った。
「お前、いい奴だな!人間は嫌いだけど、お前は好きだわ。」
突然の告白にジークは固まった。
そういう意味じゃない、分かっている。
「オレが人間だったら、お前に惚れてたわ。」
にこにこ笑ういわ。
心臓がドクンとはねた。
恐怖なのか、それとも別のものか?
若い神官が、聖女の世話係の女性を連れてきた。
「ジーク様、この後のことはこちらで致しますので。」
このままだとこの神殿は危険に晒されてしまうのではないか?
不安だ。
「私も付き添います。食事はもうよろしいですよね?」
いわ に話しかけた。
いわ がにかっと笑う。
「ああ、ありがとう。」
笑顔が眩しい。
なんなんだこの感情は。