11.神殿
アルジ(クライシス)とクロ(怪人岩いーわ、中身ヤマダA子)が神殿を飛び立った後、神殿内はパニックになった。
大神官は、皆を落ち着かせる為に杖で床を2回強く叩いた。
大神官以外が皆、口を閉ざし動きを止めた。
「ルーク、先程の聖女召喚の儀の出来事は記録していますね?」
ルークと呼ばれた神官が、
「はい、勿論でございます。」
と答えた。
「今すぐ国王に記録と書簡を飛ばします。手伝いを頼みますよ。」
「はい。」
ルークは強張った顔で頷いた。
神殿は国から多大な寄付金を貰っている。
国のやり方に、国王の、正確にはクライシスのやり方にはいつも振り回されて辟易している。
確かに未来を視る力、魔力、神の愛し子…この国を何度も救ってきただろう。
しかし、そのせいで、神殿の地位は低い。
大神官は自室で国王に向けた書簡を書き、ルークに手渡した。
ルークが記録映像が入った玉と書簡を融合させる呪文を唱えた。
それは小さな渦になり、鳥の形になって飛んで行った。
「どうなるのか、この国は。あの方が言ったことは間違いだったのか?」
大神官はポツリと呟いた。
「だ、大神官様ー!!大変です!せ、せ、せ、聖女様が現れました!!」
若い神官の1人が慌ててノックをせずに扉を開けた。
それどころではない。
「なんだと!?」
若い神官を先頭に、3人は広間に向かった。
魔法陣の上には、仁王立ちした少女がいた。
伝承の本で見たイラストと似た服を着ている。
「どこだぁ?ここは。オレの身体はどこにいる?」
少女が辺りを見回している。
小柄でしなやかな黒髪でひとつ結び。
大きな黒い瞳に小さな唇。
間違いない。
大神官は、召喚は成功したのだ。と思った。
だが…違和感がある。
邪悪なオーラを感じるのだ。
清らかではない、この女は…女?
「貴方様は、さくら様でございますよね?」
ジークが少女に話しかけた。
声をかけられた少女が目を丸くした後、吹き出した。
「オレはそのさくらって奴じゃねーよ。ここはどこだ?」
「そんな…。」
ジークは顔を青ざめた。
この世界の人間を滅ぼすにも身体がないとなぁ。
少女が物騒な事を考えた。
「どうでもいいけど腹が減った。何か飯を寄越せ。」
少女が横柄な態度で、ジークに言った。
「大神官様…。」
ジークが困った顔で大神官を見た。
「…少女に食事の用意を。」
大神官は溜め息をつき、若い神官に指示を出した。